自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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理想を文章にするのって結構ムズいよね。
ちょくちょく手直しするかもです


第7話 <UBM>の影と露天風呂

 □【幻獣騎兵】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 「私の名前はイ……『アイラ』。アイラだよ! よろしくね、お姉ちゃん!」

 

 

 鈴の音のように澄んだ声。

 月光に照らされた白髪は神秘的に揺らめき、その光景は私の思考を停止させる。

 わずかな静寂。

 アイラの姿に呆然と見とれる私に彼女は不思議そうに首を傾けた。

 

 

 「……お姉ちゃん?」

 

 「え、うん。……私はヴィーレ・ラルテ。よろしくね、アイラちゃん」

 

 

 私の名前にアイラちゃんは両手を後ろに隠すように嬉しそうに笑う。 

 

 

 「ヴィーレお姉ちゃんだね! 一緒に村までいこ?」

 

 

 差し出された白く小さな手。

 力を入れてしまえば折れてしまいそうなか弱い子供の手だ。

 私もアイラの手を取り、ホオズキ達の後を追うように歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不気味なほど静かな夜の森。

 木々のカーテンをすり抜け、地面を照らす月光と遠くに浮かぶ村の明かりを目指して歩く。

 私は《暗視》スキルを持っているので、夜でも怪我することなく森の中を歩くこと事が出来るが、アイラは普通の少女だ。

 《暗視》も持っていなければ、歩く歩幅も体力も違う。その為、ヴィーレはアイラとはぐれないように手を繋ぎながらゆっくりと歩いていた。

 

 (本当はアレウスに《騎乗》すればすぐなんだろうけど……)

 

 不意に浮かんでくる考え。

 この短い距離でアレウスに頼ろうとするのは、私が疲れているからだろうか?

 私は頭を降るように、浮かんだ考えを掻き消した。

 仮にアレウスに《騎乗》し、村へ辿り着いても今は真夜中。無駄に村人であるティアンから警戒されてしまうだろう。

 意識するほど重たくなる足と鈍る思考へ集中させながら、周囲を警戒し村を目指す。

 そんな時だった。

 

 

 「ねぇ、ヴィーレお姉ちゃんはこの村まで何をしに来たの?」

 

 

 傍らでトコトコと歩くアイラちゃんが見上げるように私を見つめる。

 

 

 「私は天然の温泉と強いモンスターを求めて来たの。<ブルターニュ>の宿で温泉はここが有名だって聞いたからね」

 

 

 <ブルターニュ>の地下深くを流れる熱源のマグマ。

 そのマグマによって地下から温められた温泉が湧き出たり、蒸気が吹き出し天然のサウナ風呂が出来上がっている。

 そして、その天然温泉が一番有名な場所がこの村なのだ。

 山頂付近に作られたこの村は景色がよく、森林が【樵夫(ランバーマン)】や【狩人(ハンター)】によって上手く管理されているらしい。

 また、<ブルターニュ>からも遠すぎず、手軽に行き来できる。

 それ故か<DIN>のニュースにも観光名所として載っていた程だ。

 

 (ホオズキは強いモンスター目当てみたいだけど……)

 

 私としては天然温泉目当てである。

 出来れることなら天然温泉を利用して、アレウスやフェイ、そしてアロンを一度洗ってあげたいと思っていたのだ。

 その事を考えると楽しみで足が少し軽くなる気がする。

 しかしそんな私とは反対に、アイラちゃんは不安そうに眉を歪めた。

 

 

 「あのね、ヴィーレお姉ちゃん。モンスターを倒そうとするのは止めた方がいいと思うの」

 

 「え? どうして?」

 

 

 私の疑問。

 その言葉にアイラちゃんは不安そうに、私の手をギュッと握り返した。

 

 

 「……この間からね、怖いモンスターが出るの。青い亡霊を引き連れて歩く死神(・・)さん、モンスターもお友達も皆みんな死んじゃった」

 

 「それって――」

 

 

 口から出かけた言葉は続かない。

 彼女の……続きの言葉を聞いてしまったから。

 

 

 「皆みんな、首を撥ねられて死んじゃったの」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間。背筋に冷たい風が吹き抜け、顔が凍ばるのを感じる。

 頭を過るのは一つの<DIN>のニュース。

 

 ――『レジェンダリアの山奥の村で、二百人のティアンが首を無くし死んでいた事件』

 

 鈍かった頭が熱を帯び、痛みを訴える。

 

 (死神のようなモンスター、首を撥ねられたティアンやモンスター)

 

 それらが示す答えは一つしかなく、明確だった。

 

 

 「……悪魔系統、もしくは死霊系統の<UBM>」

 

 

 思わず口から零れた言葉。

 熱を帯び、ショートしていた思考が私自身の出した言葉に急速に冷静になっていくのを感じる。

 不気味なほど静かな森。

 可笑しいほど静かな森。

 それはモンスターがいないからではない、全て<UBM>に倒されてしまったのだ。

 

 

 「はぁ~」

 

 

 私は自分を落ち着かせるように大きく深呼吸する。

 

 

 「ヴィーレお姉ちゃん?」

 

 「ううん、何でもないよ? 少し冷えてきちゃったし、ちょっといそごっか?」

 

 

 不安そうに私を見つめるアイラちゃんの手を、優しく握り返す。

 アレウスやアロンが死んでしまうのを恐れて組んだパーティー。

 しかし、いつの間にか自分からその危険(<UBM>)に首を突っ込んでいてしまったようだ。

 

 (はぁ、村に着いたらホオズキ達に知らせておかなきゃ。でも知らせたら、倒しに行こうって流れになっちゃうのかな?)

 

 見えてきた村灯り。

 私はこれからの事を考え、再び深いため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 村に辿り着いてから一時間。

 アイラちゃんと別れた私は、今夜泊まる予定の宿の天然温泉に居た。

 レジェンダリアらしい、木がふんだんに使われた脱衣場。洋風とも和風とも判断がつかない造り。

 しかし不思議と違和感は何処にもなく、一体感が生まれている。これほど綺麗だと浴場の方もどうなっているのかワクワクしてくる。

 

 『カチャリ』と腰布を留めていたベルトを外し、床へと落ちたスカートをアイテムボックスに丁寧にしまう。

 

 全ての衣服をしまい終えた私は、アイテムボックスと小さなタオルを片手に浴場へと足を進める。

 そして……

 

 

 「……すごい」

 

 

 眼前に広がるその景色に言葉を失った。

 露天風呂のように蒸気が上がる浴場を月光が照らし、色とりどりの草花が辺りに自生している。

 中央では小さいながらなも澄んだお湯が、光をキラキラと反射している。

 

 (本当に来てよかった!! 出来ればアレウス達にも見せてあげたかったなぁ)

 

 そんな事を思いながら一歩、また一歩と足を進め、

 

 

 「……ヴィーレ?」

 

 

 お風呂の中で酒盛りをするシュリと目が合ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お湯の中に『メメーレンの遺跡』で手に入れただろうお酒を浮かべ、チビチビと少しずつ口に運ぶシュリちゃん。

 私はそんな様子に苦笑を漏らす。

  

 

 「……シュリちゃん、その姿なんだかおじさんみたいだよ?」

 

 「……今はおじさん」

 

 

 いつも通りの愛想のない短い返事。

 そんなシュリちゃんを傍目に体を清め、お湯に体を沈ませる。

 懐かしい……リアルでも久しく入っていない温泉独特な心地よさ。じんわりと体の芯が伸びるような感覚に頬を緩ませる。

 ……私が日本人だからだろうか?

 お風呂自体好きではあるが、温泉はより特別に感じてしまう。

 

 

 「……ヴィーレこそおじさんみたい」

 

 「あはは、気持ちいいからしょうがないよ」

 

 

 お酒を飲みながら呟くシュリちゃんに私も笑い返す。

 

 (それにしても……)

 

 改めてシュリちゃんの容姿を眺める。

 

 

 「……なに?」

 

 「私、何だかんだで初めてシュリちゃんの素顔を見た気がするなって」

 

 

 いつもは大きめの衣服に体を包み、ベレー帽で口元しか見えない服装のシュリちゃん。

 だからかその素顔を見たことは無いのだが……今は温泉なので、その姿は一糸纏わぬ姿である。

 

 ――いつもはベレー帽にまとめて隠していただろう長い蒼髪。

 ――女の子らしい白い肌。

 ――お酒に酔っているのか目元は赤く上気し、美味しそうに舌なめずりする唇。

 

 その姿と釣り合わぬ妖艶な動作にドキリとしながらシュリちゃんを見る。

 

 (この年で私より女性らしいなんて……)

 

 ……少しショックだ。

 

 

 「……ヴィーレもスタイル、いいね」

 

 「あはは、ありがと! でもシュリちゃんもこんなに可愛いんだからもっとオシャレすればいいのに」

 

 

 そんな私の言葉に、彼女はお酒を煽りながら自身の額を指さした。

 指が示す先にあるのは小さな額。

 しかし、今まで気が付かなかったが二つのあるものが目に映る。

 

 

 「それは……角?」

 

 

 小さな額から蒼髪を分けるように伸びた小さな二本の角。

 長さが違う二つの角がそれぞれ天を突くように伸びていた。

 何の角かと言われれば……()の角だろうか?

 

 

 「……これが私の<エンブリオ>。いつもはこれを隠してる」

 

 

 小さな声。

 しかしその声にはいつもと違い、わずかに嫌悪が混じっていた。

 きっとシュリちゃんは望んで欲したもの()ではなかったのだろう。確かに女の子は自分の額に角が生えているのは嬉しくはないかもしれない。

 

 

 「……ホオズキは気にするなって言ってたけど、私は嫌い。そんな私にホオズキが帽子を買ってくれた」

 

 

 ……ホオズキも良いことするじゃん。

 【睡眠不足】で倒れたり、すぐに《フィジカルバーサーク》を使って森で迷ってるホオズキだがいいところもあるようだ。

 少し見直した。

 

 (でも――)

 

 

 「でも、シュリちゃんは角を隠さなくても可愛いと思うよ?」

 

 「……」

 

 「小さな角も長い蒼髪も、途切れ途切れの話し方も全部シュリちゃんらしくて可愛いよ。なんていうか――お姫様(・・・)みたい」

 

 

 上手く言葉にはできない。

 だけど私はそんなシュリちゃんのすべてが好きだ。

 私の言葉に俯くシュリちゃん、そんな様子が微笑ましくて頬が上がる。

 

 

 「う~~、しゅりちゃー「……やめて」」

 

 

 頭を撫でようと近づいたら小さな手で押し返された。

 ……悲しみ。

 離れる私にシュリちゃんは顔を上げた。

 

 

 「……でも、ありがと」

 

 

 お酒に酔っているのか、赤くなった顔で仄かに笑う。

 ……可愛い。

 初めて見るシュリちゃんの笑顔に私も嬉しくなる。

 

 

 「……熱い」

 

 

 湯あたりしたのか、シュリちゃんはお酒を持って立ち上がる。

 私が来るまでに長い間浸かっていたのかもしれない。

 そうしてシュリちゃんが出口へ目指し始めた時だった。

 

 

 「ニャーー!! 気持ちいいにゃって、先客がいるニャ!?」

 

 

 大きな声と共に脱衣所と浴場を結ぶ場所へ、一人の影が浮かび上がる。

 新たな入浴者である女性は、スタスタと湯煙を振り払うようにこちらへ近づいてきた。

 

 

 「ニャッハッハ! これは可愛いお嬢さんだニャ」

 

 

 現れたのは短い茶髪に少し焼けた肌のスタイルのいい女性。

 瞳は大きく、どこか野性味を感じさせる容姿をしている。

 私とシュリちゃんはそんな女性の姿を凝視する。

 

 

 「何ニャ? もしかしてスタイル抜群のお姉さんに見とれちゃったかニャ?」

 

 

 ……ある意味、間違ってはいない。

 私とシュリちゃんはその女性――茶髪の頭とくびれた腰に視線を集中させていた。

 

 ――茶髪の短い髪形……から飛び出すように立つ猫耳。

 ――スタイルの良いくびれた腰……の後ろで元気よくうねる長い尻尾。

 

 

 (……なんだか今日はいろんな種族の人に会う気がするなぁー)

 

 そう思うのも仕方がない。

 

 ――『獣人』

 

 おそらくそう呼ばれる種族。

 より詳しく言えば猫獣人だろう。

 腰に当てた左手の甲に“音色を奏でる猫”の紋章を持ち、ニヤリと笑う猫人の<マスター>。

 

 (確か、同じ宿にいた人だったよね? 探検家みたいなお爺さんと一緒にいた……)

 

 二人組の<マスター>の片割れの人だったはずだ。

 『メメーレンの遺跡』が発見された影響か、この宿に泊まっている<マスター>は数少ない。

 私とホオズキ、そしてシュリちゃんのパーティーとこの獣人の二人組。

 後は男性と女性の<マスター>だけだったはずである。そう考えると温泉で出会うのはかなり低い確率だ。

 

 

 「……ヴィーレ、先に出る」

 

 「もう出るのかニャ? 残念ニャー」

 

 

 シュリちゃんは興味を失ったのか早歩きで浴場から出て行く。

 私は後ろ姿を見送りながら湯船の中で手を振った。

 

 (だけど私も少し浸かり過ぎたかも)

 

 温泉は気持ちいいが湯あたりしてもあまりよくない。

 ……あと少ししたら体を流して浴場を出よう。

 そう考え、瞼を閉じる私に横から元気な声がかかる。

 

 

 「どうしかしたのかニャ? 随分疲れているように見えるニャ」

 

 

 先ほどの獣人の女性がニヤニヤしながら話しかけてくる。

 

 

 「あはは、少しだけですけどね。でも、どうしていきなりそんな事を?」

 

 

 内心、いきなり話しかけてきたことに驚きながらも返答する。

 すると女性は「ニャッハッハ」と笑いながら湯舟を叩く。

 

 

 「音が聞こえるニャ」

 

 「……音?」

 

 

 (特に気になる音なんて聞こえないけど……)

 

 

 「違う違うニャ、おみゃーの心音。おみゃーからは疲れた人間の音が聞こえるニャ」

 

 

 ……正直よくわからない。

 もしかしたらこの女性の<エンブリオ>の能力なのだろうか?

 猫耳と言い、“音色を奏でる猫”の紋章といい、音に関係した<エンブリオ>なのかもしれない。

 

 

 「まぁ、深く考えなくてもいいニャ。それより何か悩みがあるならみゃーに相談するニャ!!」

 

 

 ……なんだか嵐のように破天荒な人だ。

 元気な女性のテンションに少し笑いながらも頷く。

 この周辺にいるだろう『悪魔系統、もしくは死霊系統の<UBM>』の事を話していいかもしれない。ホオズキは自分が倒したいと怒るかもしれないが、被害は少ない方がいいに決まってる。

 手助けしてくれるかは分からないが、<マスター>が手伝ってくれれば倒すのも楽になるだろう。

 

 

 「ご存知かもしれませんけど、実はこの周辺に悪魔系統か死霊系統の<UBM>居るらしくて――」

 

 「ニャッハッハ、それは大変ニャ! でもみゃーが手伝えることはなさそうニャ!」

 

 

 ……え、どういう意味だろう?

 

 

 「それって――」

 

 「みゃーの<エンブリオ>は死霊系統は苦手だニャ。悪魔系統もきついニャ! 私の相方は非戦闘職だし、手助けは出来そうににゃいニャ―!!」

 

 

 ……相談してみろって言ったのは貴女なのに。

 私は肩を落としながら湯舟にため息を落とす。

 そんな私の姿に獣人の女性は大きく笑う。

 

 

 「まぁ気にするニャ! それにみゃーも長いことここにいるけど、<UBM>の話は今初めて聞いたニャ。

  それなら、まだそれほど強くはないはずだニャー」

 

 

 ……それもそうだ。

 <UBM>も時間をたてば成長し強くなる。それは【魔樹妖花 アドーニア】で痛いほど体験済みである。

 すでに被害はたくさん出ているが、早めに手を打てば苦労なく倒すことが出来るかもしれない。

 

 (……でも結局は、私たちが倒しに行かなきゃならないのかなぁー)

 

 ……出来ることなら私たち以外の<マスター>が倒してほしい。

 あまりアレウスやアロンを危険に晒したくはないのだ。

 そんなことを考え――

 

 

 「ニャーーー!!」

 

 「きゃっ!」

 

 

 突如、大声を上げた女性の声に悲鳴を上げてしまった。

 

 

 「忘れてた、みゃーは熱いのは苦手だったニャ!! もう出るニャ!」

 

 「……もう、驚かせないでくださいよ」

 

 

 不満を視線に込めて女性をにらむ。

 そんな私の視線を女性は気にすることなく大声で笑い、私をみた。

 

 

 「そんなみゃーからおみゃーにアドバイスニャ!!」

 

 「……何ですか」

 

 

 あまり当てにできそうな予感を感じ取りながら返事を返す。

 すると女性は心底楽しそうに尻尾をフリフリ、口を開く。

 

 

 「ちかじかパレードが開かれるニャ!! 舞台は<ブルターニュ>、ゲストも二人くる大きなパレードニャ!!

  悪魔系統、もしくは死霊系統の<UBM>もいいが、乗り遅れないことニャ!!」

 

 

 意味のよく分からないアドバイス。

 しかし女性は満足したのか猫どり足でフラフラと浴場を出て行った。

 

 

 「……ほんとに嵐のような人だったなぁ」

 

 

 私は今日何度目かわからないため息をこぼし、夜空に浮かぶ月を見上げたのだった。

 




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