「ねえ、ちょっと待って」
無言で歩いてた望虹たちに奈津稀から突然声がかかる。
「どうしたの?」
先頭を歩く望虹が振り返った。
「この道に入ってから鳥とか動物とかの声、全然聞こえなくなってると思わない?」
そう聞かれて初めて気づいた。
先ほどまでこの森の不気味さを増大させていた夜行性の鳥や動物の鳴き声が一切聞こえない。
そればかりか、時々望虹たちを驚かせていた動物の気配すらなくなっていた。
そしてそれが返って不気味さを際立たせていた。
「なんで急にこんなに静かに……」
「なあ、そういえば休憩した場所から繋がる道ってここ一つだったよな」
「うん、そうだよ〜だからみこっちもここを選んだんでしょ?」
「いえ、待ってください。それはおかしいです」
「え、どうして?」
哲夜と螢華がなにを言っているのか分からず首をかしげる望虹。
考えていた柚乃があっ、と声を上げる。
「そっか、確かにおかしいよ」
「え、なんでなんで? 柚乃ちゃん、教えてよ〜! 3人だけずるい!」
「だって私たちがきた道はどこにいったの? あそこには道が少なくとも二つ繋がってないとおかしいんだよ」
「あっ、確かに……」
そう、あそこで一つしかないのはおかしい。
まるで、自分たちが引き返す道が消えたようだった。
「でもちゃんと蛍光糸は見えてたよ。そんな見失うなんて……」
「あんまり信じたくはないがあるんだろうな。ここにいる物か、封印した時の名残か。どちらにせよあそこに入った人間に道を見失わせる何か特別な力が」
「哲夜がそんなこというなんて珍しい……でも確かにそうとしか思えないよね」
「てことはなに? 私たち、まんまとここにおびき寄せられちゃったってこと?」
「そういうことになりますね……」
自分たちで選んでいるつもりが選ばされていた。
その事実が彼女たちの不安を一気に大きくさせる。
「でも逆にいえば私たちって一回も間違ったルートに行ってないってことだよ! こんな迷路みたいな帰らずの森ですごくない?」
望虹は言う。
いつだって自分たちがすごいのだと。
どんな状況でも楽しめることを探す。
それが周りを勇気づけているとは知らぬまま。
彼女の一言で暗くなった雰囲気が明るくなる。
「そりゃ確かにね。私たち、もしかして迷路の天才かもよ」
「私たちが、と言うよりは望虹ちゃんがすごいだけな気もしますが……」
分かれ道は全て望虹の直感で選ばれている。
決してこれは望虹が勝手にやっているのではなく、全員が彼女の直感に頼ったのだ。
「いいのいいの! みんなが私を信じてくれたからうまくいったなら、私を信じてくれたみんなもすごいんだよ!」
「望虹らしいや」
「本当にな。誰だ、この前自分にはなにもないとか言ってたやつ」
「その時はその時、今は今! いいって言ってもらえたならそう信じて頑張るのが一番だよ!」
明るく話す望虹。
そしてそれにつられて明るくなる他のメンバー。
実はこれこそ、望虹の一番の力なのかもしれない。
そして、その雰囲気の中にいたからこそ気づけなかった。
鳴き声どころか、木々を揺らす風までがやんでいたことに。
誰かがそれに気づいた時には、横から木を次々と倒すような音が聞こえ、白く胴体が長い獣が望虹めがけて飛びかかってきた。
「望虹下がって!」
その声と共に奈津稀が望虹の前に出て相手の勢いを使ってそのまま投げ飛ばした。
奈津稀がその獣とにらみ合っていると柚乃が声を上げた。
「後ろ! 危ない!」
それに反応した哲夜が奈津稀の後ろから来た体に蛇を巻き付けた亀と向かい合った。その手には木で出来た短刀が握られている。
「あれは、白虎と玄武でしょうか? ということは……」
2体の獣の正体を見破った螢華は空を見上げる。
するとそこには長い体を持った龍と朱い体の鳥が彼女達の上を回って飛んでいた。
「皆さん、聞いてください! あれは中国の古い思想である四神と呼ばれるものです。それぞれ季節や方位などを司る守り神です!」
「じゃあ晴佳さんが話してくれたことは本当だっていうことだね!」
「そうですね。でもやはり……」
「暴走しているみたいだね」
「はい……」
「白虎さん! 他の四神の皆さん!! 聞いてください。なんであなた達は私達や、いままでここに来た人達を襲っているの?」
望虹は四神に呼びかけを始めた。
「おい、あれに言葉が通じるのか?」
哲夜がもっともなことを望虹に聞く。
「通じるよ、あたしがそう思ってるから。思いは必ず通じるよ」
「ふっ、望虹らしい」
実に望虹らしい返答に哲夜は思わず笑みを漏らす。
「じゃあ、俺たちもやるか。奈津稀、構えを解け」
「え、でも」
「こういう時、まず大事なのは敵じゃないと認識させることだ。それなのに俺たちが戦う気満々じゃ望虹の声が届いたとしても会話できない」
「なるほど。確かにそうだね」
そして、奈津稀に指示を出しながら自分も短刀をしまった。
「教えて、白虎さん、あなたたちに何があったの? なんでこんなことしてるの?」
「黙れ、貴様らには関係ない」
低い重い声が望虹の頭に響く。
「白虎さんが返してくれたよ! やっぱり言葉は通じてる」
と望虹は嬉々として振り返るが
「俺は何も聞こえなかったぞ」
「私もです」
誰1人として白虎の声を聞いた人はいなかった。
「そんな、どうして……」
「ほう、我の声が聞こえるのか。貴様には素質がありそうだ」
「素質? それってどういうこと!?」
よくわからない白虎の言葉に聞き返すが
「貴様は知らなくていい。我にはもう永遠に人を襲い、生を得るしか方法がないのだ。貴様も我の活力となれ」
いうが早いか、白虎は再び望虹に向かって飛びかかった。
「っ!」
とっさのこと過ぎて奈津稀は反応することができない。
哲夜も体勢的に望虹を守るのは間に合わない。
望虹が白虎に頭から飲まれようとしている。
しかし、その場にいる4人はそれをただ見ていることしかできない。
「望虹!!」
哲夜が叫ぶ。
それでも、白虎が何かを変えるわけでもない。
ただ望虹を食わんと口を大きく開ける。
ごめんね、お姉ちゃん……約束、守れなかった……
涙があふれる。
そして望虹が食べられることに恐怖して目を瞑ったとき……
望虹の上着のポケットから光が溢れ出し
望虹を包み込んだ。