ゴールデンウィーク初日。
すなわち帰らずの森の探検に行く日。
望虹は約束の時間より早く、集合場所である校門の前にきていた。
流石に本当のことは言えないので学校で合宿することにしてあるがバレていないだろうか。
『もうみんな、これに関わるのはやめて。あとは私だけで調べるから』
望虹は自分が言ってしまった言葉を後悔し続けていた。
みんなとやることを拒否してしまった以上、もう自分1人でやるしかないと思っていた。
それがみんなを傷つけた自分がやれる償いであり、責任だと考えていた。
同時にこの小さくて綺麗な石、宝珠と呼ばれるこの石の力も見て見たかった。
どうすればいいのかは最後までわからなかった。
そもそも自分で使えるのかもわからない。
だからこそ実際に行って確かめて見たかった。
「よう、随分早いな。珍しい」
「あ、哲夜くん。うん、なんかね……」
そう思っていた時、哲夜が当然のように一緒に行くと言ってくれた。
「不安か?」
「もちろん、当たり前じゃん」
「大丈夫だ、きっと全員揃う」
自信満々に言い切る哲夜を見ているとなぜか望虹までそう思えてくる。
不思議だが、哲夜の言葉にはそれだけの説得力があった。
それでも不安なことに変わりはないが。
刻々と時間だけが過ぎていくこの空間で2人はお互い言葉を交わすわけでもなく静寂だけが支配する。
「哲夜くん……」
時間が迫ってきても誰もこない。
不安で思わず声をかけてしまう。
「大丈夫だ、ほら」
望虹の後ろにずれた視線をたどって振り向くとそこには3つの影があった。
「ごめん、みこっち。ちょっと遅かったかな」
「柚乃ちゃん、みんな……来てくれたんだ……」
「当たり前でしょ? ここまで来て結末をしれないなんで嫌だし」
柚乃、奈津稀、螢華。
大切な仲間がこれで全員揃った。
危険かもしれないのに。
私の興味に巻き込んでるだけかもしれないのに。
「あんなひどいこと言っちゃったのに……どうして……」
「望虹さんは優しいですから。帰らずの森のことで私たちを巻き込まないように言ったことだとすぐに察しがつきます」
「そんなこと、決まってるだろ」
「え……?」
「興味があるからだよ。お前が見つけてきたひとつひとつの結末がどうなるか気になって仕方ない」
「ふふっ、そうですね。私も知らなかったことに、知らなかった世界に出会ってばかりで驚きの連続です」
「……いい友達を見つけたね」
「うん、本当に……」
自分はただ好きなことをしているだけなのにこんなにも素敵な友達が集まった。
「ほら、いつまでここに立ってるつもりだ? さっさと行こうぜ」
大好きで大切な友達。
みんなに支えられて望虹は今ここにいる。
「……うん、そうだね。よーし、じゃあ出発だー!」
望虹は笑顔を作ると帰らずの森に向かって走り出す。
「あ、おい待てよ!」
「みんなも早く〜! 置いてくよ!」
「もう、本当に望虹は勝手なんだから」
残された4人は顔を見合わせて困ったように笑い合うと望虹を追いかけ走り出した。
帰らずの森は陰陽山の麓に位置していて、依代町から陰陽山に行く最短ルートにある。
しかし、この街に住む人々は絶対にこの道を使わない。
この先を通り抜けようとすれば二度と帰ってこられないかもしれない。
その恐怖が禁忌となり使われなくなり、寂れてしまったこの道はコンクリートの舗装すらしっかりと行われていなかった。
歩き始めてすぐにコンクリートの舗装はなくなり、だんだんと雑草が生い茂っていく。
誰が作ったのかもわからない、獣道のようにわずかに雑草が切れているところを縫って彼女たちは帰らずの森に向かう。
街灯ももはやなく、月明かりだけが頼りだった。
「ねえ、そう言えばなんで夜なの? 昼間ならもうちょっと見やすかったし明るかったのに」
歩きながら状況がわかっていない柚乃が質問する。
「それはですね、見つけた漢文を解読した結果なんです!」
奈津稀が得意げに答える。
「望虹が見つけた漢文に『神化せし獣が眠るその地にて宙に輝く光を集めよ』という文があるんですけど、『宙に輝く光』というのが星の光じゃないかと判断したんです!」
「へぇ、なるほどね」
案外しっかり予想されてるんだ、裏打ちがしっかりしていることに柚乃は驚いた。
「まあそうは言っても俺らの目に見えないだけでずっと光ってはいるんだけどな」
「それを言ったら時間の予想なんてできないって話したじゃん!」
笑いが起こるがそれも一瞬のこと。
帰らずの森、魔物が棲むと言われる森。
二度と帰ってくることができない森。
そして、暴走した守護獣、四神達が閉じ込められているという森。
その緊張感は森に近づくに従ってどんどん高まっていった。
その雰囲気に気圧され、五人は何か話すということもなく、帰らずの森に向かっていった。
「着いたね」
歩くこと5分、帰らずの森の入り口に来た望虹達は一度立ち止まる。
入り口にはしっかりとロープがかけてあり、立ち入り禁止という看板がかけられていた。
「もう一度確認するね」
望虹は後ろに振り返り、自分の仲間と向かい合う。
「今回の目的は帰らずの森に魔物が住んでいるという都市伝説の真偽を確かめること。そして……」
「その魔物と呼ばれている方達、四神の皆さんの心を解放して差し上げること、ですね」
螢華が望虹の言葉の後半を確認するように言う。
「うん、そのためにきっとこの小さい宝石みたいなの、晴佳さんがいうには宝珠、が役に立つんだと思う」
「その辺りは前に話した通りだな」
「そうだね、他に何かある?」
望虹は哲夜の話を肯定し、他に何かあるかと聞く。
「それの使い方は何かわかったのか」
「ううん、まだ何も。本当は知っているとだろう晴佳さんにお話を聞ければいいんだけど多分教えてくれないと思うから。本当は良くないことしているのもわかっているしね」
「そうですね……相応の持ち主がいるとなれば本来なら返すべきなのかもしれません。でも私たちは今こうして使おうとしています」
「うん……」
「あ、いえ、あの、望虹ちゃんを責めているわけではないですよ」
「大丈夫、ちゃんとわかっているよ、螢華ちゃん。だからこそ、しっかり調べないと、だよね!」
「えっと、もしそれを使う暇なく襲われたらどうする?」
おずおずと手を挙げながら聞いたのは奈津稀だ。
「う~ん、そうだね……どうしよっか?」
そこまでは考えてなかったという感じで首を傾げた望虹。
「使い方わからないものを使おうとしていたのに考えてなかったのかよ……」
「まあ、とりあえずてっちゃんは剣道やってたんだし大丈夫でしょ」
そんな望虹に柚乃は哲夜に任せれば大丈夫と言い出す。
「別に構わないですけどね。小さいとはいえ、木刀もカバンに入れてはきていますし」
「そ、それでもさすがに哲夜君が大変だよ」
慌てて望虹が柚乃の案を却下しようとする。
「なら僕も手伝うよ。これでも合気道やってたし」
その言葉に奈津稀が反応してと哲夜に協力すると言った。
「で、でも……」
「大丈夫だ、まだやることが残ってるからな、まだ死ねないし、死ぬわけがない」
「そうそう、僕もみんなが傷つくのは見たくないし」
「奈津稀君、哲夜君……」
前に読んだ本の台詞を引用した哲夜は言わずもがな、普段、顔も行動も女の子らしさがある奈津稀も、今はとてもかっこよく見え、頼ることができると感じた。
「……じゃあ、そうしようか」
二人の迫力に押された望虹が渋渋ながら折れた。
「でも、これだけは約束して」
望虹が普段見ないような真剣な顔をして付け足す。
「どんなことがあっても必ず生きて、五体満足のままで戻ってくるって。もう目の前で誰かが傷つくところなんて見たくないから……」
最後は目に涙をためながら言った望虹。
その事情が分かっている奈津稀と哲夜はあえて何も詮索せずに言葉を返す。
「ああ、もちろんだ」
「うん、みんなでしっかり戻ってこようね!」
それを聞いた望虹は目を涙で濡らしたままだったが、とびっきりの笑顔で笑った。
そして、一際大きな涙が一つ、頬を伝い地面に落ちた。
「ほら、行かないのか?」
その理由を知りながらも普通に接してくれる哲夜……
「早く行こうよ、望虹!」
奈津稀……
「さあ、行きましょう、みなさんお待ちですよ」
螢華……
「おーい、置いてっちゃうよ?」
そして柚乃。
みんながいたからこそ望虹は今ここにいる。
「……みんな、ありがとう」
「だから、早くしろって」
「うん!」
望虹は螢華と森に入りそうなところまで行っていた他の地域文化部メンバーと柚乃の元に走っていった。
森は今まで来た道よりも遙かに不気味で異様な雰囲気だった。
でも望虹は確信していた。
この仲間となら必ず帰ってこれる、謎を解明できると。
「お待たせ! じゃあ、行こう!!」