機動戦士ガンダム0080 in Winter   作:kenji_kk

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ジュディ・ケンジントン

地球生まれの地球育ちで比較的、裕福な家庭に生まれた。

戦中に士官学校で最後の正規教育を受けた世代の連邦軍士官で機動兵器のパイロットが前線での初任務となる。

 

ロンドンは前世紀より富裕層が多く住む都市であり、増えすぎた人口の宇宙への強制移住が開始されて半世紀が経過しても、ロンドン自体には特権階級しか住めないが、都市を維持する為の住民の衛星都市がグレートブリテン島にはまだ多く残っていた。

 

イングランド出身で地元の有名校を卒業して、ハンプシャーにある地球連邦軍士官学校へと進学した。

強制移住対象者よりは裕福ではあるが連邦政府中枢に親族が居るわけでも、シティにオフィスを持っている家柄でもなく、周りからは珍しがられたが、地球居住権者の責務として士官となることを選んだ。

 

士官学校卒業後は基地勤務となり、次の年明けすぐにジオンとの火蓋は切られた。

連邦政府側の宇宙コロニーに核攻撃が行われ、地球軌道艦隊の徹底抗戦のおかげで南米の連邦軍大本営ジャブローへの落下は免れたが全長40km、重量100億tのアイランドイフィッシュ・コロニーが中の住民とともにオーストラリア大陸に落とされ、シドニーを蒸発させて太平洋沿岸全体に甚大な被害を与えた。

 

3月、伝えられる宇宙での戦況は日に日に厳しさを増し、とうとう宇宙居住者による地球降下が行われた。

連邦軍首脳は士官学校の繰り上がり卒業を決めて部隊配備を進め、最後の正規教育を受けた世代となった。

 

イギリス海峡を挟んだ大陸側ではジオンの新兵器である人型機動兵器と連邦軍の欧州方面隊の機甲部隊の激しい戦闘が繰り返されている中で後方任務に付いていたが、奮戦も空しく戦線はイベリア半島まで後退し、グレートブリテン島もイングランドが陥落し連邦軍はスコットランドのエジンバラを拠点とした。

 

10月、連邦軍は一時、ジオンの捕虜となっていたエイブラハム・レビル大将を最高指揮官として地球上での一大反攻作戦を決行した。

西ヨーロッパに連邦軍の大機甲師団が上陸しイングランドではリバプールが解放された。

宇宙居住者はロンドンを放棄し、ユーラシア大陸に広がる鉱山基地の戦力を拠点キエフに集結させた。

 

11月、ヨーロッパから宇宙居住者を一掃するオデッサ作戦が発動された。

機甲師団はポーランドから東ヨーロッパ平原へと、アジアからはアナトリア半島を経由して黒海の西海岸へと侵攻した。

基地防衛の人員を除いて殆ど出兵した時期に南米大陸の地下シェルターにあるジャブローへの転属命令が下り、まだジオンの影響下の大西洋を渡った。

 

ジャブローの地下工廠は地球連邦軍に残された最大の工場である。

そこでは秘密裏に連邦軍初の生産型機動兵器ジムが次々とロールアウトされ、V作戦の存在を初めて知らされた。

既にV作戦で試験型の機動兵器が実戦投入され、輝かしい戦果を上げた戦闘データも回収されていた。

基地内の宇宙港には機動兵器の運用能力のあるペガサス級宇宙強襲揚陸艦3番艦ブランリヴァルが艤装中であり、このドックで建造されたペガサス級2番艦はオデッサ作戦にも参加していた。

 

地球圏全てを巻き込んだ総力戦で熟練兵の多くが戦死したことでパイロットの数が危機的に不足し、機動兵器のパイロット候補生としてV作戦で得たデータから作成されたシミュレーターでの訓練が開始された。

まだ数機の試験型が工廠内にデータ収集用に残されていたが能力に比例してエスパーでもない限り素人の腕では乗りこなせない代物で生産型は性能を平均化することで即席パイロットでもそこそこに操縦出来るように修正されている。

 

オデッサ作戦は連邦軍の勝利に終わり、ジオンの地球降下部隊最高指揮官マ・クベは拠点を放棄し宇宙へ脱出した。これでアジア・ヨーロッパでの宇宙居住者の影響力は大きく衰退することになった。

 

ジャブローでジムの師団が完成すると地球出身者でジャブロー所属のアルベルト・ケンペン中佐を指揮官として機動兵器3機を1小隊とした2個小隊を配下におく機械化中隊が組織された。

任務は地球の裏側、宇宙コロニー国家ジオン公国との決戦の前に地球上の極東での残党の掃討となりペイロードに1機動兵器小隊と交換部品を積載出来る大型大気圏内輸送機ミディアでジムとともにジャブローを離陸した。

ジャブローから他には北米大陸方面隊から転換訓練で来ていた戦車隊出身のウォーリー・ワシントン中尉も同行した。

 

ハバロフスクに到着した頃、ジャブローでは入れ違いに宇宙強襲揚陸艦が入港し、ジオンの北米大陸の拠点キャルフォルニア・ベースからの空襲を受けた。

一部では防護壁を突破されて乾ドックにも被害が出たとされたが、核攻撃にも耐えられる地球連邦軍本部が通常兵器で落とされる訳もなく、ジオン地上部隊の総力をかけたこの作戦を大本営防衛隊は撃退に成功した。

宇宙での決戦を前にジオンの工業拠点である北米大陸の掃討も時間の問題と思われた。

 

翌日、ハバロフスクは晴天に恵まれ、とてつもなく冷え込み、滑走路脇の建物で形ばかりの結成式が開かれた。

宇宙出身者で学年が下で繰り上がり卒業の士官のカゲトラ・タケダ少尉と高卒で寡兵ポスターで入隊した下士官のロドリゴ・マニラ伍長と小隊を組むことになり、小隊の中でタケダ少尉がシミュレーションの成績が一番良かったことから小隊長に選ばれた。

ワシントン中尉の下に欧州方面隊の大陸の部隊に所属していたイーゴリ・アントノフ少尉とイリヤ・ハルキウ伍長が付いた。

 

偵察機からの情報でジオンの機動兵器の一団の情報を掴んでいた。

既にV作戦の成果で歩かせるだけなら機械任せも出来たが、訓練もかねて中隊はまず雪に覆われた針葉樹林帯の中を北上することになった。

 

 

U.C.0080-01-02T03:30+9:00

シベリア ヤクーツク付近

 

自軍とジオン軍残党の支配地域の境界線のK点から先に進めずに居るのに大した時間もなく針葉樹林帯の中で停止している大型移動作戦指揮車両ビッグトレーに帰還することが出来た。

機体は自動運転でビッグトレー脇の所定の位置に停止した。

拠点攻撃の大型の砲門と機動兵器の補充品を搭載出来る能力のおかげでビッグトレーの筐体は大型化し、その所為で進路を深い森に遮られてこの場所で停車したままになっている。

 

ハッチを開けると雪は弱くなっていたが辺りはまだ暗かった。人工の光が全くない闇の森の中でビックトレーの周りだけはサーチライトで照らし出されていた。

地図にも載らないここではハバロフスクでの天気は嘘のように日照時間は激減した上に、今は冬至を過ぎたばかりだった。

ウィンチで全高18mの機動兵器のコクピットから地面に降りる。

 

ロドリゴの遺体も回収出来ずに作戦は失敗に終わった。

ゴミ山を占拠しているのは投降した敵兵士からの情報で輸送隊の指揮官だと分かっている。

 

新雪に足を埋めながらビッグトレーへと向いながら、補給は夜明け以降になると考えていた。

ロドリゴの機体のあった場所はもう新雪で埋まり、林の中にワシントン小隊の3機のジムが帰還していた。

 

カゲトラの陸戦型ガンダムのハッチはまだ閉じたままだった。

「タケダ少尉、聞こえる?」

ここからなら無線が通じる筈だった。

少し間があってハッチが開き無言で機体から降りてくる。隊長として中佐にロドリゴの戦死を報告する義務があった。

 

陸戦型ガンダムはジムに先行して製造された重量下専用の連邦軍の高性能機動兵器である。

通常型とジム頭と呼ばれているジムの装甲に中身を最新の電子兵装に換装されている2機がクリスマス過ぎに3機編成の小隊に配備され、習熟訓練もなしに今夜の夜間作戦となった。

 

8ヶ月前、ジオンの機動兵器の前に地球侵攻を許した連邦軍首脳は機動兵器を主体とするV作戦を発動した。

5ヶ月前には試作初号機が完成し、3ヶ月前には実使用試験機の部品が宇宙へと運ばれてコロニー内の施設で組み立てられた。

月の裏側のラグランジュ点にあるジオン公国と地球を挟んで正反対の月の公転軌道にある新興のノア・サイドはまだ1基のコロニーしかなく連邦軍の宇宙に残された要塞ルナツーとも近かった。

その唯一のコロニーは都合の良いことにまだ入植者がコロニー関係者と軍属ばかりでジャブローで建造された機動兵器運用能力を持ったペガサス級宇宙強襲揚陸艦が試験機受領の為に宇宙へと上がったところをジオンの軍艦に捕捉され試験中だった試作型機動兵器とジオンの主力機動兵器ザクとの史上初の機動兵器同士の戦闘が行われ、その後の戦闘データはは統率していたレビル将軍配下の輸送隊によって常にフィードバックされた。

 

4ヶ月前、ジャブローで生産型機動兵器のジムの生産体制が整うまでの間、1日でも早くジオンの機動兵器に対抗出来る戦力を欲しい最前線の要望で上層部は試作計画にはなかった機動兵器を急造することを決めた。

設計思想は流用されたが正規の設計局が手一杯のこともあり別局が試作型の規格外となった材料を寄せ集め、さらに全領域型だった試作型を地上専用にオミットさせることでジムの実戦投入よりも1ヶ月前倒しで陸戦型ガンダムは特に激戦地であった東南アジアに配備された。

納期短縮と性能向上はジムとの部品共有率を下げることになり、この機体のその後の運命を決めた。

 

この機体は、2ヶ月前のオデッサ作戦に参加した後に予備役となり高性能兵器を研究している北米のオーガスタ基地に回収された。

コクピットはジムと共通規格に換装されたが装甲には調達やコストの面でジムでは見送られた新素材をふんだんに使われザクの120mm榴弾砲の直撃にも耐えられる。

原子炉も本家と同格出力でプラズマ粒子を使用するビームガンよりもさらに強力なビームライフルも使用出来、それは大量の推進剤も燃焼することも出来ることで推力も増している。

オーガスタで研究していた最高機密の機動力をさらに上げる技術、マグネット・コーティングを実装させたことで基本設計で空間戦闘能力を切り捨てられたことを除けば正式にナンバリングされたガンダムと遜色のない仕様になっていた。

ただ、コクピット以外はワンオフパーツの塊でジムの生産ラインが整った現在でジャブローの工廠も敢えて規格外品を作る理由もなく壊れても補充がきかないことで予備役に回された。

 

ビッグトレー内は女性士官でも与えられる空間は二段ベッドだけで、中佐だけが個室を割り当てられている。

この地での電力の確保は生死に関わるが、中佐の命令でビッグトレーの原子炉は常に臨界で稼働し装甲化されているトレーの中では外気に関係なく通常軍服で居られた。

 

何か責任がある訳でもないが、いつもは社交的なイリヤ伍長は済まなさそうにこちら見つめる。

同じ地球出身者だが裕福でない家庭の出身で、既に通常服に着替えていた。

「話は聞きました、少尉。

マニラ伍長は残念なことです」

今はすぐにでも横になりたかった。

蓄積された疲労の中で伍長と話しながらも、宇宙では終戦協定が結ばれたのに何時間も食事していないことやガンダムの燃料弾薬の補充の段取り考えていた。

 

 

U.C.0080-01-14T10:05+9:00

シベリア ヤクーツク付近

 

夜間でもゴミ山のジオン残党の索敵能力が落ちていない状況から夜間作戦はこちら側が圧倒的に不利なことで行われず、数日おきにK点の外側からゴミ山に威嚇のロケット弾を撃ち込んでいたが塹壕の周りに積もった雪を吹き飛ばすだけで火力不足は明らかだった。

 

ビッグトレーの作戦司令室に隊員全員が集められケンペン中佐からゴミ山への電撃作戦が伝えられた。

白兵装備のガンダムで縦横侵攻し推進力不足で地雷源を飛び越えられないジムはK点の外側から間断なく援護のロケット砲撃を行うものだった。

機動力の高いトラノコとの対峙を避け塹壕への進入路を探索し内部から攻略する内容だった。

ロドリゴの戦死で攻略の目途が立たない為に敵地に侵攻するガンダムの危険度は上がる。

中佐の発案はいつも突然で心の中でこれが突破口となるなら最初からやっていた。

 

雪は降っていたが視界不良となる程ではなく作戦は決行された。

針葉樹林帯で機動兵器がゴミ山へ侵攻出来るルートは限られる。

樹木の密集度が高い所に落下すれば身動きが取れずに敵の格好の標的となり、ゴミ山とK点の距離が離れている箇所では推力が足らずに地雷源へと落下する。

危険な場所は敵も当然に熟知しており、すぐに白兵戦闘となると予想された。

 

ワシントン隊のロケット砲撃が始まった。

カゲトラのガンダムのロケットブースターから炎を吹き出し雪を巻き揚げると機体が浮上した。遅れないように自分もスロットルを入れる。

 

推進力をさらに上げて一気にK点を飛び越え、ロドリゴが戦死した地雷源も通過した。

ガンダムはジムを超える推進力を持つが、飛距離を少しでも稼ぐためにも盾も持たず、90mm機関砲に予備の弾倉のみの軽武装だった。

 

ゴミ山の麓に着地したとき、間近にワシントン隊のロケット弾が着弾して雪煙を上げた。

砲撃が続いている間にゴミ山内部への進入路を見つけ出さなければいけない。

すぐにモニターにトラノコの姿が映たっが、中間辺りにロケット弾が着弾して爆発が起き、90㎜機関砲で牽制しながら方向転換した。

トラノコの動きは早いが、これで残りはザクだけである。ガンダムの性能はザクを遥かに上回るが、弾薬が尽きれば敵陣の真ん中で孤立する。

 

突然、雪煙がモニターを遮ると同時に激しい衝撃が走った。

体を六点式ベルトで固定していても狭いコクピット内で撹拌され、数発分の直撃は受けたと思ったが自己診断プログラムは異常を感知していなかった。

上方モニタにザクが雪洞の入口からまさに出てきて機関砲を放った瞬間だった。

 

すかさず機関砲をフルオートにして引き金を引いたが、体が無重力のように浮かび上がった。

自分の弾丸がザクに着弾したのも分からないが、足元が崩れて斜面を滑落しているのは理解した。

転げ落ちる機体のコクピット内で何度も叩きつけられた。

 

やっと機体の落下が止まり、朦朧とする意識の中でモニターに針葉樹林の中に縦横無尽に張り巡らされたワイヤーが映った。

「タケダ少尉、ワイヤー!」

電波障害の中でそれが伝えられたかも分からず、カゲトラのガンダム はトラノコと交戦しているのか姿も見えない。

 

次の瞬間、モニタにザクの姿が映った。

咄嗟に機体を反転させたが、至近距離にザクの赤熱したヒートホークの刃が見え、激しい衝撃が伝わった。

機体が爆発していないことは原子炉への直撃を避けられたことを意味したが、メインモニターがブラックアウトし脊椎回路が損傷を受けたのかレバーに機体が反応しない。

 

僅かに残った意識で緊急脱出装置のレバーを引いた。

爆発ボルトの火花とともにハッチが吹き飛び、衝撃と轟音の中機外へ射出された。

明るい光に包まれ、それ以降の意識はなかった。

 

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