機動戦士ガンダム0080 in Winter 作:kenji_kk
元々、インド洋に面した土地の名家で100年以上も一族から地球連邦政府の要職に輩出し、強制移住が進んでも屋敷には多くの召使いが居た。
進路を決める際に事務官か軍人かの選択となり以来、船乗りを続けて来た。
戦争初期、マクファティ・ティアンム提督麾下で地球連邦宇宙軍サラミス級宇宙巡洋艦の艦長に就いていた。
サラミス級巡洋艦は外洋能力を持つ全長約200m、内部に重力ブロックを持ち数ヶ月の連続航海が出来る連邦軍の主力艦である。
主砲のメガ粒子砲は単装だがミサイルポッド、大型ミサイル発射管に対空機銃と武装を揃え、戦闘艦としての運用の幅は大きい。
宇宙コロニーが多く建造され宇宙開発が進み、宇宙軍は規模を拡大したが、地球圏が長らく連邦政府に統一されていた為、他には艦隊旗艦のマゼラン級大型宇宙戦艦と僅かな宇宙フリゲートの補助艦があるのみで艦隊の更新を怠ってきた。
ティアンム提督は戦前から月の裏側にあるコロニー国家ジオン公国に対して疑念を持ち、盟友のエイブラハム・レビル将軍は頻繁に南米大陸にある連邦軍大本営・ジャブローとジオンを行き来して牽制したが結果としてその努力は報われなかった。
月の裏側にあるサイドと呼ばれるコロニー群の宇宙居住者とジオン・ダイクン首相が一方的に出した独立宣言に対し連邦政府は経済封鎖で対抗した。
宇宙空間にあって資源を持たないコロニー経済は混乱を起こし暴動化し、思想家のジオン・ダイクンが死去後に実務家のデギン・ザビが実権を握り君主制に移行し、ダイクンの後継者としてジオン公国と名乗ったが、ザビ家を筆頭とした全体主義を強いたが治安の回復には成功した。
ジオン公国は急速に軍備を増強したが国防軍に配備されている戦闘艦はメガ粒子砲を装備していないチベ級巡洋艦のロートル艦が殆どだった。
国力を傾けてまで建造した大出力メガ粒子砲を持ったグワジン級宇宙戦艦を8隻まで保有しているが連邦軍艦隊の相手としては少なすぎた。
殆どの士官は連邦軍との火蓋が切られた後にザビ家の国外逃亡用と見ていた。40億km彼方の木星には核燃料の重水素採取基地があり、火星と木星の間の小惑星帯にはコロニーの建築資材の資源採掘拠点が幾つもあり見つけ出すことは困難と考えられていた。
1月、ジオン公国は民間の会社に貨物船として偽装して建造した商船構造のムサイ級宇宙巡洋艦を大量に就役させ、数の上では艦隊の形をなして近隣のコロニーへの直接攻撃を開始した。
コロニー駐留軍だけで対処できると思われた戦争はこの一週間で2つのサイドが壊滅し、2つのサイドが大きな損害を受けた。
ジオン軍はコロニーを地球落下コースへと移動し、地球軌道艦隊とともに迎撃に出たが、ジオン軍の猛攻と新たに投入された機動兵器の前にジャブローへの落下は防げたが数百億tの質量のコロニーの落下でシドニーを蒸発させてしまった。
地球連邦は宇宙軍の総戦力をジオン公国から最も離れた地球を挟んで月の公転軌道の逆側にある宇宙要塞ルナツーに集結させた。
レビル将軍指揮する第三連合艦隊が先行しティアンム提督指揮する第一連合艦隊が編成され、月の衛星軌道近くのルウム・サイド近海を戦場とすることに決定した。
しかし、艦隊戦を予期していた連邦軍に対して初期段階こそ数で上まるムサイ艦隊を後退させたが、レビル艦隊がジオンの機動兵器の挟撃に合い壊滅した為に戦火を交えず撤退、この戦役でレビル将軍は捕虜となりティアンム提督は地球へと降りた。
残存艦隊の中にはルナツーに立て籠る艦隊もあったが地球軌道防衛に当たることになった。
しかし、ジオンは地球降下で国力以上に兵站路が伸びきり、連邦軍の大型戦闘艦はジオンの機動兵器に無力な為に深追いをすることもなく損害も戦果もない日が続いた。
10月、大本営の命令でジャブローへと降下した。
レビル将軍は特殊部隊に救出され軍務に復帰しオデッサ作戦の指揮し、ティアンム提督はルウム戦役で大損害を受けた地球連邦軍宇宙艦隊再生計画、ビソン計画を指揮し、新造されたマゼラン改級戦艦マミヤの艦長に就任することになった。
ジャブローの地下工廠は地球圏最大の造船能力を誇り、宇宙での反攻作戦に向けて大艦隊と連邦軍初の生産型機動兵器が昼夜敢行で製造された。
ジオンに遅れを取っていた機動兵器技術はレビル将軍の元で先行試験機と機動兵器の運用を前提としたペガサス級強襲揚陸艦で戦術の確立を目指したV作戦が発動され戦果を上げていた。
新たに建造された艦隊はペガサス級が持つ機動兵器用格納庫は持たないが機動兵器への燃料弾薬の補給が可能になった。
6番艦まで建造されたペガサス級は隻ごとに全て一仕様が異なり、短期間で大艦隊を整備するにはラインが確立している軍艦に最低限の改造で済ます必要があった。
マゼラン改級は武装は従来と同様の配置で艦中央の弾倉の一部を簡易格納庫にしてあり、サラミス改級は前部の砲塔を撤去し露天駐機で燃料と弾薬の補充が出来る能力を持った。
11月末、入港したペガサス級強襲揚陸艦2番艦を狙ったジオンの地球上に唯一残った大規模拠点キャルフォルニア・ベースからの空襲を撃退しジャブロー上空の制空権を掌握した。既にオデッサ作戦でジオンはユーラシア大陸での支配権を失っており核攻撃にも耐えうる地下要塞のジャブローは通常兵器で落とすことは難しいことだった。
強襲揚陸艦は第13独立部隊として陽動作戦の任を帯びてジャブローを出港後、ティアンム艦隊はロケットブースーターで宇宙へと上がりルナツーへ進路を向けた。
艦隊はほぼ無傷でルナツーに到着し、戦艦マミヤは補給とルナツーの工廠で製造された連邦軍初の生産型機動兵器ジムの1個小隊を受領した。
随伴艦のサラミス改級巡洋艦コンゴウ、ヒュウガとともにティアンム艦隊を離れ、ムンバイ艦隊としてジオンの宇宙要塞ソロモン攻略作戦の後方警戒として地球軌道上の哨戒を開始した。
ジオンは最終決戦を察知し艦隊を宇宙要塞ア・バオア・クー、ソロモン、月面都市グラナダが囲む月の周辺宙域に集結させていた。
懸念されていたコンスコン機動艦隊はルナツーとは反対側にあるリーア・サイドを目指した第13独立部隊を血眼に追尾したおかげで月付近以外でジオンと遭遇することはなかった。
グラナダでの終戦協定から2週間が経過した。
戦争には勝利したがチェンバロ作戦とそれに続く星一号作戦で多くの艦を失い、指導者のレビル将軍とティアンム提督も戦死した。
残った戦力で地球圏での影響力を維持させる為に艦隊は戦勝の余韻に浸ることなく哨戒任務を続けていた。
しかし、乗組員の殆どはジャブローは前線に出たレビル将軍と対立して核シェルターに閉じ籠ったゴップ大将派によって牛耳られていると考えていた。
ア・バオア・クー攻略戦は連邦とジオン双方に多大な損害を出し、連邦はその後に予定していたジオン本国への侵攻作戦を中止し、ジオンは首魁であったザビ家が全員死亡したことで統率を失った。月面都市グラナダでザビ家が全員死亡したことでジオン公国首脳の戦犯を不問とすることで休戦条約を結ばれた。
ジオンの残存艦隊はア・バオア・クー離脱して地球圏を脱出して木星圏か壊滅したサイドの暗礁宙域へと向かったと考えられている。数万kmの範囲でコロニーや艦隊の残骸が浮遊する暗礁宙域の対処は全く決まっていない。
地球軌道上は連邦軍の厳重な監視下にありルナツーで搭載したジムはビームガンを一度も撃つことはなかった。
艦長席から平穏な宇宙を眺めるのが日課となっていた。
出港時に満載した推進剤でこの宙域にまだ数ケ月は留まる事が出来る。
電波障害を起こすミノフスキー粒子が散布されなくなり艦内でも民間の放送を傍受出来るよになり、乗組員は外ではお祭り騒ぎになっていることを知り士気が低下していた。
副長が険しい表情で命令書を携えて来た。
それを受け取るとコンゴウ、ヒュウガと通信回線を開くように命令した。
「命令を受けるつもりですか」
ジャブローは艦隊に地上にあるジオン残党の拠点へ主砲が届く高度まで降下して艦砲射撃で殲滅することを命じた。
地球低軌道は何度も激しい戦場になったにも関わらず、連邦政府にはまだ多量のデブリを除去する余力はなかった。
士気が下がっている中で大事故にもなる危険なことは出来ないと言うのが副長の考えだ。
マゼラン、サラミスともに大気圏突入能力はなく低軌道まで高度を下げれば重力の井戸から脱出するには大量の推進剤を消費する。
数日掛けて減速すれば推進剤を殆ど消費せずに目標の軌道まで降下出来るが、核パルスエンジンに点火すれば半日で到達出来る。
寄港する口実には十分だった。
艦隊は地球が間近まで迫るカーマン・ライン上、低軌道上の高度400Kmを巡航し、目視による哨戒が開始したが眼下は厚い雲が立ち込めていた。
コンゴウ、ヒュウガの艦長も意図を組んで通信記録に余計な内容を残していない。
「この時期のシベリアに晴れ間はあるのか」
艦内中に繋がる無線から監視担当の下士官の声が響いた。
低軌道とは言え戦火で軍事衛星を失い豆粒程度の地上の目標を下士官が交代で監視している。
地上部隊がジオン残党の塹壕へロケット砲を打ち込む爆炎を目標に砲撃を行うことになっていた。
このまま、推進剤が尽きるまで何日でも監視を続けることも出来るが、残党の要塞を発見出来ればものの数分でここから離脱することが出来る。
U.C.0080-02-01T02:15Z
地球低軌道上
監視を続けて数日、重苦しい空気が立ち込めた。一年もジオンと戦争を続けて来たのにこの数日でも艦内の統率が取れていない。
ミノフスキー粒子による電波障害で地上とリアルタイムな連絡は取れず、作戦決行の連絡があって数時間が経過した。
1時間置きに昼と夜が繰り返され、現地時間では昼間でも協定時間の船内は深夜でも乗組員は持ち場について空気が張りつめていた。
シベリア上空は依然として雲に覆われてこれ以上の好天は望めそうにない。
それは突然、訪れた。
監視要員が雲の切れ間に爆炎を確認したと伝令が入った。
騒然として艦橋要員がこちらを見る。
「原子炉を臨界まで上昇。
減速開始、高度150Kmまで降下させろ。
次の周回で砲撃を行う」
号令の元、各自が自分の持ち場に付き、艦隊が編成されて最大の興奮が艦隊に走る。最大出力の主砲は燃費をさらに悪くする。
全員が固唾を飲んで祈った。
地球の裏側から元の位置まで戻る1時間は天気が維持されないと水泡に帰してしまう。
艦隊が減速して地球が迫ると多量のデブリが艦体に衝突する。
戦闘艦はデブリの衝突も考慮に入れて設計されているが大本営ジャブローの命令でなくては陸軍の作戦には協力しない。
主砲が転回する。
射撃可能な高度に到達する。
「炎を確認」
「射撃開始」
コンゴウ、ヒュウガからも同時に射撃が開始され、艦橋の窓がメガ粒子砲のプラズマの光で埋め尽くされる。
今までの鬱憤を晴らすかのように間断なく最大出力で主砲が唸る。
この戦争で多くの乗組員が家族や仲間を失っている。
デブリの直撃からも住民を守るコロニーの外壁構造も破壊することが出来る強力な兵器である。
目標が地球の影に消え砲撃が止んだ。
「最大出力、地球の重力から脱出しろ」
推進剤の残りを考慮する必要もなく艦隊のノズルから炎が噴き上がる。
地球が離れていくと同時に艦内無線から歓声が沸き上がった。