自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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すいません、戦闘シーン終わると思ってたのに……終わらなかった。
嘘ついて申し訳。
次で【騎神】vs【殺戮熾天 アズラーイール】終了……(予定)です。


第16話 【騎神】ヴィーレ・ラルテ

 □□□【騎神】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 「なんで……こんなことって」

 

 

 月光が射し込む丘の上。

 可視化出来るほどの濃い魔力が光を帯び、まるで幻のように浮かび上がる。

 <トラーキアの試練>で見たような幻想的な光景だ。

 しかしその内容は全くの別物、<トラーキアの試練>での景色が『隠れた秘境』と表現するならば、ここは。

 

 ――『産まれたばかりの地獄』

 

 アレウスに地面に下ろされた私は、その光景を眺めることしか出来ずに呆然と呟いた。

 想像しずらい抽象的な表現。

 だけど……これ程の的を得た表現は他を探しても見当たりはしないだろう。

 

 

 

 

 

 『A……GAA、AAAA』

 『CACA、CACACACACAAAAA!!』 

 『~~~~~ッ!』

 

 

 ――阿鼻叫喚。

 【殺戮熾天 アズラーイール】を護るように周囲を漂う『黒い死神』、より禍々しく変身した姿は直視した生物に死を覚悟させる姿をしていた。

 そして風もなしに不気味に揺らぎ続ける漆黒のローブからは、器から零れるように闇のような暗い怨念が漏れ続け、その闇からは無尽蔵(・・・)に《眷属》が《生成》され続けている。

 

 

 ――腐り、蛆の湧いた肉が骨が腐臭を放つ人型のモンスター、【ウーンド・ゾンビ】

 ――リアルな人の骨格を持ち、カタカタと歯をカチ鳴らすモンスター、【シビル・スケルトン】

 ――声にならない声を上げ、宙を漂う身体を持たぬ霊、【ホーンステッド・スピリット】

 

 

 その他にも、腐った動物のゾンビである【ビースト・ゾンビ】や血を吸い空を飛ぶ【ブラッド・ウェスペルティリオー】などその数は数えようもない。

 《眷属生成》で作り出された下級モンスターは『共食い』を繰り返し、それを上回るスピードで生成されていた。

 そして……それらを生み出した黒い死神もまたパワーアップしている。

 

 

 『GA、GAGAGAGAGAAAAAAA』

 

 

 鈍い音を立て、鳴らされる歯嚙みの音。

 その頭蓋骨の中に収められるように輝くコアは青白く燃え、怨念の炎の威力も大きく上がっていた。

 そして大鎌。

 それすらも【殺戮熾天 アズラーイール】の一部だったのだろうか?

 先ほどまでよりも大きく、鋭くなっているデスサイズ。

 恐らく黒い死神自身のステータスも上がっている今では、アレウスの馬鎧も意味をなさずに切り刻まれてしまいそうだ。

 

 

 何より一番恐ろしいのは、その中央に立つ一人の天使(アイラちゃん)

 この恐ろしいほどの数の眷属と黒い死神に護られていながらも、彼女には《アズラーイール》という『死の結界』に《高速再生》も備えているのだ。

 まさに『殺戮に特化した<UBM>』。

 誰にも止められない『伝説級』<UBM>、【殺戮熾天 アズラーイール】の本来の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 その光景に私は唇を噛む。

 

 (ほんとに何で……ううん、私の実力不足だ)

 

 地面に着いた手。

 細く白い女の子らしいその手は、悔しそうに握り込まれ地面に指の跡を残した。

 反対に女の子らしくない擦り傷だらけの肌に泥が飛び散った洋服が目に映る。

 

 

 「これ以上は……私には何も出来ないよ……。アイラちゃんを助けるために師匠に勝って、【騎神】になって、あんな啖呵切っちゃったのに……私は」

 

 

 口を開けば弱音が出てきた。

 それはまるで私自身に言い聞かせ、納得させようとしている言い訳のようにも聞こえてくる。

 

 (……惨めだなぁ)

 

 小さなため息。

 地面を見るように俯き、固く閉じた目尻から何か冷たいものが零れ落ちるのを感じた。その涙がより加速的に私の心を蝕んでいく。

 当の昔に感覚を失った右腕が土と涙が混じりあった泥で汚れた。

 

 

 「立たなきゃ、まだアイラちゃんは救えてないぞ。ヴィーレ・ラルテ」

 

 

 ……だが、立てない。 

 アレウスに《騎乗》するためにアレウスの身体を挟む筋力も、立ち上がるための決意も既にボロボロになり使い物にならなくなっていたからだ。

 ――勝ち目がない。

 その事実を頭の隅で理解し、心の奥底では諦めていた。

 この場には【魔樹妖花 アドーニア】の時のように助けてくれる師匠もいない。

 野蛮に笑い敵を睨みつけるホオズキも、その傍らで言葉という形にしなくとも前を見続けているシュリちゃんも。

 これほど心細いと思ったことは他にない。

 

 (……諦めてしまおうか、このまま戦ってもアレウスを。フェイを死なせてしまうだけだし)

 

 甘い誘惑だ。

 『逃げるわけではない。ただ、死んでしまえば生き返らないアレウス達の事を考えた結果の撤退』、これほど都合のいい理由(言い訳)は無いだろう。

 後は簡単だ。

 少しの間【殺戮熾天 アズラーイール】から姿を隠し、メニューからログアウトを選択するだけ。

 それを分かった瞬間だった。

 

 

 「……ッツ」

 

 

 感覚が無かった腕が、動かなかった手が動いた。

 戦おうとしても動かなかった腕が……逃げるために動いてしまった。

 ……駄目。

 勝手に動く右腕。

 それを自分の意志では止められない。

 ガクガクと痙攣しながらもその指で空中にメニューのウィンドウを開き、ログアウトのボタンへと向けスクロールさせる。

 そして、

 

 

 「駄目っ」

 

 

 『ログアウト』へと書かれたウィンドウへと伸ばされた人差し指。

 その指先はゆっくりとその画面へと伸ばされ……

 

 

 

 

 

 『BURURURUUUU!!』

 

 

 ……宙を切った。

  

 

 「えっ? アレウス?」

 

 

 同時に襟首をその口で掴まれ、ぶっきらぼうにアレウスの背へと振り飛ばされる。

 

 

 「……痛いんだけど……」

 

 

 いつもとは違い、戦闘形態の敵の攻撃を緩和する黒い剛毛。

 私はその毛並みに顔から飛び込むように《騎乗》し、ボロボロの身体を打ち付けた。

 鼻から落ちてしまったのだろうか?

 ズキズキと痛む鼻に涙目になりながら体を起こす、そして……

 

 アレウスに体へと付いた感覚の鈍い手、その手が何か……生暖かいヌルリとしたものに触れ、動きを止めた。

 

 

 「……血?」

 

 

 考えなくても分かる、それ以外ない。

 誰の血か?

 考えなくても分かる、アレウスの血だ。

 全身を黒鉄の馬鎧に身を包んだアレウス、その鎧の下には血を滲ませ、【出血】の状態異常を受け続けていたのだ。

 ……いつからだろう?

 私は自分の事ばかり考え、そのことに気が付いてはいなかった。

 

 

 「……ほんとに馬鹿だね。アレウスも……そして私も」

 

 

 そして気が付いた。

 アレウスの身の安全を理由にしようとしていた私。

 それを止めたのは他でもない――傷を負いながらも諦めずに戦おうとしているアレウスであることに。

 その真紅の瞳には、まだ諦めの色が浮かんでおらず、戦いに燃えるような真紅の炎を宿していることに。

 

 

 『KIEEE、KIE、KIEKIEEEE!!』

 

 

 「僕も居るよ!!」とばかりに私の頭に着地し、テケテケと足踏みするフェイ。

 私はその様子に小さく笑みを漏らす。

 そして……

 

 

 「最後の【騎神】の底力、私達の本気の力を見せつけてやろう?」

 

 『HIHIIIIIIIN!!』『KIEEEEEE!!』

 

 

 不敵に笑みを浮かべ、アイテムボックスから取り出した【HP回復ポーション】を一息に飲み干したのだった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 ――ゴゴゴゴオォ……プシューー!

 

 

 私達が今いる丘の上から遠く離れた場所。

 <ブルターニュ>の方面で何かが起こったのか地面が大きく震動する。

 揺れで地核にでも隙間が出来たのだろうか?

 地表に熱線が吹き出ては夜の冷たい空気に触れて水蒸気となって月光を受けては煌めいた。

 

 

 「……勝負は一撃、速攻で決める」

 

 

 私はアイテムボックスから【HP回復ポーション】を有るだけ取り出し、出し惜しみなく使い切る。

 品質の低い回復ポーションだったからだろうか?

 飲み干した口内には渋い苦みが残り気持ち悪い。

 だけどその効果はしっかりと効いたようだ。みるみるHPが回復していき、【出血】の状態異常になっていたアレウスの身体も血が止まり回復している。

 精神的な疲れは限界を超えてはいるが、体は辛うじてまだ動く。

 

 

 「アレウス、フェイ……師匠の時と同じ、アレ(・・)をやろう」

 

 『BURUUU? BURU!』

 

 

 今なお《眷属生成》を止めることなく下級モンスターを生成する【殺戮熾天 アズラーイール】。

 私はその様子を睨みつけながら、そう呟いた。

 

 長期戦では勝ち目がないのは既に嫌というほど分かっているのだ。

 そして私達に残された余力も底を着きかけていることも。

 ならば、取るべき行動はただ一つ。

 

 (誰にも避けられない……最高火力の一撃で辺り一帯ごと消し飛ばす!!)

 

 そして私は再び腰ベルトに付けられたアイテムボックス――『矢専用アイテムボックス』ではない、『貴重品アイテムボックス』へと手を伸ばす。

 ゴソゴソと探し、取り出したもの。

 それは細く、長く、鋭い特殊な金属(・・・・・)で出来たアイテム。

 

 

 ――【オリハルコンの鋭矢】

 

 

 

 【魔樹妖花 アドーニア】の討伐報酬で買った高い買い物の一つ。

 師匠との決闘に使ってしまい、残り四本となった矢の内の二本。

 私は【オリハルコンの鋭矢】を【純穿蛇竜の強弓・ネイティブ】へとつがえ、そして構える。

 

 

 ――この一撃が通じなければ私の負け、アイラちゃんも救えない。

 

 

 負けた時の失うものが大きすぎる。

 アイラちゃんを助けるためにジョブチェンジした【騎神】の意味もなくなる。

 下手をすればアレウスやアロンも死んでしまう。

 何よりアイラちゃんを救えない。

 分の悪い賭け、勝負、だけど…… 

 

 

 ――だけど……なんでだろう? この技で負ける気はしないや。

 

 

 【騎神】である師匠が編み出し、私が引き継いだ技。

 そして何より師匠を倒し(・・・・・)、認められた私の『必殺技』。

 故に、最後の一撃にこれ以上技は無く、これ以上信じられるモノもない。

 

 

 「……ヴィーレおねぇちゃん?」

 

 

 夜を彷徨う死者の呻き声。

 その中に混じって既に何度も聞いた――アイラちゃんの不安を押し殺す声が風を伝い、私に届いた。

 そして……私はアイラちゃんを安心させるように、不敵な笑みで前を見た。

 

 

 「大丈夫、私が絶対に助けるから」

 

 

 ――何度でも言おう、それで彼女が安心してくれるなら。

 

 

 「なんたって、私はあの師匠――【騎神】カロン・ライダーの弟子だからね」

 

 

 ――何度倒れようとも、何度でも立ち上がろう、彼女が助けを願うのならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、改めて名乗ろう。あの時目の前に立ち、名乗りを上げる師匠のように。こんどは『ヴィーレ・ラルテ』の名を使って。

 

 

 

 「我が名は、ヴィーレ。

  師であるカロン・ライダーの技を引き継ぎ、その意思を受け継ぎ、そして師匠を超えていく者。

  不死の<マスター>、【騎神】ヴィーレ・ラルテ。

  貴女の願いを聞き、貴女を救う……騎兵だよ」

 

 

 

 そのヴィーレの姿は、あの時の光景を方発とさせた。

 <マスター>としてはまだ“無名”。

 どれだけのティアンが彼女の名前を知っているかは分からない。

 

 しかし! それでも……少女にとっての――アイラにとっての【神】であり『英雄』はそこに居た。

 

 ――静寂。

 死者たちは見入るように一斉に口を閉ざし、月明かりがその場を照らす。

 そして……

 

 

 『KA、KAKKAKAKAKKAKAKAKAAAAAA!!』

 

 「《一騎当神》……《ザ・ラ()イダー()・デ()ディ()ケイ()テッ()ド・()ブロー()》!!」

 

 

 

 

 百を優に超す死者の大群と一人の騎兵が火花を上げた。

 




【殺戮熾天 アズラーイール】
種族:天使系
能力:《アズラーイール》・高速再生・怨念操作・《眷属生成》
現在到達レベル:60
討伐MVP:――
MVP特典:――
発生:認定・デザイン型
作成者:――
備考:レジェンダリアの山奥で殺戮の限りを尽くした<UBM>。
   その正体は【燃怨喰霊 ズー・ルー】と【誓約天 アイラ】が憑依した【生贄】であるイスラ(アイラちゃん)である。
   アイラの身体能力は一般人と変わらないものの、《アズラーイール》の即死領域、高速再生、そして怨念を操り炎に変えて攻撃する死神と怨念を元に沸き続けるモンスターによって守られ普通に強い<UBM>となっている。
   超技巧型であり、コアを二つ持つ。
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