機動戦士ガンダム0080 in Winter   作:kenji_kk

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イーゴリ・アントノフ

地球連邦軍士官の機動兵器パイロット。

ロドリゴ・マニラと同じザーン・サイド出身だが故郷の宇宙コロニーは戦争初期にジオンの核攻撃を受けて消滅した。

宇宙居住者だが出世に有利と言う理由で地球の士官学校を選んだことで一生を得た。

 

学校の成績はそこそこ良く、スポーツも出来る方だったが、1基の人口が1000万人にもなるコロニーでは幾らでも居たし、最古参のコロニー群のザーン・サイドの人口は10億を超えていた。

この鬱積した世界から抜け出すには月面の独立都市グラナダで大企業の社長にでもなるしかなかったが、それこそ億人に一人の割合でしかいない。

 

宇宙開発が始まって半世紀以上が経過し、コロニーの中で一生を終えるのが当たり前の時代でも地球居住者による宇宙居住者の移動の制限、自治政府への干渉、経済活動も地球居住者が快適に暮らせる為のものに限定されていた。

只、大抵の移民二世は強制移住で故地を追われた親の世代と違いコロニーで生まれ籠の中でもそれなりに平和な生活が出来た。

地球居住者の特権意識に不満を感じていた一部の若者の心を地球からの脱却を謳うジオン公国は掴んだ。

開戦前、宇宙居住者の自立を唱えたジオン・ダイクンに連邦政府は経済制裁を行い、ダイクンの死後、実権を握ったザビ家は治安の回復に成功し、ザビ家の筆頭ギレン・ザビに惹かれてジオンへ移住する者さえ居た。

 

この閉塞感から抜け出すために、ザーン・サイドを飛び出してジオンに亡命しなかったのはまだ高校生だからと言う理由でしかなかった。

結局、宇宙居住から抜け出す決心をした。

猛勉強の末、学区内に一人にしか渡されない地球の士官学校の推薦状を得て地球へと降りた。地球へと行くことが出来れば何かは変わると思っていた。

 

一般の宇宙居住者が地球に降りるには制限があり士官になるのが最も早かった。

予想通り地球の士官学校は成績と関係なく地球居住者が幅を利かせ、宇宙人呼ばわりされることは日常であった。

カリキュラムが終了するまで生命の不安すらあった。

 

士官学校に入学して三ヶ月目の年の初め、ジオン公国と連邦政府との確執は以前から報道で周知のことだったが、ギレン・ザビによるジオン独立宣言によって戦端が切られた。

大方の地球居住者はコロニー自治政府の反乱程度としか受け止めていなかった。程なくコロニー駐留軍によって鎮圧されると思っていた。

 

それから僅か一週間でジオン公国の宇宙要塞ソロモンに近かったムーア・サイドが壊滅し、隣接しているザーン・サイドの出身コロニーもジオンの核攻撃を受け身内全員が死亡した。

ハッテ・サイドのアイランド・イフィッシュ・コロニーではコロニー全住民が毒ガス兵器で虐殺された後、核パルスエンジンで地球へと落とされ、シドニーが蒸発し、熱圏突入時に崩壊した破片がバイカル湖にも落ちツンドラ地帯にも甚大な被害が出た。

ジオンは地球圏の統一した敵と認識された。

 

地球連邦軍連合艦隊は総力を結集してジオン公国と月を挟んで反対側にあるルウム・サイド近海でジオン艦隊と激突した。

ジオン艦隊は商船と偽って建造した艦隊を準備していたが、それでも連合艦隊の戦力には及ばなかった。

しかし、この戦争で初めて投入されたジオンの機動兵器の前に艦隊は壊滅し、ルウム・サイドもテキサス・コロニーを除いて全て気密を失い放棄されることになった。

一連の戦闘で地球圏総人口100億人が半減した。

 

開戦から三ヶ月、地球上も最前線となった。

制宙権の殆どをジオンに奪われ、月の裏側からジオンの機動兵器部隊が地球に降下し、欧州のキエフと北米のサンフランシスコがジオンに制圧された。

士官学校の全員が繰り上がり卒業となり出身に関係なく戦地へ送られることになった。

 

従前の車両では侵入出来なかったような地形でもジオンの人型機動兵器は侵攻し、爆弾を雨の様に降らせる焦土作戦を展開した。

突撃銃で18mの巨人相手に出来る訳もなく、その年の夏、欧州では連邦の機甲部隊は大打撃を受けてジブラルタルまで撤退した。

 

ジオンの高性能な機動兵器に対して連邦はジオンを上まる圧倒的な物量で対抗した。

北米大陸でザビ家の末子ガルマ・ザビの戦死が伝えられと部隊の士気は上がった。

連邦政府に残された工業能力の全てを活用して準備された機甲師団はドーバー海峡を越えて大陸側に上陸し大損害を出しつつもヨーロッパのジオンを東欧平原にまで押し返した。

西欧奪還後、アジア、中東の部隊も集結し戦力はジオンの3倍に達した。

欧州・アジアのジオン勢力を一掃するオッデサ作戦は機甲師団に史上類を見ない大損害を出しつつも成功に終わった。部隊からも多くの戦死者を出した。

少数の先行試験型機動兵器が投入されジオンの駆逐に貢献したことが伝えられたが、北米大陸を除く地球上の殆どの支配権を奪還した。

 

作戦後、各隊から機動兵器のパイロット候補生が選抜されることになった。

南米大陸の地球連邦軍大本営ジャブローの地下工廠で連邦製機動兵器の生産が確立されたが、熟練のパイロットの多くがこれまでの戦闘で失われていた。

自分が選ばれたのは上官と目があったのに過ぎない。機動兵器の性能はこの半年で証明されたが、連邦の機動兵器開発は現場には全く明かされていない最高機密であり上官はその性能に懐疑的であった。

 

原隊をオデッサに残して3週間の短期訓練を受けることになった。

後方の訓練所にあったのはテーマパークにある体験型アトラクションと変わらないもので連邦軍の機動兵器のコクピットとコンピュータを抜き出したものと説明された。

雰囲気でおそらくは大勢の候補生も同様のことを思っていると分かったが、それを口に出す者はいなかった。

そこで初めて知ったV作戦で得られたデータにより基本的な操作は完成し、アジアで先行配備されて戦術データが蓄えられた。

朝から晩までシミュレーションの訓練が続き、この間もジャブローでは生産型機動兵器の製造が続けられていた。

 

その中にイリヤ・ハルキウ伍長も居た。

東ヨーロッパ出身で現地での志願兵だった。

祖先が欧州人と言うこと以外は共通点はなく、特に親しくすることもなかったがジオンから支配権を奪還したばかりの野戦の掘建小屋のような訓練所で食事も訓練も一緒に過ごせば身の上話するしかなかった。

東欧はジオンの第一次地球降下作戦で連邦軍の激突した地で部隊では車両の修理から運転手まで小銃を持って突撃する以外は何でもこなした。家族や親戚、知人など全て戦火で失った。開戦するまでは農作業から家や車の修理まで自分でこなしていたのが役にたったと話していた。

上官から車の運転が出来るなら機動兵器も操縦出来るだろうと言うことで兵卒から戦時昇進し伍長となって訓練所へ送られた。

 

予定されていた最終日、配属先の部隊が発表された。

シミュレーションの成績順で前後したハルキウ伍長と共に極東でオデッサから撤退したジオン残党の追撃の辞令を受けた。

欧州大陸を横断してハバロフスクでケンペン機械化中隊に合流したが、移動中の飛行機の中でも特に会話は弾まなかった。

 

 

U.C.0080-01-02T01:45+9:00

シベリア ヤクーツク付近

 

月面のグラナダ市はジオン公国とは目と鼻の先にある月面最大級の都市で政治経済の中心地でもあった。

24時間前、宇宙のア・バオア・クー宙域にてギレン・ザビとキシリア・ザビ、その前の宇宙要塞ソロモン攻略戦で次男ドズル・ザビが戦死し、ザビ家の構成員が全て死亡した。

ジオン本国から連邦軍の軍艦に護衛されたジオンの首脳と連邦軍の高官との電撃的な終戦協定が締結された頃、東シベリアの針葉樹林帯は視界が全くない深夜の猛吹雪だった。

 

署名されてから3時間が経過、ケンペン中隊はワシントン中尉のワシントン小隊とタケダ小隊の機動兵器3機編成の小隊に分かれてジオン残党が立て籠もるゴミ山と呼ぶ塹壕に二方向からの夜間作戦を仕掛けていた。

ワシントン小隊は作戦開始時間が迫る中で絶望的な状況にあった。

 

暗視モードの主画面には横殴りの雪と縦に走る大木の影が幾つも浮かび上がっている。

主武装の90㎜機関砲を腰部に懸下して背中のランドセルから荷電粒子剣を引き抜いて機動兵器を前進させる。

荷電粒子剣の端から光り輝くプラズマ化したミノフスキー粒子が吐き出され、それを振り回すとバターナイフのように頭長高18mの機動兵器と同じ高さの大木が薙ぎ倒された。

だが、自律航行装置の地図ではこれがゴミ山まで何Kmも続く。

 

ゴミ山の周りにはK点と呼ばれるラインが設定している。

その内側はジオンの地雷源であり到達出来るルートは限られていた。

新たな侵攻ルートを見つけることは急務だがワシントン中尉は突然に新ルートを開拓すると言い出した。

タケダ小隊が正面からゴミ山に攻撃を加えている間に側面から攻撃する為に遠回りしている今の状況でショートカットに成功すれば戦術的な価値はあった。

だが、その結果は惨憺たるもので機動兵器の巨体が侵入出来るルートを選んで進んだのだが、袋小路に当たってしまった。荷電粒子剣で薙ぎ払ったところで到達するのが明朝では意味がなかった。

ロケットエンジンで飛び越えるにしても着地点が確保出来ずに機体を放棄することにでもなったらここでは死を意味した。

 

背後のワシントン中尉のジムに近づいて機体に触れた。

コロニー落としの影響で放射能に汚染された雪が舞うここではビッグトレーを離れては電波障害で無線は繋がらないが、機体の振動を利用する接触回線は電波障害の影響を受けない。

戦闘になれば誘導兵器を無効下するミノフスキー粒子も散布されタケダ小隊と連絡を取ることはまず不可能だった。

 

「撤退だ」

こんな時のワシントン中尉の判断は速い。

納得は出来ないが他に何も思い付かない。元のルートに戻っても今以上の時間がかかるだけだった。

マニュピュレータでハルキウ伍長のジムに合図を送るとその場で方向転換した。

小隊が編成されてから一ヶ月、他の人には社交的なハルキウ伍長もワシントン中尉に対して必要最低限なこと以外、喋らない。

 

移動作戦指揮所ビッグトレーに帰還するとロドリゴ伍長の戦死を知った。

 

 

U.C.0080-01-14T10:47+9:00

シベリア ヤクーツク付近

 

ジムは安全なK点前からロケット砲を撃つだけだが、ガンダムはゴミ山に縦深侵攻して攻略するなんて新兵が考えても無謀な作戦だったが、作戦は決行された。

 

雪は小降りで目視でもK点の向こう側のゴミ山を確認出来る。

作戦はワシントン中尉の砲撃で開始された。

ガンダムはロケットエンジンのバックブラストで雪が舞い上げると、タケダ少尉とケンジントン少尉がジムよりも遥かに強力な推進力と最低限の武装でK点を一気に飛び越える。

後は二人が孤立しないようにここから間断なくロケット砲を撃ち続けるしかない。

 

ヘッドレスト脇から精密照準用スコープを取り出すと、ロケット砲と連動した望遠カメラの映像に切り替わる。

ガンダムはゴミ山の麓に着地して内部への進入路の探索を開始したが、直ぐにトラノコと交戦となった。

味方機に直撃しないように適当な距離を保ってロッケト砲を撃つが思ったところへは飛ばない。この距離では無誘導ロケット弾は牽制にしか使えない。

2機のジムでロケット砲を交互に撃ち、その間に残りがロケット砲の弾倉を交換した。

 

望遠カメラにケンジントン少尉のガンダムが崩れるのが映った。

幾らか着弾したようにも見えたが足場が崩れて滑落する。

タケダ少尉はトラノコを振り切れずに居る。

崖を滑り降りて来たザクがケンジントン少尉のガンダムにヒートホークの一撃を加えた。これでも爆発しないのはガンダムの性能かもしれない。

 

「救出に行くぞ」

重装甲のガンダムでも危険な一撃だと分かる。

ロケット砲を捨てて機関銃に持ち替えて駆け出した。

ジムの推力ではK点を飛び越えるような真似は出来ない上、地雷を踏み抜けばロドリゴ伍長のように狙い撃ちにされる。

無線からワシントン中尉の声が雑音混じりで聞こえたがすぐにミノフスキー粒子にかき消された。

後方カメラですぐ脇にイリヤ伍長の機体も駆けているのが見える。

 

ケンジントン少尉のガンダムのハッチが吹き飛んで射出座席が排出された。

自力で動くことが出来ずに機体を放棄したと思われる。

タケダ少尉はケンジントン少尉を襲ったザクを荷電粒子剣で両断したがトラノコに再び追いつかれて近づけずに居る。

 

「ハルキウ伍長、護衛を」

マニピュレーターで雪に埋もれたケンジントン少尉を抱え上げた時、ハルキウ伍長のジムに機関砲が直撃した。

原子炉こそ爆発しなかったがコクピットのあった場所は空洞となっていた。

 

 

U.C.0080-01-15T10:05+9:00

ビッグトレー・作戦室

 

ゴミ山への電撃作戦が失敗した翌日、中佐から招集をかけられた。

ケンジントン少尉、ロドリゴ伍長、ハルキウ伍長が戦線を離脱し中隊の戦力は半減していた。

中佐から作戦の指揮権が前線からジャブローへ変更されゴミ山を艦砲射撃する為に前線はその支援を行うと言うものだった。

 

これ以降、中佐は自室に閉じ籠ったが準備は着実に進められ、影響は全くなかった。

軌道上からゴミ山を目視で確認するための大量のロケット弾が搬入された。

ケンジントン少尉は後方に運ばれ、今更、トラノコが西部戦線で記録のあるグフ重装型と言う情報が与えられた。

 

 

U.C.0080-02-01T12:35+9:00

シベリア ゴミ山

 

朝から薄雲の隙間に光が差し込む程度だったが、これ以上の天候の好転も望めなかった。

終戦を迎えて輸送中の襲撃を想定する必要がないことでペイロードを越えるロケット弾を抱えてビッグトレーを後にした。

格闘用の武器もガンダムに用意されたビームライフルのみでジムはザクと対峙しても荷電粒子剣のみだった。

ビームライフルも衛星軌道上からの艦砲射撃で撃ち漏らした敵を確実に仕留める為の準備で予定では使用しない筈であった。

 

ここのところ数日おきに行われた砲撃が今日は量が多いだけと考えることにした。

ワンシントン少尉が撃ち、タケダ少尉と順番にロケット砲を撃ち続けた。

地球軌道上からどのように見えているのか見当も付かないが信じてロケット砲を撃ち続けるしかなかった。

残党は深い雪の下に篭って出てこないが、これでも良い気がしてきた。

 

それは突然にやって来た。

上空から幾条もの光が降って来てゴミ山を直撃する。

艦隊は150Km上空で見える訳もなく、轟音とともに巨大な雪煙が立ち上がった。

デブリの衝突にも耐えられるコロニーの外壁を破壊出来る艦砲の振動がコクピットにまで伝わる。

 

艦砲は間断なく撃ち込まれ、それが止んだとき立ち尽くした。

目の前に巨大な雪煙の柱が立つ。

状況は全く把握出来ないが、これで残党が全滅したかもしれない。

 

タケダ少尉のガンダムがバーニアを噴き上げながら雪煙の中に突入した。

声を上げようしたときには機体は消え、ワシントン中尉と無言でその後を見つめた。

中がクレーターになっていたらそのまま滑落して終わりである。

これで自分のジオンとの戦争が終了した。

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