自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
□<ブルターニュ・オークション会場> 【幻獣騎兵】ヴィーレ・ラルテ
『メメーレンの遺跡』での探索を終えた後。
太陽が天頂を過ぎ去った、夕暮れ頃。
ヴィーレ達は大樹のような外見をした建物の中に居た。
大きな建物がまるまる一つ入ってしまいそうな大樹。その中は綺麗にくり貫かれ、ステージや観客席が並んでいる。
その内装は何処となく、『アイドルのコンサートを開く武道館』や『学校での始業式』をほうほつとさせる。
そんな開けたステージの中――ではなく、隅に設けられた小さな部屋で一人と三人が向かい合い座っていた。
「これは……【装飾王】の【レシピ】ですね、【装飾王】が前提のものですが。ふむ、技術事態はすでに公然のものですね」
「何だ? もしかしてオークションでは売れないのか?」
モノクルを着けた眉目麗しい青年が瞳を細めながら《鑑定眼》の鑑定結果を告げる。
執事が着るようなタキシードを身に纏う青年。一般的な女子にとっては眼福であろう容姿、だがそれ以上に目を引くのは彼の耳。
尖ったような、少し長めの独特な耳だ。
――そう、『エルフ』だ。
エルフ事態はレジェンダリアでは珍しくない。
だけどしっかりと見たことがなかった私は、興味本意で観察する。
そんな視線がくすぐったいのか、エルフの青年は苦笑いでホオズキの疑問に返事を返す。
「いえ、高値で売れるでしょうね。【装飾王】の【レシピ】なんて【
言葉を区切ったエルフの青年は「それに……」と他の戦利品へと目を移す。
「それに、他の遺物にも大きな価値が有りますよ。遺物自体はそれほどの物でもありませんが【装飾王】メメーレンはかの【覇王】……“三強時代”以前の“先々期文明”の故人ですから。
考古学者にとっても大きな価値がある」
「つまりそれって……」
身を乗り出すホオズキ。
そんな様子にエルフの青年は笑顔で頷く。
「ええ、期待して待っていただけたら」
オークションの交渉人、兼鑑定人が言うのだ。その言葉は信用に足りるものだろう。
私とホオズキ、そしてシュリちゃんは互いに顔を見合せ、笑ってハイタッチをする。
嬉しい想定外だ。
まさかこんなに早く餌代の問題が解決するなんて……
売れ値を三当分してもかなりの大金になるはずである。
「しかし今回のオークションは目玉商品が多いですね」
エルフの青年は左手で使用人に商品を運ばせながら話しかける。
その姿にはどこか喜びと疲れが滲み出ていた。
(なんだか会社通いの社ち……じゃなくて、何がだろう?)
ホオズキやシュリちゃんもその言葉が気になったのか私と目があった。……私が聞けってことなのか。
「その、他に何か凄いアイテムでも持ち込まれたんですか?」
「ええ、アイテム……というわけでも無いんですが。そうですね、別に隠しているわけではありませんし」
エルフの青年は再び、使用人を呼び寄せ何かを指示する。
「本当は我々――オークション側の管轄ではないんですが、私のいない間に代理人が受け取ってしまったらしいんです。
『従魔師ギルド』に引き取って貰うことも考えたのですが……」
言葉の途中に扉が開く。
使用人に台車に乗せられ、運ばれてきたのは大きな球体の物体。
ダチョウの卵より大きな球体。
渦巻くような緑の模様。
形や大きさは違っても見間違える事のないだろうフォルム。
「それは……卵、ですか?」
「何だよ、ただの卵だろ? 確かに
「……お酒じゃない、だと」
各々で呟かれた感想。
そんな感想を聞き、エルフの青年はより笑みを深める。
……何かおかしいだろうか?
「この卵はとあるモンスター――
聞き覚えのない言葉。
初めて聞くその言葉に思わず顔を見合わせる。
「この世界に存在するモンスターの一種であるドラゴン。
その中には各々の中で一番の力を持つドラゴン、『竜王』と呼ばれるモンスター達がいるのですよ。
――アルター王国の<天蓋山>に棲んでいると言われる天竜種の王、【天竜王】
――カルディナの<厳冬山脈>に棲んでいると言われる地竜種の王、【地竜王】
――四海を巡回し、出会った船を沈める災害。海竜種の王、【海竜王】
他にもたくさんの竜王がいますが、その実力は最低でも『伝説級<UBM>』程と言われています」
一息に説明するエルフの青年。
……知らない単語がたくさん出てきたが、とりあえず凄く強いモンスターの卵だってわかった。
「……強いドラゴンの卵って事だな!!」
「……だな」
……なんだか安心した。
だけど確かにこれは『従魔師ギルド』の領分だ。
オークションではこの竜王の卵を求めて様々なギルドやティアン、そして<マスター>がお金を叩くのだろう。
私も【騎兵】。
竜王の卵と言われると興味が出てくる。
「ヴィーレさんはこの卵に興味がおありのようですね」
まじまじと見つめる私に気がついたのかエルフの青年が話しかけてくる。
本当に人の様子に鋭い人だ。
私は特に誤魔化す必要もないので頷く。
「そうですね……よければオークションに客として参加してみては? 先程の『メメーレンの遺跡』の遺物次第では充分狙えると思いますよ」
そう言われると少し欲が出てしまう、が……
「う~ん、止めておこうかな」
私は首を横に振った。
「なんだかこの子には余りビビッと来ないので。それにお金は三当分だしね」
隣で「うんうん」と頷くホオズキとシュリちゃんに目をやりながら笑う。
お金は三当分、それはもう決めた事だ。
そんな様子にエルフの青年は和ましそうに微笑む。
「フフ、ではこれで商談は終わりですね。またオークション当日にお会いしましょう」
「ん? なんだ、あんたもオークションに来るのか」
そんなホオズキの質問にエルフの青年は「しまった」と破顔させた。
「申し訳ございません、名乗り忘れておりました」
エルフの青年は立ち上がりながら私達へむけ、優雅に一礼しながら名を名乗る。
「私、このオークションで【
――以後お見知りおきを」
◇
「まぁ、何にせよ無事売れそうで良かったな。金も何とかなりそうだ」
「……お酒を所望」
オークション会場を後にした私達は<ブルターニュ>の街を歩いていた。
特に何か目的があると言うわけではない。することもなく、お金を稼ぐという目的を果してしまい暇をもて余しているのだ。
<アムニール>とは少し違う街並み。
商品を運ぶ竜車が行き交う大通りをブラブラと歩きながら観光する。
「――、――」
「……――」
ホオズキとシュリちゃんが何か話しているが、うまく頭に入ってこない。
ただ思い出すのは先程の竜王の卵の事。
あの卵を見ても、アレウス達の時のようにビビッと何かを感じることはなかった。
だが……
(何か忘れているような……何だろう)
同時にあの卵に対して大きな違和感を感じていた。その正体が分からずに思考にふける。
「……ーレ! おい、ヴィーレ!? 聞いてるか?」
ホオズキの呼び掛けに思考が止まり、我にかえる。
考え込んでいる間に何か話し掛けられていたようだ。
「ごめん、少し考え事してた」
「あぁ? まぁ、いいけどよ」
ホオズキとシュリちゃんはそれぞれ訝しげに、そして心配そうに私を見る。
何だろう……そんなに考え込んでいただろうか?
先程の自分の様子を思い出しながらホオズキを見る。
「それで何の話だっけ? 余り話が頭に入ってこなくって……」
「あぁ、これからどうするかって話だ。俺達一応パーティーだろ? まだ時間もあるからレベル上げに行ってもいぃしよ」
「……って話だ」
二人の話を聞きながら空を見上げる。
陽は傾いているが、完全に沈むまではまだ数刻ほどあるだろう。
一旦解散してもいいけど。
(全然考えてなかったや)
レベル上げは余り気乗りしない。かと言って買い物する程のお金も今はない。
となると……
「<ブルターニュ> の北の方に天然温泉とお酒で有名な村があるんだって。歩いても二時間ぐらいだし、近くに高レベルのモンスターが出る場所も――」
「そこにしよう!!」
「……しよう」
こうして子供のように目を輝かせた二人によって、次の目的地は決定したのだった。
「……ねぇ」
「な、何だよ? そんな怖い顔して、せっかくの美人が台無しだぜ? な、シュリ……シュリ!?」
「……私、付いてっただけ」
<ブルターニュ>を出てから数時間。
夜の闇が森を染め上げ、微かに射し込む月光だけが光源の森の中、私達は未だに村へ辿り着けずさ迷い歩いていた。
――五時間。そう、五時間だ。
歩いても二時間、アレウスなら三十分も掛からないだろう道を五時間。これはもはや奇跡と言ってもいいだろう。
昼とはうって変わり寒気がする程の薄ら寒さに肩を震わせながら、隣で焦る
事の発端はホオズキだった。
モンスターを見つける度に発動する《フィジカルバーサーク》。
森の中へ逃げ込むモンスターを躊躇なく追うホオズキに、それに付いていくシュリちゃん。
そんな二人を、アレウスやフェイ、アロンの総出で探す私。
ある意味、道から外れ迷うのは必然的だったのだろう。
その途中に<アクシデントサークル>による“感知系統スキル使用不可”な辺りに紛れ込んだり、森で発生した濃霧も原因の一つだ。
斯くして、現在進行形で私達は森をさ迷い歩いていた。
「いやー、すまねぇ。実は俺、方向音痴何だよ。迷路なんかは大丈夫なんだがこういう道すらないような森は苦手でな」
「ガッハッハ!」と苦笑いで声を上げるホオズキ。
……いや、それは《フィジカルバーサーク》が原因では?
そんな事を考えるが口には出さない。
今更言ってもしょうがない事だ。
私はそんな二人の様子に大きくため息を吐く。
「別にいいよ……私も止められなかったし」
(それに前にも5日間森をさ迷ったって言ってたしね)
「いやー、本当にすまねぇ。ガ、ガッハッハッハッハ!」
「……えへへ」
「笑い事じゃないよ?」
「「……すいません」」
静かになった二人の前をひたすら歩く。
メニューからマップを開くが縮尺が小さすぎてよく分からないので、村の位置を大まかに予想して進んでいる。
間違っていなければそろそろ見えてくるはずだけど……。
「……ん? もしかしてあれじゃないか?」
「……明かり」
唐突に呟かれた言葉にマップから顔を上げる。
ポツポツと散らばるように灯る明かり。目的地だった森に間違いないだろう。
「~~しゃっーー!! やっと着いたぜ!」
駆け出すように早歩きで村へ急ぐホオズキ。
その後ろをシュリちゃんがテクテクと付いていく。
(そんなに疲れてたんだ……)
私もそんな二人の様子に苦笑しながら後を追い――
――村の外れ、森にたたずみ月を見上げる少女を見つけた。
(不思議な少女)
それが第一印象。
髪も肌もそして着ているワンピースも白一色。
月光は少女を祝福するかのように照らす。
森に数えきれぬほど棲んでいるはずのモンスターは少女には近づかない。いや、最早モンスターすらいないかのように存在すら感じられない。
まるで
そんな彼女は私の視線に気づいたのかフワリと微笑む。
「もしかしてお姉ちゃんも森で迷ったの? 私が村まで案内して上げる!」
その姿に驚く私。
そんな私に少女は一方的に自己紹介した。
「私の名前はイ……『アイラ』。アイラだよ! よろしくね、お姉ちゃん!」