機動戦士ガンダム0080 in Winter   作:kenji_kk

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ウォーリー・ワシントン

欧州機甲部隊出身で機動兵器のパイロットの地球連邦軍士官。

北米大陸の東海岸に生まれ、地球の居住権を持ち、父親は地球連邦政府議会の投票権を持つ保守系の政治家である。北米大陸は軍事拠点も多く、強制移住を拒否した不法居住者も多くかなりの数の街が残っていた。

父親の推薦状を持って士官学校へ進み、同じ地球出身者の間でも一目を置かれた。

 

一年戦争開戦前夜は欧州で連邦軍主力戦車61式の砲手を担当していた。

主力戦車は砲手兼車長と操縦手で運用し150mm主砲を2門持ち、宇宙での反政府運動のことはあっても地球圏を統一した連邦政府に対抗する存在はなく必要十分な能力であった。

 

地球駐留部隊には仮想敵もなく、月の裏側でのジオンの武装蜂起も他人事で、それ以前に軍幹部のエイブラハム・レビル中将が頻繁に宇宙へ上がっていることに誰も興味を持たなかった。

ジオンの総帥ギレン・ザビの宣戦布告を開始にザーン・サイドが核攻撃を受け、ムーア・サイドが壊滅し、ハッテ・サイドの数百億tにもなるコロニーが質量兵器として地球落下軌道へと移動され、それは地球軌道艦隊の必死の抵抗により大本営ジャブローへの落下は阻止されたが最大破片はシドニーに落下して蒸発させた。

連合艦隊はルウム・サイド近海でジオン艦隊と激突し機動兵器の前に壊滅し、ルウム・サイドにも戦火が広がり全住民がサイドを放棄するに至った。

 

南米大陸の岩盤の下に造られた核攻撃にも耐えられる地下都市にある地球連邦軍大本営ジャブローのシェルターも核爆弾数千発に相当するコロニー落としには無力なことは軍幹部も承知していた。

地球軌道艦隊は第2のアイランド・イフィッシュ・コロニーを警戒したが、ジオンが投入した人型機動兵器の前に国力が10分の1のジオンに制宙権の殆どを奪われて、月の裏側から地球低軌道までジオンの地球降下部隊の移動を許し、地球降下に使われた無武装の大型往還機HLVを迎撃することすら出来なかった。

連邦軍機甲師団はジオンの降下地点を地上拠点のあるバイコヌールと定めて地上での迎撃を決めたが、機動兵器の前に阻止出来ずキエフまで進軍を許した。

その後も機甲部隊は大打撃を受けて欧州の殆どの地域から撤退を余儀なくされ、イベリア半島まで戦線は後退した。

連邦軍は物量では圧倒していたが、61式の150mm滑腔砲は威力はあるがミノフスキー粒子の散布下では誘導装置もデータリンクも使えず機動兵器に当てることすら出来なかった。

 

戦線は北米大陸でジオンの首魁ザビ家の構成員の一人ガルマ・ザビを戦死に追い詰めて絶好の機会に、ユーラシア大陸全土から戦力を結集してジオンの地球上での一大拠点の鉱山基地を奪還するオデッサ作戦の直前に前線を離れてジャブローへの辞令が降りた。

一時期、ジオンの捕虜となり特殊部隊によって救出されたレビル将軍が指揮していること以外は最高機密となっていた。

 

ジャブローで疎開していた家族と誰一人欠けることなく再会した。

戦時中は通信手段も滞り、家族全員が揃うのは開戦以来だった。

ジオンの第2次降下部隊の目標が宇宙拠点ケープ・カナベラルとなると予想して一早く北米を脱出してジャブローの核シェルターには多くの政治家達が避難した。父も連邦議会で軍に有利に取り計らうことでシェルターに入ることを許された。

ニューヤークもサンフランシスコもジオンの支配下であり、ジオンの機動兵器の前に大量の砲弾を降らせて東海岸は焦土と化した。

南米大陸もジオンの定期爆撃があるが通常兵器でジャブローの核シェルターを突破することなんて出来なかった。

父は軍部の影響力が上がる事を懸念したが連邦政府は多くの文官を失いジオンに対抗する手段がなかった。

 

家族団欒を愉しむゆとりもなく直に機動兵器への転換訓練が開始された。

V作戦は試験型機動兵器ガンダムと機動兵器運用能力のあるペガサス級宇宙強襲揚陸艦を使用して機動兵器の大量生産方法と運用方法を確立する作戦だった。

既に宇宙では実地試験用の機体で史上初の機動兵器同士の戦闘が行われ、実験部隊はその後、オデッサ作戦へと参加した。そのデータは即座にジャブローへと運ばれ、ジャブローの工廠では連邦軍初の生産型機動兵器ジムが昼夜敢行で大量生産されていた。

機動兵器が実用化されれば戦車隊は日陰者になることは欧州戦線での戦闘を見て理解出来、オデッサ作戦ではジオンの機動兵器に戦闘力で劣る機甲師団を物量で投入した結果、損耗率は5割を越え、原隊に残っていたら戦死していてもおかしくなかった。

 

シミュレーターでの訓練が開始され、連邦軍が総力を掛けただけあってロールアウトした時点で基本的な動きは既に教育型コンピューターに学習されていた。

汎用性も高く徹甲弾からロケット砲、メガ粒子砲まで一人で運用することが出来た。

 

 

12月、極東ハバロフスクに到着した。

ロールアウトしたばかりの新品のジム2個小隊6機を搭載した大気圏大型輸送機ミディアで赤道付近のジャブローから制空権を奪還したばかりの太平洋を越えて凍てつく滑走路に降り立った。

各拠点から集められた俺以外のメンバーは実戦経験がない新兵ばかりで半分は宇宙居住者だった。北米大陸から転属して来た上官のアルベルト・ケンペン中佐も目立った戦績を上げていない。

 

冬はこれから厳しくなるがハバロフスクは好天に恵まれることは多い。

地球上でのジオンの一大拠点オデッサが陥落したことで主戦場が宇宙へと移り、連邦軍を主導している幹部のレビル将軍とティアンム提督は宇宙へと上がった。

残る地上の拠点の北米大陸キャルフォルニアもジャブローの地下工廠での戦力が整い次第反抗作戦が行われ、それに先んじて極東で残党の掃討作戦が開始された。

極東はオデッサから撤退したジオン残党の拠点ラサが多大な戦死者を出しつつも陥落して大規模作戦を行う能力を失いゲリラ戦闘を残すのみだった。

 

 

U.C.0080-01-02T01:45+9:00

シベリア ヤクーツク付近

 

国際協定時間の昼過ぎに行われた連邦軍とジオンとの休戦協定の調印式から数時間、現地時間で深夜の行軍だった。

ヤクーツクはハバロフスクの好天が嘘のような横殴りの吹雪の中で半径100km圏内には拠点となる移動作戦指揮車両ビッグトレーとゴミ山と呼称しているジオン残党の塹壕以外に生命反応はなく暗視モードの画面に僚機が僅かに映る程度だった。

採算を度外視した高性能な試験機ガンダムに搭乗する宇宙居住者のタケダ少尉の小隊がゴミ山正面から、生産型機動兵器の自隊が針葉樹林帯を大きく迂回して側面から塹壕から出てきた残党の機動兵器部隊に打撃を与える二面作戦だった。

 

ゴミ山はその名前の如く戦争残骸を積み上げた人工の丘陵でさらにその上に厚い雪の層が降り積もっていた。ゴミ山攻略を開始してから一ヶ月、中隊の火力では塹壕を吹き飛ばすことが出来ず、ジオンの未知の機動兵器トラノコの抵抗もあり敵戦力の規模も未だに把握できずに居た。

アントノフ少尉のジムが荷電粒子剣で進行方向に立ちはだかる機動兵器と変わらない背丈の大木を数本切り倒したところで戻って来て電波障害の影響を受けない機体の振動を利用した接触回線でとても作戦には間に合わないことを伝えた。

ゴミ山の周りはジオンの地雷源をK点と設定して、ゴミ山へ近づけるルートは限られている。

 

タケダ少尉が侵攻するルートが最もゴミ山へ近づけるが残党もそんなこと分かっていることで最も敵の反攻を受ける。

新しいルートを開拓することは優先事項ではあったが、戦争で軍事衛星を全て失い自律航行装置だけが頼りの中でルート開拓は実際に自分の足で確かめないといけなかった。直線距離では僅かだが、その先が機動兵器が通過出来る空間がなければこの吹雪で機体を放棄することになると生死に関わる。

既に戦闘が開始されている時間で、ミノフスキー粒子が散布されれば電波障害で連絡を取ることは不可能で、撤退を決めた。

アントノフ少尉は何かを言いかけて口を噤んだ、先から後ろに控えているハルキウ伍長に至っては復唱以外の声を聞いたことがない。

 

数日前に高性能兵器を研究しているオーガスタ研究所から送られて来たガンダムが中佐の命令で階級も下の新米士官に充てがわれた。

中佐は必要以上のことは何も言わない、部隊の中でも不信感が増大していた。

目標に到達することも出来ずに帰還すると部隊からの初の戦死者が出たことを知った。

 

 

ジャブローは再三によるゴミ山攻略の失敗に対して危険なK点の内側に機動兵器を侵入させて攻略することを諦め艦砲射撃で殲滅させることにした。

巡洋艦の主砲はデブリの衝突にも耐えられる厚さ30mになる宇宙コロニーの外壁すら貫通することが出来る。ルウム戦役では機動兵器の運動性能の前に当てることさえ難しかったが、直撃することが出来れば原子炉の出力は機動兵器の比ではなかった。

陸軍の作戦に宇宙軍の艦隊を戦争で発生した主砲の射程圏内となるデブリの除去の進んでいない危険な地球低軌道まで降下させることを意味した。

 

雪が小康状態となり大量のロケット弾とガンダムにメガ粒子砲が補充された。

中佐は明らかな仮病を理由に自室に閉じ籠り代筆で受領書にサインし、中佐が現場不在でも特段に問題にならなかった。

ゴミ山周辺は電波障害でレーダー誘導は使えず、ロケット弾の爆炎を頼りに宇宙艦隊は衛星軌道上から光学照準でゴミ山を砲撃する。メガ粒子砲はもし敵機動兵器を撃ち漏らした時の保険だが原子炉の出力が低い生産型のジムでは使えない武装である。

雲間から明るさが見え始めたとき作戦が決行された。

 

 

衛星軌道上からの地球軌道艦隊の艦砲射撃は数分間の間、轟音と強烈な光の柱が続き、高々度まで雪煙を立ち上った。

その巨大な雪煙の中へガンダムが突っ込んで行くのをアントノフ少尉と呆然と見送った。雪煙の中がクレーターとなっていたら機体は真っ逆さまに落下して終わりである。

その後、雪煙の中で巨大な爆発が起きたがそれを外から確認する手段はなかった。

 

24時間以上経過し、雪煙が落ち着いてどうにか視界を確保出来るレベルとなりジャブローとオーガスタ基地が用意した救援隊がクレーター内の捜索を開始した。

撃ち漏らした敵が残っていないかアントノフ少尉と見張りを続けている間も必要最低限の会話しかしなかった。

 

クレーターとなったゴミ山にジオン残党の生存者は発見されなかった。

中心部にHLVの残骸があり、被害の規模からこれの原子炉が爆発したと思われる。

ガンダムのレコーダーを解析すれば判明することだが、オーガスタ基地からの救援隊はタケダ少尉のガンダムをHLVの近くで発見するとレコーダーを回収して撤収した。

 

ガンダムはグフに覆い被されながらも直立し、ヒートサーベルがコクピットの装甲の途中まで突き刺さっていた。

衝撃でコクピットは歪み、ハッチを開けるどころか緊急脱出装置すら使えない状況だったが、宇宙対応のパイロットスーツの生命維持装置に電源を供給する内蔵バッテリーが上がる前に救出出来たのが生死を分けた。

ジャブローの部隊はタケダ少尉をハバロフスクへ移送するとともにガンダムを回収して撤収した。

グフのパイロットは渾身の力で上段からヒートサーベルを振り下ろしたことでジムのコクピットブッロクならばパイロットごと両断されたのだが、ガンダムの優秀なオートバランサーはその直撃にも踏ん張り、グフのマニュピレーターはその衝撃に耐えられず関節で折れた上に逃げ場を失った力はグフのコクピットにめり込んで元の形も分からない程にパイロットを圧死させた。

 

一応のクレーターでの探索も終わり、漸くビッグトレーに帰還したときケンペン中佐は左遷されて既に去った後だった。

タケダ少尉のガンダムは脊椎回路への損傷は免れたが、補修部品が殆どないワンオフの陸戦型ガンダム修理して戦線復帰させることは不可能と判断された。

ロドリゴ・マニラ伍長とイリヤ・ハルキウ伍長の遺体は艦砲射撃の圏内で僅かな残骸も残さずに木端微塵となった。

 

 

ケンペン中佐が左遷後は、代理中隊長となり無傷の自分とイゴーリ少尉のジム2機だけでヤクーツク郊外の半径数百Kmを哨戒の任務が続いた。

この付近のジオン残党は一掃されて、この無口な宇宙居住者と大本営の興味を失った無意味な時間を過ごした。

訓練と称しては森の中を機動兵器で散歩し、哨戒と称しては森の中を散歩する日々が続いた。

 

戦後、数ヶ月も経つと通信状況は劇的に改善した。

終戦を迎えて、すぐに地球連邦政府首都ダカールの建設が始まり家族は移住することになった。これ以上、日の当たらない核シェルターに住む必要もなく、北米大陸の東海岸の我が家は戦争で荒地と化して諦めざるを得なかった。

これ以降は家族と頻繁に連絡を取れるようになった。

 

名誉除隊の権利を得るまで極東での任務に耐えた。

軍歴を持つ政治家にとって名誉除隊章は以後の政治活動にとっては重要な経歴でそれは政治家に転身したゴップ大将も同様だった。

一年近くも経って新しい辞令が届き、アントノフ少尉は東南アジアへ自分は日本へ転属となって散り散りとなった。

 

二年後、既に名誉除隊の資格を得ていたが、デラーズ紛争が勃発した。

ゴミ山とは比較にならない規模のジオン残党デラーズ艦隊がオーストラリア大陸のトリントン基地から核弾頭を強奪して海賊放送で犯行声明を出した。

宇宙居住者にはコロニー事故と報道されたが宇宙要塞ソロモンでの連邦宇宙軍の観艦式でビンソン計画で再生させた宇宙軍の艦隊の半分を失い、北米大陸の穀倉地帯にコロニーが落とされた。

一年戦争でコーンベルト、今回の事件でブレッドベルトが壊滅的な被害を受け、北米大陸は大規模な農業生産能力を失った。

通じて地球居住者の多い日本を離れることはなく観艦式にも戦闘に巻き込まれることもなかった。東海岸の生家もコロニー落としの被害を受けたが、今は誰も住んでおらず、家族は全員がダカールへと移住して人的被害は免れた。

 

翌年、事態を収拾したジャミトフ・ハイマン准将が政敵のジョン・コーウェン中将を更迭して連邦軍を掌握した。

父はハイマン准将を警戒したが、デラーズ紛争を通して文民の父は蚊帳の外に置かれ、政治家の中には表向きにはハイマンと協調しても心の中では快く思っていない者は多かった。

 

ハイマン准将は右腕とされるバスク・オム大佐を実行部隊のトップにしてジオンの残党狩りを目的とした精鋭部隊ティターンズを創設した。

地球居住者の士官は優先的にティターンズへの移動が認められ、ティターンズの制服も別途支給され、階級はそのままに2階級上の待遇を得られた。

 

地球連邦軍はジオンと言う共通の敵を持っているだけの雑多な集団であったが、ここは同じ地球居住者が集まって居心地は良かった。

地球連邦軍は急速にティターンズに染められて宇宙ではペガサス級宇宙強襲揚陸艦の思想を反映した新型のアレキサンドリア級宇宙巡洋艦が就役した。

機動兵器もジオンの技術を接収して次期主力機動兵器ハイザックが正式配備されると旧式のジムも全天周囲モニターにサブセンサーを搭載したジムツーに近代化改装された。

 

連邦政府議員の父の口利きで連邦政府首都ダカール防衛の任に就いた。

ティターンズと言うだけで運転手付きとなったが、危うさも感じていた。危険を察知する勘で今まで生き延びてきた。

ティターンズ独力で新型の機動兵器開発が始まり、地球からV作戦で使われたノア・サイドの首都コロニーのグリーン・ノアに試験機が運ばれた。

連邦軍内部に反ティターンズの武装勢力が公然と活動を始めた。

カラバはとても委ねられるような団体ではないが、反ティターンズの扇動者として軟禁されていたブレックス・フォーラ准将が脱走した。

状況が最高潮の間に除隊するに限った。


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