機動戦士ガンダム0080 in Winter 作:kenji_kk
ジオン公国突撃機動軍の下士官。
キシリア・ザビ少将配下の機動兵器のパイロットで戦争初期のブリティッシュ作戦時にはジオン公国首都ズムシティの防衛に付いていたが、ルウム戦役ではレビル艦隊襲撃の任に付いた。
宇宙への強制移住が開始されてから半世紀以上が経過し、全長40kmの宇宙コロニーの中で一生を終えるのが当然のことになっても35万km彼方から地球居住者は宇宙居住者の権利を大きく制限していた。
地球から直接見えない月の裏側のラグランジュ点にあるジオン公国は他のサイドでは主流となっている採光ミラーで太陽光を反射させてコロニー内に取り込む開放型コロニーに対して密閉型コロニーを多く採用していた。
シリンダの中心軸にある人工太陽灯でコロニー内を照らし出すことはコストも手間も掛かるが、採光窓が不要なることで陸地が大幅に増え、それは高い自給能力に繫った。搾取する側とされる側の関係に不満は頂点に達していた。
ジオン・ダイクン首相の環境破壊で生産能力の落ちた地球に対して移民政策で膨張し続けるコロニーは分離独立出来ると言う演説は行動を起こさないといけないと言う義務感を煽った。
地球居住者がコロニーの自治権拡大法案を否決しても、多くの支持者と同様に毎日、連邦政府の治安部隊と衝突した。
首相の盟友のデギン・ザビ国防委員長の長子ギレン・ザビが統率するジオン・ダイクン首相の理想を実現を目的とするジオン青年団に入団するのはごく自然の流れで、現状を変えたいと思う多くの若者が集まって、活動者の多くはそのままジオン国防軍へと入隊した。
ジオン・ダイクンが急逝したとき、一部では暗殺の噂もあったがデギン・ザビが後継者となり二代目ジオン共和国首相となったのが無実の証であり、共和制から君主制に移行してもザビ家の代わりとなる存在はなく所属部隊はジオン公国に変わらない忠誠を誓った。
しかし、ザビ家内部の対立で公国軍は攻撃軍と突撃軍に分離し、ギレン総帥の妹、キシリア・ザビ少将隷下の突撃軍に編入されることになった。
開戦前夜、ジオン公国と連邦政府との緊張はいつ火蓋を切られてもおかしくない状況の中で部隊は秘密裏に集められた。
上官は連邦軍に先駆けて開発に成功した頭頂高18mの人型機動兵器ザクへの機種転換を告げ、ジオン公国内の工業コロニーでは既に性能向上型のⅡ型の生産も始まっていた。
1月3日、ジオン公国軍最高司令官ギレン・ザビ総帥の宣言とともにジオン独立戦争は開戦した。
総帥の弟ドズル・ザビ中将下の攻撃軍は連邦側寄りのサイドへの奇襲攻撃を開始し、突撃軍は月面都市グラナダへ侵攻し都市近郊での海戦は行われたが月面最大の都市を無傷で掌握した。
しかし、所属部隊には旧型しか配備されず公国首都コロニーのズム・シティ防衛に回され部隊には不満が募った。それは所属部隊が軍首脳からは重用されていないことを意味した。
中旬、先の先制攻撃でコロニーの半分以上を壊滅させたこととブリティッシュ作戦でハッテ・サイドのアイランド・イフィッシュ・コロニーを地球に落下させたことで核爆弾数千発分に相当する大打撃を地球上に与えることに成功したことで、連邦軍は地球を挟んでジオン公国の反対側の月公転軌道にある宇宙要塞ルナツーから史上最大規模の宇宙艦隊を出港させた。
それはジオン軍もすぐに察知するところとなり、地球連邦軍と国力が10分の1しかないジオン軍との全面対決であり、軍内部にジオン宇宙軍総旗艦グワジン級1番艦グレート・デギンも戦列に加わると発表され、本土防衛の戦力も間違いなく投入され部隊は歓喜に包まれた。
戦果はジオン軍の大勝利で終わり、攻撃軍の機動兵器小隊長の中尉はジオン十字勲章を得て2階級特進となりムサイ級宇宙軽巡洋艦の艦長となり、突撃軍の特務部隊は連合艦隊旗艦を沈め艦隊司令のレビル将軍の捕虜にすることに成功した。
しかし、所属部隊の旧式では初戦を宇宙艇を撃墜するだけで艦艇を全く沈められず、千載一遇の好機をものにすることが出来なかった。
3月、ギレン・ザビ総帥は地球降下作戦を発令した。
部隊の機動兵器は全てⅡ型に置き換えられキシリア・ザビ少将隷下地球降下部隊司令マ・クベ大佐傘下で第一次降下作戦の部隊として多くの大型宇宙往還機HLVと共にカザフスタンに降り立った。
地球降下は敵陣地を支配下に置くことも、敵の総反撃を受けるリスクもあるが、月の裏側にあるジオン本国と地球との制宙権は既に公国軍にあって、部隊の士気も高く快進撃を続けウラル山脈の鉱山基地まで一気に占領した。
誰しも、短期決戦で地球を支配し、すぐに宇宙へと戻れるものと思っていた。
11月、地球滞在9ケ月、ウラル山脈の鉱山基地の鉱物資源を地球降下部隊の本部のあるウクライナのキエフのボルースピリにあるHLVの発射場までの輸送路の護衛をしていた。
戦線は地球上だけでも南北アメリカ大陸からユーラシア、さらにアフリカまで、全世界に広がり、本国からの補給は滞りがちで人でも物資も圧倒的に足りず、機動兵器もその場しのぎの修理を繰り返し磨耗していた。
機動兵器が連邦の旧式の戦車に遅れを取るようなことはなかったが、次から次へと湧いて来た。
毎日のように地球の資源をジオン本国へ送り続ける義務感だけが部隊の士気を支えていたが、生まれて初めて降りた地球の大地は天気の予想が付かず、不快な気候にも部隊には倦厭感が広がっていた。
先月、デギン・ザビ大公の末子、ギレン・ザビ総帥の弟ガルマ・ザビ大佐が北米大陸シアトルで戦死した。地球連邦軍も機動兵器の開発に成功したと言う噂が軍内部に流れた。
地球上最大の拠点オデッサに地球降下部隊司令マ・クベ大佐の下で全軍に総動員令が出された。
ジオン公国の中枢であるザビ家の一員ガルマ・ザビ大佐の戦死で北米大陸のジオンの影響力は急激に低下し、連邦はオデッサに大戦力を持ってヨーロッパからジオン勢力を排除しに来ると言うものだった。
情報は統制化にあり部隊内には既に西ヨーロッパが連邦の物量作戦の前に陥落したと話す者もおり、錯綜した。
所属部隊は南下して本部のあるキエフの南東500kmの黒海に近いドニエプル川付近に展開し、持ち場の守備を命じられた。
下士官に全容を知ることなど出来ないが連邦軍は西ヨーロッパからバルト海とバルカン半島を経由して最大規模の反抗作戦を仕掛けて来るようでオデッサの西側の東ヨーロッパ平原が激戦区となると思われた。
この付近は高低差も小さく見晴らしも良く機動兵器を運用するのに最も適した地形で黒海東岸のソチから侵攻して来る敵から鉱山基地の背後防衛に当たることになり、またしても上層部からは重要視されていない配置だった。
翌日、大した戦闘もなく遥か遠くで無数のHLVが上がるのを見つめた。
現場に何の情報も通知されず、指揮系統は混乱し、位置関係からそれらが味方のロケットであることは疑いようもなかった。
その時、マクシミリアン・ローゼンタール大尉が所属部隊以外も含めて部隊を再編成してオデッサからの離脱を指揮した。
大尉はオデッサは陥落し、マ・クベ大佐は多くの将兵を残したまま宇宙へ脱出したと判断した。
大尉よりも上官は居たが、大尉の判断は早く誰もが納得出来る明快なもので、中隊規模の機械化部隊と輸送隊が大尉と行動を共にすることになった。
再編成された部隊の大多数を占めているのはザク地上型で戦争初期に開発された宇宙用の気密機構を省略して生産性を向上したものだった。
宇宙に持って行っても姿勢制御が行えず、残せば連邦の戦力になる。再生不能になるまで破壊する時間はなかった。
大尉は機動兵器部隊のエースで、乗機は北米大陸の工廠で開発されて配備が開始されたばかりの重機動兵器グフで、西部戦線で戦果を挙げていた。
ザクの後継機で120mm榴弾砲からロケット砲までザクと同様の武装が使え、高い格闘能力と60mm機関砲にも耐えられる装甲を持っていた。
その中でも前線仕様の重装型に改造されており、特命を帯びているのは間違いなく、そんな機体を連邦の手に落とす訳にはいかなかった。
軍規に従うなら部隊は本隊と合流することを優先しなければいけない。
キエフのHLV発射場へと向かうと言う事はヨーロッパから侵攻して来る連邦軍と鉢合わせすることになり、鉱山基地にある全てのHLVを使用してもオデッサに降下した機械化師団を宇宙へ打ち上げられ無いのは明らかだった。危険を犯して本部に到着しても本隊は既に地球を離脱した後である。
大尉はオデッサが陥落してもジオンが地球の支配権を失った訳でも宇宙のジオン本国が負けた訳でもなく、今は一刻も早くもう一つの主力拠点のキャルフォルニア・ベースと合流することを主張した。
部隊はまだ連邦が侵攻していないボルガ川を北上してシベリア鉄道跡に到達したところで東走した。
既に西ヨーロッパは連邦の支配地域であり、程なくモスクワに到達することは容易に予想でき、一週間でユーラシア大陸を横断しウラジオストークからどうにかして太平洋を渡る手段を見つけることになった。
中隊規模の部隊に対して連邦は師団規模の戦車隊が追撃した。
補充がきかない以上、消耗は避け、宇宙移民が進んでもエカテリンブルクのような人口の残る都市は点在し、大きく迂回して時間を浪費せざるをえなかった。
人工衛星の支援もなく冬の訪れが始まった針葉樹林帯で手探りで行軍した。
途中で傍受した味方の暗号無線で敗残兵の大部分はカザフスタンから世界有数のリチウムの埋蔵量を持つラサの鉱山基地へと、ラサの坑道には宇宙へと鉱物を送るロケット発射施設がある、またはカスピ海周りでアラビア海そして部隊がまだ残るアフリカ大陸のタンザニアへと分かれて撤退したことを知った。
後一日でもオデッサに残っていたら撤退する友軍と行動をともにすることが出来たかもしれないが、指揮系統が現場を残して戦線を離脱した状況ではあの時の判断が間違っていたとは思えなかった。
それに、今からそれらに合流にするにはオデッサを陥落させた連邦軍の元へと引き返すことになり断念せざるを得なかった。
連邦も機動兵器の大量生産に成功したようで機動兵器が追撃に加わり始めた。
オホーツク海を目前にして玉砕ではなくキャルフォルニア・ベースと合流することを目的としている部隊は進路をバム鉄道に乗り換えなければならず、さらに北上してヤクーツクへと到達した。
そこで隊員の一人が軍事物資を輸送中のHLVが不時着して、それを連邦軍に搾取されないように防衛しているヨハン・ハウゼン中佐の部隊のことを思い出しその塹壕へと逃げ込んだ。
この辺りは放射線量が強く宇宙の本国との無線も繋がらず、出撃の度に汚染除去を必要としたがハウゼン隊は塹壕の中にある強力な電磁シールドを持ったHLVの中にあった。
すぐに冬本番となり、天候ではHLVを打ち上げる事は出来ないが、庫内にあった手付かずの豊富な弾薬に部隊の士気は上がった。
U.C.0080-01-02T02:20+9:00
シベリア ゴミ山
寒さと疲労で意識が混濁していた。
時計で新年の二日目の深夜であることを理解しても時間感覚はすでに麻痺し、吹雪の中の待機任務でザクのコクピット内も息は凍り、霜が降り積もっていた。
燃料節約の為にアイドリングのままで機体は新雪の中に埋まっている。
見張りは交代制で24時間行われたが、モニターに映る視界は皆無で、HLVの周りの針葉樹林にワイヤーを張り巡らせて、その見張りをしているようなものだった。
ワイヤーは放射能に汚染されて歩兵を出せないこの区域で敵の機動兵器の位置を把握出来るように張られ、さらに敵機動兵器からは電波障害を起こすミノフスキー粒子の散布下では確認することは出来ない。
罠と連動している警告灯が光った。
虚ろだった意識は覚醒して火器管制の電源を入れるが画面には闇の中に幾筋もの火線が煌めくのみだった。
大尉が警戒している付近から無反動砲のバックブラストが上がった。
レーダーは役に立たず、この吹雪で燃料消費がさらに悪くなる為、こちらの位置を気取られないように息を潜めて見守る。
闇の中に地雷の炎が映り、端末には爆発した地雷の番号が表示された。
HLVの庫内に保管されていた吸着地雷を適当に敷設すれだけで、翌日には新雪に埋まって区別が付かなくなる。直撃なら行動不能になる代物だった。
画面はすぐに闇に戻ったが、すぐさま地雷の位置からロケット砲のタイマーを設定して何も見えない闇の中へと撃ち込んだ。
巨大な炎が上がり、爆発の規模から機動兵器の原子炉が誘爆を起こしたのは間違いない。
U.C.0080-01-14T03:30+9:00
シベリア ゴミ山
HLV内に警報が鳴り響き、待機室からのエアロックへと飛び込んだ。
先日の夜間襲撃以来、半月程、連邦軍は罠の外側からロケット砲を撃ちこむだけの日が続いた。
諦めたとは思っていなかったが、連邦の兵士にそんな意気込みがあるとは思っていなかた。警報音は自陣の奥まで敵の侵入を許したことを意味した。
パイロットスーツに袖を通しながら整備を担当しているハウゼン隊の技術兵に怒鳴った。ハウゼン隊は兵士としての危機感に欠如していた。
大尉は休養を取らずに警戒に当たり既に連邦と交戦を始めていた。
ザクのコクピットに飛び込んでエンジンを一気に臨界まで上げる。HLVへの進入路を悟られたら壊滅も容易に有りえる。
地響きが繰り返され、連邦軍のロケット弾の砲撃も続いていた。
HLVのハッチが開かれ外の明かりが目に入る。
外は雪は降っていたが明るく視界は良好だった。
すぐに連邦軍の機動兵器を視認し、それは出口のすぐ傍まで迫っていた。
反射的に主要武装の120mm機関砲を掃射した。120mm榴弾砲は円盤弾倉から給弾され対艦対航空機で連射性能はそれ程高くない。
しかし、直撃した筈なのに、連邦の機動兵器は爆発するどころか反撃し、高速弾が機関砲に当たりマニュピュレータからふき飛ばされた。だが、連邦の機動兵器は足元の雪壁が崩れて谷底へと転げ落ちる。
予備の武装を取りにHLVに戻ったら塹壕の入り口を教えるようなものだった。
残っていた唯一の武装のヒートホークは引き抜いた瞬間に刃先が赤熱した。殆どのザクに装備されている敵の装甲を溶断する最後の近接戦闘武装である。
谷底へ勢いよく下りながらバランスを崩している連邦の機体を薙ぎ払った。
華奢な機体なのに頑丈で、動きを止めたがザクなら爆発してもおかしくない損傷だった。確実に仕留めるにはコクピットに斬撃をくらわすしかない。
撃墜マークに優先されるものなどなく、何の躊躇いもなく前進した。
それは僅かな油断だった。
連邦の機動兵器は2機居たのだ。
画面に連邦の荷電粒子剣が映った。
次の瞬間、ザクの装甲を貫通してコクピットは赤熱してドロドロの液体に変わった。