自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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【修正】エピローグ3話→第36,37話、エピローグへ


第37話 次なる明日へ

 □【槍騎兵】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 ――――蒼い流星が夜空を駆け、軌跡を残して燃え尽きた。

 

 

 

 

 

 私は――ヴィーレ・ラルテはその光景を。

 蒼い流星が残した軌跡を、ただジッと。目を反らすことなく眺め続けていた。

 

 ……これは『夢』だ。

 

 リアルの私である『碓氷八雲(うすい やくも)』は夢を見ない。

 ひたすら無感情で冷静で、氷のように冷たい女だから。夢などと言う幻想は一度たりとも見たことがない。

 だから――これはヴィーレ・ラルテの夢。

 

 おそらく【冥神騎 ペイルライダー】との激戦の末に【気絶】してしまったのだろう。

 格好も先ほどまでの戦いで千切れ、修復不可能な程にボロボロになった【スカーレット act.1】の防具のまま。長かった赤髪は肩の辺りで切り落とされてから戻っていない。

 

 (初めての体験だけど……何だか不思議な感じ……。凄気持ち悪いぐらい頭が回る)

 

 視線は夜空から離していない筈なのに自分や周りの状況が鮮明に感じ取れた。

 夢とは、こういうものなのか。

 もしくは、激しい戦闘で加速された頭の熱が夢によってクールダウンされているのだろうか?

 私はそんな他愛もない事を考えながら、ひたすら夜空の流星を眺めていた。

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『――貴女はあの流星がそんなに気になるの?』

 

 

 背後から聞こえてきたその声に私は振り返った。

 オレンジ色の瞳が映した影。

 そこに居たのは、小さな焚き火を囲んで腰を下ろす見覚えのある一人と一匹の背中だった。 

 

 

 ――【アダマンタイト】で造られた紫紺のフルプレートアーマーに、流れる銀糸のような髪の女性。

 

 ――女性の傍らで寄り添うように伏せる、鉱石のような硬そうな獣毛を持った巨大な黒狼。

 

 

 普通に見れば、その姿は背景の夜空も相まって美しい一枚の絵画のように見えるのだろう……が。

 ――ゾクリッ、と。

 雷に撃たれたような衝撃が。

 身の毛もよだつような寒気が、私の背筋を通り抜けた。

 しかし同時に、私の体は硬直することなく既に動き出していた。

 

 

 「――ッ!!」

 

 

 バックステップで数歩ほど距離をとる。

 そして左手の“紋章”からフェイを。

 右手で腰ベルトに付けた【アイテムボックス】から武具を取り出そうとし……戦慄する。

 

 (武器が無いっ!)

 

 いや、武具だけではない。

 “紋章”からはフェイの反応は返ってこず、【ジュエル】は不思議と煌めきを失ったようにくすんでしまっていた。

 思わず息を呑む。

 とっさに動いた私の身体が、今度こそ硬直するのが自分で分かった。

 

 

 『……安心して、そんなに怯える必要は無いわ。此処は貴女の夢――だから私もこの子も危害は加えることは出来ないもの。

  私達は貴方の敵じゃないわ』

 

 

 銀髪の女性はこちらに振り返ることなく、柔らかな口調でそう語り掛けてきた。

 透き通るような、落ち着く綺麗な声。

 何故だが銀髪の女性は今、微笑んでいるだろうと。そう思えるような声だった。

 そして……同時に気が付いた。

 敵と対面した時に感じるような私を刺す雰囲気を感じない事に。

 むしろ逆、友好的な好意を感じる声に。

 『夢』――だからだろうか?

 私はその声をすんなりと信じて警戒を解き、銀髪の女性へと声を投げかけていた。

 

 

 「貴女は、【ペイルライダー】じゃ無いんですか? それに此処が私の夢なら、何故貴女は此処に居るんです?」

 

 

 銀髪の女性は私の問いかけに応えなかった。

 ただ、無言で焚火の近くの小岩を指さす。

 

 「話は座ってから」、と。

 彼女はそう言いたいのだろう。

 私はそんな指示に従うように銀髪の女性の近くへと歩きより、女性を横目で見ながら腰を下ろす。

 そして――綺麗だ、と。

 焚火を管理する女性の横顔を見て、率直にそう思った。

 

 

 『――私が誰かって聞いたわね? 私達はかつて“進化の化身”――今のこの世界の管理者に敗北した【冥骸騎】。貴方が討伐してくれた【冥神騎 ペイルライダー】の核になった魂、って言えばいいのかしら。

  質問に答えるのなら『YES』であり『NO』よ』

 

 

 その言葉に私は無言で頷く。

 聞いたことも無い超級職だが、きっと嘘ではないのだろう。

 【ペイルライダー】の姿と酷似した魔鎧に巨狼の騎獣が何よりの証拠だ。

 実際に私が先ほど目にした時、思わず戦闘態勢を取ってしまったのもその為だ。

 あの『黄金の棺』――【冥償蘇生 コローネ】の中で眠っていたティアンこそが、今目の前に居る彼女なのだろう。

 

 

 『私が貴女の夢の中にいる理由は、私が【冥魂騎 ペイルライダー】で、貴女のそのスティレット(【アズラーイール】)が魂に関する何らかのスキルを持っているのが原因よ。

  後は……私のジョブが【冥骸騎】だったことも関係あるのかな?』

 「……魂に関するスキル?」

 『そう、今は知ることは出来ないかもしれないけど』

 

 

 ――魂に関するスキル。

 

 【アズラーイール】の保有スキルである《怨念燃炎》と《万神殺し》は魂に関係しているとは思えない。

 おそらく彼女が言っているのは三つ目のスキル。

 私も未だにスキル名すら見ることが出来ていない黒塗りのスキルの事だろう。 

 何故、【ペイルライダー】だった女性がその事を知っているかは謎だ。

 警戒は既に解いた。

 しかし……信用はしていない。

 私は傍目で訝し気に女性を観察しながら、次の言葉を待った。

 

 

 『――ありがとう』

 「――」

 

 

 そして、唐突にぶつけられた感謝の言葉に面食らった。

 

 

 「……何にがです」

 『“進化の化身”の手に落ち、暴走した私は止めてくれた事。あとは………彼女(【女帝】)との約束を叶えてくれたことにたいしてよ」

 「約束?」

 『そう、私達が全滅する前日に交わした――叶わなかった約束』

 

 

 そう彼女は言いながら、銀髪の髪を揺らし私を見る。

 パチリッ、と。

 焚火の火花が弾けて、彼女の琥珀色の瞳に映り込んで、宙に溶けて消えた。

 

 

 『――それ』

 「……?」

 『その指輪、【【女帝】の武の指輪】よね?』

 

 

 指さされながら聞かれた問いかけに私は小さく頷く。

 

 

 『あのスキルを使っている所を見た時、なんだか久しぶりに彼女と再び会えた気がしたの。記憶ではあの決戦ですら前日のように感じているはずなのに。……フフッ、なんだか可笑しいわね』

 

 

 クスリ、と笑い、耳に掛かった銀髪をかき上げる。

 その仕草はどこか妖艶で。

 私は自然と見とれていた。

 

 

 『――貴女にお願いがあるの、いいかしら?』

 

 

 だからだろうか?

 私は自分でも気が付かないうちに。お願いの内容すらも聞かないうちに、頷いてしまっていた。

 

 

 『もし彼女に――【女帝】に出会うことがあったら謝っておいて欲しいの。――「貴女との一晩、叶えられなくてごめんなさい。……あと、ありがとう」、って』

 

 

 サラリと、とんでもない事を言っていた気がするが敢えて無視した。

 しかし、それ以上に疑問が頭を過る。

 彼女は先ほど、「決戦で全滅した」と、そう言ったのだ。

 言伝はいい、<DIN>を活用すれば顔の知らぬ相手でも居場所ぐらいは突き止める事は出来るかもしれない。

 もしくは『探索系』<エンブリオ>の<マスター>に依頼することもできるはずだ。

 だが――。

 

 

 「よく分からないんですけど……その【女帝】の女性は死んだんじゃ無いんですか?」

 『えぇ、彼女は…………私の目の前で死んだわ』

 「それなら……それなら無理です。私は【騎兵】です。【死霊術師】でも【祈祷師(シャーマン)】でもありません」

 

 

 完全な分野(ジョブ)違い。

 例え、【アズラーイール】の第三のスキルが魂に関係したものだとしても、いつ読めるように。使えるようになるかも分からないスキルを当てにして簡単に依頼を受ける。

 そんな大切なことを、適当に私が受けることが出来るはずも無い。

 ――なのに、彼女は確信を持っているように言った。

 

 

 『いいえ、きっと会える。もし貴女が空席となった【女帝】の座を目指すのなら、何時かきっと会う時が来るわ。それまでの道は……その指輪が示してくれるはずよ』

 「これが……?」

 『【女帝】は――と言っても彼女が初代で先代だけど、常に二つの指輪を身に着けるの。その一つが貴女の持つ【【女帝】の武の指輪】。私も詳しく聞く機会も無かったけれど【女帝】の転職条件にも関わっていたはずよ』

 

 

 その言葉を聞き、目を見開く。

 <トラーキアの試練>の最下層の蒼銀の神殿で、私の知らぬ間に表れていた不思議な【アイテムボックス】。

 その中に入っていたコレがそんな希少なアイテムだとは思いもよらなかった。

 私は今更ながら、指に嵌められた指輪をまじまじと見る。

 

 ――装飾を施された金色のシンプルな指輪。

 

 正直、それほど貴重品には見えない。

 《鑑定眼》等のスキルを持っていれば、このアイテムの価値や詳細が分かるのだろうか?

 <ギデオン>の市場でも普通に売っていそうな小物に見える。

 ただ、『特典武具』にも負けない強力なSTR補正。

 それを確認すると、なんだか納得…………出来るようにも思えた。

 

 

 『貴女がソレを何処で手に入れたかは分からない。だけど、【女帝】を目指す資格が貴女にはある』

 「……でも、それでも私が【女帝】を目指すかは分かりませんし、貴女の言う先代の【女帝】に会えるかも分かりませんよ?」

 

 

 例え、銀髪の女性の言うことが真実だとして。

 それでも私が【女帝】を目指すかは分からない。

 何より、先代の【女帝】に会えるかは分からないはずだ。

 

 

 『――えぇ、それでもお願いするわ。

  ――何でかしら? 貴女はきっと彼女(【女帝】)に会う、そんな気がするの。それに……』

 

 

 銀糸のような髪が揺れ、女性は微笑む。

 

 

 『貴女は誰もが匙を投げて逃げ出すようなモンスターの【冥神騎 ペイルライダー】を倒して見せた。だから、貴女なら絶対に出来ると信じてるって、そう私達は信頼しているの』

 『――GAU』

 

 

 女性に同意するように、目を閉じて伏せていた巨黒狼が小さく吠えた。

 きっとその信頼は間違っている。

 【ペイルライダー】を討伐出来たのは私だけの力ではない、他の皆が命を投げうって、転がり込んだ勝利。

 ……身に余る。

 過剰な信頼な気がした。

 

 (だけど……)

 

 私は微笑む女性の目を見て、小さく頷いてその依頼を受けることにした。

 私は……縛られない。

 自由に各地を駆け巡って、そして思いのままに動くのだ。

 だから、その途中で寄り道程度に【女帝】を目指してみるのもいいかもしれない、と。

 そんな事を考えた。

 

 

 『――ありがとう。何か報酬を先払いした方が良いのだろうけど……今私が払えるのは【冥骸騎】への転職条件ぐらい。でも、【騎神】に【冥骸騎】は必要なさそうだしね。だから『特典武具』として力を貸す形になるのかしら』

 

 

 何かを渡せるかと考え込む仕草を見せる銀髪の女性。

 私はそんな彼女へ口を開き――。

 

 

 「――え?」

 『……時間が来たみたいね』

 

 

 渦巻くように揺らぐ視界。

 朧げに遠のいていく意識に声を漏らした。

 そして、

 

 

 『――走り抜けなさい……騎兵の頂のその先まで』

 

 

 その言葉を耳にすると同時に私の意識は途絶え、長いようで短い夢から目を覚ましたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇<グランドル・周辺>

 

 

 

 

 

 「――い。おい、起きろヴィーレ」

 

 

 誰かが私を呼ぶ声がする。

 <Infi()nite ()Dendro()gram>()でもう聞き慣れてしまったほどに馴染み深い大きくがさつな声。

 私が夢から覚めるのとその声が聞こえたのは同時だ。

 まるで冷たい湖の底から、身体が浮上するようのに。

 意識がハッキリと覚醒していくのが私自身も感じ取れる。

 そして激しい連戦に疲れ、重たくなった瞼を開き、

 

 

 「おう、やっと目ぇ覚ましたか」

 「……たか?」

 「……欲を言えば、もう少しだけ寝させてもらいたかったけどね……」

 

 

 見下ろすように覗き込むホオズキと膝を抱えて座り込んでいるシュリちゃんの顔を見た。

 

 『確か拘留所に居たはずじゃ?』

 ――――なんて事は特に思うことも無い。

 

 どうせホオズキの性格の事だ、街での騒ぎに乗じて強行突破してきたのだろう。

 ホオズキ達との旅ももう一か月以上になる。

 ホオズキの思考や突拍子の無い行動に慣れてしまったのか。もしくは私も知らず知らずに感化されているのか、全く疑問に思うことも無くなってしまったようだ。

 

 (……何だか、二人の顔を見るのも久しぶりな気がするなぁ)

 

 顔を見れば子供も泣き出すだろう巨体と凶悪な顔。

 蒼い髪と鬼角、眠たげなジト目が特徴的な無表情な顔。

 小さく安堵の息を吐く。

 二人の顔を見て安心してしまったのだろう、私は起き上がろうと腕を着き、

 

 

 「――ッ」

 

 

 身体に走った焼けるような痛みに眉を顰めた。

 改めてステータスを見れば、【出血】によるHPの減少。

 《ソウル・ドミネーター》による黒死の疫病は消え去っていたが、【骨折】等の傷痍系状態異常は治っていなかった。

 

 

 「外傷は治しておいたけど他はまだ治ってねぇぜ? 【HP回復ポーション】で傷は治せるが【骨折】を治せるもんは持ってないからな。後は自分で回復してくれ」

 「……突撃バカ、だから」

 「ガッハッハッハッハ!! 俺には必要ねぇからな!」

 

 

 私はホオズキとシュリちゃんの軽口を聞きながら回復アイテムを服用する。

 いつもならフェイに治してもらう……けど、今は出来ない。

 《蒼焔の誕生》でも治せるけど今は貯めこんでいたMP&SPを使い切ってしまったからだ。

 【アイテムボックス】の肥やしになりかけていたアイテムだけど、その効果は時間が経っても劣化することなく発揮してくれた。

 徐々に消えていく【骨折】。

 そして痛みの消えた体を確かめるようにゆっくりと立ち上がった。

 

 

 「……うん、でもおかげで助かったよ。多分、あのまま【気絶】していたらデスペナルティになっていたから」

 

 

 余所余所しくするような仲でも無い。

 ホオズキも気にしていないだろうし、軽くお礼を言う。

 

 

 「おう、俺は【HP回復ポーション】を振り掛けただけだけどな。他はお前の騎獣と……アイツが助けたんだ」

 『……不思議、だね』

 「アイツ?」

 

 

 私の疑問に、ホオズキは顎でソレを指す。

 地上ではない。

 それは私の後方斜め上。

 私は満月の夜空を見上げ――遥か彼方で飛翔する小さな影を見た。

 

 ――獣の四肢に、大きな翼。そして月光に照らされた人の頭。

 

 汎用スキルである《暗視》と《ホークアイ》を用いた瞳が映した【スフィンクス】のモンスター名。

 数日前に戦い、見逃すことになった【スフィンクス】に少しだけ驚き、口を呆けた。

 そして……目を細めた。

  

 (――ありがとう)

 

 と、心の中で呟いておく。

 【スフィンクス】自身の意志か。

 それとも【封儀神獣 ヒエログリフ】の命令か、どちらにせよ遥か上空から落下した私とアレウスを助けてくれたのは彼なのだろう。

 

 

 「――アレウスとフェイ、アロンもありがと。皆がいなきゃ【ペイルライダー】には勝てなかったから」

 『BURURUuuuuuuu』

 『KUWEeeeeee~』

 『GAWUuu……』

 

 

 アレウスが嘶きながら頭を下げ、フェイが雛鳥サイズになって肩に止まり、今現在も《隠蔽》を発動し続けるアロンが足元で唸り声を上げた。

 

 

 「それにしても……」

 

 

 私は改めてホオズキとシュリちゃんの格好を下から上へ、観察するように見直していく。

 座り込み、どこか疲れたように眉を垂らすシュリちゃん。

 上半身の装備が千切れ破れ、逞しい筋肉を隠しもせずさらけ出しているホオズキ。

 

 

 「もしかしてホオズキ達も誰かと戦ってたの?」

 「おうッ! 【義賊王】の仲間の<マスター>(アイン)とちょっとな。――それとついでに【解体王】の奴もぶっ殺しておいてやったぜ」

 『――連戦、頑張った』

 

 

 ……【解体王】。

 忘れていた――訳ではないけど、完全に【ペイルライダー】との戦いで燃え尽きてしまっていた。

 加えて連戦による精神的疲労。

 《火焔増蓄》に貯まったMP&SPも完全に底を尽きている。

 仮に【解体王】と戦闘になっても勝ててはいたと思うけど……アレウス達が無事で済まなかったかもしれない。

 そう考えるとホオズキが倒してくれた事に心の底から安心した。

 

 

 「そっか……ありがと。流石ホオズキだね」

 『ハッ! 当たり前だろ、『必殺スキル』(切り札)も既に食らってんだぜ? ネタが割れた貧弱野郎に負けることはぜってーねぇよ」

 『……倒したの、ホオズキじゃ、無いけどね?』

 「うっせぇーよ! 実質俺が倒したようなもんだろうがっ! だから俺の勝ちで良いんだよ!」

 

 

 焦ったように声を荒げるホオズキを受け流すシュリちゃん。

 そんな2人を見て私は首を傾げる。

 

 

 「もしかしてシアンさんの仲間の<マスター>のこと?」

 『……うん。……私と同じ、メイデン』

 

 

 そう言えば私達が<グランドル>に到着した際、シアンさんが世間話で『Type:メイデン』の<マスター>をホオズキ以外に見たことがある、と言っていた気がする。

 こうして聞くとその<マスター>が仲間だったのだろう。

 ……『Type:メイデン』。

 私も今まででホオズキ以外に見たことが無い気がする。

 ほんの少し、もし仮に会えるのなら少し会ってみたいような気もした。

 

 

 「それよりもッ、だ! お前もその様子だと勝ったんだろ? ――レジェンダリアの奴らみてぇなひでぇ格好してるけどよ……」

 『……えっち?』

 

 

 ホオズキにしては珍しい。

 いつもとは違い、少し躊躇うような声。

 ホオズキの言葉に誘導されるように改めて自分の姿を確認する。

 そして――半裸に近い自分の姿を見た。

 

 ――【ペイルライダー】に斬り飛ばされ、白い肌が露わになったへそ。

 ――重ねるように負った傷によって破れた赤のロングスカート。

 ――咄嗟に実行したオリジナルスキル、《紅鎖の翼》にの負荷に耐えきれず燃え尽きたブーツ。

 

 半裸……と、言うよりも下着姿に近かった。

 砂漠の夜の極寒のそよ風。

 寒風吹き抜け肌を撫でた。

 ……寒い。

 冷たい感覚がより一層、私の状態を認識させてくる。

 多分、【女戦士】専用装備である【スカーレット act.2】と布面積は大して変わらないのだろうけど……。

 

 

 「――ッ!」

 

 

 声も出ない。

 即座に《瞬間装着》で【遮雨の外套】を頭から被り、思いっきりホオズキを睨み付けた。

 

 

 「そう言う事は始めに言ってよ。……私が元気だったら今すぐ全力で蹴り上げてたよ……」

 『……これだから、ホオズキ。……わ』

 

 

 遠慮はしない。

 シュリちゃんと共に言葉で殴打する。

 しかし、ホオズキは悪びれる様子も。気にするような仕草もない。

 

 

 「んな事言われてもしらねーよ。そもそもレジェンダリアじゃお前よりも酷い奴の方が多いだろ? 無罪放免。今更だ、今更」

 「…‥確かに?」

 

 

 何故だかすんなりと納得してしまった。

 ……多分、レジェンダリアと比べてしまったから。

 他のレジェン()ダリアン()と比べてしまうと全てがましに感じてしまうのは私だけじゃ無いはずだ。

 

 

 「……まぁ、そんだけ口きける余裕があんなら勝ったんだな。その『特典武具』を見りゃぁ分かるが」

 『…‥るが?』

 

 

 ホオズキの視線の先は私の足元へ。

 正確に言えば、足元に置かれていた【冥克騎脚 ペイルライダー】へと向いていた。

 

 (今まで手に入れてきた『特典武具』とは違う)

 

 一目見て、そう分かってしまう強力な武具。

 加えて呪われた武具(・・・・・・)のような異様な雰囲気も纏っている。

 そして、特典武具は<UBM>の討伐証明になるように、勝利の証明でもある。

 きっとホオズキはこの【冥克騎脚 ペイルライダー】を確認して私の勝利だと言ったのだろう。

 だけど……、

 

 

 「うん、だけど――「あいつ(【義賊王】)を助けられなかった、何て言葉は絶対に口に出すなよ」……」

 

 

 続けようとした声は、ホオズキの言葉に重なり消えた。

 同時に今度は先程とは逆に、鋭い視線が私を刺す。

 重みのある声だ。

 その声には、絶対にそれを言うなという有無を言わさぬ重みがある。

 

 

 「お前達がどんな<UBM>と戦ったかは知らねぇが、きっとそれはお前が死にかけるほど……勝てないほど強敵だったんだろうぜ。そして【義賊王】は命を投げ打ってお前が生き残った。それだけだ。

  助けられなかった、なんて後悔するのは完全な筋違いだぞ」

 『……だぞ』

 「――シアンさんが戦って死んだ事、分かってたの?」

 「当たり前だ。血の臭いでわかる。あいつが簡単に死ぬとは思えねぇからな……予想はつく」

 『……致死量を、越えた。……血の臭い?』

 

 

 シュリちゃんは血置換型の<エンブリオ>。

 例え、私の身体に染み付いた血の臭いから、生死を判断できてもおかしくない。

 そして……ホオズキの言うとおりのような気がした。

 【義賊王】は守りたいモノの為に。自身で心に決めた筋を貫き通して戦いの中で死んでいった。

 

 (――師匠も確かそうだった)

 

 己の信念や守りたいモノのために彼らは迷わず立ち向かって死んでいく。

 そんな【義賊王】に「助けたかった」。

 それは今となってはシアンさんの意志の冒涜に他ならないのだろう。

 だから、きっとこれで良かったのだ。

 私は足元の【冥克騎脚 ペイルライダー】を【アイテムボックス】にしまい込み、アロン達を《送還》する。

 そして、

 

 

 「……<グランドル>に帰ろう、ホオズキ」

 

 

 未だに闇に包まれている静寂の街へと私達は歩き出した。

 

 

 ――終わったのではない。始まったのだ。

 

 

 凍りつき、止まっていた時間は動き出した。

 人々を脅かしていた【解体王】は監獄に送られ、【義賊王】は人々の進むべき道を示して死に、そして腐敗した市長らは【ドラグノマド】からの派遣団によって取り除かれるだろう。

 そう、終わるのではない。

 <グランドル>の人々はこれから変わりは始めるのだ。

 

 【義賊王】の躯の回収。

 殺人鬼の討伐&監獄送りの説明。

 <地下墳墓>発見の報告。

 

 やらなければならない事は山ほどある。

 だから……私も止まれない。

 ひたすら前へ進み、駆け続ける――それが私にできる『正義(信念)』の証明なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 凍った砂漠の砂を進む、3人の歩いた足跡(軌跡)は消え去ることは無い。

 【義賊王】の成した偽善もそう。道となって残り続けるのだろう。

 そして当たり前の事だが、明日の無い夜など無い。

 満月と星の煌めきが照らす“氷冷都市”<グランドル>にも明日は来る。

 ――雪解けの街。

 新たな一歩を踏み出した街を祝福するように、東の地平線からは明日の光が上り始めていたのだった。

 

 

 

 

 




ちょっとクドいけど……終わりはこんな感じです。





次話は【冥克騎脚 ペイルライダー】の詳細。
その後談、的な話です。
正真正銘、エピローグですね~。
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