逢魔の時に……   作:月白弥音

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8 魔物

 

 

 

 人喰い魔物の都市伝説があると教えられてから気になってたまらない望虹は、翌日、柚乃を放課後地域文化部の部室に呼んだ。

 望虹の授業が終わってからすぐ、柚乃を迎えにいったため、地域文化部の部室にいるのは望虹と柚乃だけだ。

 同じクラスである哲夜も置き去りにしてきている。

 

 「それにしてもびっくりしたよ、いきなりみこっちが教室に入ってくるんだもん」

 

 「えへへ、だって、昨日あんな話聞いちゃったら居ても立っても居られなかったんだもん! それでね柚乃ちゃん、昨日の人喰い魔物の都市伝説について詳しく教えてもらいたいんだけど」

 

 「それはもちろん良いけど、珍しいね」

 

 「珍しい? 私がこういうのに興味を持つのはいつものことだよ?」

 

 「ううん、そうじゃなくて、みこっちがそこまで一つのものに食いつくなんて珍しいなって。いつも私に情報を求めてくる時、大体何かないって聞いてくるじゃん? でも昨日は明確に聞きたいことがあったから珍しいなって」

 

 「そ、そうかな……」

 

 自分では全く意識したことがなかった。

 

 「そうだよ」

 

 しかし、柚乃は気付いでいた。

 自分の知識が必要になる時は大体が望虹たちが自分の興味を一度満足させた後であることを。

 この姉妹と一緒に興味を満たす探検をするのは楽しかった。

 でも、同時に自分の力が必要ないのではないかという劣等感も感じていた。

 そして、それはいろはの死で望虹が部屋に閉じこもってしまった時に決定的になってしまう。

 それだけ近くにいても何もしてあげることが出来なかった自分と、もう一度外の世界に連れ出した哲夜たち。

 自分は何も出来ないという確信と後悔が彼女の中にずっと残っていた。

 

 「きっと何か他のものを調べてるときにこれに引っかかったんでしょ? 違う?」

 

 彼女が望虹に唯一できることは今まで通りを貫くことだった。

 自分の気持ちで望虹をこれ以上悲しませないようにする。

 安心できる場所を作るためにいつも通りを作る家庭と、自分と相手を守るためにいつも通りを貫いている柚乃。

 似ているようで実は全然違う想いが望虹を挟んでいた。

 

 「あ、うん……流石だね、柚乃ちゃん」

 

 図星をつかれ少し小さくなる望虹。

 怒られると思ったのか、柚乃と目を合わせようとしない。

 いろはが亡くなってからあまり関わりがなくなった柚乃が、まだこんなことを続けている自分に怒っているのではないかとずっと不安だった。

 

 「あはは、大丈夫だよ。別にみこっちが何やってても私が何か言おうとは思わないから。あ、でもあんまり危ないことはして欲しくないけどね?」

 

 「柚乃ちゃん……」

 

 思いがけない言葉に望虹はゆっくり顔をあげる。

 そこには笑顔の柚乃の姿があった。

 

 「いろはも、みこっちにいろんなこと見て感じて欲しいってきっと思ってる。それを私がダメっていうのはなんだか違うと思わない?」

 

 「お姉ちゃん、そう思ってくれてるかな……」

 

 望虹は頭に咲く一輪の白い花に触れる。

 そこにもう一つ手が重なった。

 

 「きっとね。今もこれを通してきっと楽しんでるよ。一緒に、ね」

 

 「うん、そうだよね。ありがと……」

 

 「……ところで、人喰い魔物のことだけど、どうせなら全員集まってからの方が良いんじゃない? その方が一回で済むし」

 

 「うん、そうだね、お願いします」

 

 「はいはい、了解」

 

 自分達の芝居がかったやりとりで二人はぎこちなく、距離を測り直す。

 

 「最近、お母さんはどう?」

 

 「うん、平気だよ、いつも通り」

 

 「そっか、なら良かった。お父さんは相変わらず忙しい?」

 

 「うん……昨日も帰ってこなかったみたい……」

 

 「本当に忙しそうだよね、みこっちのお父さん。うちは普通のサラリーマンだからそんなこと全然ないし」

 

 「お仕事の話をしているときのお父さん、本当に楽しそうだから大丈夫だとは思っているけど、体調はすごく心配……」

 

 そうだね、話題作りを失敗した柚乃がポツリと呟いた。

 一瞬、静寂包まれる部室。

 その静寂を破るかのようにドアが開いた。

 

 「あ、柚乃さん、こんにちは。お久しぶりです」

 

 「あ、てっちゃんだ、望虹と同じ部活だったんだね~」

 

 他のメンバーの中で最初に来た哲夜が柚乃に挨拶をすると、柚乃はなにやら意味深ににやりと笑った。

 

 「ねぇ、てっちゃん、何でこの部活にしたの?」

 

 「え? あ、えっと……この部活面白そうじゃないですか」

 

 「ふーん、なーんだ、みこっちがいるからなのかと思ったのに」

 

 「え? 哲夜君、そうなの? あたしが強引に誘ったからやりたいこと、他にあるのに我慢して入ってくれたの……?」

 

 柚乃と哲夜の会話を聞いていた望虹が不安そうに哲夜に問いかける。

 目には若干涙をため、身長差のため上目遣いで。

 

 「そんなことはない。第一何でお前のために俺が我慢しなきゃならないんだ? 自分の意志で入ったんだから変なこと聞くな」

 

 少し目を逸らしながらぶっきらぼうに言う。

 

 「本当!? 本当だよね!?」

 

 無理矢理ではないと聞いた望虹は腕がとれるんじゃないかと思うほど哲夜の手を下に引っ張る。

 

 「ありがと!」

 

 満面の笑顔で言い、手を放した。

 彼の顔がほんのり赤く染まる。

 

 「あ~あ、みこっちも色々やっちゃって。てっちゃん大変だ」

 

 その様子を横から見ていた柚乃はそう呟き、ため息を漏らした。

 

 「ごめん、委員会で遅くなっちゃった」

 

 「すみません、遅くなりました」

 

 「あ、お疲れさま、螢華ちゃん、奈津稀ちゃん」

 

 「だから僕は男子だよ!?」

 

 「うん、知ってる」

 

 「毎回同じことをやるな、めんどくさい。奈津稀がいちいち反応しなければいいだろう」

 

 いつものように奈津稀が来て早々いじられるがそれを哲夜が止める。

 

 「それに今日は柚乃さんも来てるんだから」

 

 「そういえばそちらの方はどなたですか」

 

 哲夜が動いたことにより初めて柚乃が見えたのか螢華が哲夜に聞いてくる。

 

 「ああ、紹介するね。この人が昨日私が電話してた……」

 

 「……東城柚乃です。都市伝説には割と詳しいと思うから何かあれば聞いてね」

 

 「あ、はい。鈴谷奈津稀です」

 

 「朱羽螢華です。以後お見知りおきを」

 

 三人が自己紹介を終えると柚乃が手を叩く。

 

 「じゃあ本題に入っていい?」

 

 「本題? なんかあったっけ?」

 

 「帰らずの森の人喰い魔物のことだよ」

 

 「ああ、それね。柚乃先輩、お願いします」

 

 「はいはーい! じゃ、話を始めようか」

 

 

 

 

 「人喰い魔物の都市伝説ができたのが今からおよそ六十年くらいかな」

 

 四人から声が上がる。

 

 「六十年前? そんな最近なの?」

 

 「え、う、うん。噂が出始めたのはそのくらいだと思うよ? でも、原型はもっと前からあったらしいけど……」

 

 千年くらい前の紙に書かれている文章に書かれているのに最近まで出てこなかったことに疑問を覚える。

 

 「じゃあ、今まで何で表にその噂がなかったの?」

 

 「みこっち、近所の人から帰らずの森についての話、聞いたことある?」

 

 「うん、とっても深い森だから入っちゃダメって」

 

 「僕もそのくらいしか聞いたことないかも。でも柚乃先輩、それが何か関係あるんですか?」

 

 「ううん、全然」

 

 「えっ!」

 

 「特にはないんだけど、逆に言うとみんなそれくらいしか知らなかったんだよね。今から話すやつもごく一部の人しか知らないらしいし」

 

 「つまり、昔から危険であることだけ理解されてたために、今までその理由を知る方がいらっしゃらなかった……と言うことでしょうか」

 

 「けいちゃん、大正解! 前から色々言われてはいたんだけど、その話がいまの形になったのが六十年前くらいなんだって」

 

 「そっか、なるほどね。それでその中身は?」

 

 望虹は自分の疑問が解決され、納得しながら楽しみでたまらないような感じで先を促す。

 

 「うん、これから話すよ」

 

 柚乃は一度自分の鞄から水筒を取り出し中のお茶を飲む。

 

 「さて、じゃあ始めようか」

 

 

 「昔、この町に一人の青年がいた。彼は頭が良く、誰からも信頼されていた。

 ある時、その青年が突然姿を消した。町の人々は彼を捜し求めたが姿は見つからなかった。

 その青年の友達がある日、ふと青年がいなくなった前日、陰陽山の森に行くと言っていたことを思い出した。すぐに町の人々は何人かの班を作り、その森に入っていった。

 捜索班が森に入って一週間、どの班も戻ってくる気配がなかった。心配になった人々は捜索班を見つけるためにその森に入っていったが彼らもまた同じように帰って来ることはなかった。町の人はいつしかその森を帰らずの森と呼ぶようになり近寄らなくなった。

 それから数年後のある日、一人の男が町役場に駆け込んできた。そして受付に向かって『帰らずの森には魔物がいる!』と叫んだそうだ。聞けばその男は偶然帰らずの森に入ってしまい、出口を探して急いでいると森の奥からガサガサと音が聞こえ、そこを見ると人を頭から口にいれた大きい生物がいたらしい。その日から帰らずの森から帰ってこれないのはその魔物に食べられてしまうせいだということになり、それがこの街の常識となっていた……」

 

 そこまで柚乃はそこで一度話を切り

 

 「とまあ、そんな感じの話」

 

 と締めくくった。

 

 「じゃあ、次の目的地は帰らずの森ってこと?」

 

 奈津稀がそう他のメンバーに問いかける。

 

 「うん、そういうことだね……」

 

 望虹がこれに答える。

 

 「何、なんか面白そうなことをやってるみたいだね? 私にも教えて、というか、連れてってよ」

 

 「え、柚乃ちゃんも?」

 

 「うん、ダメ?」

 

 「ダメじゃないけど柚乃ちゃん、だって……」

 

 「望虹がそうやって頑張っているんだもん、私だって、ね?」

 

 「……うん、わかった」

 

 「ありがとう、望虹。わがままいってごめんね」

 

 「もう、柚乃ちゃんは一度いうと聞かないから諦めてるよ……」

 

 そうやって呆れまじりに言いながらも嬉しそうに望虹は今までのことを話していく。

 そして、ひと段落着いたところで柚乃が口を挟んだ。

 

 「じゃ、私も帰らずの森、一緒に行くよ。私が話したからっていうのもあるし……来週、ゴールデンウイークで休みだしそのときなんてどうかな?」

 

 「うん、そうだね。じゃあそれまでに私達の方でもいろいろ情報を集めてみるよ」

 

 「ありがと、みこっち。私も帰らずの森について詳しそうな人にもう少し話聞いてみるね」

 

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