自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
□<旧・ハムレット平原> 【騎神】ゴスト
「……後一時間。期待はしていたのですが……やはり駄目でしたか」
一人の人馬種族の男……ゴストは焚火の前でボソリと呟く。
老いを微塵も感じさせない視線を向けるのは地面にポッカリと空いた穴。
自然型ダンジョンである<トラーキアの試練>だ。
そんなゴストが弟子であるヴィーレを<トラーキアの試練>に送り出してから、既に三日と二十三時間が経過していた。
丁度、試練の制限時間である四日まで残り一時間。
ここまで来ると制限時間内での帰還は絶望的だ。
残り一時間でダンジョンを踏破出来る確率は限りなく低い。
もしかしたら今この瞬間もダンジョン内で足踏みしているか、モンスターに倒され<マスター>である彼女は別の世界に行っているかもしれない。
「…………やはり早すぎましたか」
目を伏せるようにして重いため息を吐く。
それはヴィーレに対する失望と言うわけでは無い。ただ、期待していた分の反動は大きく、久しく気分が落ち込むのを自身で感じる。
<トラーキアの試練>は下級職が挑むと考えても、それほど難易度の高いダンジョンではない。
加えて、【騎兵】と【女戦士】のジョブは
やはり軽率でしたか……。
今、目の前にヴィーレが戻っていないということはそう言う事なのだろう。
そう諦めかけた……その時だった。
「わっ! や、やっと出れた。【ジェム】なんて初めて使ったかも……」
霧でぼやけながらも目の前で光が収束する。
そこには先ほどまでいなかった一人の少女が驚いた様子で立っていた。
「あっ、師匠! 私やりましたよ!」
「……」
こちらに気づき手を振る少女に重たいため息を漏らす。
しかしそれは先ほどまでとは真逆、嬉しさを堪える為のため息だった。
そして言うのだ……。
「時間はギリギリですが……及第点をあげましょう。よく無事で帰ってきました、我が弟子ヴィーレ」
そんな言葉にヴィーレは笑顔で答えたのだった。
「……辛辣ですね。ですけど……ただいま戻りました、師匠」
モンスターの咆哮が鳴りやまぬ大魔樹林。
そんな中でやけに鮮明に焚火の弾ける大きな音が響いたのだった。
◇◇◇【幻獣騎兵】ヴィーレ・ラルテ
「……ヴィーレさんがこの世界の常識に疎い事は知ってはいましたが……まさかそこまでとは」
焚火の前で呆れたような目で私に視線を送る師匠。
私はその視線に目を逸らす事しかできない。
だけど半分は、師匠のせいだ。この世界に足を踏み入れて半分はこの辺境で暮らしているのだから。
……ぐぬぬ、疎い事は認めるが私は悪くない!
「しょうがないじゃないですか。【ジェム】なんて初めて知ったんですし……。
【エレベータージェム】なんて名前で書かれていても何のことか全くわかりませんよ」
私は頬を膨らませながら抗議する。
あの謎の小さく黒い【宝櫃】を発見後、ダンジョンからの脱出法が分からずにさ迷っていたのだ。
焦った、本当に焦った。
てっきり、簡単にダンジョンを脱出する手段があると思っていたからだ。
焦りに焦った私は第六階層まで突破……もとい蹂躙してしまったほどだ。
最後にはアレウスが【エレベータージェム】に気が付き、無事脱出できたのだが。
おかげでレベルが三つも上がってしまったほどだ。
「ハハハ、ヴィーレさんはこれからですから。自身の目で耳で体験しながら知っていけばいいと思いますよ」
……いや、【ジェム】ぐらいは教えておいてください!
口元まで出かかった言葉をご飯と共に飲み込み、視線だけで抗議する。
「しかし【幻獣騎兵】ですか……また難しいものを選びましたね」
……視線が無視された。
しかし【幻獣騎兵】が難しい? どういう意味なのだろう。
私は何かを言いたげな優しい顔で、私を見る師匠に首を傾げた。
「【幻獣騎兵】が難しいって……どういう意味ですか? 確かに転職条件は難しかったですけど、スキル自体はかなり強いよう思いましたよ?」
「そうですね、それは食べながらお話しましょう」
師匠はそう言いながらゆっくりと話し始めた。
「【幻獣騎兵】の転職条件は、
1、亜竜級の騎獣の保持。
2、単騎で純竜級モンスターのHPを六割削る事。
3、ジョブクエストの一定数達成。
4、レジェンダリアのジョブクエストで転職する事。
ここまではヴィーレさんも自身で確認しましたよね?」
「うん……実際に転職しましたから」
「【幻獣騎兵】の転職条件ですが、私たちから見たらほぼ達成不可能な条件なんですよ。
<マスター>はどんなジョブにも適性があると聞きますが私たちは違います。
途中でレベルが止まる者、転職条件を満たしたのに【幻獣騎兵】に成れない者。加えてレジェンダリアのような地形では、騎獣に乗って純竜級モンスターと戦闘するのは至難の業です。
ほとんどの者がその過程で死んでいきます。
……私の仲間にも【幻獣騎兵】は数人しかしませんでしたから」
……言われてみればそうかもしれない。
私たち<マスター>は死なない。加えて<エンブリオ>のステータス補正もある。
ましてや道中で私のように<UBM>に襲われるかもしれないのだ。
亜竜級モンスターでさえ何百万リルもする。
ティアン達から見れば【幻獣騎兵】になることが出来るのすら、奇跡と言っていいほどの可能性だ。
そう思うと……なんだかティアンの人々に申し訳なく思えてくる。
「別にヴィーレさんが落ち込む必要はありません。
ヴィーレさんは一人で全ての条件を満たしたのですから」
「あ、ありがとうございます」
「ええ……ですが【幻獣騎兵】が難しいジョブと言ったのは別の意味です」
……?
転職条件の事では無かったのだろうか?
「実は【幻獣騎兵】はレジェンダリアの固有ジョブであって、他に【〇獣騎兵】ととった騎獣の種族に特化したような似たジョブが存在します。
そちらは騎獣の種族によって転職できるものが決まりますが、そこまで難しくはありません」
そう言えば、私も上位職に【巨鷲騎兵】というのが出ていた。
今に思えば何で『巨鷲』なのかは分からないが、師匠が言うのはそう言ったジョブの話だろう。
「私はかれこれ二百五十年ほど生きてます……」
「……自慢ですか?」
「……」
「……」
……地雷だったようだ。
「……私は長い間生きてきました、ですが……レジェンダリア固有ジョブである【幻獣騎兵】の超級職を
書物も調べましたが、この800年間で【幻獣騎兵】の超級職に就いた人は誰一人いないのです」
「え? それって……」
「ええ、【女戦士】系統と同じ。
【幻獣騎兵】の
その言葉に思わず息を飲む。
【幻獣騎兵】の超級職を狙っていたわけでは無い。
しかし同時に愕然とする。
その師匠の言葉は私に重くのしかかった。
「とは言え、<マスター>が現れた以上いつかは見つけ出す人もいるかもしれませんが……。
加えて【幻獣騎兵】自体は優秀なジョブです。
あまりヴィーレさんが気にする事はありませんよ」
「……あ、はい」
そうだ、私が気にする事はない。別に【幻獣騎兵】が私の天職と言うわけでないのだから。
私は気を取り直すかのように自分の頬をペシペシと叩く。
別に気にしたりはしない……別に。
地道にコツコツとアレウスやフェイと一緒に強くなっていけばいいのだ。
師匠はそんな私の様子を微笑ましそうに眺める。
そして……
「……では、明日からの修行ですが、「ちょっと待ってください」……なんですか?」
「いや、あの……私もアレウスも精神的に疲れているので少し休息が欲しいかな~。……なんて」
本当にスパルタすぎる。
師匠の言葉に思わず顔を引きつらせながら笑う。
「そ、それにほら! 防具も破られちゃってまともな装備が無いんですよ」
私は焚火の前でクルリと一回転し、装備が変わっている事をアピールする。
まともな装備がない【幻獣騎兵】
聞いた限りでは【幻獣騎兵】はAGIとSTR、HPが伸びやすい様だが、私のレベルもまだ3。
例え亜竜級モンスターとはいえ、一撃でも食らえば即死もあり得る。
まともに戦えるような状態ではないのだ。
しかしそんな私の言葉に師匠は訝し気に目を細めた。
「可笑しいですね? その防具で【ハイ・スパイラル・ドラゴン】を倒したと聞きましたが」
「……」
「なぜ知っているとでも言いたげですね。
実は私のサブジョブでもある【従魔師】には《魔物言語》と言うモンスターの言葉を理解するスキルがあるんです。ヴィーレさんもいつか就くことをお勧めします」
(あ、アレウス!!? 裏切られた?)
思わずアレウスの方へ振り向く。
しかし何故かいつもとは違い、遠くを眺めるようにご飯を食べている。
……裏切り馬め! 修行はアレウスも一緒だからね!
「ふふっ、安心して下さい。これが最後の修行ですから」
「……最後、ですか?」
「ええ、私の……【騎神】として創り出したスキルを弟子であるヴィーレさんには会得してもらいます」
「前から思ってたんですけど、スキルってそんな簡単に創ったり伝授したりできるんですか?」
上級職である【幻獣騎兵】でもスキルは二つ。
それだけでもスキルと言う物がこの世界で大きな力を持つことを見てとれる。
そして【騎神】である師匠の創り出したスキル、そんなスキルを私が会得できるとは到底思えないのだ。
「いえ、スキルを創り出すことは簡単に出来ることではありません。
ですが【神】系統ジョブはスキル特化のジョブ。それでも私がこの人生で創り出せた『オリジナルスキル』は一つだけですが。
それに……」
師匠は私の目を見ながら言う。
「ヴィーレさんには才能がある。
才能がなければ、とうに修行の途中で死んでいますから」
「……なんだか嬉しいような、腹が立つような」
褒められた事は嬉しいけど……才能がなければ死んでた修行をしてたのか。
頭の中で渦巻くこの感情をうまく言葉に出来ない。
(だけど……ここまで来たら最後までやるしかないよね)
同時に絶対にここでやめるという選択肢も私の中にありはしない。
ここまで来たら、たとえ火の中水の中だ。
最後まで修行を生き抜いてやる!
「……いい目ですね、まるで昔の自分を見ている様です」
「え? 何か言いましたか、師匠?」
「……いえ、では明日から修行を始めますがいいですね?」
このまま続ける意思があるか問う師匠。
その質問に私は力強く頷く。
これが最後の修行、気合を入れなければ。
「では朝はモンスターの狩り、昼と夜はスキル習得の修行にしましょう」
「……モンスター?」
さっきの言葉は何かの聞き間違いだろうか?
スキルの習得の修行出なかったのでは……
「レベル3の【幻獣騎兵】なんて下級職と変わりませんからね……最低でも20まではあげます。
ヴィーレさんも技術も上がったようですし簡単ですね?」
……やっぱり私は駄目かも。
アレウス、関係なさそうな顔をしてるけど逝くときは一緒だよ?
こうして夕焼けと共に第二の試練は終わりを迎え、朝日と一緒に新たな試練が始まるのだった。
すいません、原作捏造ネタです……
今は【幻獣騎兵】の超級職はロストしてます……【破壊王】みたいな?