自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第18話 【炬心岳胎 タロース・コア】

 ■【炬心岳胎 タロース・コア】

 

 

 

 

 

 ソレが初めてみた光景は『自分を見ては笑う、二人の人物の笑顔』だった。

 自分を見下ろす二人の人物。

 その笑顔を見て自分が何を思ったのかはもう覚えていない。

 ……いや、考える知能を持っていなかったのだ。

 

 ――ソレは【ゴーレム】だったから。

 

 ソレは人の形をしておらず、まるでボーリングの玉のような姿をしていた。

 何の機能も戦闘武装も持たない、ただのゴーレム。

 子供が作った(・・・・・・)粘土細工のような、ただ相手の言葉に反応を示すことしか出来ないような駄作だった。

 そんなソレが真っ先に覚えたのは二人の顔。

 そして自分の産みの親であろう、二人の名前だった。

 

 

 ――一人は寝ぐせの強い茶髪と頬のそばかすが印象的な女性。

  疲れると倒れるように眠り、涎を垂らしていた人――【装飾家(オーナメントワーカー)】メメーレン・ザリア。

 

 ――一人はあまり言葉を話すことのない無口な男性。

  ふと何かを思いついたように一つの作品を作り続け、出来上がったモノを眺めては微笑を浮かべた人――【巨象職人(コロッサスマイスター)】レオナルド・フィリップス。

 

 

 ソレの産みの親である男性はその後、どこかに旅立ってしまったがソレはその名と顔だけは忘れることは無かった。 

 感情があれば涙を流すことも出来ただろう。

 悲しそうな顔をした女性を励ますことも出来ただろう。

 しかしゴーレムであるソレがそんなこと出来るはずも無い。

 ただ、じっと、その様子を見つめていた。

 

 

 

 

 

 その後の日々は【ゴーレム】として……『充実しているのだろう』と認識できる毎日だった。

 ソレは産みの親である二人のMPの都合から『地下に流れるマグマから動力を吸収する』と言った仕組みで作られていた。

 だからだろう。

 一日の大半を自分の定位置――動力の充電場所で過ごす。

 充電が貯まればコロコロと転がって、何処かで寝てしまっているだろう女性を起こしにいく。

 彼女は簡単には起きない。

 起こすときは全力で、コロコロ転がって体当たり。

 そうすると彼女は頭を押さえながらコロコロ転がり、自分を見てニヘリャと笑った。

 

 

 ――『おはよう、■■■■』

 

 

 その笑顔をみてソレは考える。

 

 『これが幸せという感情なのだろう』……と。

 

 そして代わり映えのしない毎日が数年過ぎたある日の出来事だった。

 

 

 ――『起きて!! ■■■■』

 

 

 これまでで一度も、ソレが起こさなければ起きなかった彼女が早朝から自分を持ち上げ、とても嬉しそうにニヘリャと笑った。

 自分の仕事が無くなり悲しく……も無かったが、持ち上げられた手の上でフルフルと抵抗を試みる。

 しかし彼女は気が付かない。

 自分を彼女は顔の高さまで持ち上げ嬉しそうに目尻を垂らす。

 

 

 ――『私、とうとう【装飾王】に成ったんだよ!! ついにフェリップスに追いついたの!』

 

 

 言葉の意味は理解できなかった。

 ただ、嬉しそうに笑う彼女と久しく聞く親の名に自分もコロコロと転がった。

 毎日何かを作っていた彼女は珍しく、一日中笑い、愚痴り、食べ、そしてお酒を一瓶丸々飲んで寝た。

 自分が次の日の朝、眠る彼女の頭にもう突進でぶつかり起こしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……だが、そんな日が永遠に続くわけがない。

 全てのものに終わりが来るように、その日常にも唐突に終わりが訪れた。

 時間にして数十年後。

 それは一つの完成の声。

 

 

 ――『……出来た』

 

 

 小さな、小さな呟き声。 

 部屋の隅――彼女は作業場でそれを光に透かすように高く掲げる。

 

 

 ――『……私の中でも最高傑作かも。これが私の最後の装飾』

 

 

 ――オレンジ色に透き通る一つの大きな水晶球。

 その中には更に五つのオレンジ色の結晶が埋め込まれ、光を通し僅かに光る。

 まるでスノークリスタルのような外見をした装飾品だった。

 

 数十もの失敗を繰り返したのだろう。

 作業場の周辺には山のように【ブローチ】や【指輪】が積み上がっていた。 

 思い出せばここ数年同じものばかり作っていたように見える。

 恐らくその失敗を積み重ねた結晶とも言えるものが今完成し、それが彼女の持つ水晶球なのだろう。

 

 嬉しそうに眺めてはフニャける彼女。

 そんな彼女は水晶球から、ふと顔を反らし……その表情を先程と真逆のものに変えた。

 

 

 ――『フィリップス、今どうしてるんだろ?』

 

 

 視線の先に捉えたのは『一通の手紙』。

 ここ数年、連絡が途絶え、生死の確認もとることが出来ない古い友人の名前だった。

 何処かに居るだろう友人を探すようにに虚空を見つめる。

 そして……

 

 

 ――『……よし!』

 

 

 彼女は小さな鼻息を漏らし、一息にその場から立ち上がった。

 ヨロヨロと痺れた足でゆっくりと、慎重に充電する【ゴーレム】の元へと歩み寄る。

 ゆっくりとソレの体を持ち上げ……

 

 

 ――『えいっ』

 

 

 ボーリング玉の指の穴のような部分にその水晶球を埋め込んだ。

 【装飾王】メメーレン・ザリア――彼女の最終作であり『最高傑作』は他でもない、彼女の処女作を埋め込んだ【ゴーレム】の装飾部品だった。

 マグマを動力とする【ゴーレム】のエネルギーが装飾品へと伝わり、水晶のオレンジ色がより輝く。

 呆然と固まる【ゴーレム】。

 そんなソレに彼女は微笑んだ。

 

 

 ――『私、暫くここを離れるよ。今は<化身>の侵略が激しいから……友人に別れの挨拶をね……』

 

 

 陽光を浴びてないからだろう。

 白く、細い女性の手で無骨な【ゴーレム】の表面をそっと撫でた。

 

 

 ――『絶対に帰って来るから。それまでお留守番よろしくね■■■■』

 

 

 彼女はそう言い、笑顔でソレに手を振った。

 そして……『バタンッ』

 彼女が閉じられた扉を再び開く時は二度と来なかった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 【ゴーレム】はモンスターであり道具だ。

 その命令が残る限り、ソレが狂う事はあり得ない。

 故に……彼は待った。

 彼女が再び帰ってきてくれる事を信じて。それこそ愚直な機械のように。

 

 『彼女の起きる時間。太陽が東から昇る事、数千万回』

 

 『彼女と過ごした時間。それと同等の時が過ぎること数百回』

 

 ソレは狂うことなく正確に計算する。

 

 

 

 

 そして数千が過ぎた頃――扉は再び開かれた。

 しかし彼女ではない。

 姿を見せたのは『冒険家のような老人と、その頭に乗る一匹の青い鳥』。

 そんな人間をソレは知らない……つまりその人物は彼女の家を、思い出を荒らす侵略者である。

 

 

 ――『お留守番よろしくね、■■■■』

 

 

 その言葉は今でも正常に起動していた。

 故に……

 

 (……護らなければ)

 

 ソレは命令に従い動き出し、

 

 

 ※プレイヤー非通知アナウンス

 【(<UBMユニーク・ボス・モンスター>認定条件をクリアしたモンスターが発生)】

 【(履歴に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】

 【(<UBM>担当管理AIより承諾通知)】

 【(対象を<UBM>に認定)】

 【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】

 

 【(対象を逸話級――【炬心岳胎 タロース・コア】と命名します)】

 

 

 正常だった命令の中に、不思議なノイズが響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 □□□【狂戦士】ホオズキ&シュリ

 

 

 

 

 

 「なぁ、シュリ。一つ聞きたいんだが」

 

 「……何?」

 

 

 “ジャガーノート”との戦闘を終えたホオズキ。

 彼はため息混じりに疑問を込めた声をあげる。

 もしくは、それを――目の前の現実を受け止めたくないが故の質問を隣に立つ相棒へと投げ掛けた。

 それに蒼髪の少女――シュリちゃんは眩しそうに目を細目ながらぶっきらぼうに言葉を返す。

 

 

 「いや、何って言うか……」

 

 

 ホオズキは煮え切らない態度で尻すぼみに言葉を紡ぎ、

 

 

 「あれって何処までがモンスターなんだ?」

 

 

 目の前にそびえ立つ『山』に向かって指差した。

 ……そう、山だ。

 山のような【ゴーレム】だ。

 

 

 ――岩石を集めて固めたような岩の体と体格に釣り合わないような巨大な手足。

  

 ――その奥ではまるで血液のようにマグマが高速で脈をあげる。

 

 ――山を切り取り人にした、そう言われれば納得してしまいそうな<UBM>がそこには居た。

 

 

 「……何処からと言われれば、全部。……生物じゃないから、よく分かんない」

 

 

 ホオズキの顔を見上げるように真面目に答えるシュリちゃん。

 その言葉にホオズキは苦笑いした。

 ……自分がこれから挑むであろう相手を見て。

 

 

 「……完全にSTRの差が云々の話じゃねぇじゃねぇか。仮に俺のSTRの方が高くても殴りあったら普通に死ぬぞ、俺?」

 

 「……一撃」

 

 

 力とは『重さ×速度だ』と、何かの漫画で言ってはいたが……この状況では当てにはならないだろう。

 一撃が超広範囲攻撃であり、その重さは山の重さそのものなのだから。

 思わず、自身がその拳によってミンチになるのを想定し、背筋に冷たい汗を垂らせる。

 そして……

 

 

 『食らえ、《クリムゾン・スフィア》~~!!』

 

 

 遠く離れたホオズキ達にも聞こえる大きな声。

 同時に突如、視界の端に真っ赤な炎が映り込んだ。

 【紅蓮術師】の奥義である《クリムゾン・スフィア》、魔法の中でも最高威力を誇る上級魔法だ。

 

 

 「ゴーレムに炎って……効かねぇだろ、絶対」

 

 「……やれやれ」

 

 

 二人はその様子を半分、他人事のような木持で眺め、

 

 

 「な、なんで!! うぎゃぁぁぁあ!!」

 

 

 放たれた《クリムゾン・スフィア》を丸々全反射(・・・)され、自身の魔法でデスペナルティになった<マスター>を見た。

 

 巨人のような大きな体と豪腕に、岩の体表の防御力。そして魔法から身を守る《魔法反射》。

 ただ、一歩足を進めるだけで森を荒野に変え、隕石が墜落したかのようなクレーターを作り出す――それが『逸話級』<UBM>【炬心岳胎 タロース・コア】。

 まさしく<UBM>足り得る存在が目の前に居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「放った魔法を無効化し、威力を減衰させることなく相手に跳ね返すか……フッ……まるで将棋だな」

 

 「……は?」

 

 

 静寂がその場を支配する。

 

 

 「……」

 

 「……は?」

 

 

 顔を背けるホオズキ。

 そんな彼の顔をじっと凝視するシュリちゃん。

 そして、

 

 

 「……行くぞ! シュテンドウジ!!」

 

 「……はぁ」

 

 

 ホオズキは何かに追い詰められるように【炬心岳胎 タロース・コア】へと向け、走り出したのだった。




まずい? やっぱりまずいですかね……
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