自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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エピローグを2話に分けました~


エピローグ1 後始末の3体目

 □

 

 

 

 

 

 ――その日、朝を迎えた“氷冷都市”<グランドル>だった都市(・・・・・)に一筋の白煙が立ち昇った。

 

 

 

 

 

 街で唯一の『焼却所』。

 毎日のように幾つもの骸とゴミが一緒になって燃やされるのがこの街での常識だ。

 しかし……今日だけは違う。

 中で燃えるティアンの骸は一つだけ。

 一緒に燃えるモノはゴミでは無く、貧民街の住人達が彼に送る別れ(感謝)の品。

 いつもならば貧民街の人々は『焼却所』に決して近寄らない。

 それは死んでいった仲間の姿を、かつてこの街で起こってしまった悲劇を思い出してしまうからである。 

 『焼却所』に居座るのは<グランドル>で最古参の住人である【墓守】のお爺さんぐらいだろう。

 しかし……今日だけは違う。

 『焼却所』の周りには人々が溢れかえり、黙禱を捧げては無言で立ち去っていく。

 

 

 「…………」

 

 

 そんなティアン達の中に混じり、ヴィーレは黙って天に昇っていく白煙を眺めていた。

 

 ――全てが終わったあの夜から、<グランドル>には大きな変化が訪れた。

 

 長々と語るのは難しい。

 だから、結末と結果だけを簡潔に書き連ねよう。

 

 

 まず、【ドラグノマド】からの調査団によって裏で犯罪に手を出していた市長らの一部のティアンが捕まったことだろう。

 なんでも【義賊王】による夜間の襲撃による証拠隠蔽の失敗。

 そして犯罪を裏付ける証拠となる書類が盗み出され、信頼できる商店にばらまかれていたことが大きかったらしい。

 摘発と連行。

 そして新たな市長の派遣。

 それらはあらかじめ決まっていたかの如く、数日のうちに行われた。

 カルディナ議長の方針なのか、これから貧民街は取り壊され、<マスター>の受け入れに力を入れた都市へと生まれ変わるようだ。

 

 

 あとは――――街の名前が変わった。

 

 市長も変わり、“心機一転”と言う事なのだろうか?

 

 ――“氷冷都市”は“北端都市”へ。

 ――<グランドル>は<ウィンターオーブ>へ。

 

 “氷冷都市”<グランドル>は“北端都市”<ウィンターオーブ>へと生まれ変わったのだ。

 ……正直、実感がない。と言うのが本音。

 ヴィーレ――私にとってはいつまでたっても<グランドル>なのだ。

 忘れたいような嫌な記憶の方が多きけれど、それでもその街の名を忘れたくないと思ったのは心からの思いである。

 他にも、街に近づいてきたモンスターや<UBM>対策に【氷王(キング・オブ・グレイシャー)】に就いている『超級職』のティアンが住み着いてくれると聞いたけど……名前は忘れた。

 

 

 「……何だか、少しだけ感傷的になっちゃうなぁ」

 

 

 私は独り言ともに小さくため息を吐く。

 何はともあれ、今この街は遅れてしまった時間を取り戻すように。【義賊王】シアンディールの意志を引き継ぎ、急激な変化を遂げ始めていた。

 自分の知っているモノが消えていく。

 それを少し悲しく思ってしまうのは、きっと当たり前の事なのだろう。

 ただ……頭では理解していたも、どうしようもなく悲しくなってしまうのも事実だ。

 私はたった一人、無言でその場に立ち尽くし――。

 

 

 

 

 

 「――なにボッチで立ち尽くしてんだ?」

 

 

 背後から放たれた不躾な声に。

 私が良く知る二人の足音に、再び大きなため息を吐いた。

 

 

 「……本当にホオズキって“気遣い”の『き』の字も知らないよね」

 『……シュリも。……そう、思う』

 

 

 私は小言ともに振り返る。

 自分で思っていた以上に長い時間、この場に立ち尽くしていたらしい。

 振り返った先にはホオズキとシュリちゃん以外の姿は一人として見られなかった。

 

 

 「んなもん実際にそうなんだからしょうがねぇじゃねぇか。逆にどう話しかけろっつーんだよ?」

 『……アホ、だ』

 「……話しかける選択肢自体が間違ってるんだよ。普通は少し遠くで黙って見守るとか――――もう今更だけど」

 「ハッ!! 俺には全然分かんねぇ事だな!」

 

 

 開き直るように胸を張るホオズキ。

 こうなるとこれ以上文句を言っても無駄だ。

 ただ、ムカつくので不満を込めた視線で睨んでおく。

 そして数秒間睨みつけ、私はシュリちゃんへと視線を移した。

 

 

 「――そう言えばシュリちゃんは何をしてたの? 全然姿を見なかったけど」

 

 

 するとキョロキョロと(・・・・・・・)周囲に視線を忙(・・・・・・・)しなく動かして(・・・・・・・)いた(・・)小さな蒼いジト目の視線が交差する。

 

 

 『……探してたの』

 「探してた? ……何を?」

 『……シュリの、同類のメイデン』

 

 

 Type:メイデンの<エンブリオ>。

 確かホオズキが城壁上で戦った【魔導狙撃手】の<マスター>の<エンブリオ>だったはずだ。

 「探してた」っと、言うことは何か聞きたいことでもあったのだろうか?

 私は何故探していたかを聞こうと口を開き……野暮な気がして止めた。

 <エンブリオ>は<マスター>にとっての切り札。

 仲間同士でも詳細を共有することは少ない、と、どこかで聞いた覚えがある。

 

 

 「そっか。会うことは出来たの?」

 

 

 私の質問にシュリちゃんは首を横に振る。

 そしてシュリちゃんの代わりにホオズキが口を開いた。

 

 

 「何でも朝早くに大きな犬のモンスターと一緒に街を出てく姿を見た奴が居たらしい。だから諦めて帰ってきたんだ」

 「……犬のモンスター?」

 「おう、首が二つある黒い巨大な犬だったらしいぜ?」

 

 

 首が二つ。

 黒い犬のモンスター。

 ……もしかして『地下迷宮』で番犬をしていた【オルトロス】だろうか?

 今の今まで完全に忘れていたけど、どうやら狙撃手の<マスター>が連れていったということなのだろう。

 あのまま放置されていたら、いずれ<マスター>に討伐されていたかもしれない。

 忘れていてなんだが、内心安堵の息を吐く。

 

 

 「それよりも……ほらよ。<愚者の石積み商会>の奴らからお前に渡してくれだってよ」

 『……てよ?』

 「――?」

 

 

 突然ホオズキから投げ渡されたモノ。

 空中で小さな放物線を描きながら落ちてくるソレを私は慌てて受け止める。

 そして……ソレを見た。

 

 

 「……これって」

 『よく分かんねぇが、自分たちには使えないからヴィーレが持っていてくれだってよ。その方がアイツも喜ぶや何やら言ってたぜ?」

 

 

 私の両手に収まったソレ。

 ソレはホルダーに納められた、一丁の『魔力式リボルバ(【弾痕マリア】)ー』だった。

 ……忘れることも無い。

 シアンさんが【ペイルライダー】に対して命懸けで時間稼ぎを行ったあの時、使った大切な武器。

 私が<地下墳墓>から骸と一緒に回収してきたアイテムである。

 

 

 「だけどこれはッ――――「おい、俺に言うなよ。返して来いっつってもあの雰囲気じゃぜってぇ受け取って貰えねぇぜ?」――――」

 

 

 言おうとした言葉は、ホオズキに重ねられて止められる。

 

 

 「それに『魔力式』っつーんだからお前が持ってても無駄にはならねぇだろ」

 『……だろ?』

 「……でも、私銃なんて握ったこと無いんだけど」

 「そんなん知らねぇーーよッ!! とにかく俺に言わずに商会の奴らに言って来いよ。もうすぐ街を出るらしいが今なら間に合うだろうぜ」

 

 

 ……それもそうだ。

 それに返品云々は関係なく、別れの挨拶も無しにこのまま互いに街を出るのは何だかさみしい気持ちもしてきた。

 だから……。

 

 

 「……うん」

 

 

 私は顔を上げ、【弾痕マリア】を胸に抱きかかえながら一歩踏み出した。

 

 

 「――私、商会の皆に会いに行ってくる」

 「おう、ゆっくりで良いぜ? 俺もちょっとした野暮用(・・・)があるからな」

 『……からな?』

 

 

 ホオズキとシュリちゃんの声を背後に。

 私は迷路のように入り組んだ貧民街の中を走り出す。

 この<グランドル>に訪れた時はあれほど迷子になりかけ、一人では決して歩けなかった貧民街。

 しかし、今は『焼却所』から<愚者の石積み商会>までの道が分かる。

 これからこの道も取り壊され、跡形もなくなくなってしまうのだろう。

 だけど……今は、この瞬間は。

 なんでもないようなその事実が、<グランドル>に住むティアンに近づけた気がして少しだけ嬉しかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 「――行ったか?」

 『……うん』

 

 

 ヴィーレが『焼却所』から貧民街へと走り去った数秒後、ホオズキとシュリは何かを待つように黙ってその場に(とど)まっていた。

 別にわざとヴィーレをこの場から遠ざけた訳ではない。

 ただあえていうなら、これから行うのは“後始末”。

 そして【砂鉄滋竜 モノポール】と【魔導狙撃手】アインとの決着つかずによる不完全燃焼の憂さ晴らしだ。

 

 

 「此処に居るんだな?」

 『……うん。……何処か分かんないけど、居る』

 

 

 視線は逸らさずそのまま。 

 互いに顔を合わせることなく、メイデン特有の念話を使うことなく会話する。

 それは挑発(・・)

 ホオズキとシュリ以外に居るはずの無い、第三者に聞かせるようにわざと話す。

 ――そして。

 

 

 「――ハッ! それが分かりゃ十分だぜ!!」

 『……うる、さい』

 「るせぇっ! ――行くぜ、シュテンドウジッ!!」

 

 

 大きな、耳を塞ぎたくなるような掛け声。

 同時にシュリは、【到達鬼姫 シュテンドウジ】は<エンブリオ>として<マスター>の思いに呼応する。

 

 ――『少女』が『光の塵』に。

 ――『光の塵』は『血』へ。

 

 一瞬のうちに、シュテンドウジはホオズキの体内へと吸い込まれるように消えて去り、そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 『チュ、チュチチチチチチチチッ!!』

 「――あ?」

 

 

 地面から生え伸びた不可視の『針』。

 注射針のようなモノが、奇妙な鳴き声と共にホオズキの身体を深々と貫いていた。

 

 ホオズキは何が起こったのかも分からず、驚きの声を漏らした。

 ……それもそうだ。

 その注射針は不可視の針。

 完全な予想外な場所から放たれ、防御不可能な不意打ちなのだから。

 訝しげに顰められた鋭い眼孔は針の突き出る地面へ。

 同時にその存在を認識し、視界にはモンスターの固有名称(・・・・)が浮かび上がる。

 

 

 

 ――【吸血清 オールドリーチ】、と。

 

 

 

 それはヴィーレ達がこの<グランドル>へ到着した際にシアンさんから教えられた<UBM>の一体。

 『伝説級』<UBM>――【吸血清 オールドリーチ】だった。

 その正体は、高度な擬態能力を持った『吸血蛭(キュウケツヒル)』。

 【オールドリーチ】は擬態能力に加え地面に潜行し、誰にも気が付かれないように『死体』から血を吸い生きていたのである。

 ホオズキの挑発と戦闘態勢に姿を現したが――関係ない。

 ――既に決着はつい(・・・・・・・)ているのだから(・・・・・・・)()

 

 

 『チュチチチチチチチチッ!!』

 「――グッ!」

 

 

 注射針のような【オールドリーチ】の吸血口。

 硬質化した針はホオズキの心臓を正確無比に貫いてた。

 

 そして……ホオズキの全身の血を吸い尽くすのに3秒もかからない。

 

 無慈悲にして速攻。

 不可視の一撃。

 改めて断言しよう――『既に決着は付いている』、と。

 

 

 「……もしかしてこれだけか?」

 『チ、チチチ……!?』

 

 

 そして【吸血清 オールドリーチ】は今になって気が付いた。

 ――『何故この生物は心臓を貫かれても生きているのか』、と。

 本当ならば直ぐにでも気がつく出来事。

 気がつかなかったのは文字通り、ホオズキの挑発で“頭に血が上って(・・・・・・・)いた(・・)”のか。

 

 

 「シュリ」

 『……大丈夫。……あと7割、ぐらい?』

 

 

 ホオズキとシュテンドウジの意味の分からない会話。

 しかし【オールドリーチ】はその会話が指す意味が分かってしまった。

 では、7割とは何か?

 それはきっと【シュテンドウジ】の保有する血の残(・・・・・・・)()

 【吸血清 オールドリーチ】は『一秒で一リットルの血を吸血する』。

 成人した男性で、全身の血の量は『4L~5L』と言ったところだろう。

 殺すだけなら、もっと少なくても大丈夫かもしれないが。

 

 ――今、何秒経過しただろうか?

 

 おそらくは十数秒程度。

 1人の人間の致死量の3倍以上の血を吸っている計算だが……それでも残り7割以上残っていると言うのは【オールドリーチ】にとっては絶望的な数字だった。

 

 

 『チュ、チュチチチチチチチチッ!!』

 

 

 【オールドリーチ】は自分の置かれた状況を理解し、吸血を止め、吸血口を引き抜こうとするが……。

 

 

 『――チ、チチチッ!?』

 

 

 ……抜けない。

 それはまるで『筋肉で締め付けられ、針を抜けない蚊』のよう。

 《血の代償(ディール・ブラッド)》による再生するホオズキの筋肉が。

 【吸血鬼】の《血液操作》による凝血した血の拘束が、吸血口を絡め取ったのだ。

 元々、【オールドリーチ】は非力な<UBM>。

 ステータス特化のホオズキと【到達鬼姫 シュテンドウジ】を振り切る事も出来るはずもない。 

 【オールドリーチ】は必死にホオズキから逃れようと、砂色の血が貯められたら袋のような体を蠢かせ――――次の瞬間、その身体を膨れ上が(・・・・・・・)らせた(・・・)

 

 

 「……ヴィーレの奴は騎兵の<UBM>相手にギリギリの戦いを繰り広げたらしいが……。まぁ、相性差ってやつか」

 

 『――~~~ッ!!』

 

 

 肥大化する【オールドリーチ】の身体は、【オールドリーチ】自身にも止められない。

 まるで限界まで水を流し込んだ水風船。

 今にも破裂して中身をまき散らしそうな状態である。

 しかし、構わず<エンブリオ>の『血』は【オールドリーチ】の許容量を超えて流れ込む。

 

 そう……ホオズキの<エンブリオ>であるType:メイデンwithアームズ、【到達鬼姫 シュテンドウジ】。

 

 それは【吸血清 オールドリーチ】を完全にメタった。

 星の数ほどある<エンブリオ>の中で最も天敵である存在。

 

 

 「てめぇに気づいたのは【義賊王】の野郎と此処に来た時だったんだけどな。……てめぇが血を吸ってたからか? 街に染みついた血の気配に対して此処だけその気配が薄すぎる(・・・・・・・)

 

 

 【シュテンドウジ】は血の<エンブリオ>。

 生物の血を感じ取ることが出来る程の、特殊な索敵手段を持っている。

 それもこの<グランドル>では、【解体王】の『死体生物』の影響で役に立つ機会は限りなく少なかったが……逆に血の気配の濃い街で、一部だけ薄すぎるのが仇となった。

 ある意味不幸な【吸血清 オールドリーチ】。

 ホオズキが居なければ、それこそ索敵に特化した<エンブリオ>でも来なければ見つかることは無かっただろう。

 

 

 「――まっ、【解体王】が<監獄>送りになった以上、死体の量が少なくなっていずれてめぇは街のティアンを襲う。そうなりゃぁ、何時かは討伐されてただろうがな」

 『……気付いたの、シュリ。……だけどね』

 

 『―――――チ、チチッ』

 

 

 饒舌に語るホオズキとツッコミを入れるシュテンドウジ。

 【吸血清 オールドリーチ】はその会話を、何も出来ずに聞いている事しか出来なかった。

 限界以上に肥大化した体は動かせず。

 血に押しつぶされた内臓は機能せず。

 ただ死を待つように、擦れた鳴き声を上げた。

 

 そんな【吸血清 オールドリーチ】をホオズキは鋭い視線で見下ろす。

 

 

 「結論を言いやぁ、てめぇは詰んでたってことだ」

 

 

 最後の言葉と共に、街に残っていた『一抹の不安(【吸血清 オールドリーチ】)』は地面に赤いシミを残し、

 

 

 

 【<UBM>【吸血清 オールドリーチ】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【ホオズキ】がMVPに選出されました】

 【【ホオズキ】にMVP特典【血清精製円筒噐 オールドリーチ】を贈与します】

 

 

 

 ――身体の内側から破れ、跡形もなくはじけ死んだのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 【襲撃者】ホオズキと【吸血清 オールドリーチ】の静かな戦いの決着。

 絶対時間にして一分にも満たないは、ホオズキ自身も驚くほどに呆気ないものだった。

 『焼却所』から絶え間なく立ち昇っていた躯を火葬する白煙はいつの間にか止み、地面にできた血溜まりを砂漠の砂が見る見るうちに吸い取っていく。

 ――勝者は1人。

 心底つまらないと言いたげに、不機嫌に眉をしかめ口をへの字に曲げる。

 

 

「……伝説級<UBM>っつーからどんだけ強えぇのかと期待してたけど――糞雑魚じゃねぇか」

 

 

 以前戦った『逸話級』<UBM>――【炬心岳胎 タロース・コア】の方がよっぽど強敵だった。

 自分が強くなったと言ってしまえばそれだけだが……不完全燃焼の闘争心を晴らしにきたホオズキから見れば納得のいかない結果である。

 そして……

 

 

 『……最悪』

 

 

 つまらなさそうなホオズキよりも更に不機嫌そうな声と共に、ホオズキの傍らに小さな鬼っ子のシュリが現れた。

 長さの違う小さな二本の鬼角。

 纏めて束ねてある蒼いロングヘア。

 ホオズキにとって既に親の顔より見慣れた相棒だ。

 

 

 「なに怒ってんだよ。……もしかして血を大量に使った事気にしてんのか? 戦闘なんだぜ? 血を使うのはお前も分かってんだろ」

 『……違う』

 「はぁ? じゃぁ、何で怒ってんだよ?」

 『……血を使う。……血を、無駄にする。……似てるけど、全然違う』

 

 

 ……どうやら、『血を大量に送り込んで破裂させる』という戦い方が気に入らなかったらしい。

 正確に言えば、無駄にした事に。だろう。

 ホオズキの<エンブリオ>である【シュテンドウジ】は、血に関しては少し厳しい。

 『血』の置換型故の性格か。

 ホオズキはそんなシュリの言葉に、呆れたようにため息を吐いた。

 

 

 「んな事よりソレ(特典武具)拾っておいてくれ。血に関してはお前の方が詳しいだろ」

 『……んっ』

 

 

 しぶしぶと言った様子で指示に従うように、シュリは地面から『特典武具』を拾い上げる。

 小さな腕に抱え込まれた【オールドリーチ】の『特典武具』――ソレは『小さなポーチ』に入った『二本の硝子製の円筒形の筒(シリンジ)』だった。

 大きさ、形は車に取り付けてある発煙筒に近いだろう。

 上円部を押し込むことで注射針が飛び出し、採決。投与が可能なシンプルな構造だ。

 シュリは【血清精製円筒噐 オールドリーチ】の詳細にまじまじとジト目を通し……。

 

 

 『……ん。……かなり使える、かも?』

 

 

 不機嫌だった声が、少しだけいつもの声に戻った。

 

 

 『……状態異常攻撃持ちの、モンスターから……血を採る。……そしたら【血清】が、できる?』

 「なんだそりゃ。全然使えなくねぇか?」

 

 

 簡潔にまとめられた【血清精製円筒噐 オールドリーチ】の説明。

 しかし、ホオズキはそんなシュリの説明を聞き、鼻で笑うように一蹴した。

 端から聞けば傲慢な言葉。

 状態異常の回復アイテム精製噐など、どの<マスター>から見ても喉から手がでるほど欲しいアイテムに違いない。

 だが、ホオズキに限ってはこう言ってしまってもしょうがなかった。

 

 ――【シュテンドウジ】は強化と再生の<エンブリオ>。

 

 肉体やHPのダメージは血がある限り即座に完治可能である。

 加えて、【タロース・コア】の割合回復パッシブスキル。

 【毒】になったとしても、ちまちまと血を採血し、【血清】が完成するまで待っているより先に敵を殴り殺した方が早いのだ。

 ある意味、ヴィーレがそばに居ることも必要性を感じなかった要因の一つだろう。

 ホオズキは【オールドリーチ】を使えないと判断し、そして……

 

 

 『……違う、よ?』

 

 

 シュリは首を横に振った。

 

 

 『……【血清】は、状態異常の回復じゃ、ない。……一定時間の無効化? 

  ……それに、特殊な状態異常にも、対応できる? ……みたい?』

 「おぅ……よくわかんねぇなッ!!」

 『……あと、増血も出来る。……強いモンスターから、採血して、血を増やすことも出来る――はず?』

 

 

 ――増血できる。

 それはホオズキにとってもありがたい効果である。

 加えて、シュテンドウジは『血』のスタックをため込むことができる。上手くいけば増血した『血』を移し、理論上では無限に精製出来るだろう。

 ホオズキもその事を理解したのか、何度も大きく頷き。

 

 

 「――まっ、俺は壊しそうだしお前が持っとけよ。俺達もさっさとヴィーレを追いかけようぜ」

 『……絶対、分かってない』

 

 

 相棒(シュリ)へと丸投げした。

 そんなホオズキの姿に今度はシュリが呆れたようにため息を吐き、半開きのジト目を向ける。

 そして、

 

 

 『……別れの挨拶は、いいの?』

 

 

 『焼却所』に背中を向け、歩き出したホオズキにシュリは首を傾げた。

 しかしホオズキはそんな言葉に反応する事は無く、足を緩める気配もない。

 

 

 「いらねぇよ。あいつも俺に言われても嬉しくねぇだろ。冤罪の貸しも――コレでチャラだ、チャラ」

 

 

 どこかふざけるように笑って言う。

 

 

 「それに……」

 『……それ、に?』

 

 

 ホオズキは一瞬だけ足を止め、凶悪な表情を浮かべて笑った。

 

 

 「俺にもよくわかんねぇが、あいつとはまたどこかで会う。そんな気がするぜ?」

 

 

 そう言い切って再び歩き始めた

 

 

 『――?』

 

 

 シュリはそんな<マスター>の言葉により一層首を傾げ、そして。

 

 

 『……ホオズキ』

 「ぁ? 何だよ?」

 『……お酒買って。……高いやつ』

 「はぁっ!?? 何でだよ!? 自分で買えよ! そもそも俺には金がねぇ!!」

 『……問題ない。……討伐賞金が、ある』

 

 

 理解するのを諦めたように、ホオズキの背中を追いかけて走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

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