自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第8話 ダンジョン踏破-①

 □■□

 

 

 

 

 レジェンダリアの首都<アムニール>より遥か南方。

 <グリム森林>を越え<ハムレット平原>よりも更に奥地、そこでは一つの部族が暮していた。

 運悪く【樹霧浸食 アームンディム】の進路上に位置してしまった為、一族もろとも滅んだ部族。

 その名を、『ヒュリア族』という。

 

 そんなヒュリア族には三つ、古くから受け継いでいる鉄の掟が存在する。

 

 

 一つは、生まれたら直ぐに【女戦士】のジョブに就くこと。

 これは一種の慣習のようなものだ。

 【女戦士】というジョブは戦士系統であるものの、伸びるステータスは大きく偏り、覚える『固有スキル』もたった一つ。

 むしろ一般的に見ても使いにくく、見向きもされないジョブである。

 

 だが、【女戦士】に就いたヒュリア族は違う。

 産まれてすぐ【女戦士】に就き、幼少より厳しい戦闘訓練を受けたヒュリア族は無類の強さを持っていた。それこそ子供さえ、同じ戦闘系下級職に就く大人を殺しうる程に。

 リアルで言うならば『スパルタ兵』。

 『弱き者は淘汰され、強き者は贅を得る』、そんな自然の摂理に従い続けながら生きる戦闘民族。

 それこそがヒュリア族である。

 今では存在自体を覚えてる人は数少ないが、ヒュリア族は“森の悪魔”と恐れられていたほどだった。

 

 

 そして二つ目は、【女戦士】のカンストと同時にとある儀式を受けること。

 村の中心に存在するダンジョン、<トラーキアの試練>を踏破し、最下層に存在するジョブクリスタルで上位職へ転職を果たすのだ。

 

 <トラーキアの試練>は全十階層で構成された自然ダンジョンの一つ。実際には最下層と入り口を除けば、八階層のみの小さなダンジョンだ。

 そして……この<トラーキアの試練>に挑んだ戦闘部族であるヒュリア族は七割死ぬ(・・・・)

 

 もちろん儀式を拒む者も少なからず存在したが、拒んだヒュリア族は例外無く村から追放された。

 

 

 そんな多くのヒュリア族が死んでいった<トラーキアの試練>。

 その掟さえも知らない、【女戦士】にさえ就いていない一人の少女が今……

 

 

 「キ、キャアァァァァァァアーーー!!」

 

 

 50年ぶりに、ヒュリア族の『儀式』の幕を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇<トラーキアの試練> 【騎兵】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 「プハァ!! ……はぁ、はぁ、死んだ。死んだと思ったぁ~!」

 

 

 人生2度目になる空中落下。

 だが、1度目の空中落下も失神するほど怖かったが今回は桁外れである。

 

 体感で20秒以上の永遠にも感じる長い落下時間。

 底の見えない暗闇への恐怖。

 そして、風に乗って聴こえてくる恐ろしげな音。

 

 涙は溢れるほど出るし、それに……少し漏れてしまった気さえもする。たがそれも不可抗力と言うものだ。あんな空中落下は誰でも私と同じになるに決まっている。

 ……そうだと信じたい、うん。

 それにこう(・・)なってしまってはノーカンである。

 

 

 「うぅ、服が張り付く。体が重い」

 

 

 たまらず口から弱音を溢しながら、私は落下地点である地下湖(・・・)から脱出する。

 水の滴る赤髪を払いながら後ろへと振り返ると……そこに広がっていたのは幻想的な光景だった。

 

 

 「すごい……綺麗」

 

 

 地上からの陽光が一切届かない地下湖。

 しかし、壁や地面から伸びる苔や葵い花が淡い光を灯し、澄んだ地下湖の底まで照らす。

 水上では蛍のような小さな虫が、踊るように戯れている。

 まさにファンタジー、リアルでは決して見られない光景がそこにはあった。余りの幻想的な光景に目を奪われ、立ち尽くす。

 

 そして……

 

 (寒いっ……)

 

 身を震わせるような寒さに身を震わせ、動きを再起し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下湖から離れたダンジョン奥。

 そこに広がっていたのは地上と変わらない、草木の繁った普通(・・)の森林だった。

 そう、普通だ。

 <旧・ハムレット平原>のような大魔樹林とは違う普通の森林。

 その事に一種の感動を感じながら、腰を下ろせる場所を探す。するとすぐに少し開けた場所を見つける事が出来た。

 これもダンジョンとしての特性なのだろうか?

 

 

 「とりあえず……この服を脱がなきゃ」

 

 

 ジュシーネさんから貰った【騎兵】に適した《騎乗》しやすい軽装。

 軽く動きやすかった服も、水を吸って重く動きずらくなっている。

 私は最近覚えることが出来た《瞬間装着》で、一瞬にして初期装備であるワンピースに着替える。

 そして、

 

 

 「出てきて、フェイ」

 

 

 右手の紋章から飛び出した、炎卵形ガードナーであるフェイに濡れた服を被せて乾かす。

 これは最近気がついた発見だ。

 【炎怪迴鳥 フェニックス】は身に纏うようにして燃やしている炎は、熱さを感じない。しかし、MP&SPを溜め込み過ぎたのか、この頃その炎の熱さを自由に操れるようになってきたのだ。

 内心では、第二形態への進化もそろそろなのではと期待していたりもする。

 

 

 「《喚起》――アレウス」

 

 

 ダンジョン内は思ったよりも広いのでアレウスも呼び出した。

 地下へ伸びたダンジョンだったのでアレウスに騎乗できるか心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。

 私はアレウスの綺麗な毛並みを撫でながらこれからの事を考える。

 

 

 「師匠は4日で踏破してこいって言ってたし……そこまで長いダンジョンじゃないよね?

  【女戦士】も下級職のはず、それでも踏破出来るんだからそんなに強い敵も居ないはず」

 

 

 『ダンジョン』というものに挑むこと自体が初体験ではあるが、そこまで心配は要らなさそうである。

 弓も大魔樹林に比べるとはるかに扱いやすく、全力でアレウスを駆けても問題ない。

 戦闘に関しては<旧・ハムレット平原>よりもはるかに楽なはずだ。

 問題は、  

 

 

 「食料、だよね……」

 

 

 【騎兵】ヴィーレ・ラルテ、こと碓氷八雲。

 家名を受け継ぐため、習い事に幼少期を費やした今をトキメク女子高生。勉強も出来れば、楽器に関しても粗方網羅しているのが私だ。

 

 しかしそんな私にも出来ない事が一つある。

 どれだけ努力しても克服できなかったものの一つ、それは料理。

 

 

 

 

 碓氷八雲は料理において、劇物をつくるプロであった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 「……本当にどうしよう」

 

 

 師匠に指定されたダンジョンの踏破期限である4日間、現在アイテムボックスにある食料は2日分。

 つまり最高でも2日分の食料を自給自足しなければならない。

 しかし1番の問題はアレウスにも食事が必要な事だ。

 

 (きっと私の作った料理をアレウスが食べれば……)

 

 その未来を思い浮かべるとトラウマが蘇る。

 

 ——小学校の家庭ではつまみ食いをした男子が失神。

 ——中学校では同じグループだった三人が救急車で運ばれる結果となる大事件。それ以降の授業では一切手を出させてもらえなかった。

 

 恐ろしいものを見るような周りの人々の視線は今でも忘れられない程だ。

 そんな料理をアレウスが食べるなどゾッとしない。

 そもそも『調理できるような食材があるのか』、という問題がありはするのだが。

 

 

 『BuRuuu?』

 

 「うん、大丈夫……だと思うけど」

 

 

 心配そうなアレウス。

 その鼻先を安心させるように優しく撫でる。

 最悪、食材をそのまま食べるという手段も残されてはいるが、そのまま食べられるもの自体が少ないだろう。

 しかしこうなれば最善の手を打つしかない。

 

 (2日……いえ、3日で踏破して見せる!)

 

 食料が2日分と言うのなら2日、最長でも3日で踏破するまでだ。

 濡れていた服が乾いた事を知らせるため跳び跳ねるフェイ。そんな様子を傍目に一つの決意を立てるのだった。

 

 

 

 

 ◇◇◇<トラーキアの試練――第二階層>

 

 

 

 

 <トラーキアの試練>への入り口と、その落下地点である地底湖が存在する第一階層。

 第一階層はダンジョンにおける休憩所のような場所らしい。

 私たちは時間をかけることもなく、地下へと続く下り坂を見つけ第二階層へと進んでいた。

 第二階層も上の階と変わらない。

 地底湖から流れ落ちる水が川を形成し、第二階層全体を暗い森が覆っている。森の上空では怪鳥のようなモンスターが飛んでいるので、ここからが本当のダンジョンと言うことなのだろう。

 

 

 「かなり暗いね、気を付けて進まなきゃ」

 

 『BuRuuuu』

 

 

 滝のように流れ落ちる水音が邪魔で、物音も聞き取りずらい。

 加えて、汗をかくほど熱気の籠っていた地上とは反対にダンジョンの中はうすら寒く、所々に霜が降りているのが見てとれる。

 予想以上に集中できない状態が始まったばかりのダンジョンへの不安を高まらせてくる。

 寒さで鈍る体。

 集中できない状態での警戒。

 思った以上に疲労が溜まる事に疑問を浮かべ、モンスターを倒しながら突き進む。

 

 

 『Syaaaa—————』

 

 

 木の上から雨のように頭上へと降り注ぐ、紫色の大きな蛇【ヴェノムヴァイパー】。

 

 

 『BUGooooooO!』

 

 

 青白く大きな巨体を揺らしながら、片手に槍を持ち近づいてくる【ブルーオーク】の群れ。

 

 

 『KyaHAHAHAHAHAaaaa!』

 

 

 頭に響くような甲高い笑い声を上げる【フォレスト・ハーピィ】の大群。

 息をつく間もなく、下級から上級にあたるモンスターの群れが押し寄せる。独りの戦闘系下級職では対処しきれず、やられてしまうような数だ。

 そう、本来ならば。

 しかしそれらのモンスターの群れは、ヴィーレに傷を与えることも出来ずに倒されていく。 

 

 

 『HIhiiiiiN!』

 

 

 掛け声と共にアレウスがその巨体を躍らせ、降り注ぐ【ヴェノムヴァイパー】の群れを薙ぎ払っては踏み潰す。

 自慢の毒はヴィーレに届かず、純竜級と並ぶAGIを持つアレウスを捉えることはできなかった。

  

 

 「フッ!」

 

 

 一息に放たれた矢は【ブルーオーク】の頭を正確に狙い穿つ。

 自慢の腕力は揮うことすら叶わず、死を届ける馬の足音を聞くのみ。

 

 【フォレスト・ハーピィ】に関しては、その忌みの唄声を奏でることさえできなかった。

 木の上から歌おうとした瞬間、空を駆けた(・・・・・)アレウスに引きつぶされ、弓で咽を射抜かれたからだ。

 もちろんただの馬が空を駆けることは無い。アレウスは倒れた大木の上を走り、空へ向かって跳んだのだ。

 それはまともな【騎兵】がとる行動ではない。

 しかし<旧・ハムレット平原>に棲む、亜竜級の怪鳥を仕留めるには必要だったのだ。

 そして【騎神】を師にもつヴィーレとアレウスは、何度もの失敗を経験しながらものにしたのだ。

 実践の中で【騎神】に鍛えられたヴィーレとアレウスは確実に強く、巧くなっていた。

 

 

 「……やっぱり余り強い敵はいないみたいだね」

 

 

 そんな事を露とも知らない彼女は何気もなく呟く。

 だが、やはりそんなことは無い。

 彼女を襲ったモンスターの中には単独で襲ってきたといえ、【亜竜甲蟲(デミドラグワーム)】や【一重刃角巨猪(モノホーン・ワイルドボア)】といった亜竜級モンスターも混じっていたのだから。

 だが【亜竜甲蟲】の体を駆けのぼりながら、その硬い甲殻は踏み砕かれ目は矢で潰されてしまった。

 【一重刃角巨猪】の猛進は軽々と避けられ、踏ん張るための足を射抜かれた。

 本来なら下級職を軽く捻ることが出来るモンスターは、そのことごとくを討ち取られてしまったのだった。

 

 そんなヴィーレの進軍は止まることなく、<トラーキアの試練>の半分である第四階層までを踏破する。

 下手をすれば、今日一日でダンジョンを踏破するのではないかと思わせるようなスピード。

 しかしその進軍も、第五階層に突入すると同時に終わりを迎えることとなる。

 

 

 

 そして辿り着いた第五階層。

 そこは今までと全く変わらない森林の階層。

 地底湖の水も相変わらずダンジョン内を流れ落ち、大きな音を立てている。

 いや、正確には少し違う。

 

 

 「何でだろう、水の音しか聞こえない?」

 

 

 落ちた水が地面を叩く地鳴りのような音。それ以外の音が一切聞こえてこないのだ。

 ヴィーレは警戒を強めながら森の中を進んでいく。

 しかし森の中にモンスターは見当たらない、一匹として。

 まるで元からいなかっ(・・・・・・・)()かのように。

 そんなあまりにもおかしい森の状況に考えられる可能性は二つだろう。

 

 

 一つは強大なモンスターが棲みつき、他のモンスターが違う階層に逃げていった可能性。

 ここのダンジョンは階層ごとが坂道で繋がっている。モンスターであっても階層ごとに移動することは可能だ。

 

 しかしそれだと《危険察知》が何かしら反応するはずである。

 大魔樹林にいたからか、ヴィーレの《危険察知》のスキルレベルはかなり高い。反応しないということは考えにくいだろう。

 加えて、あまりにも森が整いすぎて(・・・・・・・)しまっている(・・・・・・)

 強大なモンスターがいるなら何らかの形で痕跡が残っているはずだ。

 

 

 そしてもう一つの可能性は、ここがダンジョンにおける“休憩所”であること。

 第一階層と同じようにモンスターが発生しない、安全地帯である可能性だ。

 可能性としてはこちらの方がはるかに高い。

 ダンジョンの五階層目というキリのいい数字、休憩に適した湖や木の実が押し茂っていることがその証拠としてあげられるだろう。

 

 そんな二つの可能性を考えるヴィーレ。

 そして長考の末、考え抜いた結果としてたどり着いたのは後者だった。

 

 

 「一旦ここで休憩しよう、アレウス。食料の確保も出来そうだしね」

 

 

 そう、ここには食料がある。

 それらをみすみす見逃すわけにはいかないのだ。

 

 ヴィーレは予想以上に疲れていたのか、重たい体(・・・・)を引きずるようにして森の中心部……水が池のように広がる場所へと足を進める。

 うすら寒かった体も何度もの戦闘で傷つき、汚れ、少し火照ってきている。

 出来ることなら休憩するついでに水浴びをしたい。

 そんな気持ちに駆られる様に池へと向かい、そして無防備(・・・)に池の中を覗き込んだ。

 

 

 ……覗き込んでしま(・・・・・・・)った(・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……えっ?」

 

 

 今にして思えばそれは油断だったのだろう。

 もしくは『ダンジョン』に対しての知識不足か。

 いずれにしろ彼女は、ヴィーレは油断した状態でそれを見てしまったのだ。

 

 

 中心部に存在する澄んだ池。

 その池に『底が見えない程積み重なったモンスターや甲蟲、そして人の亡骸を』

 

 

 そして同時に聞いた、いや鳴り響いた。

 これまでに聞いたことの無いほど脳内を揺るがす《危険察知》の大警鐘が。

 

 

 そして見た、森全体のどこを見ても浮かぶ『モンスターの名前』を。

 

 ヴィーレが考えた上で切り捨てた前者の考え。

 しかしそこには一つ、大きな穴がある。

 それは『森全体が一匹のモンスターである』という考え。

 

 

 そんなヴィーレという獲物を五十年ぶりに森はざわつく様に音を立てて嗤った。

 新しい獲物が来たのだと。

 そのモンスターの名は、

 

 

 

 『【ハイド・グラビティー・グラトニーフォレスト】、純竜級最上位に位置する討伐不可能モンスターである』

 

 

 

 




改めて見ると、ヴィーレが強すぎるような気がします……すいません。

あと【ハイド・グラビティー・グラトニーフォレスト】。
強すぎ……ない気もしますがすいません。
討伐不可能モンスターとは書かれていますが一応倒せます。

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