機動戦士ガンダム0080 in Winter 作:kenji_kk
キシリア・ザビ少将隷下ジオン突撃機動軍マ・クベ大佐傘下の輸送連隊の中佐で任務は着実にこなしたが、上官のマ・クベ大佐から特に評価されることもなくザビ家が台頭し有力派閥のダイクン家やラル家が失脚しても待遇に特に変わりはなかった。
宇宙開発が開始されてから約40年、ジオン公国建国前、後にズムシティと改名前される首都コロニーからも近いダキア・コロニーで宇宙移民二世として生まれた。
このサイドは東ヨーロッパからの強制移住者が多く、親も東ヨーロッパからの宇宙開発最初期の入植者で、生涯、地球に降り立つ日は来ないと考えていた。
地球では重力の制限を受ける作業も無重力区画を持つ宇宙コロニーでは制約がなく重工業が発展し工場で働く労働者も多かった。
しかし、宇宙空間の真ん中に浮かぶコロニーは資源の全てを輸入に頼らざるをえず、最も近い天体の月はコロニーと分離された独立都市が管轄していた。
月の公転軌道に浮かぶ幾つもの採掘用の小惑星は地球連邦政府が40億km彼方の外宇宙から直径数kmにもなる核パルスエンジンで天文学的な費用で地球圏に運んで来たものであり、その首根っこは常に連邦政府に抑えられていた。
サイド自治政府のジオン・ダイクン首相はその扇動的な演説で自給力が上がるにつれ自治権拡大要求が増していく住民の間で熱烈な支持を得た。
首相が連邦政府の反対を押し切って共和国宣言をし、警察隊をコロニー守備隊に格上げした時に新設された士官学校に入学した。
世間の自立風潮に同調したのだが首都出身者にはダイクン家やザビ家への忠誠を誓っている者も多かった。
首相はさらに発言力を高める為、移民受け入れ奨励策を行い他のコロニーからも入植者を受け入れ急速にアジアやアフリカ系住民も増えてた。これによりジオンはサイドの中でも最大規模となった。
分離独立を一切認めない連邦政府と規模が拡大するコロニー自治政府との緊張が高まり、連邦政府は自治政府に対して経済封鎖を行った。
コロニー内では流通は止まり、治安は一気に悪化した。厚さ30mの隔壁の外は真空のコロニー内で爆発騒ぎまでが発生した。
内政では治安問題、外政では独立問題を抱える中でジオン・ダイクンは演説の途中で倒れた。
ダイクンの死は病死と発表されたが暗殺説が飛び交う混乱の中でもダイクンの右腕と言われたザビ家が統率する青年団出身者は変わらずザビ家に忠誠を誓っていた。
実力部隊の中心人物であるデギン・ザビが実権を掌握するとダイクン派のジンバ・ラルは亡命せざるをえず、共和制から君主制に移行しザビ家が全体主義を敷くことでコロニー内の治安は回復した。その見返りとして秘密警察とは別にデギン・ザビの長女キシリア・ザビが統率するキシリア機関なる秘密警察まで創設され監視社会となった。
コロニー守備隊はジオン公国軍と名称を変えたがサイドの有力者の私兵集団からなり、マ・クベ大佐やエギーユ・デラーズ大佐のような軍閥をザビ家内部で取り合っていた。
公国軍はギレン・ザビ元帥の元で着々と軍備増強を進め、連邦政府傘下のコロニー公社が地球圏に移送した小惑星の鉱物資源採掘をダミー会社を使って下請けさせて実行支配して要塞化し、ア・バオア・クーと命名した。
ジオン独立戦争前夜、急ピッチで軍艦の建造を進めて艦隊を整えると同時に人型機動兵器の実戦配備に連邦軍に先駆けて成功した。
所属する輸送連隊のパプア級輸送艦を秘密工場で機動兵器に対応した即席空母にする為の改造が突貫工事でなされ、急場凌ぎの改造で機動兵器を運用する地上設備を組み込める訳もなく戦場までの片道切符となったが、ルウム戦役では傘下の多数の輸送艦を指揮し突撃機動軍の機動兵器師団を戦場へ輸送した。
制宙権の殆どを掌握し地球侵攻作戦が開始すると上官のマ・クベ大佐はキシリア・ザビ少将側に付き地球降下部隊最高司令官となった。
地球降下作戦では大型輸送往還機HLVで部下と共に初めて地球のカザフスタンへ降り立った。
大佐の直属の部下ではあったが、命令は殆ど鞄持ちの尉官から伝えれた。大佐は地球へ常駐することが多くなると顔合わす機会も殆どなくなった。
国力が連邦の10分の1しかないジオンが戦線を地球圏全域までに広げたことにより輸送連隊の任務はHLVで地球からしか採掘出来ない鉱物資源を、宇宙からはコロニーで製造した軍事物資を前線に輸送することになっていた。
HLVは地上と衛星軌道上を行き来する最も一般的な化学燃料ロケットを使用した輸送方式である。
球根状をした頭頂部に司令官、副操縦士、機関士が搭乗する操縦席、全高18mの機動兵器も搭載出来る貨物室、機関部の順に構成される。
月の裏側にあるジオン本国から護衛兼曳航用の巡洋艦で地球低軌道上まで運ばれ、大気圏突入時にデブリが衝突しても逆噴射エンジンで着陸出来る能力を持ち、地球の重力からの離脱時にはロケットブースターを接続する。
慣性航行なら姿勢制御エンジンだけでも時間をかければ本国へ戻れるが、自衛武装を持たない為に実使用では軌道上で再び護衛艦にランデブーする。
9月、HLVの船長として本国からの技術兵と軍事物資を満載し地球降下直前にあった。
制宙権を掌握してからは幾度も繰り返された任務だが兵站路は伸びきり、口が裂けても人の居るところでは言えることでないが、ルウム戦役後に敵方のレビル将軍が「ジオンに兵なし」とは良く言ったもので、部下の殆どを機動兵器のパイロットに取られ連隊長でも輸送艦の操舵を握らねばならず操縦席の面子も馴染みの顔ぶれだった。
大気圏突入能力のない護衛のムサイ級巡洋艦は早々に離脱し、孤立していた処を哨戒中の連邦の艦隊に発見された。
デブリの衝突に耐えられる装甲でも艦砲のメガ粒子砲の直撃を受ければ爆発は免れない。
突入ルートを変えることで敵艦隊の射角から外れて被害は免れたが、オデッサから大きく外れた東シベリアの地図にも載らないHLVが着陸できる開けた場所へと降下した。
落下地点は自軍の支配地域から遠く離れていたが積み荷が無傷だった事で戦略的な意味を失っておらず、オデッサからの命令は救援が来るまで積荷の防衛だった。重要な燃料や弾薬を連邦に手渡すことなんてあり得ないことで当然の命令だった。
HLVには自分の部下と異動中の後方任務の兵ばかりで戦闘員は乗船していなかったが、積荷の機動兵器を使いコロニーの落下点から廃材を集めて塹壕を作り始めた。
土木作業ならまだしも機関砲を持たせても連邦の標的にしかならないのは一目瞭然だった。
オデッサから救援は来なかったが、上官のマ・クベ大佐なら充分にあり得ることだ楽観していた。
戦線は半年も膠着状態で敵陣の中を強行輸送することもあり、頻繁にHLVを飛ばせる訳もなくペイロード限界まで弾薬食料を積載していた。
主戦場がヨーロッパだったこともあり連邦軍と遭遇することもなく、食糧もまだ潤沢にあり部隊内には不安はあったが統制は取れていた。
戦争初期のブリティッシュ作戦で地球の重力で落下した全長40kmのコロニーは熱圏で崩壊し、その最大の破片は南半球のシドニーに落下し蒸発させ、極東バイカル湖にも破片は落下してさらに磁気を帯びた小さな破片は東シベリア中に降り注ぎ電波障害を発生させた。
オデッサとどうにか繋がっていた無線も冬になり天候不順で汚染された雪が舞い上がるとオデッサ攻防戦の直前を最後に通信は途絶した。
12月、HLVの原子炉は生命維持に回され殆どの計器は暗く、吐く息も白い。
殆どの時間を操縦席での瞑想に費やした。
他の隊員たちも同様に極力エネルギーを使わないようにしていたがオデッサからの撤退兵を受け入れてからは消費量の上昇は止まらなかった。
それでも、軍人として友軍を受け入れない選択肢はなかった。
オデッサと連絡が途絶えてから一週間、戦況も分からず戦闘経験のない輸送隊の中で不安が広がり始めていた。
そこへ西部戦線で武勇を轟かせていたマクシミリアン・ローゼンタール大尉指揮するオデッサの撤退兵がやって来た。
宇宙と地球を往還する輸送連隊にとって北米大陸の工業拠点キャルフォルニア・ベースで製造している重力下専用重機動兵器グフを輸送することは稀で大尉の搭乗する特別任務のグフ重装型は初めて見る機体だった。
大尉から部隊はオデッサは陥落したと判断してキャルフォルニア・ベースへの途上と告げられた。
真相を知る手段はないが、マ・クベ大佐ならば友軍を見捨てて宇宙へと脱出したと考えるのが妥当だった。
HLVの庫内に手付かずの弾薬があると知り撤退部隊の士気は上がっていた。
U.C.0080-01-14T16:10+9:00
シベリア ヤクーツク付近 HLV内制御室
HLVの推進剤も最低限の生命維持だけに使われているが残り僅かだった。
地上にある全ての拠点が陥落したとは思わないが友軍との通信はオデッサが陥落してから2ヶ月半、断絶した儘だった。
人の気配に頭を上げると、律儀にも戦闘の報告に来た。
階級が上でも輸送隊が戦闘指揮する意味もなく、大尉が担当していた。
ここ数週間、連邦軍は機動兵器で大量のロケット弾を撃ち込んでいたが、塹壕の厚さとHLVの装甲なら到底、破壊は出来ないことは分かっていた。
それが今回は連邦軍に塹壕の入口付近まで侵入されたと一報は受け、危うくHLVへの入口を発見されるところだった。自軍にも戦死者が出て、孤立している部隊に要員補充などなく、全滅の可能性もあった。
戦死したパイロットは機動兵器の原子炉が爆発して死体も残っていない。
輸送隊の士気は限界を越えていたが、HLVの原子炉は機動兵器を動かすにはまだ余力があり撤退部隊の士気は維持されている。
軍則では最後の命令を死守しなければいけないが、先のことばかり考えた。
連邦政府とジオン公国との南極条約が締結されるまではジオンは敵対コロニーに対して何発もの熱核弾頭を使った。
条約で禁止しているのはあくまでも大量殺戮兵器の使用であって保有を禁止している訳ではないことをオデッサに熱核弾頭を輸送した自分もそれは把握していた。
輸送部隊の隊員は黙々と作業しているが、キャルフォルニア・ベースが陥落している可能性を考えると無線が回復したら何時でも投降してもおかしくない。
大尉は下手なことを口走らない為に監視の為に来ているかもしれない。
U.C.0080-02-01T12:30+9:00
シベリア ヤクーツク付近 HLV内制御室
密室に居ると分からないが今日は雲が薄く明るいとのことだった。
また以前のようにロケット砲を撃ち込む日に戻って、HLV内に低い振動が断続的に続いている。
前回のように地雷源を飛び越えられても対応できるように、出せる機体は全て警戒に当たらせて陣地に入ってきた敵を確実に叩き潰せる体制を取っていた。
こんな状況でも輸送隊の隊員たちは日常の軍務をこなしていた。
周期的には連邦が何かを仕掛けてくる頃合だが、出来ることは気持ちの持ちようだけだった。
ロケット弾の威力に飛距離は関係ないが地雷地帯の外側から放った無誘導弾では威力が散らばるだけだった。
今を乗り越え春になれば風向きが変われば無線が回復すると考えていた。
突然、天地が揺れる衝撃が起きた。
先程まで壁だった地面に叩き付けられ、どの位続いたのか他の隊員たちと一緒にHLV内で掻き混ぜられ、必死に体を固定していたが床が傾いた処で収まった。
数百tもあるHLVは永久凍土の中に半分埋まり、大気圏突入でも燃え残ったコロニーの残骸を何重にも囲っていた。
機動兵器のロケット砲を超えるのは艦砲しかなかったが、そんなこと想像することすらしていなかった。
制御室に外光が差し込む。
それはHLVを囲っていた残骸が撤去されたことを意味した。
「キャプテン!」
傾斜している制御室の入口から輸送隊の隊員が覗く。
撤退部隊は全員出撃している。
「すぐに気密をチェックさせろ」
自分も制御室を飛び出す。
HLV内に警報が響く。
艦内の状況も敵の戦力も分からない。
制御室の通信機を握り、撤退部隊の機動兵器とミノフスキー粒子の影響を受けない有線ケーブルで繋がっている筈の通信機からは雑音しか流れない。
計器類に電気が通じている事は原子炉はまだ生きている証拠だった。
再び激しい衝撃が発生し、先程とは違う階下の貨物室内からの衝撃だった。
制御室から駆け下りると、そこにはHLVの隔壁をぶち抜いて空になっている庫内に外光で逆光となているがザクではない未知の機動兵器が侵入していた。
それは連邦の機動兵器でしかなかった。
咄嗟に残骸が散乱している庫内を走り抜け格納庫脇にある武器庫からとても機動兵器相手に通用するものではなかったが携帯型ロケット砲を抱えた。
ロケット砲を構えた瞬時、目が合ったような気がした。
まるで人の目を模したツインセンサーの機動兵器は格納庫内で外光を背にして立ち、こちらを睨んでいるようであった。
機動兵器の頭部に空けられた二つの穴は機関砲の口で爆炎と轟音が鳴り響いた。