自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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しばらくほのぼのとした話が続きます。

この頃気が付いた事実……戦闘以外の話がネタになる



第3話 旅路と出会い

 □【幻獣騎兵】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 ――澄み渡るような晴天。

 ――頬を撫でる暖かなそよ風。

 

 いつもなら可視化できるほどに濃い自然界の魔力。

 まるで白い霧のように見える魔力が今日は薄く、遠くまで見渡せるほどに澄んでいた。

 それ故か<アクシデントサークル>が起こる気配も微塵も感じない。

 視界もよく、モンスターやPKの<マスター>からの奇襲の心配も少ない。

 まさに旅日和といえるような晴天である。

 

 そんな清々しい晴天に包まれた<アムニール>の少し東。

 レジェンダリアでは珍しい整備された道を一人の少女が進んでいた。

 

 

 「こんないい天気は久しぶりだね、アレウス。道も進みやすいしワクワクしてくるよ」

 

 『BURURURUー』

 

 「うんうん! <ブルターニュ>に着くのが今から楽しみだね」

 

 

 楽しげに弾む独り言。

 その言葉にアレウスが嘶き、相槌をうつ。

 少女――ヴィーレはそんなアレウスの毛並みを撫でながら微笑する。

 

 “交易都市”<ブルターニュ>に遠出すると決めたのが昨晩の出来事。

 騎兵ギルドに駐在していたジュシーネさんに暫く<アムニール>からの離れることを告げ、夜明けと共に<アムニー>を後にしたのだ。

 まだ日が登り始めた早朝……つまり現在、ヴィーレはアレウスに騎乗し<ブルターニュ>への旅路を進んでいた。

 

 

 「“善は急げ”って言うわけでもないけど飛び出して来ちゃった……。後でレズさんにも一言メッセージを送っておかなきゃ」

 

 

 思い出すように呟く。

 メッセージ程度の作業ならアレウスに《騎乗》しながらでも送ることは出来るだろう。

 進むスピードは徒歩より少し早い程度。

 アレウスなら指示しなくても状況に応じて対応してくれる。

 だけど……

 

 (――こんなに気持ちいのは久しぶりかも)

 

 風は暖かく、木々に囲まれているからか空気も美味しい。

 朝焼けの陽光が心地いいからだろうか、アレウスが歩くたびに伝わる振動も加わって眠たくなってしまうほどだ。

 

 

 「そう言えばこの頃はレベル上げばかりしてた気が……。こんなのんびりするのも久しぶりだね」

 

 『BURUUUU』

 

 

 アレウスも嬉しそうに鼻を鳴らし……

 

 

 『ギギャギャ! ――ッ!』

 

 

 森の奥から飛び出してきた【ゴブリンウォーリアー】をその剛脚で踏みつぶす。

 同時に何かが風を切る音が聞こえ――アレウスに着弾する寸前でフェイが操る紅の炎によって燃え尽きた。

 

 

 「あれは……【ゴブリンアーチャー】だね」

 

 

 森の奥に見えたのはギラついたゴブリンの目と構えられた弓。

 【リトルゴブリン】の進化個体であり、その名の通り弓を扱うゴブリン。<Infinite Dendrogram>ではどこにでも生息する一般的なモンスターだ。

 “初心者狩場”でも出てくるので私も百体ほどは狩りつくした。

 それもすでにこの世界では二か月ほど前の事。

 その事実に私は目を細め蒼い空を見上げる。

 

 

 「アレウスとフェイに出会ってもう一か月少し経つんだ。ほんとに短い間だったけど師匠に弟子入りしたりダンジョンに潜ったり……<UBM>も倒したし、懐かしく感じちゃうね」

 

 

 思い出すように呟く私。

 そんな私の肩の上でフェイが【ゴブリンアーチャー】を森ごと燃やす。

 本来ならば森で炎を使うなんて避けるべき事であるが……

 

 

 『ギギャーー!』

 

 

 フェイが飛ばした炎は木々に引火することなく【ゴブリンアーチャー】だけを燃やしていく。

 <エンブリオ>である【炎怪廻鳥 フェニックス】の《紅炎の演舞》は燃やす対象を自在に選択することができる。

 

 (今更だけど私のパーソナルからなんでフェイが生まれたんだろ?)

 

 ――《紅炎の演舞》は、森林に覆われたレジェンダリアでも炎を扱えるように。

 ――《蒼炎の再生》は、第一形態の時に対敵した【魔樹妖花 アドーニア】の影響を受けたのだろう。

 

 しかし改めて何故、炎を操るのかと考えると謎である。

 「フェニックスだから」と言われれば納得するしかないのだが……

 

 

 「まぁ、今考えなくてもいいかな?」

 

 

 叫び声を上げながら燃え尽きていく【ゴブリンアーチャー】から目を反らし……そして考えるのをやめた。

 今は楽しい旅の真っ最中。

 難しいことを考えるのは無粋だろう。

 私はいつの間にか最後の一体になっていたゴブリンに視線を移す。

 アレウスの側面に回り込んできた【ゴブリンスカウト】、狙いは無防備に騎乗している私だ。

 今のステータスなら負けることは無い、だけど。

 

 (接近戦は苦手なんだよね)

 

 同時に【花冠咲結 アドーニア】で【猛毒】と【麻痺】、念のため【強制睡眠】を付与する。

 HPが少ないゴブリンなら【猛毒】だけで死んでくれるだろう。

 ……ほんとに便利だ。

 

 

 そんな短い戦闘――他の<マスター>がドン引くような虐殺を終えたヴィーレ達は再び、“交易都市”<ブルターニュ>へ向けて進み始めたのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 <アムニール>を出発し数時間。

 太陽が天頂を通り去った昼過ぎ、<ブルターニュ>までの道のりも半分を切った頃。

 

 

 「……眠い」

 

 『BURURURU?』

 

 

 昼食と休憩を取ったからか凄まじい眠気が襲う。

 きっとポカポカと天気が良いせいもあるのだろう。

 アレウスに《騎乗》しながら重たくなった瞼を必死に持ち上げ、襲い来る眠気に抵抗する。

 

 (<Infinite Dendrogram>でも現実と同じで眠くなるなんて)

 

 眠くなり、鈍くなった頭でそんな事を考え……眠気を振り払うように首を振る。

 ――違う。

 この眠気の原因、それは。

 

 

 「……羨ましい」

 

 

 羨ましそうに見つめる先に居るのはアレウスの頭の上で眠るフェイ。

 その大きさは本来の怪鳥の姿ではなく、小さな雛鳥の姿だ。日光浴のように翼を広げ、目を瞑る様子はとても心地よさそうである。

 ……ほんとに羨ましい。

 アレウスに《騎乗》している以上、確実に視界に入ってくるフェイ。

 そんなフェイの様子を見るとより眠気が押し寄せてくる。

 

 (……私も寝て大丈夫かな?)

 

 そんな誘惑が頭を掠める。

 もちろん駄目である。

 だが改めて考えると大丈夫そうに思えてくるのが逆に辛い。

 こんな様子を師匠に見られたら呆れられてしまうだろう。

 だけど……もう限界だ。

 

 

 「……ごめん、アレウス」

 

 『BU、BURUUU!?』

 

 

 私はアレウスの戸惑うような言葉を最後に、アレウスの毛並みへと顔を埋めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ドンッ!!

 

 

 【ゴブリンウォーリアー】を踏み潰した時とは違う、何かとぶつかったような鈍い音。

 同時に心地よく体を揺らしていた揺れが止まる。

 そんな小さな変化に私の意識が浮上する。

 

 

 「――ん。……どうかしたのアレウス?」

 

 

 私は霞む瞼を擦り、欠伸をしながら顔を上げる。

 周りの景色はまだ明るい。

 今のアレウスの進むペースなら<ブルターニュ>に到着するのは夕暮れになるはずだ。

 つまり何かが起こったのだろうが……

 

 

 「……アレウス?」

 

 『……』

 

 

 返事がなく、不自然に固まっているアレウス。

 そんな初めて見るアレウスの様子に私は思わず首を傾げる。

 【従魔師】には《魔物言語》という従魔の言葉がわかるようになるスキルがあると師匠から聞いたが、アレウスとは毎日一緒にいるのだ。

 《魔物言語》が無くても多少の言いたいことや感情を読み取ることが出来る自信がある。

 もちろん完全ではないが間違えたことは一度もない。

 今の状態や雰囲気、アレウスの様子から読み取るならば……

 

 

 「もしかして何か失敗した?」

 

 『――BU!』

 

 

 あからさまに動揺するアレウス。

 私はそんなアレウスの様子に再び困惑しながら辺りを見渡し、

 

 

 

 

 

 

 背後で血だまりに倒れた大男、そしてその傍らで呆然と立ち尽くす少女が視界に映る。

 

 

 

 

 

 ――居眠りしてしまった私。

 ――何かにぶつかったような音と動揺するアレウス。

 ――地面に血を流しながら倒れる大男。

 

 これらから導き出される答えを私は一つしか知らない。

 

 

 「……」

 

 

 寝ぼけた目が、鈍かった頭が急速に冴えていくのを感じる。

 そしていつも通り動き出した頭脳は考えることを拒否するように停止した。

 驚愕、焦り、不安、疑問。

 それらが頭の中で渦まき、考えることを許さない。

 一瞬の静寂がその場を支配し……そんな短い静寂を破るように一人の人物が動き出した。

 

 血だまりに倒れた大男の傍らに立っていた少女だ。

 サイズが合っていないだろう大きなベレー帽で目元は見えず、同じく身の丈に合わないコートを着ている少女。

 コートが大きすぎるのか手元は袖に隠れて<マスター>かどうかの判断はつかない。

 しかしベレー帽からはみ出すように見える蒼髪は大男と同じ髪色で兄妹、もしくは親子だろうと推測させる。

 

 そんな蒼髪の少女はゆっくりと大男に近づき、その首筋に手を当てる。

 そして悲しそうに顔を伏せると首を小さく横に振った。

 

 

 「――ッツ!!」

 

 

 思わず声にならない声が出る。

 私より小さな――小学生ほどの少女、その行動が私の良心を大きくえぐる。

 しかし一番ショックを受けているのは少女だ。

 

 (……そうだ! 脈は無くてもまだ心臓は動いているはず。今すぐポーションを使って心臓マッサージをすればっ)

 

 <Infinite Dendrogram>の世界で通用するかはわからない。

 だけど【医者(ドクター)】なんてジョブもあるぐらいだ、絶対に無いとは限らない。

 ようやく働きだした思考に突き動かされるかのように行動へ移そうと動き出す。

 そして、

 

 ――アレウスの足元で見上げるように見つめる少女に気が付いた。

 

 先ほどと変わらず目元はベレー帽でよく見えない。

 だが僅かに見える口元がゆっくりと動き出し……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……眠い」

 

 「……うん、私もだよ」

 

 

 呟かれた言葉に反射的に同意した。

 




【炎怪廻鳥 フェニックス】

<マスター>:ヴィーレ・ラルテ
Type:ガードナー系列 到達形態:Ⅱ
能力特性:炎操作&?
スキル:《火炎増畜》《紅炎の炎舞》《蒼炎の再生》
モチーフ:架空上の幻獣であり、不死と平和の象徴を司る神鳥“フェニックス”
備考:ヴィーレの補助に特化したエンブリオ。
   ステータスはAGI特化であり、スキルは<エンブリオ>単体ではまともに機能しない性能特化。ステータス補正も低め。

   色々と歪な<エンブリオ>。
   ……しばらくは出番がない模様、早く第六まで進化してほしい。
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