自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
□【狂戦士】ホオズキ
空を貫くような山岳の巨人。
黄金色の夕焼けがその背を赤く照らし、レジェンダリア特有の巨木の森にそびえ立つ。
――『神秘的』
例えるのならば『自由の女神』、もしくは“世界七不思議”に数えられる『ロドス島の巨像』だろうか。
自然に調和するその巨人にはどこか逞しさと無骨なまでの美が見てとれた。
それこそ【彫刻家】か【高位巨像職人】がその場に居たならば、「人類の宝だ!!」とでも言って保存しようとする程度には。
――まぁ、それが<UBM>である【炬心岳胎 タロース・コア】では叶うはずもないのだが……。
『GOOOoooooooO!!』
地を鳴らすほどの大咆哮。
近くで聞いてしまえば鼓膜が破れてしまうのではないかと思うほどの咆哮だ。岩と岩が擦り合うような……言葉にもならない咆哮が空気を震わし、
言葉の綾などではない。
――事実、地面が激しく揺れた。
それを引き起こしたのは【炬心岳胎 タロース・コア】の一撃。
ただの拳によるパンチ、それだけだ。
しかし……その一撃で地面には大きく亀裂が走り、辺りの木々は塵芥のように吹き飛んだ。
更に、よくよく見れば岩の拳が振り下ろされた場所――直径十メテルを超えるクレーター跡には、数人の<マスター>がデスペナルティになったことによる光の粒が残っている。
超音速ではなくても、その攻撃範囲と攻撃力は“即死攻撃”と変わらない。
AGI型ビルドのマスターでなくては避けることすら必死である。
そして、【炬心岳胎 タロース・コア】の一撃によって砕かれた岩石が衝撃で辺りに吹き飛んで……
「~~~~~ぁぁぁぁああああ! 死ぬぞ、これ!!」
岩石――ではなく、一人の『鬼』が地面に激突し鮮血をまき散らした。
二度、三度、地面を大きくバウンドする。
ENDの低さからだろうか?
衝突の衝撃で片足が千切れ、胸から肋骨が飛び出てしまっていた。
そして、
『……ホオズキ、到達率120%。……無謀に突っ込むから』
「知らねぇよ! 糞が! 何でアイツのでかい図体を登るのにもスキルが要るんだよ!」
弾け飛んだ男――ホオズキは、何処からか聞こえる相棒の声に舌打ち混じりに苛立ったように愚痴る。
その身体からは【到達鬼姫 シュテンドウジ】の固有スキル、《戦鬼到達》によって血煙を上げながら高速で再生を続けていた。
一撃でその衝撃によるダメージ、そして地面との激突とのダメージによって『再生用の血液』が半分以上消え失せたことが怒りを加速させる。
「何だ必要なスキルは!? 《山登り》か? 《登攀》か? んなもんねぇわ!!」
『……ホオズキ、煩い』
「……分かってるよ。ッチ、糞ボスが」
ホオズキの怒り、しかしそれもしょうがない事だろう。
何かに責め立てられるように【タロース・コア】へと攻撃を挑んだホオズキ、だが彼はまともに攻撃をすることもなく吹き飛ばされてしまったのだから。
――【タロース・コア】の身体をよじ登り、その胸に埋まっているだろうコアをたたき割る。
それだけの簡単な事だったはずだ。
それなのにホオズキが攻撃に失敗した理由、その答えは明白だ。
ホオズキは《登攀》スキルを保有していなかった。
【タロース・コア】は
その体は凹凸の激しい岩石に覆われてはいたが、登る角度はほぼ垂直である。
そして……動く。
激しく振動しながら垂直な……時には鋭角にすらなる岩盤を登る技術をホオズキは持ち合わせていなかった。
リアルでロッククライミングでもしていれば可能だったかもしれないが、生憎彼は病院暮らしだ。出来るはずも無い。
結果、怒りに任せるように【タロース・コア】の脚を叩き砕き――この有り様である。
「でもどうする? このままじゃ<ブルターニュ>まで辿り着かれて終わりだぜ」
完全回復。
数十秒の再生によりHPと体の外傷が回復しきったホオズキは、目の前にそびえたつ【タロース・コア】を見上げながら呆然と呟いた。
その考えは正しい。
事実、こうして今の今まで【炬心岳胎 タロース・コア】は討伐されていないのだから。
――近接攻撃を、その超質量による圧殺と地面への衝撃波で封殺する。
――魔法攻撃を、《魔法反射》で相手へと全て跳ね返す。
――遠距離攻撃を、その鎧のごとき重厚な岩の皮膚で食い止める。
仮に『敵の攻撃を倍にして叩き返す』などのスキルを持つ<エンブリオ>や、ヴィーレの【炎怪廻鳥 フェニックス】のような宙を飛べる<エンブリオ>なら結果は違ったかもしれない。
しかし、現実としてそんな<マスター>はここには居ないのだ。
【炬心岳胎 タロース・コア】が<ブルターニュ>へと辿り着くまでのタイムリミットは、もう半日と無いのだ。
此処に居るのは既に半壊した<マスター>のパーティーなど。
そして既に一つの戦闘を終え、疲労が着実に溜まっているホオズキだけ。
絶望的な戦力差がそこにはあった。
だが……
「どうする、シュリ?」
『……どうするかはホオズキしだい。私はそれに答えるだけ』
姿なきシュリちゃんはボソリと呆然と呟いたホオズキへと言葉を返した。
そしてそれは正しい。
彼女は彼を願いを聞き、答える。
それが【到達鬼姫 シュテンドウジ】であり<エンブリオ>なのだから。
「……オーケー。つまりはやることは一つ、いつも通り――『無茶を遣り抜く』って事だな」
『……うん、マスター』
獰猛に笑うホオズキ。
そんな彼にシュリちゃんも笑い返す。
今にして思えば、ホオズキのこの世界での旅は行き当たりばったりなものだ。
シュリちゃんが生まれ、すぐに【吸血戦士】へとジョブチェンジして旅に出た。
強さを求めモンスターを打ち倒す日々。
村へと出ればモンスターのドロップアイテムを売り払い、飯を食い、そして再び旅に出る。
そんな毎日の中、偶々出会ったのがヴィーレだ。
“霊都”<アムニール>の周辺に出た<UBM>、【魔樹妖花 アドーニア】の討伐者であることは耳にした噂から一目でわかった。
パーティーを組む提案をしたのはその強さの要因を知りたかったからだ……まさか頷かれるとは思ってはいなかったが。
そして……色々な事があった。
金が無かったから乞食をした。
金目当てで『メメーレンの遺跡』を探索した。
【殺戮熾天 アズラーイール】にヴィーレを殺させてしまった。
楽しいことも、悲しいこともそれなりに体験してきたつもりだ。
そして、自分自身について分かったことはたった一つ。
(……どうやら、俺は賢くも無ければ器用なことも出来ないみたいだ)
ヴィーレのようにティアンの為に泣くことも、糞猫女のような『センススキル』も持っていない。
持ち合わせはこの身体と強さを求める心だけ。
そんな彼の『無茶』、それが示すことはただ一つ。
「【タロース・コア】……てめえを正々堂々、ぶっ潰す!!」
彼は目の前にそびえたつ巨人に向け、大きな声で言い放ったのだった。
◆【炬心岳胎 タロース・コア】
初めに気が付いたのは小さな違和感だった。
全身を岩と土で構成された身体、その中に『小さな異物』が紛れ込んでいる。
これまでにも様々な攻撃が自身へと炸裂したが、拳を一つ振り下ろせば事足りる。傷ついた岩の身体は瞬時に再生し、攻撃してきた
『GOOooooO?』
故にこんなことは初めてだった。
攻撃ではない――何か異物が体に入りこんできたのは。
ソレはその異物を探すように自身の身体を見下ろす。
……そして、見つけた。
――自身の脚に
その言葉に間違いはない。
言葉の綾でもなく表現でもなく、刺さっていたのだ。
半裸の服装に頭に生えた二本の角。
体には黒い紋様が大きく渦巻いている侵入者の男。
『ゴンッ!』
男は小さな破壊音と共に自分の足を岩壁へと叩き込む。
自分を覆う岩石は鉄では無いものの強固だ。
しかし男はそれに構わず――自身の足が砕け、血が流れ出るのも気にせず、もう片足を更に前へと踏み込んだ。
……気が狂ってる。
自身の傷をかえりみず、岩壁へと膝まで蹴りこむ様に垂直に登ってくるのだ。これを気が狂っていると言わずに何と言えば良いのだろう。
『――――――ッ!!』
ゴーレム故に分からない。
自身に押し寄せる謎の感情に駆られるように、その男へと拳を振り下ろす。
この際、巨体を支える足が砕けても構わない。
念入りに何度も、何度も拳を振り下ろす。
その度に凄まじい衝撃波が周囲を駆け抜け、身体を構築する岩石が散弾のように飛び散った。
普通の<マスター>なら一撃でデスペナルティに陥る攻撃。
その一撃必殺の連打に加え衝撃波、そして岩の散弾。
生存は不可能だ。
それがホオズキ以外だったならば、だが。
『……到達率200%。……正々堂々戦うんじゃ無かったの?』
「うっせぇーよ、避けないとは言って無いだろ。それに、こうして身一つで戦ってることにはかわりないだろうが」
連撃によってボロボロとなった【タロース・コア】の脚……からではなく、同じくボロボロとなった拳からその声は聞こえてきた。
同じ岩石で出来た体をぶつけ合ったからだろう。
拳は半壊し、その脚はギリギリ巨体を支えている状態だ。
そんな半壊した拳――ホオズキはその拳の下で
「シュリ……久しぶりにお前が俺の<エンブリオ>で良かったと思ったぜ」
『……今更だね』
【タロース・コア】は微かに聞こえるホオズキの軽口を耳にしながら考える。
――何故、この侵入者は未だに生きているのか? と。
何より、どうやって何もないはずの宙に浮かんでいるのかと。
考えながらも【タロース・コア】はホオズキのを振り払うように拳を振り回す。
そして、
「頼むぜ、シュリ」
『……お酒一本ね』
突如、宙に浮いていたホオズキが
同時に【タロース・コア】は宙を移動する男と煌めく細い何かを視認した。
――夕焼けに反射しているのか真っ赤な細い糸。
いや、違う。
高速で伸縮する真っ赤な
侵入者である男は自身の身体から流れ出る血の糸を使い、まるでターザンのように自分の身体を移動しているのだ。
先ほどまでの垂直登り――無茶をしようとしていた男とは思えない避け方だ。
そして振り下ろした拳を避けた後にホオズキがとるだろう行動は……
「二度目はねぇぜ! その前にてめぇのコアをぶっ壊してやる!!」
自分のコアを砕き割ることだ。
振り下ろされ、地面にクレーターを作り出した拳、その腕の上をホオズキは吼えながら疾走する。
その先にあるのは一つ。
胸部の奥で輝くオレンジ色のコアである。
『GOOOooooooooO!!』
――速い。
到達率200%――<エンブリオ>の『全ステータス補正が200%』となったホオズキのAGIは、AGI型にも劣らない。
そして【タロース・コア】はあくまで【ゴーレム】。
その攻撃範囲と威力は凄まじいものの速度はあくまで亜音速である。
故に、ホオズキの動きに追いつけない。
振り下ろした手ではない、もう片手でホオズキを潰そうと必死に動くがその動きは亀の歩みだ。
「……ハッ!! うすのろが! 俺の圧勝だな、ガッハッハッハッハ!!」
『……変な事言ってないで、早く壊して』
「分かってるって」
胸部に到達したホオズキは【タロース・コア】を煽りながら大きく笑う。
シュリちゃんはそんなホオズキを窘める。
そして……
『……《血の代償》――地竜の握撃』
「<フィジカルバーサーク>、《血流操作》。これで……終わりだ!!」
【地竜の血液】で強化され、血を拳に纏わし凝血した拳が【タロース・コア】へと炸裂した。
ホオズキの拳は素の状態で岩を砕く。
放たれた拳は容易に岩壁の皮膚を砕き割り……
「……は?」
突き放たれた拳が
ホオズキの目に映ったのは突き破られた岩壁。
そしてその中から噴き出してきた
【ゴーレム】だったソレの動力は汲み上げられたマグマ。
<UBM>となり、【タロース・コア】として生まれ変わったその体内にはまるで
敵からの攻撃を防ぐ天然の防御機能であり、攻撃にも転換できるマグマである。
そのマグマの溶解速度は【到達鬼姫 シュテンドウジ】の再生速度を上回る。
『……ホオズキ!!』
「糞が! 分かってる!!」
とっさに攻撃を中断し、その場を離れるように跳躍する。
そして。
「……あぁ? なんだ?」
とっさに離れた胸部。
数秒後、その場に岩の拳が突き刺さった。
他でもない、【タロース・コア】の拳だ。
痛みを感じることのない超質量の拳はマグマを押し返し、胸部の奥へとめり込んでいく。
その拳は止まることなく【タロース・コア】の胸部を貫通し……
――『ズゥゥゥゥゥン!!』
周囲の木々を吹き飛ばしながら、その巨体は地面へと倒れこんだのだった。
◇【狂戦士】ホオズキ
既に夕焼けの空は西へと沈み、空には満点の星々が輝きだしていた。
騒がしかった<ブルターニュ>の街は驚くほどに静かだ。
周囲にあるのは倒れ伏した【炬心岳胎 タロース・コア】の姿と荒れ果てた森の跡。
その中、ホオズキは呆然としながら【タロース・コア】の亡骸を眺めていた。
「……最後のマグマには驚いたが……結局は自滅か。なんだか呆気ない最後だったな」
その呟きにはどこか不満が込められていた。
――『自滅』
<UBM>として『自滅』はどうなのかと思わないことも無いが、結果【タロース・コア】は自分の攻撃で死んだ。
ホオズキの拳ではなく、自身の岩の拳で自滅したのだ。
運がよかったと喜ぶことも出来るだろう。
しかし、ホオズキの胸にはなにかモヤモヤとしたものが残っていた。
『……ホオズキ?』
「いや、出来れば最後は俺の手で倒したかったなって思っただけだ」
呆然と見つめていたホオズキにシュリちゃんが声を掛ける。
『……でも、良かった』
「あぁ、これで一体。戻ってもヴィーレに怒られないで済むな」
最後はあっけないもののこれで三体の内の一体は倒した。
そのことにホオズキは軽くため息を吐く。
ヴィーレはきっと【殺戮熾天 アズラーイール】を倒す。
そうなればこれで残るは【嵐竜王 ドラグハリケーン】のみだ。
ホオズキは肩を伸ばしながら踵を返し、
『……ホオズキ』
「あぁ、なんだ?」
『……<UBM>の特典武具、貰えた?』
そうだ、<UBM>討伐での一番の利点は<UBM>の討伐者MVPに与えられる『特典武具』である。
討伐者MVPにアジャストした一つだけの武具。
これこそが多くのマスターが<UBM>を奪い合う理由でもある。
ならば【炬心岳胎 タロース・コア】の討伐者MVPは誰だろうか?
……十中八九、ホオズキだ。
だが、
「……いや、そんなアナウンスは来てねぇな」
ホオズキは自分の言葉に顔をしかめながら言葉を漏らす。
討伐者にはアナウンスが流れる。
これはヴィーレから聞いた確証の高い情報だ。
では、誰かにMVP特典が渡ったのか?
その確率も低い。
ホオズキが攻撃をする前、【炬心岳胎 タロース・コア】の姿はほぼ無傷の姿だった。
今回の戦闘では、ホオズキが独りで倒したのと大差ない。
ならば……残る可能性は一つ。
「……まさか、おい!!」
そして……彼は見た。
――その体表は岩ではなく黒く冷え固まった溶岩に覆われていた。
――その形は人間型ではない……二対の翼のような溶岩の羽を持つ鳥だった。
――その胸にはオレンジ色のコアが輝き、脚の鉤爪には大きな岩石が掴まれていた。
『逸話級』<UBM>、【炬心岳胎 タロース・コア】。
そのゴーレム型<UBM>が持つ能力は二つ。
一つは《魔法反射》。
遠距離から放たれた魔法を全て反射する【魔術師】殺しの能力。
もう一つが――《山岳装威》。
岩を、土を操り、自身の武器を身体を構築する能力。
そして、【炬心岳胎 タロース・コア】の本体はボーリング玉のような球体。
《山岳装威》で取ることの出来る姿に制限はない。
それこそ『人間型』でも『怪鳥型』、例え【スライム】のような不形なものだとしても。
故に僅かなコア……ボーリング玉のような本体が無事ならば、《山岳装威》でその外装は何度でも再生する。
そこに岩が、土がある限り。
だからこそ……
「……詰んだな」
『……ホオズキがとどめをきちんと刺さないから』
怪鳥型へと変貌し、空を飛ぶ【炬心岳胎 タロース・コア】の姿がそこにはあった。
マグマをまき散らしながら飛ぶ『岩石の鳥』。
その鋭い鉤爪には余った岩で造っただろう、大きな球体の岩が掴まれている。
『GOOOOOoooooooO!!』
地を揺るがす咆哮。
そして、これより始まるのは【炬心岳胎 タロース・コア】討伐の第二ラウンド。
「……ほんとに糞ボスだぜ!!」
あの大岩の球が<ブルターニュ>に落とされるまでの――『タイムアタック』である。
シュリちゃん……立体機動装置。
てか『ワンダと巨像』欲しくなってきた……
【炬心岳胎 タロース・コア】
種族:エレメント
能力:山岳装威・魔法反射
現在到達レベル:18
討伐MVP:――
MVP特典:――
発生:認定型
備考:山をも越えるほどの大きさを誇る巨神ゴーレム。
【装飾王】メメーレンの最高傑作であるアイテムを核に、【巨像王】レオナルド・フィリップスによって作られたゴーレムが暴走した<UBM>。
地下を流れるマグマを燃料に活動し、<ブルターニュ>を目指すが……。