自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
□<アムニール> 【幻獣騎兵】ヴィーレ・ラルテ
師匠との対面、【騎神】の転職クエストを受けてから約三週間。
私のジョブは以前と変わることなく【幻獣騎兵】のままだった。
そう、転職クエストである『前任【騎神】との決闘』に失敗……ボロ負けしたのだ。
……うん、師匠が強すぎるのが悪い。
「師匠が人間……ティアンの範疇を超えすぎなんだよね~。あれは仕方がないよ、フェイ」
『KUUUUUUE-』
隣を歩くアレウス……の上で寝転ぶフェイに話しかける。
自分で飛びもせず乗せてもらうなんて、もう完全に駄鳥だ。
卵の時からそうだったが、フェイは面倒くさがりな性格らしい。戦闘中も最近では飛ぶことなく私の肩の上で、炎をまき散らしているほど。
……鳥としての尊厳を完全になくしてしまっている。
そのうち飛び方を忘れてしまうんじゃないかと思うほどだ。
「あんな師匠、どうやって倒せばいいかも分かんないよ……」
全盛期の姿で現れた前任【騎神】、カロン・ライダー。
その力はまさに、人外ともいえるようなものだった。
――動く姿は幻影すら見えず、地面にクレーターを残すのみ。
――【魔樹妖花 アドーニア】の特典武具、【花冠咲結 アドーニア】の装備スキルである《
――仕切り直しとフェイに《騎乗》し、空へ逃げれば……100メテルという距離を跳躍し、突撃槍で一刺しにされた。
(……空中で跳躍してた気もするけど……気のせいだよね?)
《空中跳躍》スキルの付いたアイテムも装備してはいないのだ。
まさか唯の技術などと言うわけでもないだろう。
……ないよね?
伝説級モンスター……もしくはそれ以上のステータスに、【騎神】としての超技術。
槍の扱いすらも熟練のソレである。
特典武具がない状態でも、その戦闘力は凄まじすぎた。
【騎神】の座が空き、私が挑んだ後に二週間たった今も誰も就いていないのがその証拠だ。
……本当に人外過ぎる。
「でも後、一週間で再チャレンジできるんだ……。
次こそは絶対に師匠に勝とうね、アレウス、フェイ」
『BURUUUU!』
『KIIIIEEEE~~?』
「……フェイはこの頃怠けすぎなんだよ。それにこの三週間でレベルもだいぶ上がったし、【花冠咲結 アドーニア】の使える
きっと今度こそ勝てるよ」
伝説級<UBM>【魔樹妖花 アドーニア】の討伐前は“Lv.23”だった【幻獣騎兵】も、すでに今ではカンストまじかである。
メニューからステータス欄を開く。
『【幻獣騎兵】LV.87』
これが今の私、ヴィーレ・ラルテのレベルである。
合計レベルも100を超えた。
レベル上げと同時進行で『ジョブクエスト』をこなし、新たな固有スキルもいくつか手に入っている。
私自身のステータスも上がっている以上、次はもう少し善戦できるはずだ。
そして、何より……
「【花冠咲結 アドーニア】のスキルって……本当に反則だよね」
【花冠咲結 アドーニア】の装備スキル《栄華の庭園》。
その効果はまさにチートと言えるだろうものだった。
他の<マスター>が<UBM>を倒して特典武具を得ようとするのも頷けるほどの装備だ。
私は、
《栄華の庭園》:アクティブスキル
【アドーニア】の装備スキル。
自身を中心とした半径五メテルの空間内にいる敵へ、自在に状態異常を付与することができる。
状態異常を使用するモンスターのドロップアイテムへ【ドレイン】することで、状態異常を獲得&効果の上昇をさせることができる。
使用可能状態異常:【魅了】【猛毒】【麻痺】【強制睡眠】【死呪宣告】【衰弱】
これが【花冠咲結 アドーニア】の《栄華の庭園》の効果である。
……師匠曰く、私にアジャストしていると言っていたが。
「本当に強すぎるんだよね」
状態異常はこの<Infinite Dendrogram>において、とても重い。
それこそ何十種類という状態異常をある意味、全て使用可能になるのだ。
まさに反則的なスキルだ。
……師匠にはまともに機能しなかったけど。
再度、ため息を吐きながら歩く。
『BURUU』
するとアレウスが私に、目的地に到着したことを教えてくれる。
どうやらいつの間にか着いていたようだ。
ここに来るのはアレウスに出会った依頼、まさに久しぶりな来店である。
『魔王商店 中央大陸支部』
相変わらずの怪しすぎる店名に苦笑する。
私はアレウスに笑いかけながら、その古びた扉を再び開いたのであった。
◇
「久しぶりに来たけど……アレウスに出会ったころと全然変わってないや」
『BURUUU』
店内はあの時と変わらず古ぼけた不気味な店内。
アンティーク……などとは程遠い、古ぼけ、それでいた埃一つ落ちていない小さな店内だ。
そしてその店内の設置された棚には、至る所に【ジュエル】が並び、中がのぞき込めるようになっている。
「いらっしゃいま……ああ、お客様はあの時の」
小さな店内に男とも女ともわからない声が響く。
するといつの間にか……あの時と同じ、深く目元までローブを被った店主がいた。
「……こんにちわ、お久しぶりです。あの時はお世話になりました」
「いえ、店主として当たり前のことですよ」
店主は腕を振りながら明るく話す。
「それで今日は、お客様はどのような従魔をお求めで?」
「えっと……実は新しい従魔を買いに来たわけじゃなくて」
従魔キャパシティーに空きはあるし、お金も【魔樹妖花 アドーニア】の討伐賞金でそれなりにある。
……それでも純竜すら買えはしないけど。
しかし今日は、買い物に来たわけではない。
どちらかと言えば……鑑定してもらいに来たのだ。
私は右手の甲に引っ付いた【ジュエル】を取り外しながら店主に差し出す。
「実は師しょ……知り合いに従魔を託されたんですが、何の従魔かわからなくて。ここなら何のモンスターかも分かるんじゃないかと思ってきたんです」
それは【魔樹妖花 アドーニア】との戦闘中に、師匠が最後の言葉と共に託された従魔。
転職クエストで師匠に聞きそびれてから三週間。
調べたり、《喚起》して接触を図ってみたが何のモンスターか全くわからなかった。
結局後回しにしてしまい、今頃になってこの『魔王商店 中央大陸支部』思い出し訪れたのだ。
「……鑑定も確かに出来はしますが……モンスター名は見なかったんですか?」
従魔は自身のステータスから、その詳細を確認できる。
そこから名前がわかるのではないかと言いたいのだろう。
「名前は【リソスフェア・ドラゴン】ってなっていたんですけど……《喚起》しても何にも現れなくて」
名前で言うなら『地殻竜』。
おそらく竜種だということはわかるのだが、姿さえ見たことがないのだ。
しかし、店主はそんな私の言葉に驚いたように肩を跳ね上げる。
「【リソスフェア・ドラゴン】ですか!? ……また珍しいモンスターを渡されましたね」
「珍しい……ですか?」
どうやら、どのようなモンスターかを知っているようだ。
落ち着いた様子でその詳細を私に話し始める。
「【リソスフェア・ドラゴン】はその名の通り、純竜種の一種です。
竜とは名うっていますが、その形は亀に近い。
地竜種にあたるモンスターで、地中や海中を移動することができる珍しいドラゴンですよ」
地竜種でありながら海中でも行動可能な純竜。
それは確かに珍しいように聞こえる。
「しかし何より【リソスフェア・ドラゴン】の優れた点は、高い隠密能力です。
その隠密能力はモンスター内でも高いレベルに位置します。これがこのモンスターが珍しい原因ですね」
「……? でも高い《看破》スキルを持っている人なら、簡単に見つけられるんじゃ」
そんな私の疑問。
店主は笑いながら私に疑問で返す。
「お客さんは地面に《看破》を使いますか?」
「……使いませんけど、持ってすらいませんから」
「それは申し訳ありません。ですが答えはそれですよ」
意味を理解しきれずに首を傾げる私に、店主は解説を続ける。
「実は【リソスフェア・ドラゴン】はとても大きなモンスターでして。レベルが上がれば上がるほど、その大きさを増していくんです。
過去には最大で、この<アムニール>に匹敵する大きさの【リソスフェア・ドラゴン】も確認されているほどです」
その言葉を聞いて私も理解する。
隠蔽能力にたけ、地中に潜り、そして巨大な亀型ドラゴン。
つまり……
その上を歩く人は、例え《看破》を持っていても気が付けない。
自身がモンスターの上を歩いていることすら認識できないのだ。
考えていると、私があのダンジョンで出くわし逃げ出した【ハイド・グラビティー・グラトニーフォレスト】を思い出す。
私もあの森林がモンスターだと気付かなかったように、気づくのすら難しいのだ。
そう考えると、【リソスフェア・ドラゴン】は凄く珍しいモンスターのように思えてくる。
価値も高いのではないだろうか。
「……もしかしてかなり高いモンスターですか?」
もちろん売るつもりはないが、興味本位で聞いてみる。
「そうですね……希少価値はかなり高いので、2000万リルといったところでしょうか」
……2000万リル。
ごめんなさい師匠、すこし真剣に考えてしまいました。
「戦闘的にはそこまで強くはありません。
並みのドラゴン程度に攻撃力もありますが、AGIが子供に駆け足に負けるほどなので。ENDとHPならモンスターでも最高クラスですよ」
……子供に駆け足で負ける。
何で師匠はそんなモンスターを従魔にしていたんだ。
師匠自体に従魔は必要ないので尚更謎である。
私は改めて【リソスフェア・ドラゴン】の入った緋色の【ジュエル】を見つめながら考える。
「……でもそれなら何で《喚起》しても見ることすらできないんです?
見えないのが隠密能力によるものだとしても、それほど大きいならわかるはずじゃ……」
「そうですね……考えられるのはいくつかあります」
私は改めて話し始めた店主を見ながら話を聞く。
「一つ目は、この【リソスフェア・ドラゴン】が変異種である可能性。
突然変異で何らかの特殊な能力を持っている可能性です」
リアルでもある現象だ。
それがこの<Infinite Dendrogram>の世界でもないとは考えられない。
確かに小数点のような可能性だが、ないことはないだろう。
「二つ目は、呼び出せていない……何らかのアクシデントが起こっている可能性ですが。まぁ、これはないと考えても大丈夫でしょう」
私も掲示板で聞いたことがない。
完成度の高いゲームだし……
「そして三つ目ですが……」
店主は眉を寄せ考え込むようにして言葉を溜める。
そんな様子に私も思わず息を飲む。
「……その従魔が、【リソスフェア・ドラゴン】が子供でまだ小型な可能性ですね」
「……」
私は無言でステータスを開き、従魔のステータスを覗き見る。
そして……
『【リソスフェア・ドラゴン】Lv.1』
「……レベル1でした」
「そのレベルだと、まだ子亀サイズだと。……毒消しの原材料の粉末がありますけど、振りかけてみます?」
私は無言でその粉末を受け取り、
「《喚起》――【リソスフェア・ドラゴン】」
白い粉末を振りかける。
すると……
小さな楕円形のモンスターの形が浮かび上がったのだった。
「……君の名前は、アロンで。……よろしくね?」
『……GUWUWUWU』
気まずい空気が流れる店内。
そんな空間に小さな鳴き声が響いたのだった。
わーい! 君は隠れることが得意なフレンズなんだね!!
『GAWUWU!』