逢魔の時に……   作:月白弥音

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4 帰路

 

 「放課後の時間だけじゃ全然足りないよ〜!」

 靴を履き替えながら、望虹が不満を漏らす。

 「そんなこと言っても仕方ないだろ。決められたルールは守らなきゃな」

 「それはわかってるけどさぁ……」

 「でも確かに今日はすごく中途半端な感じだったよね……」

 「しかし、これ以上は難しかった気もします」

 「そうかもしれないけど……」

 みんなで考えたらわかったかもなのにな、望虹は小さく呟いた。

 「明日の楽しみができてよかったじゃないか。ほら、さっさと帰るぞ」

 「うん、そうだね!」

 立ち上がってつま先でトントンを靴の位置を揃える。

 「お待たせ、じゃあ帰ろ!」

 「ばーか、何が帰ろ、だ。俺らはお前を待ってたんだっつーの」

 「あはは……ごめんごめん」

 「望虹さんはいつも通りですね」

 「でもこれが望虹のいいところでもあるよね」

 「それはその通りだと思います」

 「ねえねえ、2人で何話してるの―?」

 後ろを歩く2人の話が気になり、振り返った望虹。

 「お前がマイペースすぎて困るって話でもしてるんだろう」

 「あ、哲夜くんひどーい! そんなことないよね、螢華ちゃん!」

 「もちろんです。望虹さんにそのような感情を抱いたことはありません」

 螢華の言葉を聞いて望虹は螢華に抱きついた。

 「螢華ちゃんありがとう! 大好き! ほら、哲夜くんはねじ曲がってるからそう思うんだよー!」

 勝ち誇ったように哲夜を煽る望虹。

 しかし彼女に抱きつかれてどうすればいいかわからず、固まってしまっている螢華のことは何も気にしていなかった。

 「俺はただ普段のお前の行動を冷静に見ているだけでな……!」

 「私はマイペースじゃないもん!」

 それは正しいと思う……、那月のつぶやきは望虹に届かない。

 ついでに言えば螢華の様子も気づかれない。

 「どこがマイペースじゃないって言うんだ。自分のやりたいことをやりたいときにやっているお前のどこが! それに振り回されるのは大体俺なんだぞ」

 「でも哲夜くんだって結構ノリノリでやってるじゃん! 楽しそうだもん!」

 「また痴話喧嘩……」

 望虹と哲夜のやりとりに呆れたように奈津稀が呟いた。

 「「痴話喧嘩じゃない(もん)!」」

 寸分違わず返ってきた言葉に諦めたようにため息をついた。

 ハモってしまってなおも睨み合いをしている2人に、抱きつかれながら挟まれている螢華。

 すがるような必至の目線に、もう一度ため息をついて奈津稀は助け船を出す。

 「ほら、螢華も困ってるし、校門の前でいつまでもそんなことしてると迷惑だよ。とりあえず今日のところは帰らない?」

 「そ、それもそうだな……」

 「ご、ごめんなさい……」

 トボトボと歩き出した2人を追って4人はようやく学校を後にした。

 「そう言えば明日は健康診断日だったよね?」

 「あっ……うん、そうだね……」

 目に見えて更にテンションを下げた望虹は心底嫌そうだった。

 身長が低い彼女は毎年の身体測定がとても嫌いだった。

 「今年は少し身長が伸びているかもしれないじゃないですか」

 「少し、ね……」

 「あ、すみません……」

 「今のはあまりフォローになったなかったかもね」

 「そうですね……」

 うまくフォローしようとした螢華もあえなく撃沈。

 より落ち込ませただけだった。

 「みんな大きいくせに……螢華ちゃんだってモデルさんみたいなのに……」

 彼女のコンプレックスは他の誰かが考えるより大きいものだったのかもしれない。

 「そう言えば俺らは追加検査は何をやるんだ?」

 晨明中学では入学後すぐに身体測定を行わず、全員の部活が確定してから検診とともに行う。

 それをまとめて1日で、全校一斉に行うため、その日は健康診断日と呼ばれている。

 正式入部したしてから行うのはその部活ごとで追加健診項目があるためだ。

 サッカー部なら足首や膝、野球部では肘……などなど部活の内容によってスポーツ障害、故障を防ぐためにはかなり重宝する仕組みである。

 子供を守るためにお金をかけられる私立、それも個人がやりたいことを応援する晨明中学ならではの検診方法で、生徒の保護者から支持を受ける理由の一つである。

 「えっと、鷹匠先生が足腰の検査をやるって言ってたかな? 『あなたたちは山登りしたり、たくさん歩いたりするでしょ。だから追加しておいた』って言ってた気がする」

 地域文化部の顧問、鷹匠美雪(たかじょうみゆき)は社会担当。

 廃部寸前だった地域文化部に入部希望を出した望虹たちを喜んで歓迎し、好きなように活動することを認めた。

 その結果が昨夜の学校不法侵入なのだが。

 その真実を鷹匠は知らない。

 「私たちの活動方針を正しく理解されすぎている気がするよ……」

 「鷹匠先生は怖いくらいに私たちのことを見てくださっていますよね」

 「ああ、なんかもう全部見透かされているみたいだよな……」

 「あの先生、本当に何者なの……?」

 自分たちのことが見透かされすぎていることに4人は恐怖を感じる。

 「まあ、きっとたまにいる相手の気持ちを予測するのが得意な人なだけなろうな」

 「むしろそうじゃなきゃ怖いけどね……」

 「本当にそうだよね……」

 顧問の恐怖はあるが、それよりも今は小箱の方が優先である。

 学校からそこまで離れていないところにある商店街が螢華と奈津稀と別れる道である。

 その分かれ道に差し掛かったところで、前を歩いていた望虹がくるっと半回転して手を後ろに回して2人に話しかける。

 「じゃあまた明日ね! あっ、明日までの宿題! 奈津稀くんが読めなかったところ、読み方考えてきて!」

 ビシッと効果音がつきそうな勢いで2人を指さす。

 「ほーい、悔しいから絶対に突き止める!」

 「はい、私も考えてきますね。ではまた明日」

 2人になった望虹と哲夜は商店街を歩く。

 「ここを毎日歩くなんてちょっと新鮮だよね〜」

 「それ、毎日言ってないか? まあでも昔はよく遊びにきていたからな、懐かしさは確かにある」

 「だよねだよね! あ、あそこのお肉屋さん、久しぶりに寄ってみない?」

 望虹の目に入ったのは小さい頃よく言ったお肉屋さん。

 無論、ここでの小さい頃は年齢的なことであり、身長のことではない。

 数百円というわずかなおこずかいを持って遊びに出た彼女たちはよくここに寄ってコロッケを買っていた。

 「夕飯前にそれはダメだろ。それにお金は……っておい、勝手に行くなよ!」

 そう言ったときには時すでに遅し。

 「こんにちは!」

 元気に挨拶をして入っていく望虹の姿が見えた。

 「まったく、本当にあいつは……」

 頭を抱えながら哲夜も中に入った。

 「あれ、まさか望虹ちゃんかい? 今入ってきたのはもしかして哲夜ちゃんかい?」

 「そう、哲夜くん! おばちゃん、私たちのことちゃんと覚えてくれてたんだね!」

 「そりゃそうさ、ちっちゃい頃からいつも来てくれたからねぇ。こんなに大きくなって……」

 「おばちゃん……」

 「俺たちのことを覚えてるのか。すごい記憶力だな」

 「当たり前でしょう。あんなに仲良しなカップルを忘れたりしないわよ」

 「かっぷっ……!」

 「あら、違ったかね」

 「違いますよ? 大切な友達です!」

 笑顔で言い切る望虹に哲夜は少し安心したような残念なような表情をした。

 「あらあら、哲夜ちゃんは大変ね〜」

 「おばちゃん、からかわないでくれ……」

 げんなりとしている哲夜に? を浮かべる望虹は何を話しているかよくわかっていないようだった。

 「久しぶりに来てくれたからコロッケサービスしちゃう。持っていきな」

 おばちゃんがくれた袋にはコロッケが3つ入っていた。

 「えっ……」

 「あら、確か望虹ちゃんのところには……」

 「おばちゃん、また来る」

 あらあら……困ったような声を出して望虹を連れ出す哲夜を見送った。

 「……青春、かしらねぇ」

 

 

 

 「哲夜くん? どうしたの?」

 「あ、いや、なんでもない」

 哲夜が手を引いて走り、たどり着いたのは近くの公園。

 「ここも懐かしいね。初めて哲夜くんとあったところ」

 「……ああ、そうだな」

 望虹がこの街に引っ越して来てすぐ、まだ友達ができていなかった頃、ここで1人で遊んでいた。

 『ねえきみ、ここで何してるの? 迷子?』

 『あそんでたの! 一緒に遊ぶ?』

 『いいよ』

 そうして2人は出会った。

 「でも、哲夜くんは私のこと結構長い間年下だと思ってたよね」

 「し、仕方ないだろ。あの頃から望虹が小さいから悪い」

 「私だって好きで小さいわけじゃないもん!」

 コロッケを食べながら思い出話に花を咲かせる。

 「でも哲夜くんといつからこんなに仲良くなったんだっけ? 初めて会った時のことは覚えてるけど、ちゃんと仲よくなったきっかけってなんだかあんまりちゃんと覚えてないや……」

 「……俺も覚えてないな。そのあとの方が色々ありすぎてな」

 「えへへ、そうだよね。たくさん一緒にやったもんね!」

 「散々振り回されてな」

 「ご、ごめん……」

 自分の悪い癖、気になると数に動いてしまうこと。

 それに付き合わせている自覚があるからこそ、望虹はただ謝るしかできなかった。

 「まあ、それでも楽しかったけどな」

 「哲夜くん……! 今年もみんなでたくさんのことしようね!」

 目を伏せながら小さく頷いたのを確認した望虹はベンチから立ち上がった。

 「さあ、帰ろ! 今日のこと、ちゃんと調べなきゃ!」

 「明日、どんな風になってるか、期待してるぞ」

 「哲夜くんこそね!」

 手を振りながら走り出す望虹を見えなくなるまで見送ると、哲夜は自分も家に帰るために公園をを後にした。

 すっかり暗くなった空の向こうに8つの小さな光があったことは2人とも気がつかなかった。

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