自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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長くなった。


第3話 フェニックス

 □<グリム森林> 【騎兵】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 “霊都”<アムニール>の東に位置する森林帯。

 <マスター>達に“初心者狩場”と呼ばれる<グリム森林>では一人の【騎兵】が森の中を駆け抜けていた。

 漆黒と紅の軍馬を駆る赤髪の女性<マスター>。

 赤髪の<マスター>が馬上から弓を射り、怯んで動きを止めたモンスターを黒馬がその大きな体と、凄まじいスピードで踏み殺していく。彼らが駆け抜けた後には、死んだモンスターのドロップアイテムしか残っていない。

 間違いなく彼女はレジェンダリアでも頭一つ飛びぬけた<マスター>だった。

 

 

 

 

 「何とか形になって来たね、それもアレウスのおかげだよ~」

 

 『BURURURURU!!』

 

 

 赤髪の女性<マスター>、ヴィーレは跨る漆黒の軍馬……アレウスの首を撫でまわしながらシミジミ呟く。

 アレウスは嬉しそうに唸り声をあげながら走り続ける。

 彼女は『ジョブクエスト』兼レベル上げを終え、ドロップアイテムを拾い集めながらゆっくりと<アムニール>へと来た道を戻っていた。

 縦横無尽に駆け抜けながらモンスターを倒してきたが道に迷うこともない。

 何故なら、駆け抜けた場所はまるで何かに踏み荒ら(・・・・・・・)された(・・・)ように植物が潰れ切っているからだ。加えて<グリム森林>でのレベル上げは習慣に成りつつあり地図も完全に埋まっている。

 結果、ヴィーレは迷うこともなく地面に落ちたドロップアイテムも見落とすことなく帰路につくことが出来ているのだ。

 

 

 「それにしても、ここにきてもう一週間(・・・)かぁ。短いようで長いようで……本当に色んなことがあったね」

 

 

 そう、一週間。すでに<Infinite Dendrogram>に降り立ち、ゲーム内では一週間の時が過ぎていた。

 他の戦闘職系の<マスター>は既に一つ目のジョブのレベルをカンストさせ、より強い敵を求めて遠く離れた狩場を探し始める時期である。

 そんな中、ヴィーレは“初心者狩場”で一つ目のジョブのレベル上げ。

 今でも<グリム森林>にいる<マスター>は彼女だけと言っていいほどに少なかった。

 有体に言えばヴィーレは完全に出遅れていた(・・・・・・)

 

 

 それにはいくつかの理由がある。

 

 一つに【騎兵】としての訓練。

 ファフザーに基本を習うと言ってもヴィーレは戦闘に関して素人だ。

 アレウスに乗る訓練から始め、乗馬状態で彼女の持つ初期武器である弓を扱うのにかなりの訓練と時間を要してしまった。

 むしろリアルで厳しい教育を受けてきたヴィーレだからこそ、この短時間で形に出来たのだがそれを他の<マスター>が待っていてくれるわけでもなかった。

 

 

 二つ目にヴィーレが独り(ソロ)だったこと。

 実は何度か他の<マスター>とパーティーを組んだことがある。

 しかしそのパーティーで受けたクエストは散々足るものであった。

 唯でさえリアルでは人と協力することなく一人で全てをこなしてきた彼女、頭では『協力』という言葉は理解しても体と心は全くと言っていいほど馴染めなかったのだ。

 加えて彼女が【騎兵】だったことも大きい。

 森の中を自由に駆け回りながら弓を射る彼女の戦闘スタイルは、それぞれ役職が与えられているパーティーでは邪魔以外の何物でもなかったのである。

 

 挙句の果てにパーティーメンバーをアレウスで轢き殺し、追い出された。

 久しく本気(マジ)で泣いてしまいアレウスに慰められたのは秘密である。

 

 唯一、戦闘スタイルが合った【闘士】のフィガロと【鎧士】の田中さんとはフレンド登録し合ったが、ここしばらくは音信不通である。

 

  

 

 いくつかの理由はありはしたが、結果ヴィーレは技術的な面では<マスター>の中でも秀でたもののレベルも低くソロで活動するのが日常に成りつつあった。

 

 

 「今日はギルドに戻ったらアレウスの体を洗おうね? かなり泥で汚れちゃったし」

 

 『……BURU』

 

 

 <グリム森林>から騎兵ギルドまでの距離は短い。

 <アムニール>に入るとすぐに騎兵ギルドのオンボロ小屋が見えてきた。

 アレウスを【ジュエル】に戻さずそのまま入る。

 

 

 「ただいま帰りました~」

 

 「あら? お帰り、ヴィーレちゃん。ずいぶんクエストをこなすのが早くなってきたわね」

 

 

 出迎えてくれたのは騎兵ギルドに所属するティアンの一人、ジュシーネさん。

 【騎兵】の上位職である【疾風騎兵(ゲイルライダー)】であり、ギルド内で(四人しかいないが)1,2を争う実力者だ。

 そんなジュシーネさんは普通のティアンではない。

 人の上半身に馬の体を持つ人馬種族、リアルではケンタウロスと呼ばれる亜人種族だった。

 人馬種族で【騎兵】に就けるのかは疑問に思うところではあるが、逆に彼女ほど【疾風騎兵】が似合うティアンはいないだろうとも思える。

 

 

 「私もアレウスもかなりレベルが上がってきましたからね。それにジュシーネさんから貰ったこの服がとても動きやすいので!」

 

 

 満面の笑みで嬉しそうにその場で一回転して見せる。

 ヴィーレが着ている服はもう以前のような初期装備のワンピースではない。

 

 体のラインにピッタリと密着するタイプの白の花柄が入ったブラウスに、動きやすい藍色のショートパンツとレギンス。

 長かった赤髪は髪留めで後ろに一纏めになっている。

 

 赤い髪も合わさって活発な女の子といった服装。控えめに言っても美人である。

 初めは少し恥ずかしかったが……レジェンダリアには特殊な服装な<マスター>も多くいてあまり気にならなくなった。

 加えて防具としての性能はこちらの方がかなり良いので重宝している。本当にジュシーネさんには感謝してもしきれない。

 

 

 「このまま一気にレベルを上げて、騎兵ギルドをまた再建させてみせます!」

 

 「ふふっ、頼もしいわね。期待してるわ」

 

 

 拳を握り声を上げるヴィーレにジュシーネは嬉しそうに微笑む。

 

 

 「でも、とりあえずジョブクエストの報告をしてから一休みしなさい。<マスター>にも休息は必要よ」

 

 

 その言葉で思い出したかのようにクエストの報告を行う。

 【騎兵】のジョブクエストはそのほとんどがモンスターの討伐クエストだ。

 いくつか護衛クエストや荷物の運搬クエストも存在するが、今のヴィーレではレベルが足りない。

 こうして小さなクエストをこなしながらレベルとスキル、そして技術を磨いていくしかないのだ。

 

 ジョブクエストの報告を終えたヴィーレは椅子に座りながらドロップアイテムの確認を始める。

 【騎兵】であり、アレウスというAGI型の従魔を駆るヴィーレが倒したモンスターは普通の戦闘職<マスター>が倒せる数よりは遥かに多い。

 ヴィーレが持つアイテムボックスにも溢れんばかりにドロップアイテムが詰められていた……のだが。

 

 

 「だけどこれだけあっても1500リルかぁ……」

 

 

 大量のドロップアイテムも全て“初心者狩場”で狩った所謂雑魚モンスターのもの。【ラージマウス】や【リトルゴブリン】、【ファングラビット】等が殆どである。

 先日までの<マスター>の大量の討伐もあってか売値も暴落してしまったという理由もある。

 結果、纏めて売っても大した額にはならないのだ。

 

 

 「矢もかなり使っちゃうし、もう少しアレウス主体の戦闘にしたほうがいいかな?」

 

 『BURURURUー』

 

 

 任せろと言わんばかりにアレウスが嘶くが、しかし弓の技術も上げたいのも本音である。

 弓を使えば矢は消費する。

 もちろん再利用できるものはできる限り使用するが、それでも湯水のように減っていく。

 使用する矢やアレウスの食事代、恒常的な資金不足がヴィーレを悩ませる一つだった。

 だが、それ以上にヴィーレを悩ませる悩みが一つ存在する。

 

 

 『<エンブリオ>が孵化していない』

 

 

 確かめるように掲げた左手の甲には<Infinite Dendrogram>を始めた時と変わらない、宝石型の<エンブリオ>が光っていた。

 すでにゲーム内で一週間。

 その孵化の遅さは異常とも言えるものだ。

 時おり耳に挟む<エンブリオ>の進化の噂がより一層焦燥を駆り立てる。 

  

 (お願いだから早く第一形態になってー!)

 

 毎日のように心で叫ぶ。

 これも既に六日以上続いている習慣。

 今日もいつものように祈るように願いを込めて…… 

 

 

 「やっぱり何も起き……えっ?」

 

 

 願うと同時に左手の<エンブリオ>が輝き出す

 それはいつもとは違った光景。宝石状だった<エンブリオ>から光の粒子が立ち上ぼり目の前で一つに形作っていく。

 そして光が収まると同時にそれは姿を現した。

 

 

 「これは……卵?」

 

 

 目の前に現れたのはダチョウの卵程の大きさの何かの炎卵。燃えるような深紅と蒼青の紋様が殻に渦巻き、離れていても感じ取れるほどの熱を秘めている。

 だが……熱くない。

 恐る恐る伸ばした指先が炎卵に触れるが、見た目のような熱さは微塵も感じない。

 

 

 「これが私の<エンブリオ>、不思議……」

 

 

 こみ上げてくる言い表せないような嬉しさと感動。同時にどうして自分から卵型の<エンブリオ>が生まれたのかという疑問が巻き起こる。

 

 

 「へぇ、<マスター>は<エンブリオ>に選ばれるっていうけど、それがヴィーレの<エンブリオ>なのね」

 

 「うん、私も今初めて見たけど……これが私の<エンブリオ>みたい」

 

 『BURURU』

 

 

 ジュシーネさんとアレウスが興味深そうに炎卵に触る。

 どうやら私だけでなく、皆も炎に関係なく触れるようだ。

 

 

 「あ、そうだ。メニューから詳細が見れるんだ」

 

 

 思い出すように開いたメニューには噂通り、私の<エンブリオ>の情報が載っていた。

 

 

 【炎怪廻鳥 フェニックス】

 TYPE:ガードナー

 到達形態:Ⅰ

 

 『保有スキル』

 《火炎増畜(フレイム・アカラマティッド)》Lv.1

  <マスター>の最大MP&SPゲージから溢れた(MP&SP)に×2をしたものを無尽蔵に蓄積する。

  炎を吸収し、MP&SPに変換する。

  戦闘時に蓄積したMP&SPを<マスター>に再供給する。

 

 『ステータス補正』

  HP補正:E

  MP補正:G

  SP補正:G

  STR補正:F

  END補正:G

  DEX補正:F

  AGI補正:D

  LUC補正:G

 

 

 

 「ガードナー? それにしてはステータスが低いような……」

 

 

 強い<エンブリオ>やガードナーが欲しかったわけでは無いが、噂に聞いていた第一形態の<エンブリオ>よりも格段に弱い気がする。

 <Infinite Dendrogram>内ではすでに一週間。全てではないと言え、ある程度のカテゴリーの特徴と<エンブリオ>にタイプがあることがすでに分かっている。

 

 <マスター>へのステータス補正に偏った、高補正型。

 <エンブリオ>としてのスキルが豊富な、スキル多数型。

 そしてどちらもバランスよくそろった、バランス型。

 

 この【炎怪廻鳥 フェニックス】はバランス型に当てはまるのだろう。

 しかしそれにしては全ての面で何かが足りない。

 スキル型のステータス補正に高補正型のスキル数。ガードナーとしては戦闘力はおそらく皆無、自力動くことすら叶わない。

 これではまるで、わざと中途半端(・・・・・・・)に孵化した(・・・・・)かのようだ。

 

 

 「でも<エンブリオ>が孵化したのは大きな一歩なはず! うん、やる気出てきた!」

 

 『BRUUUU!』

 

 

 そもそも完全に<エンブリオ>について分かったわけでは無いのだ。きっと成長が極端に遅(・・・・・・・)()ことも含め何かがあるのだろう。

 気にしていた悩みが一つ解決したヴィーレは元気よくアレウスの世話に歩き出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 □■□<グリム森林・奥地> 【鎧巨人】田中

 

 

 

 

 

 <アムニール>から遠く離れた<グリム森林>の奥地。

 木々が絡み合うように生え伸びる森の中に一人の<マスター>がいた。

 

 彼の名前は田中。

 ソロでありながらすでに【盾巨人(フルアーマー・ジャイアント)】という上級職に就いている<マスター>だ。

 彼は第三形態へと進化した自身の<エンブリオ>によって高レベル帯でのレベル上げを可能にし、ソロにして異例の速さでレベルを上げることが出来ていた。

 そのことからも彼が強い事は明らかだろう。

 その自信故かソロで森の中を突き進み続けていた。

 

 

 「むっ? なんでしょうあれは?」

 

 

 堂々と歩き続ける田中の前に表れたのは一本の大樹型モンスター。

 ゆっくりとした速度で進みながら獲物を捕食するモンスターだった。しかしレジェンダリアではこの手のモンスターも珍しくはない。

 

 

 「エント……いえ、何処か変ですね。エントの上位種、ハイエントといったところでしょうか」

 

 

 田中はここまでエントを数多く葬っている。

 仮に上位種であるハイエントといえども田中と彼の<エンブリオ>に掛かれば敵ではない。

 ――勝てる。

 そう判断した田中は……

 

 

 「ハァッ!!」

 

 

 全身の装備を《瞬間装着》で脱ぎ捨てた。

 彼に残ったのは急所を防ぐ一枚のブーメランパンツのみ。彼は不敵な笑みを浮かべながら両手を広げ歩き出す。

 彼は決して変態ではない。これこそ彼の戦闘スタイルであり、彼の<エンブリオ>【戒縄報復 ゴクソツキ】のスキルの発動条件であるからだ。

 

 

 「ハァァンッ!」

 

 

 独りでに動く大縄が田中自身の全身を縛り、【拘束】状態を自身に付与する。

 自身のエンブリオである大繩に縛られ動けない田中、そんな彼を獲物と判断したハイトレントが鞭のようにしなる枝で彼の体を殴打した。

 ハイエントの一撃は無防備に受ければ一撃でデスペナルティになるほどの攻撃力を持っている。

 本来なら防具も無しにハイトレントの攻撃を受ければ一撃でデスペナルティとなることは明白だ。

 その攻撃を受けた田中は次の瞬間、デスペナルティに陥る……

 

 

 「んん! いい、いいぞぉぉぉお!」

 

 

 ……ことなく恍惚の表情を浮かべていた。

 これこそ【戒縄報復 ゴクソツキ】のスキル。

 自身を縛ることで一定以上のダメージを1000以下にし、20秒後に食らったダメージを倍にして返す攻守一体のスキルだ。

 加えて全身を縛る大繩が一時的に全身鎧の判定を受け、【鎧巨人】の《ダメージ軽減》と《ダメージ減少》を発動。

 状態異常も『戒め』の言葉が付くエンブリオらしく、【拘束】状態時に【毒】や【麻痺】、【即死】のレジスト率が上がるまさに万能型の<エンブリオ>であった。

 極楽にも感じる20秒という長い時間を掛け、着々と蓄積されていくダメージ(快感)

 そしてその時は来た。

 

 

 「ふぅぅぅんっ!!」

 

 

 全身を縛っていた大繩が解け、彼の腕に巻き付いていく。

 それはまるで悪鬼の拳。

 ハイトレントさえ一撃で砕く破拳が、今まで一方的に攻撃していたハイトレントへと迫る。

 これぞ【鎧巨人】である田中の戦闘スタイル。相手の攻撃を前提としたカウンター攻撃であり、その前には多くのモンスターが葬り去られてきた。

 そして今も目の前のハイトレントを葬り去ろうとし……

 

 

 「……あれ?」

 

 

 田中は自身の拳で自らの胸を貫いた。

 霞む視界で最後に見たのはHPの下に並んだ十を超える状態(・・・・・・・)異常(・・)、そしてその中には 田中が初めて目にする状態異常である【魅了】の二文字が並んでいた。

 

 田中は、彼は根本的な勘違いしていたのだ。目の前にモンスターがハイトレントだと。

 もしくは【斥候(スカウト)】のジョブに就いていれば見えていたかもしれない。

 

 レベル差で全く《看破》できない敵モンスターのステータスを。

 そのモンスターは<Infinite Dendrogram>に一体。

 特異なスキルと、高いステータスを持つ<UBM>。

 

 【魔樹妖花 アドーニア】の名を持つ<UBM>はゆっくりと移動を開始する。

 より美味しそうな、栄養になりそうな敵を探して。

 

 人が多くいるだろう、<アムニール>のある方向へ。

 




<UBM>の名前は後で少し改変するかもです。すいません。
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