自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
深夜テンションで書いたので戦闘シーンがあれです。
特に盛り上がる場面もなく……すいません
□<<トラーキアの試練・第九階層> 【騎兵】ヴィーレ・ラルテ
あの第六階層での決意から半日、アレウスに騎乗したヴィーレは第九階層手前まで辿り着いていた。
『“半日”で三階層分を突破』
そう聞くとごく短時間で簡単に進んでいったかのように聞こえはするが……実際そうである。
そもそも<トラーキアの試練>は下級職では困難、上級職なら容易に踏破出来るレベルの自然型ダンジョン。
ダンジョン入り口の空中落下や、【ハイド・グラビティー・グラトニーフォレスト】と言ったイレギュラーが存在しているからこそ、ヒュリア族の多くが戻らない難関の『試練』となっているのだ。
その二つが無ければ下級職でも……ましてや<エンブリオ>の補正を受け、亜竜級上位に位置するアレウスに騎乗したヴィーレが遅れをとることさえなかっただろう。
もちろんいくつかの理由もある。
一つは、ヴィーレが戦闘を極力避けて進んだこと。
メインウェポンである弓も無く、回復アイテムが尽きた。
加えて【騎兵】もカンストし、その他のスキルレベルも現状上げられる限界まで上げ切っている。
余計な消耗を避けるため戦闘を避けるのはごく当然だと言えるだろう。
そして二つ目は、ヴィーレが《騎乗》に集中した事。
普段の戦闘ではアレウスとヴィーレはそれぞれに役割を別け、感覚で通じ合いながら《騎乗》している。
しかし戦闘する必要のないこの状況により、ヴィーレは《騎乗》に専念しアレウスの全力を引き出すことに成功していた。
そもそも【騎神】の厳しい修業を受けたヴィーレとアレウスにとって、普通の森を駆けるなど散歩するのと変わらない。
その上限の見えない技術とアレウスのAGIを持って、あらゆる障害を躱し、モンスターを轢き殺しながら進むのは訳ない事だった。
「予想以上に早く着いたね。ここで一度休憩しよっか?」
『BURUUU』
第八階層から第九階層へと続く坂道。
ちょうど『マップ』の表示が第九階層を現わしたのを確認して、アレウスに止まる指示を出す。
その指示にアレウスは嘶きながら降りやすいように膝を折った。
いつもならしないその動作、それはもちろん怪我をしているヴィーレの為だ。
「ありがと。アレウスはなんだか騎士みたいだね」
ヴィーレは嬉しそうに笑みをうかべ、飛び降りる。するとその後に続く様にワンピースがヒラリと舞った。
左手の骨折に気を使ってくれたのだろう。
感謝を告げると無事な右手で、その鬣を撫でてやる。
「丁度開けてるし……ご飯にしよ」
ヴィーレは腰にぶら下がったポーチのようなアイテムボックスから残った食料を取り出す。
その量はアイテムボックスに入っていた食料全部だ。
余り食べる機会がなかった二日分の食料を一度に開放する。これから先の事を考えるならば、あまりに安易な行動だ。
しかし彼女にもいくつかの予感を感じたが上の行動だった。
それは……
「でも、ここまであからさまだと流石に疑うよね……」
『BURURU』
ヴィーレの呟きにアレウスが同意する。
そんな彼女が見つめる先にあったのは、もちろん第九階層。
しかしその様子は今までの森林が立ち並び、地底湖の水が流れているような階層ではない。
それを、第九階層を一言で言うならば……
「ここは『決闘場』でいいのかな?」
ヴィーレ言葉は的を得ている。
それはまるで古代ローマに実在したかのような『
第九階層の真ん中には、半径10メテルはあろう大きな円形の岩石。
はるか昔に造られたのか、所々が欠けてはいるものの人工的な美しい彫刻が事細かに彫られている。
そして……その周りは崖になっていた。
ダンジョンの入り口と同じ、底が見えないほどの断崖絶壁。
微かに水が流れる音がする事から、下では地底湖の水が流れ込んでいるのだろう。
それはまさに決闘場。
ダンジョンという言葉を歴史の授業で微かに聞いたことのある。その程度に知識しか持たないヴィーレでさえ、この第九階層に今まで見ぬ強敵……『ダンジョンボス』がいることを想像させるほどだった。
「もぐ……もぐ……、あの外の森から回り込めないかな?」
木の実で出来たクッキー(師匠お手製)を両手に見つめるのは崖の外側。闘技場から5メテル程外に剃り立った壁である。
崖を越えた先には今まで通りの森林が広がっていた。
アレウスの跳躍力があれば行けないこともないだろう。
だが……
(……やっぱり真正面から行こう)
ヴィーレは先ほどの考えを自身で破棄する。
それは師匠との修行で培った勘からの予感。
——きっと、決闘場を避けたとしても、
待ち受けるのは普通よりも遥かに大きな困難だろう、そんな予感がしたのだ。
きっと出口は闘技場、その奥に見える通路一本だけ。
ヴィーレは口元に付いたクッキーの欠片をペロリッと舐める。
そしてアレウスに、左手の紋章で眠っているだろうフェイに真っ直ぐな視線で微笑んだのだった。
「行こう……私たちの二度目の冒険に!」
◇◇◇
食事を終えたヴィーレはアレウスに《騎乗》すると、闘技場を目指し歩き始める。
その恰好は先ほどと全く変わらない。
ヴィーレには
持ちうる武器はアレウスの馬力、そしてヴィーレが持ちうる騎乗技術だけだ。
第五階層でのような油断はしない。
《危険察知》に加え、感覚を研ぎ澄ませながら闘技場の円状へと足を踏み入れ……
「ッツ!!」
『BURUuuuuU!』
一瞬にして周囲の空気が変化したのを感じ取った。
それは身も竦めるような凄まじい殺気。
今までの亜竜級モンスターとは比べ物にもならない、もしかしたらあの<UBM>よりも強いかもしれない程の。
無意識に体が硬直し、溜まった唾が咽を鳴らす。
通気性の良いワンピースだからか、背筋に冷たい汗が伝う。
そして闘技場の通路の奥から小さな物音が聞こえてくる。
それはまるで、
暗い通路の先に見えるのは大きな体と金色に光る縦の瞳孔。
人の恐怖を呼び起こすような声を放つソレは、ゆっくりと通路の奥から姿を現した。
「……蛇? ……じゃない、あれは」
――ソレを覆うのは光を吸収し、あらゆる攻撃を弾く
―—ソレは全てを切り裂く鋭い竜爪の四肢を持つ。
——ソレは自身より長い尾を引きずる。
―—ソレは最も有名なモンスターであり、最強の代名詞。
——ソレは『蛇』であり、『龍』であり、『竜』である。
そのモンスターは……
「……ドラゴン?」
『SHAAAWAWAWAWAWAAAAAAA!!』
ヴィーレが漏らした言葉を肯定するかのようにその『ドラゴン』は咆哮する。
いや、少し違う。これには訂正が必要だ。
彼女の前に現れたドラゴン。
一般的に『地竜種』に分類されるそのドラゴンだが、その形容はティアンが知るような地竜ではない。
普通の地竜よりもはるかに短い四肢と竜爪。
ドラゴンの象徴である二対の翼はなく、その胴体は龍のような細長い体をしている。
ソレは普通のドラゴンではない。
それは、
——『大蛇竜』……【ハイ・スパイラル・ドラゴン】。
150年以上の時を生き、『儀式』の最下層で待ち構える大蛇竜である。
◇
<トラーキアの試練>での死に至る、三つの大きな要因。
一つ目は、空中落下。
二つ目は、【ハイド・グラビティー・グラトニーフォレスト】。
そして三つ目こそ隠しようもない脅威、【ハイ・スパイラル・ドラゴン】だ。
神造ダンジョン除く、自然型ダンジョンなどでは最も強いモンスターがボスモンスターとなる。
大きなダンジョンなどではある程度の区切りにボスモンスターがいることもあるが、基本この法則は変わらない。
そしてこの【ハイ・スパイラル・ドラゴン】こそが<トラーキアの試練>における最強のモンスターだった。
神話級<UBM>【樹霧浸食 アームンディム】が襲来したのが約100年前。
しかし【ハイ・スパイラル・ドラゴン】はそれより前、約50年もの間『儀式』に挑むヒュリア族を殺してきた大蛇竜。
ある意味、ヒュリア族を半ば絶滅に追いやった原因でもあるモンスターだ。
<トラーキアの試練>の最下層に棲みつき、これまでに49人もの【女戦士】をカンストさせたヒュリア族を殺してきた。例外は50年前に訪れた人馬種族の男だけ。
まさに<トラーキアの試練>における最大の試練である。
目の前で威嚇音を鳴らしながら蜷局を巻く【ハイ・スパイラル・ドラゴン】。
その戦闘力は確実に純竜級、【ハイド・グラビティー・グラトニーフォレスト】とは違う純粋戦闘型モンスターだ。
おそらく全長も30メテルはあるだろう。
だが……
(……勝てない敵ではないはず)
速さだけで比べるなら《騎乗強化》で強化されたアレウスの方に軍配が上がる。
ヴィーレはアレウスに騎乗しながら【ハイ・スパイラル・ドラゴン】と睨み合う。
姿を現してからすでに10秒、ピリピリと緊迫した空気が周囲を包む。
そして、
「ハァッ!」
先に動いたのはヴィーレだった。
まるで何かに動かさせるようにアレウスを駆け始める。
その瞬間……ヴィーレがいた場所を何かが轟音と共に地面を抉り取る。
その何かをヴィーレは振り返り見た。
「……嘘!?」
ヴィーレが驚きに声を上げるのも仕方がない。
まるでミサイルのごとく地面を抉り取った何か、それは……
(あれが尻尾!?)
地面に突き刺さっていたのは螺旋のように捻じれた鋭い尻尾。
その尻尾は蜷局を巻いている【ハイ・スパイラル・ドラゴン】から
明らかに先ほどよりも尻尾が長い、おそらく体が伸びたのだ。
そしてそれと同じほど衝撃的な出来事。
(《危険察知》がまともに反応しなかった……)
正確には危険察知の警鐘が響くのと同時に攻撃が放たれていた。
見ていては躱せないような高速の尖尾。加えて信じられない程の伸縮自在性を持つ。
【ハイ・スパイラル・ドラゴン】自体が大きな鞭のようだ。
だがヴィーレも負けてはいない。
「行くよ、アレウス!」
『HIHIIiiiiiiiiIIN!!』
いつものような戦い方ではない、本来の【騎兵】としての戦闘法。
風切り音と共に高速で地面を穿つ尖尾、その
振り放そうと大きく振り払われる胴体を駆け抜け、硬い竜燐を渾身の馬力で踏み抜きながら走っていく。弓を持ちながらでは振りほどかれる、ヴィーレが《騎乗》に集中しているからこそできる事だ。
左手の怪我、そして弓がない事が本来とは逆のプラスに働いていた。
『SHAAAAAAWAWAWAWAA!!』
「フッ!」
全てが一撃必殺の威力を秘める穿尾、硬い鱗で放たれる叩きつけ、並んだ鋭い牙での噛みつき。
それらを避け、駆けあがり、強力な後ろ蹴りで弾き飛ばす。
《危険察知》すら遅れる高速の連撃。
何分にもわたる迎撃が繰り広げられる。
無傷だった体も振り払われた竜燐で切り付けられ、地面を爆散させる穿尾からの瓦礫がヴィーレとアレウスを襲う。
対して、【ハイ・スパイラル・ドラゴン】も立派に並んでいた鱗は剥がれ落ち、竜燐の無い部位に食らった攻撃からは血が噴き出し流れて出していた。
互いに一進一退。
劣勢に見えたヴィーレもその技術で戦力差を埋め、同等以上に戦えていた。
加えてヴィーレにとって【ハイ・スパイラル・ドラゴン】は相性がいい相手だった。
まともに攻撃が通らない樹木型モンスターではなく、攻撃も通りにくいもののダメージを与えられる。
【ハイド・グラビティー・グラトニーフォレスト】のように体力が無尽蔵なわけでもない。
加えて、あからさまな範囲攻撃をしてこない。
強い……だがそれだけの相手。
それがヴィーレにとっての【ハイ・スパイラル・ドラゴン】だった。
だが……
「体力、HPの差かな……」
同時にヴィーレは理解もしていた。
『モンスターと拮抗していては勝てることは絶対にない』と。
もちろん敵モンスターによって結果は異なる、だがこのまま戦って先に力尽きるのは確実に自分である。
この状態を脱出するには一撃、【ハイ・スパイラル・ドラゴン】の弱点に強力な一撃を与える必要がある。
「ドラゴンの弱点は逆鱗……あれだね」
『BURURURUUUUUU!』
駆けながら見つけたのは……【ハイ・スパイラル・ドラゴン】の尖尾、その付け根に生えた一枚の逆向きに生えた竜燐。
流石にファンタジーに疎いヴィーレも逆鱗の存在は知っている。
この<Infinite Dendrogram>の世界のドラゴンにも存在するかは半信半疑だったが、ヴィーレは逆鱗を見つけ出していた。
あの逆鱗を狙うことが出来れば【ハイ・スパイラル・ドラゴン】を倒すことも可能だろう。
だが問題はここからである。
(どうやってあれを狙うの?)
叩くべき逆鱗は高速で伸縮しながら、地面を穿つ尖尾の付け根。
狙うことはほぼ不可能だと言ってもいい。
無理やり攻撃しても返り討ちにあうのが関の山だ。
だが、好機は向こうからやってきた。
『SHUUUUAAA!!!』
大きな唸り声と共に動き出す【ハイ・スパイラル・ドラゴン】。
そのとった行動は……
これこそ【ハイ・スパイラル・ドラゴン】にとっての最大の攻撃であり防御。
地竜特有の地中から敵を感知できる《生体察知》と自身の尖尾を組み合わせた一撃。限られた闘技場という範囲内で敵を狙い穿つ
避けることは叶わず、その一撃にどんな敵も貫かれる事となる。
だが、それは逆に【ハイ・スパイラル・ドラゴン】が追い詰められている証でもある。
過去に【ハイ・スパイラル・ドラゴン】がこの戦法をとったことは5回も無いのだから。
地響きを立てながら地中へと【ハイ・スパイラル・ドラゴン】が吸い込まれていく様子を見ながら、ヴィーレも予感する。
決めるならここしかないと、そして終わりは近いと……
「行くよ、アレウス!! 《フラッシュ・ピアース》!」
『HIHIiiiiiN!』
長い戦闘で疲弊していたアレウス、その速度が最速を超えて加速していく。
同時に先ほどまでの戦闘音が嘘のように静まり返り、アレウスの駆ける音だけが決闘場に響き渡る。
戦闘の始まりのような緊迫した空気だけが辺りを支配し、
数秒の空白の後、それは来た。
『SHAAAAAAAAWAWAWAWAWAWAW!!』
地面から伸びる一槍。
それこそ【ハイ・スパイラル・ドラゴン】という銘の由縁、最速最恐の穿つ一撃。
【ハイ・スパイラル・ドラゴン】の《生体感知》はヴィーレを見失うことなく、闘技場を駆ける足音を容易に貫いたのだった。
【ハイ・スパイラル・ドラゴン】
ずっと【鞭竜王 ドラグウィップ】にしようか迷った挙句、下げられたダンジョンボス……
見た目は完全にガララア〇ャラ。
次回決着&ダンジョン踏破終了です。