自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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前回が結構な戦闘ばかり。
+以前、感想でフェイがマグマなどからのリソースの貯蓄をする裏話を読みたい。

といったものがあったのでちょっとした休憩話です。


一日目 エスケープ・バカンス

 □ 

 

 

 

 

 

 ――『ダンジョン』

 

 

 それは『未知』の代名詞であり、冒険を志す者が一度は訪れる場所。

 ある者は自身の腕試しの為。

 ある者は遥か太古の財宝を手にする為。

 またある者は【冒険者(アドベンチャー)】系統の上位職や()()()()()()に就くためにダンジョンへと足を踏み入れる。

 その中でも、“商業都市国家”<カルディナ>には他国よりも数多くの『ダンジョン』が点在していた。

 

 

 ――世界に数個しか存在しない『神造ダンジョン』であり、超高難易度の<貧富の墳墓>。

 

 ――一度入れば踏破するまで出られない異空間ダンジョンとなっている迷宮、<蜃気楼の砂塔>。

 

 ――様々な砂中生息の純竜級モンスターが巣つくり、底の無い地割れへと周囲の砂ごと生物を吸い込む砂の魔境、<赤砂の蠱毒穴>。

 

 

 国土面積が最大な巨大国家に対して、人口の割合が少ないからだろうか?

 ……もしくは“三強時代”の激闘の爪痕がモンスターにとって住みやすい地形と化してしまっているからか。いや……きっと<マスター>が現れるまで『超級職』が居らず、互いに権力と富を奪い合うように“共食い”を繰り返していたことも理由の一端だろう。

 現在の<カルディナ>は最も多くのダンジョンを保有し、最も多くの『未踏破ダンジョン』が存在している国だった。

 そして……、

 

 

 

 

 

 「――――熱い……」

 

 

 今、ヴィーレ達が歩いている『自然型ダンジョン』である<不冷(イグニス)の溶岩洞>もまた『未踏破ダンジョン』の内の一つだった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 ――頬を伝う汗が肌を濡らして滴り落ち、マグマの中に溶けて消えた。

 

 

 沸々とマグマから湧き上がる気泡が空気を焦がし、熱気によって歪んだ空気が(ヴィーレ)を襲う。

 ……まるでサウナだ。

 あまりの熱さに火照った身体から流れる汗は限界を知らない。

 背中から流れ落ちた汗が下着に伝い、不快感が。

 滲んだ汗が胸元のチューブトップを濡らし、羞恥心が沸き上がってくる。

 

 (――これは失敗したなぁ……)

 

 私は首筋に張り付いた赤い髪を手で引き離し、乱れた呼吸を整えながらマグマが滝のように上から下へと流れ落ちる黒い岩盤の天井を見上げ、内心自分の準備不足を呪ったのだった。 

 

 

 

 

 

 ――<グランドル>を後にし、<黄河帝国>を目指して旅をすること4日。

 

 

 

 

 私とホオズキは砂漠横断で溜まった疲労とフェイの《火焔増蓄》の回復のため、<不冷の溶岩洞>と呼ばれる自然型ダンジョンへ訪れていた。

 

 『<不冷(イグニス)の溶岩洞>』

 

 命名の由来は“炎”を意味するイグニスか。

 もしくは<カルディナ>の北東部という、比較的涼しい砂漠の中で冷え固まることなく溶けて流れ続けるマグマから名前を取ったのか。

 ――もしくはそれ以外に理由があるのか……。

 ただ、地上にポッカリと突き出した洞穴型の<不冷の溶岩洞>。

 その内部へと足を踏み入れた私とホオズキにもたった一つだけ分かった事があった。

 

 

 「……これは……誰も踏破出来ていなわけだね」

 「――おう、この地形じゃぁ一歩でも足を踏み外せば即死だぜ。【救命のブローチ】も装備しても意味がねぇ」

 

 

 頬を伝う汗を片手で拭いながらぼやいた私。

 そんな声に前を歩くホオズキが相槌をうつ。

 

 

 「ホオズキは大丈夫でしょ。マグマに落っこちてもすぐに新しい手足が生えてくるんだし」

 「お前……俺をトカゲかなんかだと勘違いしてねぇか……?」

 「全然そんな事思ってないよ? トカゲだって生えてくるのは尻尾だけだからね。ホオズキみたいににょきにょき生えてこないって」

 「……何だかお前、最近あたりが強くねぇか?」

 

 

 互いに軽口を叩きながら進み続ける<不冷の溶岩洞>の内部。

 そこには視界いっぱいに何故<不冷の溶岩洞>が『未踏破ダンジョン』なのか。その理由が広がっていた。

 

 ――赤褐色の壁にマグマが冷え固まって出来た黒曜石の床。

 ――壁から流れ出た真っ赤なマグマが大小多数のマグマ溜まりを形成し、暗い洞窟内を壁に埋まった幻想鉱石がマグマの赤色の光を反射して仄暗く照らしだす。

 ――マグマの湖からは『ボコボコ』と、気泡とともにマグマが雫となって飛び散り辺りを溶かした。

 

 まともに人が歩ける場所じゃない。

 <不冷の溶岩洞>は迷宮型ダンジョンではない。

 ……所謂(いわゆる)、自然要塞型とでも言えばいいのだろうか?

 普通のダンジョンのように罠が存在しない代わりに、即死の原因となりそうなものが踏み出した足のすぐ横を流れていた。

 加えて棲みついているモンスターも並ではない。

 <不冷の溶岩洞>・地下5階。

 地下何階層まで存在するのかは誰も知らない事だが、既に出てきたモンスターは亜竜級モンスターが半分を占め始めていた。

 いや……。

 

 (……まだ誰も踏破出来てない理由はモンスターって言うよりも環境の過酷さのせいかな?)

 

 私は片手で手慣れた動作――自分のウィンドウを開く。

 

 

 『【脱水】【火傷】』

 

 

 そこに映っていたのは二つの状態異常。

 今はたった二つの状態異常で済んでいるけどこれ以上潜ると【脱水】は【脱力】に。

 【火傷】は【炭化】に悪化してしまうのだろう。

 多分、そこまで悪化するまでに【酸欠】によって【気絶】し、マグマに落ちてデスペナルティになると思うけど。

 

 

 「――おい、ヴィーレ。そこあぶねぇぞ?」

 「――っと、危ない。ありがと」

 

 

 踏み出した足が床に触れると同時に、岩盤に入っていた罅から超高熱の蒸気が噴き出した。

 それをホオズキの声に反応して咄嗟に避ける。

 ……どうやらあまりの熱さにボーっとしてしまっていたみたいだ。

 

 (まぁ、この装備(【冥克騎脚 ペイルライダー】)ならダメージを負うことは無いだろうけどね)

 

 もっとも、半鉄半皮のため、熱さは倍増しているのだが。

 

 

 「それにしてホオズキは全然平気そうだけど……」

 「あ? 俺はコイツで【血清】を作ってっからなぁ。全然熱くはねぇぜ?」

 

 

 そう言ってホオズキが取り出して見せたのは二つの円柱型の筒——【血清精製円筒器 オールドリーチ】である。

 いつの間に獲得したのかは知らないけど随分応用が利く『特典武具』らしい。

 だけど私達の中で一番元気なのはホオズキではないだろう。

 私は視界の端。

 元気よくマグマの湖の上を飛び回っている相棒(フェイ)に視線をやった。

 

 

 『KWEEEeeeee~~!!』

 

 

 そこには炎の身体を巨大化させ、楽しそうに鳴き声を上げながら炎のエレメント系モンスターを追い回している【焔神廻鳥 フェニックス】の姿があった。

 フェイは元々身体のほとんどを炎で構築した<エンブリオ>。

 この蒸し返すような熱さの中でも問題なく《火焔増蓄》は行えているらしい。

 私達の中で一番元気なのがフェイ。

 続いてホオズキで私だろう。(シュリちゃんはあまりの熱さで地下一階で“紋章”の中に引きこもってしまった)

 

 

 「……なぁ」

 

 

 そんな他愛も無い事を考えていると不意にホオズキが話しかけてくる。

 

 

 「ん?」

 「こういうダンジョン見てるとあれ思い出さねぇか? ほら、あれだ。『ポケ〇ン不思議のダンジョン』」

 

 

 ……よく分からない。

 

 

 「分かんないよ。私はこの<Infinite Dendrogram>以外のゲームはやったことは無いからね~」

 「そうか? あれだぜ? こういうダンジョンだと――」

 

 

 ホオズキの言葉は最後まで聞こえなかった。

 その言葉を最後まで聞き取る前に、私の歩いていた横のマグマの湖が大きく膨れ上がり、ソレが姿を現したから。

 

 

 『IttNuuuUUUUUUUUUU~~!!』

 

 

 マグマから姿を現したのは巨大な炎の猫だった。

 炎をコートのように纏った毛皮、縦に割れた真ん丸な目。

 猫には似合わない不思議な鳴き声を上げながら鋭い爪の伸びた肉球を振り上げ、私を斬り殺さんと勢いよく振り下ろされ――。

 

 

 『――パチンッ』

 

 

 次の瞬間、私は無意識に手を猫型モンスターの方へ伸ばし、指を擦り鳴らしていた。

 同時に横髪をまとめていた花の髪留めが僅かに光り、猫型のモンスターは動きを止める。

 そして、

 

 

 「――こういう風にマグマとか水の中を敵が進んできて攻撃してくんだよ。懐かしぃなぁ~」

 

 

 体の捻りを加えた鋭い一撃。

 時間差で放たれたホオズキの裏拳が猫型モンスターの鼻先に突き刺さった。

 

 

 『I、INuuuuuuu~~』

 

 

 比較的弱いモンスターだったのだろう。

 一撃で光の塵になって消えていく猫型モンスターを視界の端に、小さくため息を吐く。

 

 

 「そう言うことは早めに言ってよ……」

 「ガッハッハッハッハッハッハッハッハッ!! まぁ良いじゃねぇか! なんか、こう……知らない方がワクワクすんだろ?」

 「私はホオズキと違ってステータスは低いんだから。ここじゃ《騎乗》も出来ないし一撃でも貰えば瀕死だよ」

 「ガッハッハ! そう言うわりに余裕そうだったけどな!」

 

 

 大声を上げて笑い、前を歩くホオズキ。

 私はそんな背中を出来る限りの不満を込めて睨みつけた。

 ……冗談なんかではない。

 私の戦闘スタイル上、生身での戦闘力は上級職を一つカンストしたティアンといい勝負である。むしろ《騎乗》出来ない以上劣っていると言ってもいいだろう。

 加えて<不冷の溶岩洞>のモンスターは火属性のモンスターばかりだ。

 逆に言えば、ほとんどのモンスターが《火炎耐性》を持っている。

 敵に致命傷を与えられるのは【花冠咲結 アドーニア】による状態異常、あとは――。

 

 

 「……」

 

 

 腰のベルトに吊り下げられた『拳銃ホルダー』にそっと触れる。

 ――魔力式リボルバー【弾痕マリア】。

 あらかじめ弾倉に込めたMPによって威力の変化するコレならば敵にもダメージを与えられるはずである。

 

 (……とは言っても、私が潜れる限界は此処までかな)

 

 

 「ホオズキ」

 「あ? 何だ?」

 「私はこれ以上潜れそうにないし地上でゆっくり待ってることにするよ」

 

 

 一切歩みを止めることなくズカズカと突き進んでいくホオズキに私は話しかけた。

 これ以上熱い環境での対策装備的にも。

 精神的な疲れ的にも。

 そして攻撃手段的にも私はここが限界である。

 何より……、

 

 (せっかくの旅の休息なのに、わざわざ強い敵と戦いたくもないしね)

 

 私はホオズキとは違い、戦闘狂ではない。

 むしろのんびりと旅やクエストを楽しみたい派である。

 そんな私の思いとは裏腹に、不思議とこの頃は強敵との激戦や事件に巻き込まれてばっかりだったけど……身体を休めるにはいい機会だ。

 逆に言えば、戦闘狂であるホオズキは――

 

 

 「おう。俺はこのままダンジョン踏破を目指すぜ!!」

 

 

 ……だと思った。

 そしてどことなくデスペナルティになりそうな雰囲気がするのは気のせいだろうか?

 

 

 「……まぁいっか。三日ぐらい<不冷の溶岩洞>付近にいるからデスペナルティになったら急いで戻ってきてね」

 「死なねぇよ!」

 

 

 ホオズキは怒ったようにドスドスと足音を立てながら進んでいく。

 そのスピードが先ほどまでより速いのは本当に怒っているからか。もしくは私の歩くスピードに合わせてくれていたのか。

 どちらなのかホオズキに聞いてみたい気持ちが湧き上がるが、聞いたら聞いたで怒るのは確実だろう。

 私は【アイテムボックス】から【エレベータージェム】を取り出し、そして。

 

 

 『KWEeeee?』

 「ううん、フェイは私と一緒に戻らなくても大丈夫だよ。地上にアロンも待たせちゃってるしね。フェイはホオズキを助けてあげて。

  《物理攻撃無効》の炎のエレメント系のモンスターが出たら簡単にデスペナルティになっちゃいそうだし」

 

 

 どうせホオズキの事だ。魔法対策はしていないのだろう。

 デスペナルティになると迎えに行くのは私になるだろうし、時間的に大きなロスになってしまう。

 フェイも物理攻撃に特化したホオズキが居れば安心して《火焔増蓄》に専念できるだろう。

 私はフェイの温かい炎の羽毛の頭を撫でる。

 するとフェイは気持ちよさそうに目を細めて頭をすり寄ってきた。

 

 

 「……<UBM>に出くわしたら逃げるんだよ?」

 『KWEeee!!』

 「――不安だなぁ~」

 

 

 私はホオズキの背中を追って羽ばたいたフェイを見送りながら少しだけ笑みを浮かべる。

 そして、

 

 

 「よしっ、アロンも待たせちゃってるし私も戻ろう!」

 

 

 手に握った【エレベータージェム】を発動させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして地上に脱出して私が見たもの、それは。

 

 

 「……え?」

 

 

 私の思っていた以上に時間が経過していたのだろう。

 雲一つ無い快晴だった空はプラネタリウムよりも眩い満点の星を映し出し、まん丸な月が視界に映る。

 夜の砂漠の冷風は火照っていた体の熱を急速に奪い去っていき――――手足が凍りつき【凍結】の状態異常が発生した。

 いや、それだけではない。

 急速に重たくなる(まぶた)に力が抜け、傾いていく体の感覚。

 

 

 「――これって、【強制睡……ん……」

 

 

 途切れていく意識の中で最後に見たもの、それは<不冷の溶岩洞>の入り口近くで竜麟の甲羅に霜を下ろし、熟睡している【リソスフィア・ドラゴン】――アロンの姿。

 そして突然現れた私に驚いたように目を丸くし、慌てたように逃走を図るモコモコな巨大な羊のモンスター。

 

 

 

 

 

 ――【冷羊安眠 コールドシリープ】の姿だった。

 

 

 

 

 

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