自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第15話 最後の試練

 □<旧・ハムレット平原> 【幻獣騎兵】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 新たな修行が始まってから五日後(・・・)

 大魔樹林には嬉しそうな雰囲気な師匠と……ボロボロで倒れ込んでいるヴィーレとアレウスがいた。

 予想以上の過酷な修行のせいでまともに声すら出ない。

 視界のHPの下では【出血】と【硬直(・・)】の状態異常が点滅し、体のあちこちに出来た打身がズキズキと痛む。

 そんな私の周りでは唯一元気そうなフェイが私とアレウスを蒼い炎で燃やしながら、ゴロゴロと転がっている。

 

 

 「……予想以上です。やはりヴィーレさんには才能があったようですね、まさか五日で習得するとは。

  私の予定では二週間は掛かると踏んでいたいたのですが」

 

 「……おかしい、本当におかしい。……これ、乙女にするような修行じゃないですよね」

 

 「ヴィーレさんは乙女である以上に私の弟子ですから」

 

 

 反動で動かない(・・・・・・・)()の中で、唯一動く口で恨めし気に呟く。

 今の私なら視線だけで師匠を呪えそうだ。

 ……と言うより早く治療してほしい。

 霧のせいか、湿った土がワンピースに沁み込んできて気持ち悪いのだ。

  

 (……あれ? 泥でワンピースは汚れたりしないよね)

 

 今更ながら少し疑問である。

 この世界では濡れたり壊れることはあっても、汚れたとこは見たことない。きっとそう言う仕様なのだろう……便利なので文句はないが。

 

 

 「師匠、今更なんですけど一ついいですか?」

 

 「なんです?」

 

 「この私の目の前に現れたスキル会得のア(・・・・・・・)ナウンス(・・・・)……スキル名が空白になっているんですけど、何でなんですか?」

 

 

 地面に倒れた私の視線の先。

 その先には先ほどから頭の中で鳴りやまない新たなスキル取得の簡易メニューの画面。【騎神】である師匠のオリジナルスキルの習得を示すアナウンスが流れていた。

 

 そう、最後の修行であり、今回のイベントクエストの目的であるスキルの習得を先ほど達成したのだ。

 

 しかし肝心な『スキル名』が変に空白となっている。

 そんな私の疑問に師匠も顔を顰める。

 

 

 「スキル名が空白? ……私も聞いたことがありませんね。

  もしかしたら私とヴィーレさんのスキルに根本的な違いが(・・・・・・・)ある(・・)ことが問題なのかもしれませんね。

  効果も私のスキルより一部劣化しているようですし、別のスキルとして認識されたのかもしれません」

 

 

 ……え? それってまだ修行が終わっていないと言う事だろうか?

 森の中はこれほど暑いというのに、思わず背筋に冷たい汗が流れる。

 

 

 「そんな顔をしなくても心配いりませんよ。違うスキルと認定されても元は同じです。

  スキル名はきっと、ヴィーレさんが自由に決められると思いますよ?」

 

 「……こんなにホッとしたのは久しぶりかも」

 

 

 思わず安心からかため息を吐く。

 しかしスキル名……全く思いつかないなぁ、考えたこともない。

 変な名前は嫌だが、“中二病”と言われるような痛い名前もいやだ。きっと名前をつけるのにも凄い時間が掛かるのだろう。

 スキル名は後で決めることにして、簡易メニューを閉じる。

 そして同じくメニューからステータス欄を開く。

 そこには【騎兵】だった時より、はるかに高いステータスとモンスターとの戦闘で上がったレベルが表示されている。

 それは……

 

 『【幻獣騎兵】Lv.23』

 

 朝から昼まで狩り続けた成果が出ていた。

 新しい武器である【純穿蛇竜の強弓・ネイティブ】のおかげか狩りの効率も上がり、レベルも予想以上に上がってしまった。

 <エンブリオ>のステータス補正もあるからか、【騎兵】の時よりもはるかにステータスの上りも良い。

 師匠にステータスを回復してもらい、疲弊した精神を癒すべく簡易拠点である焚火の元へと歩き出す。

 

 

 「そう言えば師匠。師匠のオリジナルスキルを受け継ぎましたけど、これからどうするんですか?」

 

 

 少し先をゆっくりと歩く師匠に疑問を投げかける。

 師匠からのイベントクエストも終わっていしまった今、これからの事も考えなければならない。

 クエストさえ終われば、師匠に従う必要もない気はするが念のために伺いを立てておく。

 すると師匠は首だけでこちらをチラリと一瞥する。

  そして歩いたまま返事を返してきた。

 

 

 「そうですね……ヴィーレさんはどうしたいですか?」

 

 

 まさかの質問に質問で返答……師匠にしては珍しい。

 もしかして私の要望を噛みしてくれるのだろうか?

 

 

 「私、騎兵ギルドに二週間も顔を出してませんし、一度<アムニール>に戻ろうかな~と。

  防具も買い換えたいし、アイテムボックスも一杯なので」

 

 

 それに【幻獣騎兵】になったことでジョブクエストも受けなければならない。

 アレウスの為に馬鎧も買ってあげたいし……従魔キャパシティも増えたので、新しい従魔を買うのもありかもしれない。

 亜竜級モンスターからドロップアイテムも落ちまくったのでギリギリ買えないこともないだろう。

 こうして想像するだけでワクワクしてくる。 

 やっぱり、買い物は女子にとって楽しみの一つだ。

 

 

 「そうですか……それはちょうどいい(・・・・・・)

 

 「え!? <アムニール>に戻っていいんですか? ………って、ちょうどいい? それってどういう」

 

 

 視界の端に見えてきた焚火。

 師匠は真っ赤に燃え続ける焚火を背景にするようにこちらに振り返った。

 

 

 「ヴィーレさん。【騎神】として、師匠として貴女に最後の試練を与えます」

 

 

 その声に今までのような穏やかさは一片たりとも見られない。 

 眼は睨むように鋭く、視線は私の目を貫く。

 暑さ故か、はたまた焚火の熱さか、私はゴクリと咽を鳴らした。

 その真剣さに自然と足の歩みを止め、師匠の続きの言葉を待つ。

 

 

 「今から<アムニール>に戻り、明日中にヴィーレを倒した<UBM>を討て。

  これを成して、私のクエストを終了とする」

 

 

 <UBM>……あの樹木型のモンスターの事だろう。 

 確かにリアルに戻った際に確認した掲示板には、あの<UBM>の討伐報告は見られなかった。

 

 

 「……それは……私一人でですか?」

 

 「もちろんです」

 

 「なんで……とは聞いていいですか?」

 

 

 その言葉に師匠は再び焚火へと向けて歩き出す。

 その足取りには、少しの焦りが見えていた。

 焚火の前に膝を折った師匠。

 その対面に私とアレウスが座るとポツリポツリと語りだした。

 

 

 「まず、私の寿命はもう一週間もありません」

 

 

 その言葉に頭が真っ白になる。

 

 ……なんで、師匠はこんなに元気そうじゃないか。

 ……そんな急な話、今聞きたくなかった!

 

 とっさに出そうと思った声も擦れて口から出ない。

 口だけが微かに動き、時間だけが流れていく。

 

 

 「人馬種族の寿命は150年前後……私の250歳と言う事自体がイレギュラーなのです。

  今でも昔に打ち倒した特典武具に生かしてもらっている状態です……しかしそれももう切れる」

 

 「そ、そんなの切れるっていうなら補充すればいいじゃないですか!

  そうすれば師匠もまだまだ生きていられる!」

 

 

 そんな私の慟哭にも似た言葉。

 しかし師匠は微笑みながら首を横に振る。

 

 

 「これでも最大限まで伸ばしきった結果なのです。

  50年前、ヴィーレさんも挑んだ<トラーキアの試練>の最奥地の『寿永の湖』でも試しましたが効果はありませんでした」

 

 

 『寿永の湖』……私の左手の骨折が完治した湖だ。

 

 

 「それに私はこれ以上の寿命を望みません、私は……あまりにも長く生きすぎた。

  人馬種族は駆け生きる者、ヴァンパイアや竜人族のような長命な種族とは違うのです」

 

 

 その言葉で思い出したのは師匠が初めに私に名乗った名。

 時代の波に取り残され、今を漂う『ゴースト』。

 

 

 「だからこそ、唯一の弟子である貴女の成長をこの目で見たい。

  私の生きた証を引き継いだヴィーレさんの姿を見てみたいのです。これは私の……しがない老人の小さな頼みですよ」

 

 「……な、そんな事言われたら嫌なんて言えないじゃないですか……」

 

 

 ぼやけた視界に耐え切れず、私は膝を抱えるように顔を埋める。

 そんな私を慰めるように厳つく、大きなしわだらけの手が頭を撫でた。

 この二週間、たった二週間で親のように優しく、そして厳しく接してくれた人の手。

 私はその手の暖かさに思わず膝を濡らしたのだった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 「……わかり、ました。その試練、私、受けます」

 

 

 途切れ途切れな言葉が出たのはあれから五分後のことだった。

 ……正直凄く恥ずかしい。

 この歳になって人前で泣くなんて……学校でやったらしばらくは泣いた噂で持ち切りになってしまうだろう。

 私は涙で腫れた赤い目を擦りながら師匠を見る。

 そんな私に師匠は笑いかける。

 

 

 「ありがとう、我が弟子ヴィーレ」

 

 「でも……明日中って言うのは何かあるんですか? 師匠の寿命もまだ暫くのこっているんですよね?」

 

 

 別に師匠の寿命がまだ残っているからゆっくりしていいわけでは無いが、少しは休息が欲しいのも事実だ。

 今は正午過ぎ……今から<アムニール>に向かえば、準備は出来ても休息は取れないだろう。

 もしかしてそれまでにあの<UBM>が倒されてしまう事を懸念しているのだろうか?

 師匠はその質問に難しそうに答えた。

 

 

 「そうですね……私はヴィーレさんにあの<UBM>が元は【ドリアード】か【トレント】だろうと言いましたね」

 

 「そう言えば……そんな事もあった様な?」

 

 「……実は他にも心当たりがあるモンスターがいます。

  女性の声を発し、木々を操るモンスター」

 

 

 師匠は頷きながら、重苦しく一言呟いた。

 

 

 「……【アルラウネ】、【魅了】を使用する珍しいモンスターでレジェンダリアにおいて賞金がかけられているモンスターです」

 

 「……【アルラウネ】?」

 

 

 少しだけリアルでも聞いたことがある。

 確か、女性の姿をした【マンゴドラ】の亜種。

 男性の精を吸い取り、成長する架空上の生物。

 

 (後は……花のような生き物だったっけ?)

 

 

 「でも【アルラウネ】って花の形を模した女性型のモンスターじゃなかったでしたっけ?」

 

 「ええ……だからおそらく、あの<UBM>はまだ【マンゴドラ】なのでしょう。

  しかし、今は不死である<マスター>が討伐しようと挑んでは死んでいます」

 

 「えっと……?」

 

 「きっとこのままだと……あの<UBM>が『開花(・・)』します。

  そうなれば<UBM>としての本当の姿、【アルラウネ】となるのでしょう。

  

  そうなれば……【魅了】の範囲は<アムニール>だけでなく、ここ<旧・ハムレット平原>にも及びます」

 

 

 その言葉を聞いて背筋が凍る。

 そうなればおそらくレジェンダリアは混乱に陥るだろう。

 今、あの<UBM>に挑むために【魅了】対策をしている<マスター>はともかく、他の<マスター>やティアンは【魅了】をレジスト出来るとは思えない。

 その先に待つのはティアン、そして不死の<マスター>同士による血を血で洗う殺し合いだ。

 そうなれば、ファフザーさんもジュシーネさんもそして師匠も全員死ぬ。

 

 

 「……そんな事。そんな事絶対にさせない」

 

 「えぇ、ですがおそらく時間は余り残されてはいません」

 

 

 その制限時間が明日。

 それ以降、もしくは私が倒すことが出来ずデスペナルティに陥れば、次ログインしたときにそこにあるのは地獄かもしれない。

 私は隣に座るアレウスに視線を送る。

 まだ……今のあの<UBM>の【魅了】なら《獅子勇心》で防げるかもしれない。

 だけど、開花してしまえばそれさえ防げない。

 

 

 「師匠、私やります。絶対にあの<UBM>を討ちます」

 

 「ええ、それでこそ私の弟子です」

 

 

 師匠は穏やかに私に微笑んだ。

 私も師匠に向け、力強く頷く。

 <アムニール>へ戻る方法は簡単だ、ただログインしなおし、スタート地点を<アムニール>に指定するだけ。

 数日前から気づいてはいたが、イベントクエストの途中だったので取らなかった手段だ。

 私はメニューからログアウト画面をタップする。

 そして……

 

 

 「……では行ってきます、師匠」 

 

 「ええ、勝ちなさい、ヴィーレ」

 

 

 私は師匠の笑顔に見送られログアウトしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして歯車は動き出す。

 始まるのは一人の少女と騎獣、そして<UBM>の戦闘劇。

 最後の試練が今、始まるのだった。

 




長かった……やっとです。
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