機動戦士ガンダム0080 in Winter 作:kenji_kk
ザーン・サイドのエデン・コロニー出身で宇宙移民三世の地球連邦軍伍長。
先祖は東南アジアの都市部に住む中流階級で最初期の宇宙への強制移住者だった。
地球統一政府である連邦政府は増えすぎた人口で地球環境の悪化が後戻り不可能と判断し、紀年法をU.C.に改めて宇宙開発を開始した。
全長40km、直径6kmのシリンダ型宇宙コロニーが地球と月の間のラングランジュ点に幾つも建造され、回転による遠心力で円筒形の内側は地球と変わらない人工の大地があり、1基に定員の約1,000万人の住民が住んでいた。
コロニー群をサイドと呼称し、サイドによって規模は違うが1〜数億人が居住した。
まず効率の良い都市部から連邦政府は武装警官を用いて実力で強制移住させたが、一握りの特権階級だけはそのまま地球に居住し続けたことを許した為、宇宙居住者の間で不満が広がった。
ザーン・サイドは地球と月を正三角形にした残りの頂点のラグランジュ点にあって、宇宙開発が始まった最初のサイドで人口も多い。
建造されてから数十年が経過した古いコロニーも多く、エデン・コロニーも建造されてから半世紀以上が経過し、理想郷を愛称としたコロニーとは逆に内情は貧富の差が激しかった。
実家はアイロン掛けされた制服の学生が通う山手ではなく人目のつかない路地裏では拳銃や合成ハーブの取引が行われるような下町にあり、夜中に路上で酔い潰れでもしたら命はなかった。
ザーン・サイドのコロニーは大部分が定員近い住民が居住し、大多数の住民は高層住宅の一室で何世代にも渡って生活し、地球はコロニーの展望室から眺める対象でしかなく生涯行くことのない地だった。
サイドの就職率はその年の初めに開戦した連邦政府とジオン公国との戦争による景気後退で宇宙世紀始まって以来にまで悪化した。
学校の成績は芳しくなく、推薦を得られるような特技もなく、高校を卒業した翌日には多くの同級生とともに地球連邦軍に入隊した。
下町では志願兵は珍しくなく、戦死時には遺族に恩給が支払われるので連邦政府を嫌悪していても連邦軍に志願することは大抵の家庭では喜ばれた。
ジオン・ダイクンの思想は自給率の上がった宇宙居住者が特権階級が住む地球から分離独立すると言う分かり易いもので、開戦まではコロニー内はジオン派と連邦派に分れていた。
しかし、緒戦でジオンはザーン・サイドのコロニーに核攻撃を仕掛け、隣のムーア・サイドに至っては壊滅し、ハッテ・サイドではコロニー全住民が毒ガス兵器で虐殺されコロニー自体も質量兵器として地球に落されたことで、元ムーア・サイドだった暗礁宙域を挟んで目と鼻の先にジオンの宇宙要塞ソロモンがあっても住民の空気は連邦派へと染まった。
入隊すると最前線ではなく内部を軍が接収したコロニーへと送られて新兵の教育訓練が始まった。
開戦以来、8ヶ月、連邦軍はジオンの投入した人型の機動兵器により制宙権の大部分を失っていたにも関わらず戦況は膠着状態となっていることは一般人でも周知のことだった。
ジオン軍は戦場で圧倒的な性能の機動兵器をいち早く実用化にはこぎ着けたが、国力が連邦の10分の1しかないにも地球上にも部隊を降下させ、兵站路は長大となった。連邦軍は連戦連敗を繰り返したが未だに圧倒的な物量を誇っているが、高官は南米大陸にある大本営ジャブローの地下シェルターに閉じ籠り危険を現場の兵士に押し付けた。
教育訓練はパイプベッドの毛布の降り畳み方、軍服のホックの止め方に始まり、日中は歩兵銃を持たされて整地されていない敷地をひたすら走り続けた。
3日もあれば充分に飽きる訓練で歩兵銃を持って脱走しようと考えていた。コロニー内は不景気でも銃は売れている。5.6mmの弾丸で機動兵器の装甲を貫通出来る訳もなく、艦隊の砲撃でコロニーの外壁に穴でも開けば外は真空の世界に飛ばされて終わりだった。
状況は宇宙艇の訓練の時に変わった。
宇宙艇のパイロット適性試験をトップで通過した。
操縦することはバイクでも重機でも得意で、教科書の数式は分からないのに宇宙艇に乗るための海図は読めた。
下町で路上駐車している自動車を借用することは日常的で高卒で宇宙艇のパイロットになれると歓喜した。
戦争が永遠に続く訳でもなく終戦を迎えれば兵卒の殆どは予備役にリストラされる。宇宙艇の免許を獲得出来れば除隊した時に再就職に有利に働くのは間違いないと思えた。
2ヶ月後、予定通りに教育訓練が終了した。
同期がそれぞれの戦地へと向かう中、唯一、地球の裏側にある宇宙要塞ルナツーに配属が決まった。
前線へと赴く同期からはルナツーの基地司令は不相応なくらい階級が低い佐官であり、後方任務と揶揄された。
ルナツーは元は資源採掘のために小惑星帯から地球圏へ運ばれた最大径250kmにもなる隕石で、20年くらい前に地球連邦軍によって中の坑道を要塞化された。
地球を挟んで月の逆位置にあり、月の裏側にあるジオン公国から最も離れた宇宙に残された連邦軍唯一の要塞である。
その頃、ルナツーでは連邦軍の最高機密が進行していた。
要塞内の工廠では連邦軍初の生産型機動兵器ジムの生産が24時間体制で行われていた。
それまで存在しないと言われて来た連邦軍の機動兵器で、着任時に上官から開口一番、外部への漏洩は国家反逆罪で終身刑となると緘口令が敷かれた。
故郷まで60万km離れ、家族への連絡も厳しく制限され、事実上、外部と完全に遮断された。
軍は秘密裏に地球圏中から機動兵器のパイロット適正のある兵士を集め、同期は兵卒なのにパイロット候補生は任官と同時に伍長となり、何の成果もまだ出していないのに職業軍人の資格を得た。
毎日、機動兵器のシミュレーター訓練が繰り返され、連邦軍は短期間に大量のパイロットを養成する必要があった。
下士官に機密の全貌を明らかにするようなことはなかったが関係者の口の端々から連邦軍最高幹部のレビル将軍が関わっているV作戦と言う秘密作戦が関係しているらしかったが、あまりに雲の上過ぎて想像が追いつかない。
ルナツーに最も近くジオンから最も遠い新興のノア・サイドはまだ1基のコロニーしかなく入植者も殆どが政府関係者で軍の秘密実験場には都合が良かった。
連邦軍はジオンに対して遅れを取っていた機動兵器技術習得のために大本営ジャブローの地下工廠で製造コストと生産効率を度外視した試験機と機動兵器の運用能力を持ったペガサス級宇宙強襲揚陸艦を建造し空間戦闘評価のためにコロニーに持ち込んだ。
しかし、試験中にジオンの急襲を受け、ジオンの主力機動兵器ザクと史上初の機動兵器同士の戦闘が行われ、作戦は大幅な変更を迫られたが、結果的にはその時の戦闘データを強襲揚陸艦がルナツーに寄港したときに回収されシミュレーターが作成され、強襲揚陸艦は再びジャブローへと下された。
機動兵器は空間、重力下関係なく運用出来、教育型コンピュターを学習させることで即席パイロットでも操縦が出来る予定になっていた。
しかし、配属直前のつい先日、ロールアウトされたばかりのジムの先行生産機が空間試験中にザクと遭遇して破壊されて機動兵器の実戦経験のない候補生の間で一抹の不安が漂った。
11月中旬、ラインで骨組だった機動兵器は一個師団として完成した。
ルナツーで訓練を受けた同輩の多くがジャブローから上がって来るティアンム艦隊とともにチェンバロ作戦に従軍することになった。
作戦の全容は勿論だが下士官には機密とされたが基地司令も要塞から出兵することになっており目標はジオンの宇宙要塞ア・バオア・クーかソロモンで、宇宙での一大反攻作戦であることは間違いなかった。
その中で自分には地球降下命令が出された。両親もコロニー生まれで自分も地球に降り立つことはないと思っていた。
ハバロフスクは東シベリアの連邦軍の拠点の一つだった。
ここは宇宙からのシャトルやペイロードが150tを超える巨大なミディア輸送機の着陸も出来る4000m級のコンクリートの滑走路があった。
しかし、地球上に降り立つと言う稀な体験をしているにも関わらず、シベリアは自分の祖先が生活していた土地でもなく、1基のコロニーの人口が約1000万人で大都市しかないコロニーと違い、街は宇宙移民が進み、軍人ばかりで数百km離れたウラジオストークも変わらないと基地関係者も話していた。
日本海を挟んで日本列島は甚大な被害を受けたにも関わらず多くの大都市が残り、居住が許されている特区もあり繁華街もあると言うが移動手段が全くない。陸伝いでは大連まで無人地帯が広がっていた。
環境が完璧に制御されて季節というものがないコロニーと違い知識だけで知っていた凍える寒さだが、現地人によれば本番はこれかららしかった。
まだ所属部隊が発足してもいないのにコロニーに帰りたくなった。
翌、12月1日、制空権を奪還したばかりの日本海上空を通ってジャブローから新品の機動兵器と上官が到着した。
アルベルト・ケンペン機械化中隊が移動作戦司令所ビッグトレー1台、ジャブロー製の機動兵器ジム6機2小隊編成で新設された。
シミュレーションと違うところは地球ではメガ粒子砲はジャブロー防衛に優先配備され付属したのは90㎜実体弾だった。
ケンペン中佐は絵に描いたような地球出身者だった。
小隊長は士官学校を出たばかりのカゲトラ・タケダ少尉殿でサイドキックは正規教育を受けたジュディ・ケンジントン少尉、二人とも同じシミュレーションの経験しかない。
パイロットで唯一の実戦経験者は戦車隊から転属となった地球出身者のウォーリー・ワシントン中尉殿だけだった。
地球上のジオンの主要拠点はヨーロッパ大陸のオデッサを奪還した今、北米大陸のキャルフォルニア・ベースを残すのみで影響力の殆どを失っていた。
中隊の任務はヨーロッパでジオン勢力を一掃したオデッサ作戦以降もユーラシア大陸に局地的に残るジオンの掃討だった。
偵察部隊の航空機が移動するジオンの機動兵器の一群を確認したと言う情報から中隊は習熟訓練も併せて冬のシベリアを北上することになった。
ワシントン中尉が「ゴミ山」と命名したジオン残党の塹壕を発見したのはハバロフスクを出発してから一週間が経過した頃だった。
ゴミ山は部隊初の攻略目標となり、その名前の通り、戦争の残骸を積み上げた人工の丘陵は分厚い雪の下に覆われ、機動兵器が運用するロケット砲を受け付けなかった。
ホバークラフトの移動作戦指揮所ビッグトレーは未整地でも進行することが出来たが拠点砲撃の主砲や機動兵器の弾薬や燃料を搭載するために巨大な筐体となり手付かずの針葉樹林帯の中で直ぐに身動きが取れなくなり近づくことすら出来なかった。
さらに天候も悪化し、吹雪はゴミ山周辺の戦争で放射線能に汚染された塵を巻き上げて歩兵を出すことも出来ず、迂闊に近づけば残党はザクを圧倒する未知の機動兵器「トラノコ」を出した。
小隊は残党が機動兵器を出すラインを便宜上K点と呼び、それを挟んだ一進一退が三週間も続いた。
年の瀬、中佐から高性能兵器を研究している北米のオーガスタ基地からオデッサ作戦でも使用された陸戦型ガンダムの中古品が2機、配備されることが告げられた。
中佐の一声で階級が上のワシントン中尉ではなく、タケダ少尉がガンダムのパイロットに選ばれ、自動的にもう1機はケンジントン少尉が搭乗することになった。
中佐はオーガスタで原型機よりも能力が底上げされていると自慢気に話した。
U.C.0080-01-02T00:03+9:00
シベリア ビッグトレー内
新年が明けて2日目の深夜。
ケンペン中佐の命令で隊員全員がビッグトレーの食堂に集められた。
新年を祝う雰囲気でもなく、すし詰めの中で中佐は中央の椅子に陣取り、整備士やオペレーター、下士官たちは立ち見でモニターを見つめた。
月面都市グラナダにある政府ビルの中に造られた記者会見場で激しいフラッシュが炊かれていた。
グラナダは月面最大の都市で数十億人が戦没したこの戦争でも戦火に会うことなく、国際協定時間の元日の午後、地球連邦軍とジオン軍の高官により休戦条約の調印書に署名された。
最終決戦である星一号作戦は成功し、連邦はジオンに勝利したのだ。
「これは生中継なのか」
無意識に言葉が漏れて、咳払いをする中佐。
数時間前にワシントン隊が機動兵器で走り回って通信線を繋ぎ合わせて1,000km離れたハバロフスクと有線で直通した。これでミノフスキー粒子の電波障害に関係なく本部と通信がつながることになる。
こちらは数十mの距離さえ無線が繋がらない敵地で塹壕一つに3週間も費やしても埒があかず、高性能機動兵器も投入してこれから危険な夜間作戦が行われる。
外は吹雪に足を雪に取られながらビッグトレー脇に駐機しているジムへと向かう。機体に乗り込むと原子炉を臨界まで上げた。
「ジャブローはこっちのこと知らないんでしょうね」
「ボイスレコーダーに録音されるぞ」
タケダ少尉も一昨日、ガンダムを受領してこれが初の実戦だった。
「これで後方送りになったら、それこそめっけものです」
少尉もこちらの軽口に敢えて口を挟まない。
U.C.0080-01-02T02:25+9:00
シベリア ヤクーツク付近
少尉に砲火が集中している。
闇の中へと90mm機関銃で援護射撃すると隊長機のブースターの炎が見えた。
「少尉殿!」
叫んんでも無線からは雑音しか発せられない。敵が砲撃している時点でミノフスキー粒子が散布されていることは容易に想像できた。
噂に聞くガンダムの推力は瞬く間に炎は闇の中に消え、このままでは吹雪の中で取り残される。
機体を踏み出させたとき、足元で爆発が起き膝から崩れた。
レバーを動かしても起き上がらない。
脚部を機動兵器用地雷で吹き飛ばされたのかもしれない。
闇に包まれた画面にロケット砲のバックブラストの炎が映り、それは一直線にこちらに向かって来てコクピット中が炎に包まれた。