機動戦士ガンダム0080 in Winter 作:kenji_kk
U.C.0080-01-01T15:00Z
ジオン公国 ア・バオア・クー宙域
月の裏側のラグランジュ点にある宇宙コロニー国家ジオン公国と地球連邦政府との戦争はジオン本国の最終防衛ライン上にある宇宙要塞ア・バオア・クーのあるこの宙域で終結した。
ア・バオア・クーは月とジオン公国の中間に位置し、戦前にコロニーの建築資材採掘のために外宇宙から地球圏へと運ばれて来た円盤型と円錐型の小惑星を繋ぎ合わせたキノコ状の人工の天体であり、地球の衛星軌道には他にも建築資源としてを幾つもの小惑星が周回していた。
地球圏総人口100億人の内、一部の特権階級を除いた殆どが宇宙居住者となり、その生活基盤としてラグランジュ点には直径6km、全長40kmの円筒形のコロニーが数多く建設され、そのコロニー群をサイドと呼び、ジオン公国もまたそのコロニー群の一つだった。
要塞の硬い岩盤層の下には司令室や工廠、艦隊も繋留できる宇宙港が設置され、軸上の側面方向にある月の裏側は八割方闇に沈んでいた。
太陽は円錐方向からは照らし出し、その方角の地球にある地球連邦軍の本本営ジャブローから連邦軍のほぼ全戦力を投入したア・バオア・クー攻略戦、星一号作戦が35時間前に決行された。
連邦軍艦隊は3方に分かれ、主力艦隊は太陽方向から侵攻し30時間前に要塞の両端を守る防御の要である2隻の機動兵器部隊の母艦であるドロス級超大型宇宙空母を轟沈させ、戦力で劣るジオン公国は戦線を立て直すことが出来ずに雌雄が決した。
20時間前にはジオン公国の首魁であるザビ家一党が全て死亡したことが全軍に伝えられ、停戦が勧告された。
ザビ家のカリスマ性で掌握されて来たジオン公国はザビ家の滅亡とともに軍隊としての統率を失い、残存勢力は戦線離脱を開始した。
地球圏の人口の半分を失ったこの戦争は、この僅かな時間でジオン本国に残されて戦火を免れたザビ家の傀儡となっていた公国首脳と地球連邦政府との間で月面の独立都市グラナダにて休戦条約が締決されることとなった。
大規模戦闘終結から15時間余り、小規模な戦闘はまだ発生していた。
要塞には連邦軍初の機動兵器の運用を前提としたペガサス級宇宙強襲揚陸艦が座礁したまま放置され、宙域には機動兵器や軍艦の残骸、回収されていない屍体、破棄されたコアファイターが漂流する。
地球連邦軍所属のサラミス級宇宙巡洋艦がビームガンで武装した主力機動兵器ジムの小隊に護衛されながらデブリの中を哨戒する。
この戦争で初めて投入された全高18mの有人人型機動兵器は電磁波を妨害して誘導兵器を無効化するミノフスキー粒子散布下で圧倒的な能力を発揮した。
空間戦闘から重力下まで殆ど変更なしで運用され、人間の手に相当するマニュピュレータで武装を変更することでどんな作戦にも対応することが出来た。
先に実戦投入に成功したジオン公国は連邦政府に対して10分の1の国力しか持たないのに戦争を中盤までは有利に進め、一時は制宙権の殆どと地球上の半分を勢力圏に治めた。
しかし、終盤には連邦軍も機動兵器の実用化に成功すると圧倒的な物量で戦線を挽回した。
最後の大規模会戦となったこの戦闘でも連邦軍は5倍以上の軍事力を用意しながら最新技術を次々と投入するジオンは要塞内の工廠で組み立てた人型に捉われない強大な火力を搭載する大型機動兵器で抵抗し、連合艦隊旗艦マゼラン級宇宙戦艦ルザルを失い最終的にはジオン本国への侵攻を断念せざるを得なかった。
休戦条約は両陣営共に戦争継続能力を失った結果でもあった。
連邦軍では3機の機動兵器で1個小隊とし、お互いの死角を補っていた。
「グラナダでの調印式は始ったのか。
俺たちは何から艦を守ってんだ?」
「宇宙ゴミからだろ」
無線にはまだ電波障害が強く残る。
「うるさいぞ、パイロットども。
こちらデブリ多し、視界は不良」
巡洋艦の通信手の怒鳴り声が無線に響く。
U.C.0080-01-02T02:15+9:00
シベリア ヤクーツク付近
国際協定時間のグラナダでの調印式から2時間が経過した。
現地時間の深夜、日付は既に変わり、猛吹雪の中を地球連邦軍極東方面隊の機械化小隊は生命反応が全くない針葉樹林帯の中を機体を新雪に深く埋めなが進軍している。
小隊は年の瀬間際に配備された陸戦型ガンダム2機とジム1機で編成されている。
無灯火の暗視モードで30m間隔の僚機が僅かにしかモニタに映らない。視界はほぼ絶たれている上に、戦争で全ての監視衛星を失い自律航行装置だけが自分の所在を把握する手段だった。
ジャイロはその構造上、障害物を避ける度に誤差を蓄積するが、小隊にはそれを修正する術はなく進むしかなかった。
宇宙戦争にも対応するパイロットスーツは寒さも防いでくれるが、この中隊に配備されている機体は通常より念入りな防磁対策が施され、元来、劣悪な居住環境をさらに悪くしている。
この付近はジオン軍のブリティッシュ作戦で地球へ落下させられた宇宙コロニー・アイランド・イフィッシュの破片が大量に落下した。
諜報活動で植民地の大部分を失ったブリテンになぞらえたその作戦の全容が判明したとき、地球連邦政府の高官は愕然とした。
ほぼ月の公転軌道と同じ高度35万kmにあるハッテ・サイドの総重量数百億tにもなるアイランド・イフィッシュ・コロニーに核パルスエンジンを搭載し、地球へと落下させると言うものだった。
地表に到達すればその破壊力は核爆弾数千発分に相当し、南米大陸の地下に造られた核攻撃にも耐えられる大本営ジャブローをも危険にすることが出来る質量兵器となる。
連邦軍地球軌道艦隊はジャブロー防衛のため総火力で対抗したが落下阻止には失敗した。それでもジャブローへの落下コースは避けられコロニーは大気圏突入時に崩壊を起こした。
その最大の破片はオーストラリア大陸に落下してシドニーを蒸発させた。バイカル湖にも巨大な破片が落下し、東シベリア全体に放射能に汚染された無数の微小な破片を落下させた。
その影響は電子兵装を無力化するミノフスキー粒子と相まって常に強い電波障害を周辺に発生させている。
連邦軍の機動兵器が本格生産に入る前の少数の生産トライアル機が配備された東南アジアでは機動兵器3機と死角の多い機動兵器を補完するために軍で通称“トラック“と呼んでいる装甲車両を並走させて1個小隊として運用されたが、宇宙での使用も前提としている機動兵器と違い機密性の低い装甲車両ではこの地の強い線量で内部の歩兵が被爆してしまいは運用することが出来なかった。
小隊の攻略目標は通称「ゴミ山」と呼ばれている要塞とも塹壕とも付かないジオン残党の拠点だった。
戦端が切られたのは3週間前、ジャブローの工廠で建造された連合艦隊が星一号作戦のためにロケットブースーターで宇宙へと打ち上げられた前後のことだった。
電波障害で投降勧告も搔き消され、残党は地図にも載らない残骸を積み上げたこの人工の丘陵に立て籠もり挑発に乗らず、月の裏側ではジオン本国と終戦協定が結ばれた今も攻略の目途が立っていない。
現状を打破するために夜間作戦を仕掛けることになった
「聞こえるか! 」
雑音混じりの無線に怒鳴った。
この吹雪では電波障害の影響を受けない光通信は使えない。
「みんな、聞こえる?」
最初に聞こえたのはジュディ・ケンジントン少尉の声だった。
もう1機のガンダムのパイロットで特に通信能力が強化されている。
彼女は一学年上で士官学校を繰り上がり卒業した自分と違い正規の教育を受けた最後の世代でもった。
「少尉殿。
こちらロドリゴ、聞こえております」
ロドリゴ・マニラ伍長は小隊の中の下士官で、いつも軽口を叩いている生産型機動兵器ジムのパイロットである。
ジュディ機を中継して小隊の無線が繋がった。
この付近には電波障害が弱くなるコールドスポットが点在していたが、それは風向きで毎日、位置を変えた。
「奴らは戦争が終ったことを知っているのでしょうか?」
隔絶されたここではその判断は出来なかった。
「上層部は、せめて気象衛星でも復活させてくれると良いんですが、ここでは戦争は終っていないですよ」
それはあまりの正論だった。
画面にゴミ山の輪郭が浮かび上がった次の瞬間、機体のすぐ横を光線が掠めた。
火蓋はいつも突然に開かれる。
小隊はいつの間にかK点を越えていた。
それは小隊が便宜上、勝手に使用している呼称で、本当の意味での最前線、そこから先が残党の領域、危険領域であることを意味した。
ジャイロに映し出されている地図との今日の誤差はそこそこ上出来だった。ここでの自律航行装置の信用度はそんなものだった。
そこから少しでも自軍の支配地域を進めることが毎日の目標だった。
砲撃が自機に集中している。
数は分からないが複数の機銃が自分を狙っていることは分かった。
盾を前面に出して防御体制をとる。
ジオン軍の主力機動兵器ザクの120mm榴弾砲と思われる砲弾が近くに着弾して雪柱を上げた。
この電波障害の中でどうして正確な射撃出来るのか分からないが、ガンダムの装甲なら耐えられる筈だった。
闇の中へマニュピュレータに装備した90mmブルパップマシンガンをセミオートで撃つ。
弾頭に超硬元素を使用した高速弾でザクの榴弾砲よりも口径は小さいが命中すればザクの装甲を撃破するには十分な運動エネルギーを持つが、3本の光の筋は手応え無く闇の中へと消えた。
連邦軍は実体弾よりも遥かに強力な機動兵器用にもプラズマ化した粒子を放つメガ粒子砲の小型化に成功したが、それらの殆どは決戦用に宇宙へ運ばれ、残りも大本営防衛に回されこんな辺境に配備されることはなかった。
周りからも機関砲の光が見える。
ジュディとロドリゴも援護射撃を開始したが、ミノフスキー粒子が散布され、再び無線が途切れた。
ウォーリー・ワシントン中尉の別働隊が側面より残党を挟撃する作戦になっていたが、小隊内でも無線は途切れているのに連絡を取る手段は無く、自分より上級の士官の援護を信じて前進するしかなかった。
操縦桿に衝撃が走って機銃が止まった。
恐らく砲弾が機銃の中で詰まっている。
闇に包まれていた画面に大きな炎が映し出された。
ジオンの280mm無反動砲のバックブラストなら直撃すればジムよりも装甲の厚いガンダムでも重大な損害を受ける。
教本通りに初速が遅いロケット弾が着弾する前に盾を出来るだけ機体から離すと、コクピットにまで伝わる振動と画面が炎に包まれた。
おそらく特殊鋼製の盾は着弾と同時にジェット粉流で穿たれた穴からナパーム効果で木っ端微塵となったが、これで敵のおおよその位置が分かった。
ライフルを投げ捨てるとスロットルレバーを押し込んだ。
バーニアが炎を噴き上げて辺りの雪を舞い散らせると、機体が地上から飛び上がる。ガンダムは機体各部に付属しているロケットエンジンで重力下であっても数十tの機体を10秒程度は浮かせることが出来る。
吹雪で流されながらも、ロケット砲の発射地点へと一気に距離を縮めた。
画面の端に敵の機影が見えると、着地と同時にバックパックに装備されている荷電粒子剣を引き抜いた。
対機動兵器用の近接戦闘武器で加速器の先端からプラズマ化された輝く粒子が掃き出され黒い影を斬り下ろす。プラズマの温度は10,000度を超え目の前で火花が起こり、両断された塊が地面に落ちた。
手応えは確かにあったが、爆発が起きないと言うことは両断したのは空となったロケット砲の銃身を意味した。
画面に映った影は一瞬だけだが、ザクを一回り大きくした影には見覚えがあった。
コンピューターに登録されていないジオンの未知の機動兵器で「トラノコ」と呼称している。
頭部の60mm機銃を掃射する。
マニュピュレータで操作するライフルよりも口径は小さくなるが高速連射が可能だが、トラノコの装甲は機銃の弾丸を直撃しながらもこの新雪の中でも高い運動性能で闇の中へと消えた。
武装をほぼ失って作戦は失敗した。
K点を挟んで一進一退が繰り返され、未だに残党の戦力規模すら把握出来なかった。
後方で爆発が起き、機影がその場に膝を付く。
K点の内側はジオンの地雷地帯でもあった。
闇の中から再びロケット砲の炎が上がり、それは機影に向かって一直線に飛翔し、巨大な爆炎を上げて機動兵器の原子炉が誘爆した。
雑音の中からジュディの声が聞こえた。
「誰がやられたの」
小隊から初の戦死者が出た。