自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
あと2話
■<ブルターニュ・地下酒場>
既に瓦礫と化し、半壊してしまった“交易都市”<ブルターニュ>の街。
そんな未だに形を保っている露店の隅に、地下へと続く階段があった。
二度三度折り返しながら下へと伸びる階段。
下へと続くほど暗くなる通路を壁に設置された【マジックランプ】が淡いオレンジ色で照らしていた。
――『カコンッ』
そんな地下の階段が続く先の部屋。
小さな酒場となったカウンターで一人の男が酒の入ったグラスを鳴らす。
まるで酒場に似つかない。
――全身にピッチりと張り付いた全身タイツに、“箱を掲げる少女”の紋章。
『HENTAI』と呼ばれる人種の<マスター>が勢いよくグラスに入れられたウイスキーを仰ぐ。
――酒、ウイスキー、そしてワイン。
その男の周りには空になった酒瓶が散乱していた。
男が全て飲み干したのか、もしくは先ほどから続く地鳴りで地面に叩きつけられたのか。
どちらにせよ、酒場には男一人しかおらず、彼を注意する者も酒場を片す者も居なかった。
……いや、もう一人だけ居た。
「あれ? “タイツさん”もさぼりっすか? あ、もしかしてオレッちと同じ火事場泥棒だったりして……いやぁ~、気が合うっすね!!」
カウンターの奥。
本来、店主である酒場のマスターしか入れない場所から、姿を見せたのはバックパックを背負った老人。
老人は……いや、
――冒険家風の老人の頭の上で羽を休める青い鳥は休むことなくペラペラと喋る。
喋っていたのは老人ではない。
その頭の上で軽快に喋り続ける『青い鳥』の<マスター>だった。
「……爺さん……火事場泥棒とかヤバすぎだろ。こんな状況で堂々と盗みを働くって……頭逝かれてるぜ」
「あっはっは! タイツさんほどではないっすよ。それにこれは、埋もれてしまうだけのモノを有効利用しているだけっす!!」
「イヒヒヒヒッ、なら俺は割られてしまうだけの酒を有効利用してんだよ」
『ドサリッ』とカウンターの椅子に腰を下ろす老人。
その間にもタイツの男と青い鳥はケラケラ笑い、気にすることなく喋り続ける。
「……そのバックパック、爺さんどれだけ盗んで来たんだよ。そのうち【盗賊】系統の『超級職』にで目覚めちまうんじゃねぇかぁ~?」
そんな軽口を叩きながらタイツの男が視線を向けたのは、老人の背負うバックパック。
登山用の如き大きな背負い鞄だった。
どれだけのアイテムを盗んで来たのだろう? そのバックパックはパンパンに膨れ上がっている。
――そう、『高性能であるバックパック型【アイテムボックス】』がパンパンに膨れ上がっているのだ。
初期アイテムである【アイテムボックス】でも、その容量はクラス一個分ほどの量が入る。
そして、そのバックパック型の【アイテムボックス】は考えるだけでも『体育館一つ分』は軽く入るだろうと思わせた。
タイツの男はその中身に詰められた量を想像したのか、目を細めながらニヤニヤと嗤う。
青い鳥はそんな男の顔に、慌てたように羽を動かした。
「あ、これは全部オレッちのモノっすよ!! 例え、タイツさんとは言え一つたりとも上げないっす!」
「まぁまぁ、どうだ? 酒でもやるから……な?」
青い鳥に向かって酒を進める男。
そんな男に向け、更に青い鳥は声を荒げて怒る。
「オレッちは未成年っすーー!! そもそもそのお酒はタイツさんのものじゃないっすよ!」
「ウヒヒヒ、でも爺さんもんでも無いだろ?」
「まぁ、そおっすけどぉー。……それよりパンドラッっちはどうしたんすか? 姿が見えないようっすけど?」
取られるのがよっぽど嫌なのだろう。
青い鳥は露骨に話題を変え、何かを探すようにキョロキョロ見渡す。
青い鳥が探しているのは一人の少女。
今、隣で酒を仰ぐ男の相棒であり<エンブリオ>――【災厄母神 パンドーラ】である。
しかし……その姿は影さえ見つける事は出来なかった。
「あー、パンドラなぁー……家出し「――《聖杯探索》」――冷たい爺さんだなぁ。まぁ、すぐにわかるって」
はぐらかしたのが気に入らなかったのか<エンブリオ>の『固有スキル』を使用する青い鳥。
そんな青い鳥の様子にタイツの男は肩を竦める。
その顔には薄い笑みが浮かべられていた。
「――?」
首を傾げる青い鳥。
その疑問は二つの考えからくるものだった。
一つは、自身の<エンブリオ>――【聖杯渇望 パーシヴァル】の固有スキル、《聖杯探索》から感知した【災厄母神 パンドーラ】の大まかな位置によるもの。
【聖杯渇望 パーシヴァル】の《聖杯探索》は探索できるモノの範囲は広く、その大まかな位置を察知することが出来る。
そんな【パーシヴァル】が示したのは<ブルターニュ>の中央。
先ほどまで彼がいたオークション会場の屋上だった。
そして――確か、あそこには<クレイジーパレード>の仲間と大きな卵が存在していたはずだ。
二つは、隣で酒を仰ぐタイツの男。
その男の何か企んでいるかのような笑みと、何かを思い出すかのような上を見上げる視線が気になった。
――煤けた天井。
この<地下酒場>から見上げても何が見えるわけでもない。
もしくは……天井、その更に奥に広がっているだろう地上でも見透かしているのだろうか?
そんな事を青い鳥は考えて……
「あっ、そういうことっすか!!」
「ヒヒッ、やっと分かったか?」
青い鳥は理解した――というよりも思い出した。
タイツの男の<エンブリオ>――【災厄母神 パンドーラ】の『
「Type:メイデンwithアドバンス・ワールド。【災厄母神 パンドーラ】」
タイツの男は答え合わせでもするかのように上機嫌に語りだす。
青い鳥はそんな男を見ながら、大人しく話を聞く。
「メイデンっつぅーのは何でもジャイアントキリングに適した能力を持つらしいが……俺の【パンドーラ】は対人特化の<エンブリオ>だかんな」
そうだ。
何故、こんな男の<エンブリオ>がメイデンであるかは未だに謎だが、まごうこと無き『強者打破』のスキルを持つ。
そして、そのジャイアントキリングとしての特性は簡単。
――『自分で敵を倒せないのなら、自分でない――他の誰かに倒してもらえばいいのだ』
それが【災厄母神 パンドーラ】。
そしてその『必殺スキル』とは……
「《絶望の箱、希望の箱よ》……『密閉型のオブジェクトの破壊と共に、半径五十メテルの人型生物の全ステータスを半減。そして半径五百メテル内のモンスターの全ステータスを二倍し、その『ヘイト』を人型生物に押し付ける』……だったっすか」
――『人型生物に対する
◇<ブルターニュ・地上> 【騎神】ヴィーレ・ラルテ
――まさに一瞬の出来事だった。
その上半身は消え失せ、血を噴き出すだけのオブジェとなったホオズキの身体。
まるで赤い絵の具だ。
アロンの甲羅の一部を真っ赤に染め、腰より上を無くした下半身が『パタン』とあっけなく倒れ伏した。
「――ぇ」
時が止まったかのような感覚。
何が起こったのかも分からず、思考が無意識に停止する。
そんな中、私はただ呆然と《地盤超重》をものともせず暴威を奮う【嵐竜王】を眺めていた。
――新緑だった竜鱗にはどこか黒い色が混じり、汚れたような色に変化していた。
――怒りの感情を灯していた竜の眼は理性を無くし、薄暗い感情だけが渦巻いていた。
――私達へと向けられた敵意、それはまるで
赤いオーラを纏い、その身体を黒く染める……まるで【狂竜】のような【嵐竜王 ドラグハリケーン】がそこにはいた。
そして……その姿が一瞬ブレて――
『ガキンッ!!』
金属同士を激しくぶつけあったような甲高い金属音が目の前で鳴り響いた。
ワンテンポ遅れて、私の体を吹きつける暴風。
余りの暴風に態勢を崩した私が見たのは銀の甲冑。
大きく振りかざされた【嵐竜王】の破爪を長剣で受け止めるルノーの姿だった。
「――! キミ、早くこの重力場を解除しろ!!」
何かのスキルでダメージを防いでいるのだろう。
STR二万程度の破爪が剣としのぎを削り火花を上げながら、ルノーは焦ったように私に叫んだ。
「アロン、《地盤超重》を解除して! 《喚起》―アレウス!」
同時に体を引っ張るようだった重力が消え、『陸戦特化』であるアレウスへと《騎乗》する。
すると、弾かれたようにルノーの体がぶっ飛んだ。
「――すまない、時間を稼いでくれ!」
「任せて!」
交わすのは最低限の言葉のみ。
強弓を片手に疾走する。
「ッフ!!」
連続して放つ炎の弓が風をきりながら真っ直ぐに進み――【嵐竜王】の鱗に弾かれた。
『GALUGAAAAAAAAAA!!』
『HIHI~~N!!』
振るわれた三本の竜尾が。
アレウスの鋭い剛脚が、ぶつかり合って空気を大きく震わした。
有り得ない光景。
私はその光景に目を見開きながらも一つの事を確信した。
(……やっぱり。私のステータスは半分まで減ってるけど、アレウス達のステータスまでは減ってない)
今現在、アレウスの力と【嵐竜王】の力が拮抗しているのがいい証拠だ。
元より<UBM>としては、『魔法が使えるAGI型』に近い。STRとENDはそれほど高くはないはずである。
結果、ステータスの換わらない『STRとAGI型』のアレウスと釣り合っているのだ。
逆に貫通に特化した私の矢はSTR不足か貫通はしなかった。
そして……何より大切な事は。
「……さっきまでみたいに完全には風を操れてない!」
怒りに身を任せているからだろう。
身体を渦巻く風の防壁は未だに健全なものの、下から吹き上げるような暴風も発生しない。
(アレウスとフェイ、アロンの力があれば……いける!)
低空を超音速起動で駆け抜けながら、アレウスと【嵐竜王】が激しくぶつかり合った。
――鋭い破爪、アレウスが迎撃。
――突然の竜巻と鎌鼬、フェイが打ち消す。
――辺りを消し飛ばすドラゴンブレス、アロンがその強固な甲羅で防御。
三位一体……いや、四位一体。
――一瞬の判断も間違えられない。
三体の相棒の背から背へ、数あるスキルから選択を繰返し、跳び移るように《騎乗》する。
……恐らくじり貧だろう。
何時かは集中力か、それともSPか、何れは私にボロが出る筈だ。
「……ウッ!」
鎌鼬が肩をかする。
僅かに残した痛覚が小さく痛みを訴え、その痛みに声を漏らす。
(……どうしよう)
私はチラリと視線を外し、見たのはルノー。
【HP回復ポーション】で全回復したのか剣を構え、こちらの様子を伺っている。……いや違う、戦闘のスピードに追い付けずに参戦出来ずにいるんだ。
何より【竜騎士】と言えども【嵐竜王】の一撃をもろに食らえば、即死は逃れられないだろう。
――決め手が欲しい。
【嵐竜王】に致命打を与えられる一撃が。
(《騎神に捧げる一撃》を当てられれば……でも、私に当てられるの? この鎌鼬が飛び交う中で)
【魔樹妖花 アドーニア】のように物理攻撃な訳ではない。
【殺戮熾天 アズラーイール】のように一方向への炎の攻撃な訳ではない。
【嵐竜王 ドラグハリケーン】の鎌鼬は視認しにくく、全方位から飛び交ってくるのだ。フェイがいれば行けなくも無いが……
そんな事を考えながら思考に耽る私。
――思考に耽ってしまった。
「――油断するな!!」
「……あっ」
それは一瞬の隙だった。
仮に理性を失っているとは言え、『古代伝説級』<UBM>である【嵐竜王 ドラグハリケーン】を相手に油断してしてしまったのだ。
『GALUGAA !!』
視線を再び前へ。
そしてそこには居たのは――
――大きく息を吸い込んだ【嵐竜王】の姿だった。
『詰み』
正真正銘な詰みだ。
《騎乗》中のアレウスから跳び移れる程のAGIも時間もない。
(……あ、死んだかも……)
思わず瞑りそうになる目蓋。
だけど……このままではアレウスまで殺してしまう。
せめて、アレウスとアロンだけでも《送還》しなければ!
「――ッ! 《喚起》―アレウス、ア――」
『GALUGAAAAAAAAAA !!』
その口から吐き出される嵐のブレス。
そのドラゴンブレスは鎌鼬を撒き散らしながら、真っ直ぐに私へと向かってくるが……
(間に合わないっ!)
まだアレウスもアロンも【ジュエル】へ送還しきれていない。
本当に、ほんの一瞬の油断が生んだ隙。
そこから繋がった……最悪の展開だ。
(アレウス!!)
私はその最悪の展開を予期し……
【リリィーズ・ボナパルト、ニート、リンからパーティ加入申請が届きました】
【パーティに加入を許可しますか? YES/NO】
「……え?」
突然のアナウンスと共に目の前に立ち塞がった、ソレに目を見開いた。
――ソレはまるで絵本から飛び出たようなゴーレム。
――ソレはまるで絵本から飛び出たようなオーガ。
――ソレは大きな盾を構えた騎士。
目の前を埋め尽くすほどのモンスターのような生き物が立ち塞がり……ドラゴンブレスを防ぎきった。
その光景に呆然とする私。
そんな私の背後から、何処かで聞いたような声が掛けられる。
「ニャッハッハッハ! ボーっとするニャ、早くパーティー加入を許可するニャ」
そう言いながら彼女は――右腕を失いながらも軽快に笑う『天然温泉の女性』は私の肩に手を乗せる。
何が起こっているのか。
全く理解が追い付かない状況に目を白黒させながらも加入申請の『YES』を選択する。
そして……
「フハハハハハッ!! どうやら間に合ったようだな!」
私の背後――遠くから響く女性の声を聞いた。
「私が来たからにはもう大丈夫だ。この戦い我々の勝利を約束しよう!」
背後へ振り返る。
そこには居たのは二人の<マスター>、男性と女性のペアだった。
「私が誰だって? いい質問だ!! ん~、ナポレオン……あぁ、間違いではない! 諸葛孔明? フハハハハハ、うん、もう正解だな!!」
「いや、間違いですよ」
先程から大きな声で叫ぶ女性。
――装飾品の付いた薄水色の軍服。
――肩からながれる長い金髪の髪。
――軍帽を目深く被り、豪快に笑う女性の<マスター>。
そんな女性の横で男性が冷静に突っ込みを入れる。
――まるでサラリーマンのような黒いスーツ。
――茶色の短く切り揃えられた短髪。
――この世界では珍しい眼鏡と手に握られた本が印象的な男性の<マスター>。
まるで秘書……隣の女性と相合わさり、参謀のような印象を与えてくる男性だ。
そんな二人は呆ける私に目もくれず、堂々と名乗りを上げ続ける。
「私の名前は……【司令官】リリィーズ・ボナパルト!! この名前、ようく頭に刻み付けろ」
右手を前に、まるで昔の軍人のように叫ぶ女性の<マスター>。
その横で男性の<マスター>はくたびれたようにため息を吐く。
「……はぁ、【高位書記】ニート」
そして……二人は宣言する。
「《
「《
仮の、例えばの話をしよう。
これより先、<エンブリオ>の到達形態を最大と言われるまで進化させ、『超級職』に就く<マスター>がいるかも知れない。
そしてその<マスター>は『古代伝説級』<UBM>を簡単に……作業のように狩るかもしれない。
そして、この戦場を見て言うだろう。
『幼稚な戦いだ』……と。
間違いではない。
その<マスター>からみればしょうもない事は代わりないのだから。
だが、今は違う。
――<UBM>を単独で倒しうる者。
――数多の<マスター>を打ち倒し、センススキルに恵まれた者。
――現状の<マスター>の中でもまだ数の少ない、『必殺スキル』を発現させた者。
それぞれが現在における最前線。
<ブルターニュ>を守るため集まった強者達。
あぁ、はっきり言おう、
集いし六人。
成り行き任せのレイド戦。
そして今現在、これが『最高』であり『最強』のパーティーであると。
【災厄母神 パンドーラ】
Type :メイデンwith アドバイス・ワールド
到達形態 Ⅳ
紋章:箱を掲げる女性。
スキル:《???》、《???》
必殺スキル:《絶望の箱、希望の箱よ》
何かを密閉できるモノの破壊を条件に『半径五百メテル圏内の野性のモンスターの全ステータスを二倍』し、『半径五十メテル圏内の人間範疇生物の全ステータスを半減』する。
モンスターのヘイトを自身以外の人間範疇生物ヘ集中させる。
備考:対人特化のジャイアントキリング
『自分で敵を倒せないのなら、自分でない――他の誰かに倒してもらえばいい』と言うもの。
基本に戦法はMPKによる物量戦。