自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
ほんとは16話でエピローグまで行く予定だったのに……
□■□ 『とある文献・【神】系統超級職について』
【
《転職条件》
・【騎兵】系統ジョブでのボスモンスターのソロ討伐。
・騎乗技術の一定以上の技巧。
《転職クエスト》
・前任【騎神】との決闘。
【騎神】は例に漏れず、高い水準の技術を持つ事を前提とされた【神】系統ジョブである。
転職条件も明確であり、【神】系統では転職しやすい部類に入る。
しかしそれに対して【騎神】の性質は扱いずらく、ピーキーなジョブだ。
【騎神】はAGI型超級職である……がそのステータスは全く上昇しない、まさしくスキル特化な超級職と言える。
似ているジョブとしては、【抜刀神】が上げられる。
対人・対モンスターのどちらにでも対応できるジョブ。
同時に最も
その死因の多くが『事故死』。
【騎神】をまともに扱えた者は片手で数えるほどしかいない。
その原因は【騎神】の奥義でもあり、パッシブスキルである《一騎当神》。
・《一騎当神》:パッシブスキル
【騎神】の奥義
騎乗状態中のみ自身の騎獣が、LUCを除く全ステータスが装備補正等を除いた素の状態の10倍になる。
自分自身ではなく、
しかし……これは罠である。
今まで亜音速……もしくはギリギリ超音速で動いていた騎獣が、突然に超音速で動き始めるのだから。
以前に記述した通り、AGIが1万を超えるとその速度は比例して上がる。
超音速で動く騎獣、それは下手すれば神話級<UBM>にすら匹敵するステータスを手に入れる。
まさに一騎当千、【騎神】が駆る騎獣にふさわしいと言えるだろう。
だからこそ、【騎神】に就くものは『事故死』する。
騎獣は超音速機動で動くが……それを駆る騎兵自体のAGIは亜音速がほとんどなのだから。
彼らは自身の騎獣を御しきれずに死んでいくのだ。
過去に一度、END特化の騎獣を駆る【騎神】が現れたことを確認したが、【
元がAGI型である【騎神】はEND型の騎獣では本領を発揮できないことが確認された。
【騎神】は【神】系統ジョブでは異端中の異端。
天才が就くことが出来るジョブではなく、【騎神】に就いた上で天才的な技術を要求されるジョブである。
だが……もし仮に、【騎神】を十全に扱える騎兵がいたとするならば。
その【騎神】は、おそらく『一騎当神』の名を語るにふさわしい……
……神話級<UBM>を打ち倒せるほどの力を持つであろう。
◇◇◇<グリム森林・奥地> 【幻獣騎兵】ヴィーレ・ラルテ
「……師匠? 師匠がファフザーさんの言っていた天才騎兵?」
目の前で【魔樹妖花 アドーニア】や残った四人の<マスター>から守るように立つ師匠。
その名前に……名乗りに戸惑いの声を漏らす。
「……ええ、ですが過去の栄光です。今の私は唯の【騎神】、しがない老人ですよ」
「それは……そう? なのかもしれませんけど……」
「ヴィーレさんは私がカロン・ライダーでは嫌ですか?」
「……いや、そう言うわけじゃないですけど」
優しく、そしていつもとは打って変わって獰猛に笑う師匠。
その言葉に焦りながらも首を振る。
別に師匠は師匠だ。
私にとっては【騎神】であり、スパルタな優しい師匠。それは変わらない事実である。
(あれ? ……もしかして気づかなかったのって、私が鈍かっただけ?)
今更だが、よく考えればそれらしい行動や発言をしていた気がする。
過去に滅びた【女戦士】に就く種族など、それこそ百年も前に生きていなければ知りようも無いのだから。
そして同時に思い出す。
「でも師匠。 師匠はその……戦っても大丈夫なんですか?」
『寿命はとうに超え、いつ死んでも可笑しくない』、そう言っていた師匠が戦えるとは思えない。
もし、戦えたとしても……
「ええ、ヴィーレさんの考えている通りです。
これ以上戦えば……私は死ぬでしょうね」
「……ッツ! なら!、「ですがこのままではヴィーレさんは勝てないでしょう?」……」
その言葉に唇をかみしめる。
……そうだ、師匠がここに出てくる原因は私にある。
自身の実力不足のせいで師匠の寿命を縮めてしまう……これほど悔やんだことは無い。
『BURUUU……?』
心配げに私を見るアレウス。
その体は木々や植物の攻撃が当たったのか傷だらけになっている。
俯く私、そんな様子に師匠は微笑む。
「悔やまなくてもいいんですよ、どうせ死を待つだけの運命です。最後に師匠として弟子の力になれるのなら、これほど師匠明利に尽きることはありません。
そしてヴィーレさんには未来がある、これから強くなっていけば良いのですよ。それに……」
師匠は一転して厳しい視線を前方に向ける。
その先には四人の<マスター>……ではなく<UBM>である【魔樹妖花 アドーニア】がいた。
全身に矢を生やしたアドーニア、しかしその様子は何処かおかしい。
まるで何かを我慢しているかのようだ。
「それに……私の推測は間違っていたようです。
あの<UBM>は……【魔樹妖花 アドーニア】は既に『開花』しています」
「……え?」
その瞬間、師匠と私、そしてアレウスの目の前でそれは起こった。
「……へ!? なにこれ……何なのよ! こんなの今までしてこなかったじゃない!」
「あぁ~、油断したな~。《クリムゾン・スフィア》が使えない……いや、他のスキルも駄目そうだ」
師匠の出現を警戒していた四人の<マスター>。
その背後の地面から伸びた蔦が四人の四肢に絡みつき、その体を急速に干からびさせていく。
それはまるで水分が吸い取られていくかのよう。
スキル使えないのか、抵抗も出来ず10秒後には光の塵となって消えていく。
そして……
『AH、AHAHAHAHAHAHAHAHA—————————ッ』
それを成した、四人の<マスター>を殺したであろう【魔樹妖花 アドーニア】の笑い声が朝焼けの森に響き渡る。
先ほどまでの声にならない高周波のような叫び声ではない。
今まで以上にはっきりとした、女性の嗤い声。
しかし……どこか聞いていて心地の良い、綺麗で透き通るような美しい声。聞いているだけでも魅了されそうになってしまう。
そしてその姿も大きく変貌を遂げていた。
大樹のような樹木型だった容姿。
大きな大樹は縦に割れ、その中から大きな蕾が出現し、中から等身大の女性がこちらに微笑んでいる。
髪は新緑色で流れるように揺れ、黄色の瞳の顔が妖艶に嗤う。
「……凄く綺麗」
「魅入られては駄目ですよ。【アルラウネ】は状態異常とその美しい容姿で敵を惑わすモンスターですから」
「ッ! はい!」
師匠に叱られ、目が覚める。
……気が付かないうちに魅了されていたようだ。見ているだけで頭に霞が懸かるように、ボーっとする。
大樹形態での【魅了】より遥かに強いのかもしれない。
私は女性だから効きずらなくてもこの効果。
アレウスは《獅子勇心》で防げているようだけど……師匠も大丈夫そうだ。
「師匠は【魅了】が効かないんですか?」
「ええ、昔【魅了】を使う【ハーピィー】の<UBM>を倒したことがあるので」
師匠は視線を【魔樹妖花 アドーニア】から離さずに警戒しながら、首に懸けた羽根型のアクセサリーをこちらへ見せる。
きっと『特典武具』と言う奴なのだろう。
【魅了】を使うモンスターと言うのは以前話してくれた、騎兵を止めた仲間の話で出てきたモンスターなのかもしれない。
「推定、伝説級と言ったところですか……ヴィーレさんは少し休んでいてください」
「え? でもこれは私の試練なんじゃ?」
「ええ、ですからその間にアレウスを治療しておきなさい。万全の状態でもあれはかなり手ごわいはずですから」
……確かにそうだ。
アレウスは既に傷だらけになり、私も【毒】や【麻痺】、【衰弱】のせいでまともに戦えない。
このまま戦っても死んでしまうのが見て取れる。
(そうだ、私に出来るのは早く傷を治して師匠を助太刀すること)
私は師匠に向け、ゆっくりと首を縦に振る。
「ええ、それでいい。……では、私が時間を稼ぐとしましょう」
そう言いながら……【騎神】カロン・ライダーは突撃槍を構える。
こうして【魔樹妖花 アドーニア】と【騎神】カロン・ライダーの戦いが火蓋を切るのだった。
◇
——轟音。
同時に師匠の姿が掻き消え、【魔樹妖花 アドーニア】の右腕が消し飛んだ。
私もアレウスも、そしてアドーニア自身もその姿を捉えきれない。
ただ、先ほど立っていた場所にはクレーターだけが残っていた。
「……右腕だけ、やはり体が鈍ってますね」
呆然と見つめる先、【魔樹妖花 アドーニア】の向こう側で師匠が困ったように突撃槍を乱雑に振る。
同時に突撃槍に刺さっていた右腕が地面に転げ落ち、師匠の馬脚に踏み砕かれた。
そこにはいつもの師匠の影は無い。
そこに居たのは【騎神】カロン・ライダーとしての姿。
粗々しい足踏みに獰猛な笑み。
過去の英雄がそこにいた。
「見えもしないなんて……速すぎる」
『BURURURUR』
その姿に私も治療の手を止め、呆然と見つめてしまう。
アレウスも驚いているのか小さく嘶く。
「老いには勝てないと言う事ですかね……それでもこの<UBM>相手には十分でしょうが」
ヴィーレも知らない事だが、師匠の【騎神】のレベルは300を超える。
合計レベルで言えば800を超えるだろう。
騎兵系統で埋められたジョブ、そのAGIは6000近い。
老いから来る【老化】や【衰退】なども踏まえれば、そのAGIは4000程度といったところだ。素のAGIはアレウスと同じぐらいだろう。
では、【騎神】のパッシブスキル。
《一騎当神》はどう影響されるのだろうか?
答えは一つ——人馬種族でも騎兵系統に就けるように、自身の体が騎獣と判定される。
結果、カロン・ライダーのAGIは4万を超えていた。
「ハァッ!!」
4万を超えるAGIに1万程度のSTR。
そのステータスと技巧で振るわれる突撃槍は、その一撃一撃が必殺の威力を持つ。
『A……AAAaaaaaaaaA!!』
そんな攻撃を防ぐ様に【魔樹妖花 アドーニア】も、自身の手足である植物を操る。
【魔樹妖花 アドーニア】の<UBM>としての特異能力。
それは突き詰められた高能力なバフとデバフ。
自身にバフを付与し、敵に多量の状態異常をかける結界。
そして自在に操ることが出来る植物で自身を守り、敵の衰弱死を狙うのこそが【魔樹妖花 アドーニア】の本来のスタイルだった。
既に本来の姿に戻ったその状態異常の効果は凄まじい。
【魅了】や【猛毒】、【強制睡眠】や【麻痺】。
<Infinite Dendrogram>の世界において状態異常の力は重く、全ての状態異常を完全に無効出来ない以上【魔樹妖花 アドーニア】の強さは語るまでもない。
加えて、樹木型モンスター特有の再生能力もあればなおさらだ。
未だに誕生して間もなく、力を蓄えているゆえに伝説級<UBM>ほどの力しかない【魔樹妖花 アドーニア】。
……だが、もしその状態異常の結界を広範囲で展開したのなら?
その状態異常で多くのティアンや<マスター>、そしてモンスターが死んだとしたら?
そのリソースによって強化され『古代伝説級』、もしくはそれ以上……『神話級』<UBM>にすら成長するだろう。
実際、そういう『テーマ』でデザインされた<UBM>。
このまま成長を遂げれば、その通りになっていただろう。
そう、ヴィーレに……【騎神】カロン・ライダーに出会う事さえなければ。
自在に伸びる植物、そしてばら撒かれる状態異常。
だが【騎神】はそれさえ超えていく。
【騎神】カロン・ライダーの……彼の持つ神話級『特典武具』、【霧鹿樹脚 アームンディム】との相性が悪すぎた。
<UBM>としての格が違い過ぎていた。
『A、AHA————————?』
【霧鹿樹脚 アームンディム】のスキルはたった一つ。
――《
半径五メートルの結界内の植物を操り、霧を発生させる義足型の特典武具。
カロン・ライダーの寿命が尽きた今、彼を生かしている特典武具であり、結界内の生命力を操る能力を持つ特典武具だ。
既に尽きかけの有限の生命力。
この生命力が尽きると共に彼も……【騎神】も死ぬ。
だからこそ、彼は迷わない。
躊躇いなく消費される生命力は【猛毒】のダメージさえも上回り、【麻痺】や【強制睡眠】が莫大なMPによってレジストする。
戦闘時間にして3分もない短い時間。
しかし超音速機動で動くカロン・ライダーに木々の防壁は削り取られ、体は爆ぜ、操る木々は避けられていく。
まさに一騎当神。
残像さえ残し、超人的な技術を持って敵を討つ“超人幻馬”
全盛期ほどの力はないけれども、神話級<UBM>すら打ち滅ぼす一人の英雄がそこにいた。
騎兵スキル特化型超級職、【騎神】。
カロン・ライダーが人馬種族&超技術(次話で出る?)を持っているから可笑しくなってるだけの駄目ジョブ。
リアルで言うなら、『ゴールド免許取った瞬間にジェット機を操縦させられるジョブ』
ps.【霧鹿樹脚 アームンディム】、生命力って何やねんって言わないで……
自滅因子操る竜王さんもいるぐらいだし……
元ネタは、ものの〇姫に出てくるしし神様です(最終形態)。