機動戦士ガンダム0080 in Winter   作:kenji_kk

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カゲトラ・タケダ

ハッテ・サイドのアイランド・イフィッシュ・コロニーの典型的な家庭で育った。

下町の高層住宅に住み、特段に不自由な生活を送ることもなく、高校の成績は良く、両親は大学に進学することを望んだが別のサイドにある士官学校へと進んだ。

コロニーを離れた半年後に開戦し、出身コロニーは緒戦でジオンの毒ガス兵器で全住民が虐殺された。

 

子どもの頃からグループ行動が苦手で、普段の素行は悪くはなかったがすぐに頭に血が昇って前後も分からなくなる程の問題行動を起こすので教師からは目を付けられ、士官学校に進路が決まり地元を離れると分かると大人たちは安堵した。

常に理由のない鬱積した気持ちでいた。特権階級の地球居住者になりたい訳ではなかったが、宇宙居住者以外の者になりたかった。地球圏を自由に往来出来るのは特権階級か軍属だけであった。

故郷を離れてから一度も出身コロニーには帰ることはなかった。

 

連邦政府とジオン公国との緊張は報道もされ周知のことで、開戦前からも武力衝突があってもそれ以上の関心を持つことはなかった。

士官学校でジオンの独立宣言が報じられても教官たちも地球圏統一政府である連邦の10分の1の国力しかないコロニー自治政府に否定的な目で見ていた。

しかし、一週間も経たないうちにジオンは連邦軍のコロニー駐留軍を蹴散らしてジオンの宇宙要塞に近いムーア・サイドは壊滅しハッテ・サイドも甚大な損害を受け、アイランド・イフィッシュ・コロニーは南米大陸の地下にある地球連邦軍大本営ジャブローを攻撃する兵器として中の住民と共に地球へ落とされた。

奇跡的に難を逃れても何処か第三者のように状況を見ていた。士官学校の学生は反ジオンで結束する中でもグループに属することもなく教本通りの生活を続けた。

 

ルウム戦役で連合艦隊が壊滅させられてもどうにか続けられて来た初等訓練は初年度の終了を目前にして繰り上がり卒業が決まった。

連邦軍が想定していた艦隊戦に対してジオンが開発した頭頂高18mの人型機動兵器の前に各地で敗北を繰り返して兵力不足に陥いり、制宙権部の殆どを失って地球上への降下を許して地球圏全てに戦線を広げた。

配属先が決まった者から順次に士官学校を後にした。どんなに戦果を上げて宇宙居住者が地球居住者になれる訳でもないのに全員が反ジオン、反ザビ家を叫んで前線へと赴いた。

 

そろそろ自分の順番と思われた時、士官学校でシミュレータによる適性試験を受けた。

教本通りに操作することは得意で、子どもの頃も体育よりも数学の授業の方が好きで理詰めで考えれば高得点を出すことは難しく、結果は学年でも上位に位置した。

場所を外世界から隔絶された軍の施設に移して訓練は続けられ、それがV作戦の一環として行われたパイロット候補生の選抜であることを配属が決定した後に伝えられた。

 

連邦軍は地球圏の総人口100億の半分の死者を出し、各地でジオンの機動兵器に連敗を繰り返して戦死者を積み重ねてから数ヶ月、それまで存在しないとされて来た機動兵器の開発に成功していた。

ジオン公国から最も遠く、まだ一つのコロニーしか存在しない新興のノア・サイドに連邦軍の試験の機動兵器が持ち込まれてシミュレータが制作され、試験機のデータを元に各地の秘密工場では生産型機動兵器の生産が続けられて準備が整い次第ジオンへの一大攻勢をかける予定となっていた。

 

12月、地球上での最大反抗のオデッサ作戦でジオンの地球上の最大拠点キエフの奪還に成功した報を受けてケンペン機械化中隊への配属が決定して地球へと降下した。

 

 

U.C.0080-01-02T07:55+9:00

シベリア ヤクーツク付近

 

宇宙ではジオン公国との決戦に勝利はしたが、ジオンを遥かに凌駕する戦力を準備しても最高司令官のレビル将軍とティアンム提督が戦死した。それでも勝利には変わりはなかった。

通例なら士官学校の卒業式には将官が列席するものだが、繰上げ卒業にはそんなこともなく面識もない軍幹部の戦死に何の感慨はなかった。

そして、ここでは未だにゴミ山の戦力を把握できずにいる。

 

連邦軍初の生産型機動兵器ジムから先行試験機のガンダムに乗り換えての初の実戦だった。

手探りで始まった連邦の機動兵器開発は最初に生産効率を無視した先行試験機を作成することで生産型へと落とし込んだ。

コクピットは先端技術を研究するオーガスタ研究所でジムと同一に換装され操縦方法は同一だが、中身は設計思想から異なると説明された。

10倍以上の製造コスト、大出力の原子炉と貴重材料をふんだんに使うことでガンダムはジムよりも自重が重いにも関わらずこの豪雪地帯でも機動力を失わず、ロケットエンジンの推力も高い。ジオンの主力機動兵器ザクの主兵装120mm榴弾砲の直撃にも耐えられる装甲を持っていた。

しかし、その能力を活かせずに1機の撃墜出来ずに味方に損害を出した。

 

氷点下の外気でも移動作戦指揮車両ビッグトレーの中は通常軍服でも生活出来る。

中佐の命令でビッグトレーの原子炉はフル稼働し、国際条約で禁止されているABC兵器にも対応出来るように機密性も高かった。実際にオデッサ作戦では失敗したがジオン軍地球降下部隊最高指揮官マ・クベ大佐は連邦に対して熱核弾頭を使用した。

 

中隊長の個室と言え装甲が剥き出しの狭い個室で、それ以外は士官、下士官関係なく二段ベットだけがプライベートな空間だった。

難しい表情のアルベルト・ケンペン中佐と向かい合いロドリゴ伍長の戦死を報告した。既にビッグトレーに無線が繋がる距離まで帰還したときに伝えた内容と同じことを口頭で繰り返しているだけだった。

地球居住者のケンペン中佐はただ頷いただけで終了した。

 

日の出までまだ時間があったが誰も一睡もしていない。

小隊の仲間が戦死したのに、ちょっと高性能なテレビゲームのような感覚しかなかった。次、自分の順番かもしれないのにまともな思考回路を維持出来ていないのかもしれない。

 

 

U.C.0080-01-14T03:35+9:00

シベリア ゴミ山

 

突然、中佐からロドリゴの戦死から定時勤務のように続けられて来た安全圏からのロケット攻撃からゴミ山への電撃作戦を提案されて、すぐに実行された。

誰しも思ったことだが、上官の命令に従った結果が今の状況である。

 

自機とケンジントン少尉のガンダム2機を重量を出来るだけ軽くする為に軽武装にしてK点の向こう側にある地雷原をロケットブースターで一気に飛び越えてゴミ山内部への進入路を探索した。

地雷原を超える推力を持たないジムはロケット砲で残党の機動兵器を足止めすることになった。

しかし、ジオンの未知の機動兵器トラノコと交戦中にケンジントン少尉のガンダムと散り散りになったところを別角度から出現したザクに砲撃されてケンジントン少尉のガンダムは崖下へと滑落した。

 

目の前でケンジントン少尉が滑落してもトラノコを振り切れず、120㎜榴弾砲が自機のすぐ近くに着弾した。

ガンダムの90mm機関砲はザクの主兵装より口径は小さいが高速で貫通力も高い。ザクの装甲なら簡単に貫通し、原子炉に直撃出来れば一発でも撃破することも出来る。トラノコ相手では一発で爆発させることは難しいし、連写性能が優れている分、無駄弾を使えばすぐに撃ち尽くしてしまう。

 

「少尉!ワイヤー」

雑音混じりの無線からケンジントン少尉の叫び声が聞こえた。

崖下では横転しているケンジントン少尉のガンダムにヒートホークを持つザクが近く付くのが見えた。

考えるよりも先にスロットルレバーを一気に押し込んだ。機体のすぐ傍を榴弾砲が掠め、直撃を受けなかったのは奇跡のようなものだった。

最大出力のロケットブースターで崖を真っ逆さまに落ちるように接近して荷電粒子剣を引き抜くと先端から掃き出されるプラズマ化した粒子はザクのコクピットをシチューのようにどろどろに溶かした。

死角からザクの反応速度を超える速度で近づいた分、荷電粒子剣はザクを両断して、さらに内部の原子炉にまで到達して巨大な爆炎を上げた。

しかし、再びトラノコがケンジントン少尉のガンダムとの間に割って入る。

 

「撤退しろ」

無線からアントノフ少尉の声が響いた。

トラノコを振り切ろうと必死で地雷原を越えられないジムがどうして無線の範囲に居るのか考えられなかった。

傍に居たイリヤ・ハルキウ伍長のジムのコクピットが爆発した。ゴミ山のあちらこちらからザクが次々と湧いて出てきた。

直立したままコクピットが空洞となったハルキウ伍長の機体を放置してアントノフ少尉のジムが撤退した。それを確認すると残っている弾数をフルオートにしてばらまくとフルスロットルでゴミ山から撤退した。

 

 

ジオンの残党はK点の向こう側に張り巡らされたワイヤーに引っかかった敵だけを叩いていた。

原始的な方法だがワイヤーは東シベリア中に落下した熱圏で崩壊した放射線に汚染されたコロニーの残骸と電波妨害を起こすミノフスキー粒子で機動兵器からは確認する手段はない。

 

翌日、再び中佐から作戦司令室に召集され、指揮権がジャブローへと移されたことを伝えられ、中佐は自室に閉じ籠った。

 

ジャブローから新たな作戦の指示が届き準備が開始された。

ジオンとの終戦協定も締結され世の中の関心は戦後に移り始め、潰せるジオンの残存勢力は早期に潰したいが味方の損耗が大きくなると世論が騒ぎ始める。

危険なK点に陸戦部隊を投入するのではなく宇宙軍所属の地球軌道艦隊を低軌道まで下ろして艦砲射撃で殲滅することを決めた。

 

地球軌道艦隊を支援する為に陸路でロケット弾が大量に持ち込まれた。

軍事衛星は戦争で全て消失しミノフスキー粒子が散布された戦場ではレーザー誘導もままならない。ロケット弾の爆炎を頼りに衛星軌道上から光学照準でゴミ山を狙撃することになった。

白兵戦は予定に入っていなかったが中古のビームライフルも補充され、ジャブローが指揮することで優先的に軍備品が回された。

今までトラノコと仮称して来たジオンの未知の機動兵器は欧州戦線で僅かに生産されたザクの後継機グフの派生の重装型であることが判明した。基本性能はグフと同等で前線で近接戦闘用の武装の強化された。シュミュレーションの結果、中長距離ではガンダムの方が有利との結果も出ている。

しかし、計画が決まった時から天候は再び厚い雲に覆われた。

 

 

U.C.0080-02-01T12:45+9:00

シベリア ゴミ山

 

時間にしてみれば僅かな筈で衛星軌道上からの砲撃可能な時間は数分だった。

轟音とともに空から降り注いだ光の柱は消え去り、デブリの衝突に耐えられる厚さ30mのコロニーの外壁をも破壊する艦砲射撃で出来た雪煙の柱が高々度まで立ち昇る。間近で見るのは初めてだが全長200mの巡洋艦の原子炉が作り出す能力は機動兵器の比じゃなかった。

ロケット砲を担いだままワシントン中尉、アントノフ少尉と呆然とその結果を見つめていた。

この状況でジオンに生存者が居るとは思えなかった。

これで終わりになる筈だった。

 

すぐに前後不覚になることで故郷に居られず遠く離れた士官学校へと行くことになった。気が付けばロケット砲を捨ててスロットルレバーを押し込んだ。

雪が舞い上がり機体は雪煙の中へ突入した。

ワシントン中尉やアントノフ少尉の声が聞こえていたのは一瞬だった。

 

舞い上がった雪煙で画面はホワイトアウトし、クレーターの中の状況は分からないのにゴミ山まで一気に飛び越える。

ミノフスキー粒子と雪が混ざり合い無線からは耳がおかしくなるような音がしてスイッチを切り、乱気流で水平感覚は失われコクピットの中は警告音が鳴り響き、自律航行装置だけを頼りに着地した。

 

逆噴射をかけてゴミ山の麓に着地したつもりだが明らかに感触が違った。

ゴミ山を守っていた雪や残骸は艦砲で吹き飛ばされ機体は塹壕の隔壁を破って、おそらくは格納庫と思われた。

天井の高さもちょうど機動兵器と同じになるように作られていたが、全て出払っているのか空となっていた。

その後、何が起きたのかはっきりと覚えていない。

庫内の足場に人影が見えて、おそらくジオンの歩兵で武器のようなものを持ったと認識した時には、人が携行できるような武器で機動兵器に損傷を与えられるのか分からないが、60mm機関砲の引き金を引いていた。

砲弾は庫内で跳弾を繰り返し火花が飛び散り硝煙が埋め、フルバーストで10秒も経たない内に全弾を撃ち尽くして轟音は止んだ。

 

再びロケットエンジンに点火して機体が宙に浮かび上がった時、ハードポイントからビームライフルを外して引き金を引いた。

銃口からプラズマ化したミノフスキー粒子が放たれ、それはゴミ山を崩壊させた艦砲程ではないが、それでも莫大なエネルギーを持ってHLVの隔壁を溶融した。

 

庫内から離脱しながらも何度もライフルの引き金を引いた。

ビームはガンダムが落下したときに破壊したHLVの外装から内部隔壁を貫通して原子炉まで達してHLVが巨大な炎に包まれる。

 

次の瞬間、雪煙の中から砲弾の光が掠めた。

未だ雪煙が充満して敵の姿を視認出来なかったがトラノコだと直感した。ブースターの炎を手がかりに無駄弾を撃っている筈だった。

近接武器がメインのグフに対しては距離を保てば優位な筈だった。

 

雪煙の中で姿の見えないトラノコの120㎜榴弾砲の光線が幾筋も走りビームライフルを応射するがミノフスキー粒子は手応えなく煙の中に消えていく。

しかも相手の弾幕が続いているにも関わらず警告音と共にライフルに充填されたミノフスキー粒子が底尽きた。

ビームライフルをその場に捨てて荷電粒子剣を抜いた。プラズマ粒子が掃き出され例え60mm機関砲の直撃にも耐えるグフの装甲でも溶解出来た。

 

トラノコの弾幕が止み、姿が見えないのは同じな筈だった。

突然、画面に光の筋が映り込んだ。赤熱したトラノコのヒートサーベルが次の瞬間、衝撃とともにグラスコクピットが砕けた。

 

この陸戦型ガンダムのコクピット周りは放射線に汚染された残骸から守る為に通常の機動兵器よりも装甲化されている。

トラノコの渾身の一撃は1次装甲は完全に砕いて2次装甲まで達して、押し出された3次装甲がコクピットのコンソールを砕いて身動きが取れない状態になった。

そこで自分の意識は事切れていた。

トラノコの全体重を乗せた直撃にもガンダムは装甲こそ破壊されたが大量の貴重素材を使われた機体は直立を維持し、トラノコは自重に耐えられずマニュピュレータは砕け散り上半身にめり込んでコクピットはひしゃげて敵のパイロットは圧死した。

 

どれくらいの時間が経過してから意識が回復したのか分からないが、それからは夢現の中で居た。

パイロットスーツの生命維持装置のおかげで氷点下の中でも奇跡的に軽症で済んだ。コクピットが歪んでハッチの開閉はおろか、緊急脱出装置も使えない中で凍傷や低体温症で死んでもおかしく、重なり合う二体の機動兵器のどちらかの原子炉でも爆発していたら肉片も残さずに吹き飛んでいた。

 

かなりの時間が経過した後、救助隊によって後方の病院へ運ばれた。

ロドリゴ伍長やイリヤ伍長、ケンジントン少尉と比べてかなり幸運の持ち主だと思う。

 

ハバロフスクの病院で軍警察がやって来て尋問を受けた。

容疑は不必要な戦闘で最高機密のガンダムを大破させたことだった。

国家反逆罪で銃殺刑となっても良かったが、素直に尋問に応じた。

 

ガンダムはケンジントン少尉と違いコクピット周りの装甲に甚大な損傷を受けたが脊椎回路は免れたことで爆発を避けられ、エンジンを掛け直せば自力で歩くことも可能だった。

しかし、コクピット以外は生産型とは全く別規格で造られた先行試験機をベースにオーガスタがデータ収集目的に評価用の部品で組み上げられた機体の為、修理には莫大な費用が掛かると見積もられた。

例え戦線復帰したとしてもジムと殆ど部品を共用出来ない機体は維持費と対価が見合わないと判断されすぐに廃棄が決まった。

 

オーガスタ基地からは当初より修理不可能なことは想定済みで機体と戦闘データだけ回収したら何も言って来なかった。

中佐も尋問に対して一貫してジャブローからの命令以外は何も知らないと答えている。

状況証拠で命令違反を問われるような事例ではなかった。

 

軍警察から軍法会議に訴追するには証拠不十分だが非名誉除隊を勧告された。

宇宙出身者に地球の居住権はなく、退院と同時に小隊のメンバーと会うこともなく軍警察に連行されるように宇宙港へ連れていかれ宇宙行きのシャトルへ詰め込まれた。

 

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