自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
【【■■王】の武の指輪】→【【■■】の武の指輪】
第七話:「二人組の女性の<マスター>」→「男性と女性の<マスター>」
です。
□【炬心岳胎 タロース・コア】vs【狂戦士】ホオズキ
――山岳を纏う大岩の怪鳥だ。
霧の晴れた夜空の中で月光を浴び、地上に大きな影を残しながらゆっくりと飛ぶ。
速度は一般人の歩く速度程度だ。
エネルギーの大半を飛翔に回しているからだろう、その速度は『巨人型』の際より遥かに遅い。
そして……
【炬心岳胎 タロース・コア】の体内を循環するマグマが軌道上で、噴火のように降り注いでいた。
――モクモクと黒煙を上げながら降り注ぐ溶岩。
――地上では地響きが鳴り響き、真っ赤な炎が辺りで燃え上あがる。
そんな状況の中――
「どうするか……」
『……どうするの?』
【タロース・コア】を見上げるように呆然とホオズキは呟く。
そしてその呟きに聞き返すシュリちゃんの声が虚しく夜の森に木霊した。
「どうするのっつってもなぁ……どうしようもねぇだろ、あれ」
顎で指すように【タロース・コア】へ視線を向ける。
その先で飛ぶ【タロース・コア】との距離は約百メテルほどもある。
レジェンダリア特有の大樹をよじ登ったとしても、その距離は依然――四十メテルはあるだろう。
つまり……
「詰みだな」
――『飛行能力』
それはこの<Infinite Dendrogram>の世界において、一種の固有能力と言っても問題ないような能力だ。
飛ぶ、それだけで半分以上の近接戦闘系統ジョブが手も足も出なくなるのだから。
もちろん【狙撃手】や【狩人】、【魔術師】といった遠距離攻撃を持つスキルを持つジョブも存在する。
しかし……それもある意味、有ってないようなものである。
――硬い竜鱗と高い戦闘能力を持つ飛竜。
――物理攻撃を無効化し、魔法を自在に操るエレメント。
――高速で飛び、上空から一方的に攻撃する怪鳥類。
放つスキルは弾かれ、すり抜け、そして逃げられる。
<Infinite Dendrogram>において手強いモンスター。
その大半が『飛行能力』を持っていると言ってもいい程だった。
そして……それは【炬心岳胎 タロース・コア】も例外ではない。
――魔法を反射する固有能力。
――貫通力の低い攻撃を弾く岩壁の皮膚。
――そして、その山のような巨体に隠された小さな
文字通り、ホオズキは【タロース・コア】に対し『手も足も出ない』状況であった。
だが、ホオズキもこのまま指を咥えて待っているような男ではない。
周囲を見渡し……手ごろな石を握り込む。
そして、ハンマー投げのように身体を大きく捻り……
「……っ■■ァ!!」
<フィジカルバーサーク>を発動しての全力投てき。
勢いよく風を切る石は一直線に【タロース・コア】へと飛んでいく。
小さな石ころ程度だが、当たればその身体を構築する岩壁の皮膚を一部、破壊すること程度は容易いだろう。
渾身の力で投てきされた石ころはグングンと【タロース・コア】へ近づき、
『GOOOooooooO』
「あぁ、糞っ。やっぱり駄目だな、完全に敵視されてやがる」
『……あの距離、私の血糸も届かない』
愚痴るように眉を顰め、吐き捨てる。
「あの移動速度だと……<ブルターニュ>まで二十分ってところか」
『……あの規模、二次被害を考えたら……多分十五分』
「それまでに倒せなければ終わりか」
刻一刻と過ぎていく<ブルターニュ>壊滅までのカウントダウン。
ホオズキに残された時間は長いように見えて、その実短い。
迎撃できなければ残されるのは壊滅した街と、地下の溶岩を吸い上げ、手の付けようがなくなった【タロース・コア】だけである。
そして、それまでに【タロース・コア】を倒せなければ起こる事は……
――『
墜落すれば間違いなく【タロース・コア】の下敷きだ。
仮に上空で破壊、もしくは<ブルターニュ>の近くで倒したとしても、飛び散る溶岩と砕ける大岩で壊滅的な被害を負うことになるだろう。
「ッチ! 糞、何が何でもやるしかねぇか……」
最悪の事態を思い浮かべたホオズキは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
取れる行動は先回りのみ。
(……<ブルターニュ>に何かしらのマジックアイテムが残ってることを祈るしかねぇな)
そして<ブルターニュ>へ引き返そうと走り出し……
「――ボクが力を貸そう」
唐突に背後から掛けられた言葉に足を止めた。
「…………念のために名前とジョブを聞いておくぜ」
ゆっくりと振り返りながら、背後に立つ人物へと視線を向ける。
すると背後に立つ人物――
――顔が丸ごと隠れる、凹凸の少ないフルフェイスの鉄の甲冑。
――腰に挿された無骨な一本のロングソードは鈍らのように光を反射せず、鈍く輝く。
――肩には青のマントを纏う……一人の『騎士』がそこに居た。
「すまない、名を名乗り忘れるとは騎士としてあるまじき行為だ。キミの提案通り、ありがたく名乗らせていただこう」
鎧の中を反響し、ぐもったような低い声。
『騎士』は自身より背の高いホオズキを見上げるように礼の形をとる。
「ボクの名は『ルノー』。――【
◇
――【竜騎士】
今までに聞いたこともないジョブ名だ。
【
<アルター王国>には【騎士】の上位職――【
しかし……【竜騎士】など耳にしたこともない。
「すまねぇ、【竜騎士】に付いては聞いたことが無いな。その代わり【竜騎士】ってのは何が出来るんだ?」
「……何が出来るか、ですか……。端的に言えばジャンプ攻撃ですね」
――いまいち何を言いたいのかが分からない。
ホオズキは思わず首を傾げた。
「STRに伸び、ジャンプ能力に優れた騎士……と言ったところです」
「……あぁ、なるほど?」
何となく理解した。
所謂、某ゲームの【竜騎士】と同じと考えても問題ないのだろう。
そう考えればこれ程心強い助っ人は居ない。
詰まり……
「……詰まり、ジャンプ攻撃でアイツを撃墜させることが出来るのか」
「え? 出来ませんけど」
「……すまねぇ、物音が五月蝿くてよく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
再度、尋ねるホオズキ。
そんな彼にルノーは甲冑をガチャガチャと打ち鳴らしながら、不思議そうに首を傾げた。
「……出来ねぇのか」
「出来ません」
ルノーは再度、そう言い切りながら、腰に吊り下げたロングソードをポンッと叩いた。
「ボクの<エンブリオ>は少し特殊でして、あれほどの巨体となると岩壁を砕くのすら難しいんですよ」
――正論だ。
そもそもSTRとAGIの強化に特化しているホオズキだからこそ岩を砕き、その巨体を倒れ伏す程の火力を出せるのだ。
それがENDにも伸びた……バランス型の【竜騎士】に成せる訳がない。
「実は声をかけたのも困っているキミを見かけたからだけなんだ。……正直、現状も完璧には理解出来て無い」
『……ホオズキ、駄目だコレ。……ここに捨てていこう』
テレパシーでシュリちゃんが棘だらけの文句を吐く。
……同感である。
ホオズキはルノーをここに放置して、駆け出したい気持ちに駆られながら、頭を抱える仕草をした。
「……ボクに出来ることと言えば……」
「――?」
唐突に話始めたルノー。
その言葉にホオズキは顔を上げる。
「ボクが出来るのは、キミをあのモンスターのもとに届けること。
そして大岩をどうにかすることぐらいかな?」
何気なく呟かれた言葉。
その言葉に……
「……充分じゃねえか」
ホオズキは思わず頬がつり上がるのを感じたのだった。
◆【炬心岳胎 タロース・コア】
――『<
爆音が鳴りやまぬ夜空の中。
ソレがその小さなスキルの宣言を聞き取れたのは偶然だった。
相変わらずの知らない声――おそらく自身の身に取り込んだ『メメーレンの遺物』を狙う賊の声だろう。
【タロース・コア】は、先ほどまでの『鬼の侵入者』とは違う声と認識する。
しかし……
――『……敵影発見デキズ。コノママ浮遊状態ノ維持ヲ続行スル』
小さなスキルの宣言から数十秒。
何の変化も無い周囲の状況に【ゴーレム】らしく――合理的に、論理的に判断を下した。
そして、
『――?』
同時に目の前を不思議な影が通り過ぎた。
余りに一瞬の出来事。
「自身の身に何か不具合が起きたのではないか?」そう思考するほどに。
……そしてその考えは、自身の身体に落ちた影によって否定された。
月光を反射する甲冑を身に、宙を舞う一人の騎士。
右手に赤い糸を握りしめ、騎士はロングソードを左手に持つ。
見覚えのある赤い糸。
騎士はその後、何の敵対行動をとることなく地面へと落下していった。
それと同時に、自身の身体に衝撃が――何かが着地したような軽い衝撃が走った。
「……助かったぜ、ルノー」
それは聞き覚えのある野太い声。
まるで隠しきれないほどの歓喜を隠したかのような声だった。
つい先ほどの出来事だ、忘れもしない『鬼の侵入者』。
男は獰猛に嗤いながら牙を剥き凶悪な表情で大きく吼えた。
「今度こそこの手で完璧にはぶっ壊してやるよ、木偶の坊!」
『GOo、GOOOoooooooO !!』
男の言葉を皮切りに【タロース・コア】は自身の危機的状況を理解し、大きく咆哮したのだった。
『怪鳥型』である【炬心岳胎 タロース・コア】の背の上。
溶岩の炎が上がり、粉砕する轟音が響き渡る中、ホオズキはその身を激しい戦闘の渦中に躍らせる。
一進一退。
竜闘虎争。
ホオズキと【タロース・コア】の攻防は互いに致命ダメージを与えることは叶わず、数分の時を経過させていた。
――熱線となって吹き上がる溶岩の塊。
近くに居るだけでその身を焼く高温がホオズキのHPをガリガリと削る。
――鉄をも砕く、鬼の剛腕。
冷え固まり、粘着性と強度が増した黒い溶岩の外装を砕き割り、少しづつ【タロース・コア】の身体を削り取る。
互いに『再生能力』と『力』に特化した戦闘スタイル。
本来ならば自力で勝る【タロース・コア】だがそのエネルギーを浮遊に要している為、終わりの見えない戦闘が今もなお続いていた。
「っらぁ!!」
ホオズキの拳が溶岩の外装を割り、同時に叩き込んだ足撃が【タロース・コア】の身体を深々とえぐり取る。
……だが。
『……ホオズキ、無茶しないで』
「分かってる!」
蹴り込んだ足は半ば融解し、焼き焦げていた。
【タロース・コア】の体内を循環するマグマ、その防御を貫く手段をホオズキは有していなかった。
いや、正確に言えば少し違う。
ホオズキは自滅覚悟で四肢を振るえばマグマの防御も突破し、コアを破壊することも出来るだろう。
しかし……彼にはそれが出来ない理由がある。
「糞っ! コアはどこだ!!」
【タロース・コア】の身体は山のような巨体、その中から小さなコアを見つけ出すのは困難を極める。
故にホオズキは自滅覚悟の攻撃を繰り出せないでいた。
逆に【タロース・コア】も戦闘に適した形態でないが故にホオズキを仕留めきれないでいた。
――ただ、時間だけが刻一刻と過ぎ去っていく。
その事実にホオズキは額に冷たい汗を滲ませ……【タロース・コア】をも焦らせていた。
――『1分』
これが彼らのタイムリミット。
「……時間がねぇ、<ブルターニュ>も見えてきちまった!」
残り一分を過ぎれば【タロース・コア】の墜落による被害が<ブルターニュ>の街に及ぶ範囲に入る。
その事実がホオズキを焦らせる。
そして……
『GOOOOoooo!!』
怪鳥型の【タロース・コア】……浮遊に大きくエネルギーを割いてしまい、残りのエネルギーが二割を切った【炬心岳胎 タロース・コア】が焦りの咆哮を響かせる。
エネルギー源――<ブルターニュ>にたどり着くまでにエネルギーが切れてしまえば《山岳装威》も使用できない。
浮遊も維持できず、地面に墜落し砕け散ってしまうだろう。
互いに絶体絶命のピンチ。
戦闘による決着は一切見えずとも、確実に終わりは近づいて来ていた。
――『残り五十秒』
そして……戦いとは何が起こっても可笑しくなく、終わりは唐突に訪れるものである。
『GOOOooooooO!!』
先に動いたのは【炬心岳胎 タロース・コア】だった。
「どちらが先に音を上げるか」っと言った我慢比べに【タロース・コア】が負けたわけではない。
ソレは【ゴーレム】なのだ。
それゆえに冷静に、論理的に判断を下した。
――『ここが限界である』……と。
このペースで進めば、侵入者に負けるのは自身であると判断を下したのだ。
そして、そんな【タロース・コア】がとった行動……それは
「……何だ?」
途端に抵抗が無くなり、その巨体を圧縮し始めた【タロース・コア】にホオズキは思わず眉を顰める。
怪鳥型だった身体は瞬く間に萎んでいき、脚に掴んでいた大岩の球体が肥大化する。
それはまるで、
「……おい、まさか……!」
息を吞むホオズキ。
しかし……そのまさかである。
次の瞬間、それを肯定するかのように――怪鳥と脚に掴まれていた大岩の球体が分離した。
――『爆弾』
真っ先に頭に浮かんだものはそれだった。
自爆――では無い。
【タロース・コア】の本体はボーリング玉ほどの球体。
岩の【ゴーレム】だけあって《火炎耐性》や《熱耐性》が高い上、地面へと着弾すると同時に固有能力である《山岳装威》で地中へとその身を避難させる事ぐらいはやってのけるだろう。
後は残されたエネルギーで移動するもよし、爆発の影響で溶岩が噴き出るのならエネルギーを吸収して再び動き出せば良いことだ。
――『残り四十秒』
『……ホオズキ!』
コアを失った怪鳥型の巨象も未だに放物線を描きながら<ブルターニュ>へと落下しつつある。
しかし爆弾が爆発すれば、その被害は計り知れない。
爆弾を止めるか。
巨象を空中で破壊するか。
どちらにしてもとれる行動は二つに一つである。
そして、
――『残り三十秒』
「糞っ! 玉の方をどうにかするぞ!」
【竜騎士】であるルノーの大岩をどうにか出来ると言う言葉を信じ、爆弾の方へと飛び降りた。
『……どうやって……』
「空中でこいつのコアを砕く、それしかねぇだろ!」
ホオズキは言葉と共に全力で拳をその球体へと叩きつける……が、
――硬い。
《山岳装威》によって怪鳥型の巨象からエネルギーを移し替えただけではない。
コアと共に球体へと移し替え、その溶岩の外装を圧縮していた。
球体内では圧縮されたマグマがその熱を急上昇させ、圧縮された溶岩の外装は硬度を先ほどまでとは比べ物にならないほど高めている。
それこそ、ホオズキでも割ることが出来ないほどに。
だが……
「それでもやるしかねぇだろがぁぁぁあああ!!」
――吼えた。
同時に、《フィジカルバーサーク》と《血の代償》で強化された拳を一心不乱に叩きつける。
――『残り二十秒』
地面は間近。
だが、その拳を止めることはしない。
「……ッ■■■ァア!!」
ボロボロに折れた両腕で球体の外装を叩き割る。
再生を上回る速度で噴き出した血が、宙に霞となって消えていく。
白い骨がむき出しとなった腕が硬い外装とぶつかり、体中をしびれさせた。
だが、拳を振るうのを止めはしない。
そして……
『バキッ!』
「ッ!」
深々と叩き割った外装の奥から噴き出た溶岩が、ホオズキの左半身を消し飛ばした。
――『残り十秒』
残り数秒。
コアを砕こうと拳を振るうホオズキの行く手を防いだのは……やはりマグマの壁だった。
そしてホオズキには、そのマグマを突破できる手段がない。
――『詰み』
一瞬、その考えが頭を過る。
そして……
――『残り二秒』
次の瞬間、地面とぶつかり大爆発を引き起こす。
そう思われた瞬間だった
「……まだだ!!」
ホオズキはアイテムボックスからつかみ取ったアイテム――メメーレンの遺跡で手に入れた、【ジェム―《ホワイト・フィールド》】を目の前のマグマめがけて叩きつけた。
《ホワイト・フィールド》。
それは【
その効果はマグマに対しても変わらない。
一瞬で黒く冷え固まったマグマ。
ホオズキはその場所へと凍った拳を振りかざし……
――『残り一秒』
「これで……終わりだぁぁあああ!!」
【炬心岳胎 タロース・コア】のコアを叩き割った。
【<UBM>【炬心岳胎 タロース・コア】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ホオズキ】がMVPに選出されました】
【【ホオズキ】にMVP特典【山岳隻甲 タロース・コ…………
同時に、アナウンスの音声を耳にしながら、大きな衝撃によって意識を手放したのだった。