逢魔の時に……   作:月白弥音

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13 迷路

13改稿版

 

 『立ち入り禁止!』

 そう書いてある看板を横切り、ロープと高い鉄格子で厳重に閉ざされた入り口に近づく。

 改めてその入り口を覗くとそこはまるで光を全て飲み込むブラックホールのように暗かった。

 この中に入ったら自分も飲み込まれてしまいそう。

 そんな本能的な恐怖に襲われる。

 竦みそうな足を鼓舞し、鉄格子の目の前までやってきた。

 そこでふと、柚乃が疑問を発する。

 

 「あのさ、ところでここ、どうやって入るの?」

 

 「あ、確かに……」

 

 今の帰らずの森のことはほとんどわからなかった。

 つまり、この状態であることも知らなかった望虹たちがここを突破する手段を持っているはずもない。

 せっかく入れた気合はすぐに挫かれた。

 思っていた以上に入り口は固く閉ざされている。

 持ってきていた懐中電灯で照らしながらどこかに抜け道がないか探す。

 

 「ロープをくぐるっていうのはできない?」

 

 「うーん、かなりぎちぎちに巻かれちゃってるから難しいかも……」

 

 ロープは何重にも巻かれており、無理矢理くぐれるほどの隙間はなさそうだった。

 

 「鉄格子の方も横に線が入ってない。この高さだし登るのは難しいだろう」

 

 「一本一本が細いですし、踏ん張りも効かなそうですね……」

 

 哲夜たちの二倍はあろうかという高さの鉄格子は縦にしか格子が組まれていない。

 高さはもちろん、格子の細さからも登ることは難しそうだった。

 

 「どうする? まさか根本的には入れないなんて思ってなかった……」

 

 「それは俺たちもそうです。望虹、どうする?」

 

 「……」

 

 望虹は考える。

 自分が好きな謎解きゲームならこういう時絶対に抜け道があるはず。

 何か切る物があったり、大きな穴があったり……

 そして気づく、抜けられる可能性。

 

 「……ロープを登る?」

 

 「は? ロープ? 流石にそれは厳しいだろ。これに乗ったらいつ切れるか……!」

 

 「哲夜くん、わかった? そのまま登れればそれでいいし、切れちゃったら登る手間がなくなるだけ。どっちになってもいいの」

 

 「さすが望虹ちゃんです。私たちが考えもしないようなことを思いつきますね」

 

 「ねえ、螢華ちゃん? それって褒められてる?」

 

 「もちろん。褒めているに決まってます。私たちはそれに助けられているのですから」

 

 確かに、いろはといろいろやってた時もみこっちのおかげで解けたこと、結構あったなぁ……

 柚乃は小さな声で呟いた。

 彼女の表情が少し陰る。

 いろはが生きていた頃、柚乃は望虹と3人で同じようなことをしていた。

 そう、今の彼らのようによく3人で話し合って、時には意見をぶつけ合って。

 自分たちの姿が彼らの姿にダブる。

 いろはが亡くなってから、謎を追いかけるのが怖くなった。

 望虹までも失う気がして。

 なんで今急にそれを思い出したのかわからない。

 でも今、こうして望虹たちと謎を追いかけることは楽しくて仕方ない。

 こんなことを急に考えるなんて、私も歳をとったかな。

 センチメンタルなんて、自分らしくない。

 そもそも私はまだ中学生!

 青春したい!

 そう思って首を振る。

 こんな顔、みこっちに見られたらどんな勘違いされるかわかんないし。

 年上の私がしっかりしないとね。

 でも、家に帰ったら久しぶりにいろはと作ったノートを見よう。

 そう決めた柚乃は笑顔を作った。

 

 「で、どーするの? 決まらないなら私が登っちゃうわよ?」

 

 「と、とりあえず哲夜くんが登ってみることにしたけど……柚乃ちゃん、どうしたの? 大丈夫?」

 

 渾身の復活は失敗した。

 

 

 

 

 「哲夜くん、古くなってるから本当に気をつけてね?」

 

 「わかってる。ってかそう思うならこういうことさせんなよっ……なっ!」

 

 慎重にロープを登る哲夜。

 望虹に恨み口を叩いてはいるが、お互いの信頼があるからこそなし得る物だろう。

 登り切って哲夜が見えなくなった場所を、望虹は心配そうに見つめ続ける。

 

 「よっと……ふう、しっかり縛られてたせいかあんまり不安定な感じがなかったな」

 

 「哲夜くん! よかったぁ……」

 

 声が聞こえた瞬間、安堵の声とともに望虹の顔に笑顔がこぼれた。

 

 「おそらく途中で切れるって心配はないだろうな。だが先に女子たちが登って、俺と奈津稀で万が一切れた時に備える」

 

 「お、さっすが頼りになる〜」

 

 「うーん、哲夜くんはよくても奈津稀ちゃんはどうかなぁ?」

 

 「じゃあ望虹はもし落ちても僕は助けないで見てるね」

 

 「うん、ごめんなさい、助けてください」

 

 望虹のいじりもこう返されてしまえば困ってしまう。

 迷惑をかけたくないとはいえ、落ちて痛い思いをするのも嫌なのだ。

 すこい勢いで謝る望虹を誰も責めることはできない。

 というよりそもそも望虹が悪い。

 

 

 

 全員がロープを越えたところで持っていた懐中電灯を一旦消してみる。

 

 「こんなに真っ暗なところ、なんかお化け屋敷みたい……」

 

 「た、確かにそうですね……」

 

 「星明かりどころか月明かりも殆ど入ってこないな……」

 

 生い茂った木々に全ての光が遮られているが故の暗さ。

 わずかな光すらない暗闇は彼女たちの不安を掻き立てる。

 そして、懐中電灯で先を照らすと……

 

 「うわぁ……本当に迷路だね……すぐに分かれ道がいくつもある……」

 

 その異様に入り組んだ木々が作り出す天然の迷路に息を飲んでいた。

 結局事前に帰らずの森がどんな状態なのかや地形などをほとんど把握することができなかったため、どこに行けばいいのかすらわからない。

 それでもやはり。

 

 「止まっててもしかたないよ。とにかく進もう」

 

 「はい、私もそう思います」

 

 奈津稀と螢華にそう言われ、再び前に進み始めた望虹達。

 それぞれの顔にはなにか覚悟の様なものが浮かんでいた。

 

 

 

 懐中電灯だけが照らす暗闇の中を彼女たちは歩き続ける。

 緊張があるのだろう。

 誰かも言葉を発しなかった。

 奈津稀が用意していた蛍光糸で道順を記してはいるが、これが正しい道なのか誰もわからない。

 しかも蛍光糸をかなりたくさん持っているとはいえいつ無くなるのかわからないという不安もある。

 唯一の救いはまだ一度も行き止まりにぶつかっていないことだろう。

 それも本当に救いなのかわからないが。

 そして風景が全く変わらない。

 これだけで方向感覚は狂ってくる。

 本当は今まで聞いた伝承は全て嘘で、この迷路から抜け出せなくなったから帰ってこれないのではないか、そう思いたくなってくる。

 蛍光糸が四巻目に入ったところで不安に耐えられなくなった柚乃が声をあげた。

 

 「ねえ、ここさっきも来なかった?」

 

 「ううん、多分きてないと思うよ。この糸がなかったもん」

 

 「もう、おんなじにしか見えない……」

 

 「本当にそうですよね……ねえ哲夜、何かわかった?」

 

 なにやら小さな計器を持ち、歩きながら調べていた哲夜に奈津稀は話を振る。

 

 「いや、そこまで何かっていうものはないな。ただ、この森は生えている木々の種類があまりにも少ない。人の手が入っていないのならもう少し生態系が豊かになってもおかしくないはずなのにだ。俺が把握できたのは2種類だけ。下に生えているコケも数種類しかない。これはやはり異常だと思う」

 

 「さすがてっちゃん、詳しいね。つまり、私がさっき言った同じようにしか見えないって間違いじゃないってこと?」

 

 「そうなりますね」

 

 「足元もジメジメしていて先ほどから私も望虹ちゃんも何度か転びそうになっているのも関係があるのでしょうか」

 

 「それ自体はこの森自体に日差しがあまり入らないから乾かないだけだと思う。だが、ここまで苔の生育に適しているのに種類が少ないのはやはり異常だ。あともう1つ気になるのはこれだ」

 

 そういって哲夜はポケットの中から方位磁針を取り出す。

 

 「めっちゃ回っている!」

 

 「この辺は磁力がすごいらしくて正しい方向に方位磁針が正しい方向に向かないらしい」

 

 「なるほど、だから余計に迷うんだね。星も見えないし」

 

 「ああ、方位が完全にわからなくなるわけだ。俺たちもこの糸がなければ迷っていただろうな」

 

 「じゃあこれが切れないように注意しないとだね。私たちも帰れなくなっちゃう」

 

 新しい蛍光糸をつなぎながら望虹は楽しそうに言った。

 

 「こんな状況でも楽しそうなのはもう一種の才能だよな……」

 

 「みこっちの楽しいの基準は自分の好奇心だからねぇ……」

 

 「え? なんか言った?」

 

 望虹の興味に一途な性格を苦笑する2人の会話に望虹が割り込む。

 

 「いや、なんでもない。とりあえず先を急がないと見つける前に夜が明けるかもしれない」

 

 「確かに、それだと宝珠が使えなくなっちゃって他の人と同じようになっちゃうかもしれないね……」

 

 「そうなっちゃうと私たちの目的も果たせなくなっちゃう」

 

 歩きながら相談すると彼女たちは少しだけ歩くスピードを上げた。

 

 

 

 

 「わあ! きれー!」

 

 「星も、すごく綺麗です」

 

 何時間か過ぎ、日付も変わった頃、望虹達は小高い丘のようなところにいた。

 そこだけなぜか木が生い茂ることなく空が見えていて、月明かりや、星が綺麗に見ることができた。

 そして、明らかに異質だった。

 この暗い迷路みたいな森の中でたった1カ所、光が差し込む場所。

 何かある。

 その考えは望虹達全員が持っていた。

 しかし、暗くじめじめとした森を何時間も歩いていた彼らにとって明るい場所とは安心できる場所であった。

 

 「『彼らが眠りし場所』ってもしかしてここのことなのかなぁ?」

 

 「これだけあからさまに開けてるとそうとしか思えないな」

 

 「でもこれが罠であることも捨てきれないからしばらく待っていないみたいなら別の場所に行こ

う」

 

 「はい、でも罠って?」

 

 「こういういかにも居そうなところではわざと襲わないで、安心させたところで先に進ませそこを襲ったり?」

 

 「なるほど、それで気を緩めたところを襲うと楽にしとめられるってことですね」

 

 「そういうこと」

 

 奈津稀は納得したように答え、柚乃もそれを肯定した。

 

 「確かに、そのように考えるとその可能性も10分あるかと思われます」

 

 「そうだな、15分くらい経っても何も起こらないようなら移動しよう」

 

 「そうだね」

 

 螢華も柚乃の案に賛成し、こんな状況でもしっかり分析できる哲夜がこれからの行動を考え、それを望虹が賛成した。

 

 「じゃあ、休憩がてらここにしばらくいよう」

 

 柚乃がそう言って適当な岩に腰を降ろす。

 それに倣って望虹たちもばらばら座り出す。

 そしてふと、望虹があることに気がついた。

 

 「あれ? ここの地面、乾いてる……」

 

 望虹は自分達が今まで歩いてきた地面が湿っていて何度も滑りそうになっていたことを思い出す。

 

 「それは当然だろ。これだけ開けてれば太陽光もしっかり当たるし、それで地面も乾くだろうからな」

 

 「うん、まあそうなんだけど。なんか違う気がするんだよね……」

 

 地面が乾いてることが不思議ではなのだが何か違うと言う望虹。

 この手の望虹の直感はよく当たるため無視することは出来ない。

 しばらくそのことについて考えてはみたが望虹の違和感に特に思い当たることがなかったためそれを一度やめてまた奥に進むことにした。

 そのときまだ望虹達は気付いていなかった、気配なく陸から、空から忍び寄ってきている影に。

 そして、望虹が自分の上着のポケットに入れた箱に流れ星のように光が入ってきていることに。

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