自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
■<ローゼン村・教会地下>
壁に閉ざされた小さな部屋。
音が反響する真っ暗な地下部屋の隅で一人の少女――イスラは震えていた。
耳を手で塞ぎ、膝を抱えて蹲る。
恐ろしさにガタガタと震える体を抑えるように自身の身体を力いっぱい抱きしめた。
それもそのはず。
目の前では二体の<UBM>が……本来、出会ってしまうことが『死』を意味する存在が激しい戦いを繰り広げているのだから。
『RA……RARARARARAAAAAAAA!!』
それはまるで歌声のよう。
しかし聞く人が聞けば、人に死をもたらす
イスラの姉妹だったアイラを【生贄】に召喚された『逸話級』<UBM>、【誓約天 アイラ】。
一見、天使の様な姿をしたその<UBM>の能力は至極単純な、そして強力なスキルだった。
一つ目の能力は《高速再生》。
<UBM>事態を見れば珍しくもないものの、その力は絶大。
天使由来の治癒能力の最高峰とも言える能力である。
『KAKAKAKAKKKKKK!』
――一線。
【燃怨喰霊 ズー・ルー】の持つ大鎌が宙に一本の線を作り出す。
そして……その一振りは【誓約天 アイラ】の身体を容易に切り裂いた。
肘の先にあるはずの腕が、腰と上半身が僅かにずれる。
【燃怨喰霊 ズー・ルー】のAGIは一万に届かないかといった速さ、それはもはや超音速起動に近いものだ。
そのAGIから繰り出される一撃を元、【司祭】であり【生贄】だった少女が核となった【誓約天 アイラ】が避けられるはずも無い。
だが……同時に死にもしない。
ほんの一瞬、小さな光がその体を包み込む。
『RARARARARRAAAAA~~』
次の瞬間、そこには無傷の【誓約天 アイラ】がいた。
まさに一瞬、一秒にも満たない僅かな時間。
もはやそれは《高速再生》の域を超えている御業である。例え、体の半分を消し飛ばされてもそのコアが無事ならば二秒も経たずに元通りとなるだろう。
そして……
……今度はお返しとばかりに、一筋の光の束が光線となって【燃怨喰霊 ズー・ルー】の身体を打ち抜いた。
これが二つ目の能力、《誓約執行》。
その能力は、『一つの誓約を立てることで、一定範囲内にそれに応じた現象を引き起こす』というもの。
現在の【誓約天 アイラ】は『敵の攻撃に対し、防御態勢を取らない』という『誓約』を立てることで、【燃怨喰霊 ズー・ルー】にその誓約に見合う反撃を与えていた。
その結果、範囲は極小でありながらも天罰儀式である《
種族が死霊系統モンスターである【燃怨喰霊 ズー・ルー】にとってその攻撃は致命傷。
勝敗は見るまでもなく明らかであり、圧倒的に【誓約天 アイラ】にとって分があると思われた。
「……キャッ! な、何が起こったの……?」
轟音が部屋中に鳴り響く。
今までにないほどの音と振動に思わずイスラは悲鳴を上げ、覗き見るように膝から顔を少し上げた。
そして……壁にめり込んで倒れている【誓約天 アイラ】の姿を見た。
『伝説級』<UBM>である【燃怨喰霊 ズー・ルー】、その格は【誓約天 アイラ】よりも遥かに高い。
もとより永い時を生きる<UBM>。
加えて今まで一度も戦ったことなく――力を蓄え続けて生きてきた<UBM>だ。
例え、【枢機卿】に数百年封印されていたとしても蓄えてきた力を使い果たしてしまったわけでもない。
相性に関して言えば、【誓約天 アイラ】は最悪の相手。
だが……それは【誓約天 アイラ】にとっても同じ事。
――怨念の炎は天使と言えども再生を許さず燃やし、そして呪うだろう。
――高いAGIと死霊特有の莫大なHPは【誓約天 アイラ】を遥かに上回るだろう。
――怨念を元に【シビル・ゾンビ】を生み出す《眷属生成》ならば、【誓約天 アイラ】を傷つけることなくその動きを取り押さえられることだろう。
しかし……同時にそれが出来ないでもいた。
『KA、KAKAKAKKAKAAAAAAA!!』
全力で大鎌を振るう【燃怨喰霊 ズー・ルー】。
その後ろには【生贄】故に、足に着けられた足枷故に何も出来ない
怨念の炎も、《眷属生成》すらも使えばイスラは無事には済まないだろう。
だから……五分五分。
圧倒的なステータスで上回っている【燃怨喰霊 ズー・ルー】と修復不可能な傷を与えてくる【誓約天 アイラ】。
互いに致命傷になりうる攻撃手段を持ちうり、互いに生存能力に優れた<UBM>。
ほんの数分間の戦い。
そしてその決着はついた。
――一人の男の思惑通りになったという意味で。
「……え?」
それは突然発動した。
一番近くにいたイスラですら悲鳴を上げることも出来ないほどの突然の出来事だった。
イスラの足元を中心として部屋中に広がる幾何学模様の魔法。
――『二つ目の魔法陣』
その存在に互いの攻撃に弱り、傷ついていた二体の<UBM>が対応できるはずも無い。
成すすべなく、悲鳴を上げる間もなく魔法陣の放つ光の渦に吸い込まれていく。
そしてその光が収束し消え失せた。
そこには先ほどまでいたイスラと二体の<UBM>の姿はない。
【誓約天 アイラ】も。
【燃怨喰霊 ズー・ルー】も。
【生贄】であるイスラの姿も消え失せ……
――一体の『伝説級』<UBM>、【殺戮熾天 アズラーイール】が立っていたのだった。
◇
「……やった、やったよアリシア!! 僕の計画は成功だ、完ぺきだった!!」
先ほどまで【誓約天 アイラ】と【燃怨喰霊 ズー・ルー】との激しい戦闘が行われていた小さな地下部屋。
荒れ果てたその部屋に、男は歓喜に叫びながら入ってきた。
そして嬉しそうに髪を、皮膚を掻きむしる。
幽鬼のような青白い肌から真っ赤な血がにじみ出る。
「途中で変な<UBM>が乱入してきたけど……上手くいってよかった。いや、神の使徒である天使に死を超越した死神。これならきっとアリシアも蘇らせることが出来る!」
【高位助祭】の男は今までの苦労が報われたかのように嗤う。
そして部屋の中央まで歩み寄り、呆然と立ち尽くす【殺戮熾天 アズラーイール】の頬を愛おしそうに優しく撫でた。
男の計画は緻密だった。
そして用心深かった。
【生贄】であるアイラを犠牲にして天使を召喚する魔法陣。
しかし、そこには問題が一つだけあった。
召喚されたモンスターはある意味、一時的なもの。
一定の時間が経ってしまえば再び光の粒となって消えてしまう。
だが、その時間内に愛しのアリシアを蘇生することが出来なければ全ては水の泡となってしまう。
加えて、召喚したモンスターが言うことを聞かない場合――<UBM>となってしまった場合はどうしようもない。
だからこその保険。
そのためのイスラであり、もう一つの魔法陣。
そうだ……召喚したモンスターに不安があるなら
至極単純で当たり前の考え。
その結果が、イスラへのモンスターの憑依させる魔法陣だった。
「アイラ、イスラ……やっぱり二人は天才だね。憑依させる魔法陣には不安が多かったけど、二人だからこそ上手くいったんだ。
二人とも僕と、そしてアリシアの自慢の娘だよ」
問題だらけ、成功するはずのなかった計画。
その計画は皮肉なことに二人の少女、そして二体の<UBM>を犠牲にして成功した。
そして……男の目論見は――アリシアを生き返らせることは叶わない。
「……え?」
何かが宙を切る音がした。
それに続くように重たい物体が崩れ落ちる鈍い音。
そして……男は気が付いた。
自分の身体が言うことを聞かない事に。
それは正解、そして間違いだ。
……男の身体は怨念の炎に燃え尽き、既に燃え尽きたのだから。
……男の首の下に繋がっているのは、死神が構える大鎌の断面なのだから。
「……なんで、なんで私はこんな事しようなんて……」
モノ言わぬ、動きもしないゴミとなったそれにイスラは思わず言葉を漏らした。
体が思い通りに動かない。
まるで何かの夢でも見ているかのような気分になりながら。
そして理解した。
自分自身の正体に。
そして心の底から湧き上がる本能とでもいうような衝動に。
『もっと、もっと人を
ここから始まるのは一体の<UBM>による殺戮であり、一人の少女の悲劇。
そしてそんな状態でイスラが出来ることはただ一つ。
……やはり、祈ることだけだった。
だから少女のは神へと、死神へと祈る。
「……誰か止めて……私を殺してっ」
【誓約天 アイラ】
種族:天使系
能力:高速再生・誓約執行
最終到達レベル:1
討伐MVP:――
MVP特典:――
発生:認定型
備考:カンストした【高位助祭】によって、【司祭】系統ジョブ大きな才能を持ったアイラを【生贄】に生まれた<UBM>。
突如乱入してきた【燃怨喰霊 ズー・ルー】と戦闘になるも、相性差で引き分け。
【高位助祭】の魔法陣によってイスラに憑依、【殺戮熾天 アズラーイール】の一部となった。
【燃怨喰霊 ズー・ルー】
種族:死霊系
能力:怨念燃焼・眷属生成
最終到達レベル:53
討伐MVP:――
MVP特典:――
発生:ジャバウォック
備考:三強時代から生き延びた死霊系<UBM>。
戦闘はあまり得意ではなく、【枢機卿】によってレジェンダリアの山奥(ローゼン村)に封印されていた。
アイラとライラを助けるために【誓約天 アイラ】へ挑んだが、相性差で倒せず相打ちに。
【高位助祭】の魔法陣によってイスラに憑依、【殺戮熾天 アズラーイール】の一部となった。