自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
□<カルディナ・レンソイス砂漠>
――“氷冷都市”<グランドル>と<黄河帝国>の中腹に広がる白い砂漠。
そこは<レンソイス砂漠>と呼ばれる、ティアンが決して足を踏み入れない場所。
天空を『神話級』<UBM>、【封儀神獣 ヒエログリフ】が。
砂中を『古代伝説級』<UBM>、【砂鉄滋竜 モノポール】が徘徊する<カルディナ>でも類を見ない危険地帯である。
そして同時に、夜には満天の星空と白銀に輝く海原が見る事が出来る『幻想郷』だ。
そんな二体の<UBM>が徘徊する<レンソイス砂漠>。
蟻地獄のような巣を持つ【サンドホール・ワーム】のようなモンスターならば避けて通るのも簡単だが、それぞれの<UBM>としての特性上、広域に察知能力を持っているので避けることも逃げることも難しい。
討伐に乗り出そうにも大空を自由自在に飛び回り、片や砂中に潜航し攻撃を当てるのもままならない。
居場所は分かっても倒せない。
……所謂“触れるな危険!”、なモンスターである。
その為、砂漠を渡る【旅商人】も【冒険者】すら近寄らないのが常識になってしなっていた。
しかしその日、朝日が地平線に顔を出し始めた早朝。
「――ふぁ~~~~……」
黒色の巨大な体躯の地竜だ。
『地亀』のような四肢と尾を動かし、砂漠の中を突き進む。
そんな……おそらく総合的な戦闘力は『純竜』に匹敵するだろう地竜の背、硬い岩盤のような堅殻の上で1人の少女が大きな欠伸を漏らし――固まった肩を大きく伸ばした。
『GAWUWUUUUuu~?』
「ううん、何でもないよアロン。久しぶりののんびりした旅だからちょっと眠くなっちゃったみたい」
地響きのような唸り声を上げたアロンに、少女はのんびりとした声で呟く。
たった一言。
たった一動作。
それだけで見る人が見れば、少女が只者ではない事が分かるだろう。
普通なら巨大な地竜に乗って移動など、空を飛べるモンスターにとって絶好のカモにしかならない。
しかし……今実際にこうして少女は怪鳥型のモンスターに狙われることも無く、のんびりとした旅をしている。
それが指し示す事実は三つ。
一つ、少女自身がモンスターから見れば敵わないと分かってしまう程の強者である可能性。
二つ、少女の《騎乗》する地竜が何らかの特異なスキルを持つ強力な騎獣である可能性。
そして三つ……前述の二つともを満たしている可能性。
いずれにせよ、少女らが只者ではない事は《看破》を使用しなくても一目瞭然だった。
そんな只者ではない少女は落ち着いた様子で。
穏やかな雰囲気で、彼方まで広がる地平線を眺めながら独り言を漏らした。
「……今日中に<レンソイス砂漠>を抜けて、予定通り<不冷の溶岩洞>で数日休憩かなぁ」
少女は頭からすっぽりと薄水色の【遮雨の外套】を被り、オレンジ色の瞳に紺碧の快晴の空を映した。
【遮雨の外套】なので、通気性もある程度有るのだろう。
ジリジリと照らす灼熱の太陽を遮るように、外套は少女の全身を隠している。
只者ではない少女。
しかしやはり女の子と言うことなのだろう。
太陽を気にする点や、その仕草からは女性らしさが垣間見えていた。
そんな少女を砂漠特有の突風が吹き付け、【遮雨の外套】が風に吹かれて激しくはだけて姿が見え。
――――訂正。
先程、陽光を気にしている。
女の子らしい、と言ったが少し違ったらしい。
「ガァァァーー~~ッ!! <カルディナ>は寒くなったり暑くなったり忙しいなぁ!! ――お前もそんな外套被って暑くねぇのかよ」
『……暑い。……溶け、る』
「もう……五月蠅いなぁ~。しょうがないでしょ、こんな格好なんだから」
背後で上裸で寝転ぶ男とぐったりとした鬼っ子の言葉に、拗ねたような口調で返事をする少女。
……なるほど。
確かに突風によって【遮雨の外套】がはだけた少女の格好は、少し露出が多く、そして――不思議と歪な服装だった。
――赤髪のショートヘアと、『花
――胸を隠したチューブトップに短いショートパンツ、そして腰ベルトに装備された『
――少女のその白い脚を覆い隠すようにショートパンツの下から伸びた『
赤髪の少女――【
もしくはこの暑さによるものか、頬を赤く染めながら【遮雨の外套】を引き寄せた。
【女戦士】専用装備の露出の多い服装。
そして、三つの特典武具が歪さを生み出していた。
「んだったら前の防具に着替えればいいだろ。どうせ【ジョブクリスタル】買い込んでんだしよぉ」
『……だしよ』
「……それが出来たら既に着替えてるよ……。【ペイルライダー】との戦闘で【スカーレット act.1】とブーツが修復不可能になっちゃったから」
「ガッハッハッハッハ!! そりゃぁ大変だな!! 俺の防具は『特典武具』だからかんけぇねぇぜ!」
『……使う前に、突っ込むけど……ね』
「……良いんだよ、勝ちさえしりゃぁな!」
後方で唐突に始める軽口の叩き合い。
2人とも寝転びながらの言い合いという、シュールな状況にヴィーレは熱の籠もった吐息を漏らした。
(――まぁ、【女戦士】のレベル上げもしなきゃいけないからいずれは着なきゃ駄目だったんだけど……)
既に一度カンストした【女戦士】。
しかし【ペイルライダー】との戦闘で使用した《軍神咆哮》のデメリットによって、そのレベルは1まで下がってしまっていた。
レベル上げ自体は上手く行けば《黄河帝国》に到着するまでにはカンストまで持っていけるだろう。
そう考えると、遅かれ早かれ《女帝の刻印》の装備制限で布地の少ない【スカーレット act.2】を着るの必須だった。
この装備を着る度にレジェンダリアの変態に近づいていく気がして常識と羞恥心がゴリゴリと削られていくけど。
……きっと、我慢するしか無いのだろう。
(レジェンダリアに帰ったらレズに新しい防具を作って貰おう)
ヴィーレは心の中でそう決意しながら、再び大きく溜め息を吐いた。
「……うん、でもまぁ、【女戦士】の装備制限中でも
ヴィーレはそう呟きながら【冥克騎脚 ペイルライダー】に触れ、その詳細を確認する。
詳細は以下の通り。
◆
【冥克騎脚 ペイルライダー】
<
黒死の疫病を振り撒き、魂を食い続けた黒狼の冥神騎の概念を具現化した神話の神器。
使用者を呪い、騎獣と騎兵に冥神の力を分け与える力を持つ。
※譲渡・売却不可アイテム
※装備レベル制限なし
・装備補正
HP+50%
AGI+30%
防御力+170
・装備スキル
《
・呪い
【装備変更不可】【ダメージ負担】
◆
【冥克騎脚 ペイルライダー】は『黒いガーターストッキング』と『騎乗靴』。
二つで一式の『特典武具』だった。
ヴィーレの膝上まで覆ったストッキングは薄く、そして驚く程に硬い。
脚を動かしても全く阻害感を感じないが、外から軽く叩いてみると硬い金属の音と感触がする。
――【冥神騎】の魔鎧の【アダマンタイト】。
――騎獣の巨黒狼の毛皮を鞣した布。
二つを足して2で割ったような、そんな性質を持っているストッキングだった。
下着とストッキングを固定するガーターベルトは《騎乗》中でも脱げたりズレたりしないようにするための親切心だろうか?
……正直に言うと、少し恥ずかしい。
スカートだったら隠れて目立たなかったはずだけど――――ショートパンツなので逆に目立ってしまっている。
恥ずかしい。本当に恥ずかしい。
きっと戦闘でも役立つし便利だが、今はその『特典武具』のアジャストが何処か恨めしく感じた。
騎乗靴もストッキングと同じ。
どちらかと言えば『布』よりも『金属』に近い素材で出来た黒のブーツ。
しかし、ただ真っ黒な騎乗靴と言うわけではない。
『紫紺の長剣』を連想させる"紫紺の徹甲”がつま先に取り付けられ、近接戦闘にも耐えられる仕様に。
夢で会った【冥骸騎】の女性の銀髪を彷彿とさせる“銀糸”の紐で、騎乗靴のきつさを調節できるように。
パッと見てもあまり目立たない。
よく見れば気が付けるような素朴な装飾が所々に施されていた。
ヴィーレはそんな【冥克騎脚 ペイルライダー】を改めて見て……眉を垂らす。
「ステータス補正も高いし……【呪い】が無ければ本当に強力な武具なんだけど……」
そう…………【呪い】。
<神話級武具>【冥克騎脚 ペイルライダー】。
【冥克騎脚 ペイルライダー】は強力な武具であると共に、
一度装備してしまえば、もう脱ぐことも叶わない【装備変更不可】。
そして騎獣へのダメージをヴィーレが負担する【ダメージ負担】。
『特典武具』としては異例のデメリット。
それはある意味、《天つ暁星の転生者》を用いて倒したヴィーレに対するアジャストだとも言えるだろう。
(――どう、なるのかな……?)
その【呪い】がこれから先、巻き込まれ、自分から首を突っ込んでいくだろう戦いの中で“吉”と出るか“凶”と出るかはヴィーレ自身にも分からなかった。
「《
《冥道の克服者》の効果は分かっているが、実際に使ってみなければ詳しいところまでは分からないだろう。
ヴィーレはふと視線を【ペイルライダー】から外す。
そして太腿の上で寝息を立てるフェイへと向けた。
どれほどの効果があるかは知らない。
だけど……きっと
「――それよりもよぉ、これからどうすんだヴィーレ? このまま元々の目的地だった《黄河帝国》を目指すのか?」
『……のか?』
背中越しに聞こえてくる気だるげな声。
ヴィーレはそんなホオズキの疑問に考え事を中断する。
「ううん、このまま何も無ければ到着予定の<不冷の溶岩洞>で数日休憩しようかな~って。急ぐような旅でもないし。それに【ペイルライダー】との戦いで《火焔増畜》の貯蓄を空になるまで使いきっちゃったから、その補給がしたいの」
<不冷の溶岩洞>は砂漠の中にポツンと出来た『自然型ダンジョン』だ。
出入り口の洞窟に入ると一面の溶岩湖が入り組み、地下へと流れ込む。
生息するモンスターも火に関係したモノばかり。
フェイの《火焔増畜》を貯めなおすのには絶好の場所である。
「……強い
「私も人伝でしか聞いてないけど……火竜が居たらしいよ?」
「ハッ!! そりゃぁ良いな! 俺が根こそぎぶっ倒して――――『……嫌だ』――――あ?」
『……絶対、熱い』
「文句言ってんじゃねーよッ! そもそもお前は『血』に戻るんだから熱いのは俺だけじゃねぇーか!!」
『……ホオズキは、足滑らせて、マグマに落ちるから。…………や』
唐突に始まる喧騒。
聞きなれた二人の声を背中に、ヴィーレは遥か彼方の地平線へと目を向けた。
そして……、
「――まだまだ
少し楽しそうな。
鼻歌まじりの独り言は太腿の上で眠るフェイにだけ聞こえ、雲一つない青空へと溶けて消えていったのだった。
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【雷霆艇雲 ヴィマナ】
最終到達レベル:50
討伐MVP:【
<エンブリオ>:【失翼天海 イカロス・ダイダロス】
MVP特典:古代伝説級【霹靂飛空艇 ヴィマナ】
【冥神騎 ペイルライダー】
最終到達レベル:84
討伐MVP:【
<エンブリオ>:【焔神廻鳥 フェニックス】
MVP特典:神話級【冥克騎脚 ペイルライダー】
【功夫拳獣 ワンパン・ダー】
最終到達レベル:79
討伐MVP:【
<エンブリオ>:【反転式 タイキョクズ】
MVP特典:逸話級【すーぱーきぐるみしりーず わんぱん・だー】
【迅竜王 ドラグスピード】
最終到達レベル:41
討伐MVP:【
<エンブリオ>:【怪獣女王 レヴィアタン】
MVP特典:伝説級【奮迅竜甲 ドラグスピード】
【十刀絡繰 ゼロセン】
最終到達レベル:22
討伐MVP:【
<エンブリオ>:【天月狼人 ジェヴォーダン】
MVP特典:逸話級【残刀
【吸血清 オールドリーチ】
最終到達レベル:62
討伐MVP:【
<エンブリオ>:【到達鬼姫 シュテンドウジ】
MVP特典:伝説級【血清精製円筒器 オールドリーチ】