7解読
「ねぇ、みんな、何か昨日の紙のことででわかったことある?」
全員が部室に入ったことを確認した望虹はそう他のメンバーに聞いた。
「はい、まず僕からね」
最初に手をあげたのは奈津稀。
「うん、どうぞ奈津稀ちゃん」
「……えっとまず……」
「うんうん……って、ねえ、ちょっと待って! 今、華麗にスルーしたよね!?」
いつものからかいをする望虹に一瞬奈津稀は呆れたという視線を送りそのまま話をしようとする。
予想外の反応に驚いている望虹だったがふとあることに気が付く。
「あ! 否定しないってことはそれを認めたってことだね!」
「結局いつものパターンで反応しないとじゃん! 僕は男子だ!」
やはり、と言うべきなのか望虹には勝てずいつものように叫ぶ奈津稀。
「いいからさっさと話せ」
至極まともな指摘をする哲夜に奈津稀はがっくりと項垂れた。
しばらくして、立ち直った奈津稀が自分の仕入れてきた情報を話し出す。
「昨日もう一度調べてみたんだけど、やっぱりあんな四字熟語も固有名詞もなかったよ。古典だけじゃなくて、現代の方も調べたけどこっちも該当するものはゼロ。多分当て字なんじゃないかな」
「そっか……他に何かある?」
「僕はそのくらいかな。螢華は?」
「私は神話関係で何かないかと調べましたが該当している可能性が高い話が多く絞り込みは不可能と判断しました。主に日本神話や中国神話を捜索してみたのですが、手がかりが少なくて……」
「そうだよね……哲夜君は?」
「読み方は全くといっていいほど見当がつかなかった。代わりにこの紙は入っていた箱が作られる50年前くらいに書かれていることがわかった。誰かが書いて後からこの箱に入れて封印したんだろう」
「うわあ、もっと古いものなんだね~あれ、じゃああそこの像ももしかしてその時から……?」
望虹は哲夜が言ったことに素直な感想を口にする。
「ああ、確かにその可能性も考えられる。だが、とりあえずこっちの漢文を読み解く方が先だ」
「そうだね、望虹、君はなんか無いの?」
哲夜が時代のことから漢文の方に話題を戻し、奈津稀が望虹に話をふる。
「え、私? 哲夜君や螢華ちゃん、奈津稀君と違って私だけが得意! っていうのがないからたいしたことは分からなかったんだけど……」
「望虹ちゃん、今はどんな些細なことでも重要ですから望虹ちゃんが気がついたことを教えてくれますか?」
自分だけが突出して出来るものがないことに不安を感じていた望虹を螢華が励ます。
その横で奈津稀は、久しぶりに男子として見てもらえた! と喜んでいたがそれは哲夜に同情しているような目で見られていただけだった。
「……うん。私は良くわかんないからとにかく全部の漢字の読み方を調べようかなって考えたの。まず確実なのは『亞』が『あ』って読むことでしょ?」
意を決して話し始めた望虹の話に全員が頷く。
「それで、『羅』は『ら』、『祇』は『ぎ』か、『き』だと思うの」
「うん、それは確かにそれしか読み方ないもんね」
「そうなの。それで、『百』の読み方がたくさんあって……」
「お前はどれだと思うんだ?」
「私? えーっと、他の漢字が一音ずつだからこれもそうなんじゃないかなって思う……」
「じゃあ、そうなんだろうな」
「けどね、一音の読み方ってわからなかったの。だから違うかなって……」
「奈津稀、何か心当たりがあるか?」
「え……? わ、私、間違ってるかもしれないんだよ? そんなに簡単に……」
自分の意見がそのまま使われたことを不安そうに色々言う望虹。
「ばーか、なに言ってんだ。おまえの一番得意なのはその直感だろう。それは俺らみたいに何か一つに拘らないからこその視点だ。だからこそ望虹の直感はなぜか信じられる」
彼女に対し、徹夜はそう言いきった。
事実、今までにも何度か望虹の直感で分かったことがあったため地域文化部のメンバー、特に哲夜は望虹の直感への信頼度が高いのだ。
「哲夜君……そうだよね、ありがと」
それを聞いた望虹は自分への信用を少し取り戻す。
「奈津稀君、なんかある?」
「んー……今なら『と』とか、『も』とかが名前に使える読み方になっているけど、その時代にあったかどうか……」
「とりあえずあったとして、読み方は結構絞られてくるな」
「うん……そのどれかだと思うんだけど……」
「モラギア、モラキア、トラキア……」
「望虹ちゃん、多分今の読み方で正解です」
何かに気がついたように螢華が声を上げる。
「どういうこと? 何かその単語に聞き覚えがあるとか?」
「はい。トラキアのディオメディス王が凶暴な馬を飼っていたという話がギリシャ神話にあります。その文にもある通り、旅人や、逆らった者をその馬を繋いでいる馬小屋に連れ込み、殺したという伝説です。十二の試練をこなした勇者ヘラクレスの試練の一つがその馬の生け捕りであったとされています。その馬の数も四頭だったと言われているので四神が使われていたこととも繋がります」
神話のことにはとても強い螢華がそう答える。
「ギリシャ神話!? そんなに前から日本で知られてたの?」
「法隆寺の柱には古代ギリシャのエンタシスのようなものが見られたり、正倉院にペルシャの宝があったりするくらいですし、五世紀ごろには伝来していてもおかしくないかと。しかし、それを知る人はごく僅かだったと思いますが」
「そうだったんだ……すごく前からあるんだね」
「ただ、一つだけ怖いことが……」
そこで螢華は一度言葉を切る。
「その馬は人食い馬だと言われています」
「「「ひ、人食い馬!?」」」
それを聞いた三人は同時に驚きの声をあげる。
「うううう馬って草食じゃなかったっけ!?」
「いや、そんなことよりこの町にも人食い獣がいるってこと!?」
信じられない事実が明らかになったような感じで望虹と奈津稀は質問を繋げる。
「それに関しては私は耳にしたことがありませんが……」
「ちょっと待ってて」
そう言って望虹は携帯を取り出す。
そして、ある人に電話をかけ始めた。
『はいはーい、どうしたの、みこっち』
「ごめんね、柚乃ちゃん。ちょっと聞きたいことがあって」
電話の相手、東城 柚乃(とうじょう ゆの)は望虹の従姉妹で、同じ様に晨明中学に通う中学二年生。
ちなみに、彼女は帰宅部のため今電話をしても問題ない。
望虹が柚乃に電話をした理由は柚乃が依代町にある都市伝説についてとても詳しいからだ。
実際に小学生の間は柚乃と一緒に都市伝説の調査をよくしていた。
今回も、人食い獣について何か知らないかと思って電話をかけたのだ。
「依代町って、人食い獣の都市伝説とか、何かある?」
望虹がそう聞くと柚㮈は
『うん、あるよ』
と答えた。
「えっ……?」
『だから、人食い獣の都市伝説あるよ。それも晨明中学の後ろにある陰陽山、帰らずの森って呼ばれているところに“人喰の魔物”っていう都市伝説がね』
電話の向こうの柚乃は確かにそう言ったのだった。