自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
■<ヴァレイラ大砂漠>
それはヴィーレ達一行が、広大な<カルディナ>の砂漠へと足を踏み入れようとしている頃。
“氷冷都市”<グランドル>の付近の山々——<厳冬山脈>は今日も平和だった。
神話級<UBM>最強にして、<厳冬山脈>の空の王である【彗星神鳥 ツングースカ】やイレギュラーの<UBM>である最強の地竜種、【地竜王 マザードラグランド】などの強力なモンスターがひしめき合う超危険地帯。
例え、今のトップレベルの<マスター>(『超級職』保有&第五形態<エンブリオ>持ち)であろうと山脈の麓でデスペナルティになるのは確実だろう。
そんな前人未踏な<厳冬山脈>は、仮に今日新たな<UBM>が産まれようがその日常が変わることは無い。
――ギラギラと容赦なく照らしつける太陽に青い空。
――砂漠から立ち昇る熱気と山頂から流れ込む冷気が混じり合う、澄んだ空気。
――何処までも続く、果ての無い円を描く地平線。
そして……、
『
『『『『『
『――
『『『『『
その日、<厳冬山脈>の麓には絶えることの無い爆撃の雨が降り注いでいた。
規則正しく、そして無造作にばら撒かれる爆撃の通り雨。
その威力は語るまでもない。
<厳冬山脈>の麓で隠れるように生息していたモンスター達は無情な爆撃に木端微塵に吹き飛んでいく。
同時に山脈に
……いや、届いたとしても彼らの
爆撃を繰り返すモンスターの軍隊は――――伝説級<UBM>、【爆撃大尉獣 ボム・モンガー】率いるモンスター達は爆撃の爆風に乗り、更に大空へと飛翔することを繰り返していた。
その姿には、もはや<UBM>では無かった頃の面影。
【マグトリー・モモンガ】だった頃の弱い姿は全く想像することは出来ないだろう。
【爆撃大尉獣 ボム・モンガー】は<アルター王国>での【バジリスク】が変化した<UBM>との戦いでの勝利。
そして『伝説級』への進化を経て、新たな力を手に入れる為に<アルター王国>や<ドワイフ皇国>と<カルディナ>の国境に沿うように
クリクリとした大粒の丸い目やふさふさの短毛。
【マグトリー・モモンガ】だった頃から変わらない身体の大きさは未だに小さく、ティッシュ箱にすっぽりと入る程度しかない。
しかし、伝説級への進化を経て少しだけその姿は変化していた。
一つは、頭に被っていた軍帽に加えて、身に纏った『赤と黒を基調とした軍服』。
もう一つは、前まで【ボム・モンガー】の背にあった“黒い丸と燃える炎”の毛並みが消え、背負った軍服に新たに“黒い丸と燃える炎”。そして“笑う髑髏”が炎の紋様に重なる形で刺繍されていた。
いや……よくよく見れば【ボム・モンガー】だけではない。
『『『『『MON、MONGAー!』』』』』
加えてその中でも【爆撃大尉獣 ボム・モンガー】の直ぐ後ろを滑空する五匹は他の【マグトリー・モモンガ】よりも体が少しだけ大きく、そして……
その軍帽は、姿形は【爆撃大尉獣 ボム・モンガー】がまだ逸話級だった頃、【爆撃軍曹獣】の肩書きだった時と瓜二つである。
五匹のモンスター名に変化は無い。
しかし……《看破》で見ればそのステータスの差は二倍どころではない。
――そう、軍帽を被った五匹は『大尉』を支える
与えられた《無敵飛行軍令》の《指揮権限-Ⅱ》によって『軍曹』への
《指揮権限-Ⅱ》を持つ五匹の『軍曹』。
《指揮権限-Ⅰ》を持つ千匹程の『爆撃兵』。
そしてそれらをまとめ、指揮する《指揮権限-III》を持つ【爆撃大尉獣 ボム・モンガー】。
――<厳冬山脈>を覆う固い氷の地表を吹き飛ばす程の威力を誇る
――《無敵飛行軍令》による軍隊の全体強化。
それだけならば<伝説級>に当てはまる強さだっただろう。
だが『群れが大きくなるほど指揮能力が強化されていく』というデザインだった故に、その強さは管理AI4号ジャバウォックの予想を遥に超えるものとなっていた。
そして……<伝説級>へと変化した際に新たに生まれた固有スキル。
その効果によって【爆撃大尉獣 ボム・モンガー】が率いる
また、その事実を知る由もないモノがこの《厳冬山脈》の麓にも一体。
体長二メテルを超える大きな巨躯を誇り、身体中から大小長短の様々な筒を生やすモノは自身の縄張りを荒らし、上空を滑空する【ボム・モンガー】の群れに青筋をたてる。
そして……
『GooooooGAAAAAAAAAAA!!!』
薄氷を揺るがし罅を入れる大咆哮。
何かが燃えるような硝煙の臭い。
ソレは全身から生え伸びた対空砲と機関銃から、怪鳥すら撃ち落とす程の凄まじい威力を持つ氷弾を空へと向け無差別に撃ちはなった。
撃ちだされた氷弾はソレの近くを飛翔していた鳥型モンスターを撃ち落とし、【ボム・モンガー】の軍団が投下した爆弾を撃ち抜き、暴発させる。
突然の地上からの不意打ちに対して軍団が仮に機敏に進路を変更し、攻撃から逃れようとしても……関係ない。その氷弾の乱射は一切弾切れを起こすことなく軍団を追撃し続ける。
その銃撃を起こしているのは、たった一体のモンスターによる攻撃。
そのモノは“氷冷都市”<グランドル>の近隣に存在する三体の<UBM>の一角。
『GaGOOOOOOOOOOOO!!!』
――『逸話級<UBM>』、【
◆◆◆
大空を悠々と滑空する【ボム・モンガー】達を襲った対空砲による奇襲。
たった一体のモンスターによって張られた小さなモンスター一匹――――それこそ【マグトリー・モモンガ】がギリギリ抜けられるかといった高密度な弾幕。
『爆撃兵』vs.『対空砲』という互いに互いが天敵な関係。
それは一歩間違えれば軍隊が壊滅しても何ら不思議ではない状況であった。
いや……普通の人ならば「八割がた戦いの決着は見えた」、そう考え、興味を無くして目を反らしても可笑しくない。それほどに【オストヴィンド】の攻撃は唐突であり致命打になりうる攻撃力を秘めていた。
しかし現実は物語のように上手くは行かず、そしてこれはモンスター同士の戦い。
黒煙が立ち込める空。
その中から聞こえてきたのは可愛らしく、どこか勇ましさを感じる鳴き声だった。
『
『
同時に黒煙を突き抜け、姿を現した【ボム・モンガー】達。
そして不思議な事が一つ。
『
『
『
『
総数1000近い【ボム・モンガー】の軍隊。
驚くことに倒された【マグトリー・モモンガ】は居らず、その殆どが軽い【出血】程度の軽傷だったのだ。
(――運は我らに味方したらしい)
先頭を飛び、軍隊を率いる【ボム・モンガー】はモフモフの丸い尻尾を振った。
【ボム・モンガー】達がほぼ無傷で済んだ理由。
それはまさに幸運としか言いようがない。
【オストヴィンド】による奇襲と【ボム・モンガー】達の爆撃投下、二つのタイミングがピッタリと重なったのだ。
小さな木の実型の爆弾は偶然にも対空砲を遮る形になったのである。
そして小さいながらも地表の薄氷を吹き飛ばすほどの威力を持っている。
意識したわけではない。
だが結果的に爆撃は氷弾を吹き飛ばし、同時に爆風は【ボム・モンガー】達の離脱に一役買ったのだった。
軽傷というのも氷弾による負傷……と言うよりは至近距離で爆発した爆撃による負傷だろう。
だが、何より死者が出なかった理由。それは――
『――
愛らしく和んでしまうような見た目の【爆撃大尉獣 ボム・モンガー】。
【ボム・モンガー】はそのクリクリとした真ん丸の瞳の奥に強い意志と冷静な光を宿し、仲間たちに言った。
無傷で済んだ一番の理由。
それは一か月にも及ぶ
――奇襲にも決して動じず、下した冷静な判断。
――咄嗟に【オストヴィンド】から黒煙を挟んだ対角方向に脱出した機転。
――
始めはただ空回りしていた《無敵飛行軍令》と言う名の歯車。
それが経験の上に成り立った冷静な判断と言う名の補助歯車によって大きな音を立てかみ合い始めていたのだ。
(……我々とは相性が悪すぎる)
そんな自身の成長には気が付いていない【ボム・モンガー】は苦虫を嚙み潰したように毛を逆立て、逃走を開始しようとしていた。
敵は無尽蔵に、加えてほぼクールタイム無しに対空砲を乱射することが出来るのに対して【ボム・モンガー】達の《爆撃灯火》はおおよそ三十秒に一つの爆弾を作り出して爆撃するのが精いっぱいだ。
更に爆撃を食らわせるには敵の真上にまで移動しなければならない。
たった一体の敵。
それはある意味、攻撃を一か所に集中させなければならない事を示している。だが【オストヴィンド】は地表の氷を、空気中の水分を氷弾に変えて無尽蔵に乱射することができる<UBM>。
一点集中の爆撃を打ち落とすことは容易であり、逆に上空を通る【ボム・モンガー】達は格好の餌食になること間違いない。
故に、【ボム・モンガー】の判断は正しかったのだろう。
そして爆風で滑空する【ボム・モンガー】の軍隊であれば離脱はそれほど難しい事では無かった。
――
……何だ? この尻尾ががチリつくような感覚は。
先頭を飛翔する【ボム・モンガー】が真っ先に感じ取ったのは自身の尾の違和感だった。
(――我の立派な毛が逆なでされてるような……)
まるで何かを知らせるような奇妙な違和感。
恐らくそれはスキルでもない。
例えば、地震が起こる前に犬が吠える。鳥が群れをなして飛ぶ、といった比較的力の弱い生き物が持つ危険察知に近いものだろう。
今は『伝説級』<UBM>、【ボム・モンガー】も力の弱いモンスターではないが【マグトリー・モモンガ】の長をしていたことがあり、危険を察知する本能が染みついていた。
そして……。
(いや、この感覚には覚えがある……。これはアイツに我らの同胞が燃やし殺された時の――‼)
【ボム・モンガー】は不安に駆られ、滑空中にも関わらず思わず後ろを振り返った。
あの時のように――「自身の同胞に何かがあったのではないか」、と。
『
【ボム・モンガー】の瞳に映ったのは一匹の同胞。
『軍曹』の五匹とはまた別に自分を支える
その姿に【ボム・モンガー】はホッと息を吐き。
『――!!?』
次の瞬間、軍隊の進行方向。
【ボム・モンガー】が背後を振り返らず、進行速度が遅れてなかっただろう場所を高速で何かが通過したのを感じ取った。
【ボム・モンガー】はすぐさま振り返る……が、やはり既にその姿は無い。
(此処まで敵の攻撃が届くのか!? しかし先程の攻撃、下からでは無かったような……)
先頭にまで届くような対空砲ならば軍隊の被害はもっと甚大になっているはずである。
角度的にも此処までの攻撃は難しい。
それらの推測から導き出される答えは一つ。
『――
空を滑空する【ボム・モンガー】。
そんな【ボム・モンガー】が見上げた遥か上空には沢山の影――とあるモンスターの群れがあった。
――鋭く、直線的な嘴。
――自分達のモフモフの毛とは違う、白く鋼鉄を思わせる硬い羽毛。
【爆撃大尉獣 ボム・モンガー】は知らない。
数週間前、この付近の大空を縄張りとしている怪鳥型の<UBM>がいた事を。
その<UBM>が自身と同じ群れを率いるタイプであり、とあるティアンと<マスター>に討伐された為に率いていた配下のモンスターが文字通り“
ソレは“氷冷都市”<グランドル>でも恐れられているモンスターでいる事を。
『KWEeeeaaaaaaaー!!』
――名を、【チャージコンドル】。
そして今、下級モンスターでありながらティアン達に恐れられるミサイルのような突貫攻撃が【ボム・モンガー】達へと降り注いだのだった。
ほぼ半年ぶりに書いたので文章がおかしいかもです。