自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
……適当に時々更新。
第1話 目的地と成長
□<レジェンダリア・アルター王国――国境地帯>【女戦士】ヴィーレ・ラルテ
――“交易都市”<ブルターニュ>での“妖精囲い”から、一か月。
私が【騎神】から新たに【女戦士】のジョブを取ってから既に、二週間の時が過ぎていた。
楽しい時間ほど体感での時間は短く感じると言うが……あながち間違いでもないらしい。
私こと、ヴィーレ・ラルテにとっての自由な時間。
……ホオズキやシュリちゃん達とパーティーを組んでクエストを受けるなどの、楽しい時間は想像以上に簡単に過ぎ去ってしまった。
そんな楽しい時間の中。
レジェンダリアとアルター王国を結ぶ国境付近の森林を、三人の人物がゆっくりとアルター王国へと進んでいた。
「あぁ~、歩くだけなんてだりぃな。どうせならもっと強いモンスターが居るところを通れば刺激的だったんだがな。
この際、<UBM>でも出てきてくれたら楽しいんだが……」
愚痴を零しながら歩く大男。
右腕に大きな手甲を装備した大男は暇そうに頭の後ろで手を組みながら、欠伸交じりに愚痴たれる。
よほど暇だったのだろう。
……大きな手の平にはいつの間にか森で拾ったであろう齧りかけの【クリアベリー】が握られていた。
そんな大男――ホオズキは再び大きく口を開け、【クリアベリー】を一口に齧ろうとし――
「――ん」
横から差し出された小さな手に動きを止めた。
誰か? ――とは聞かずにも分かるだろう。
額から小さな鬼角が生えた蒼髪の少女、シュリちゃんである。
シュリちゃんはホオズキから渡された【クリアベリー】をその小さな口で一息に齧る。
そして……
「――味気ない」
「お前、酒が入っていないといつもそう言うよな」
ぶっきらぼうに呟かれた言葉にホオズキが突っ込みを入れた。
「あはは……シュリちゃんはお酒大好きだもんね」
そんな二人の後ろで私は小さく苦笑を漏らす。
もう既に見慣れた会話と光景だ。
この二週間、ホオズキ達とパーティーを組んで色々なクエストを受けたのだ。
【嵐竜王 ドラグハリケーン】との戦闘の時よりも互いに戦闘スタイルや性格などもしっかりと把握している。
私は二人の少し後ろをアレウスに《騎乗》して森を進む。
しかし……その姿。ヴィーレ・ラルテである私の格好は依然と違い、大きく変わっていた。
――一括りに【花冠咲結 アドーニア】で纏められたポニーテール。
――ヘソと二の腕が露わになっている……まるで水着のような赤いチューブトップとその上に羽織るジャケット。
――灰色の革製のショートパンツと腰ベルトが、白く細い太股を目立たせる。
……正直、少し恥ずかしい。
あえて例えるとしたら『浜辺に居るラフな格好な少女』と言ったところだろう。
だけどこれが新たに【裁縫職人】であるレズに作ってもらった防具――【女戦士】専用装備である【スカーレット act.2】だ。
見かけの可愛さはもちろん、その性能も折り紙つきである。
【スカーレット act.2】
【裁縫職人】レズと【皮鎧職人】プー、【高位靴職人】トーマスによって作られた合作防具。
【潜変織蜘 アラクネー】によって織られた高性能な布で作られ、多くのスキルが織り込まれた高性能防具。
・装備補正
防御力+280
・装備スキル
《弓適正》Lv.5
《自動修復》Lv.3
《破損耐性》Lv.2
《
《
前回の【スカーレット act.1】に負けない性能の高さ。
加えて、ここに《女帝の刻印》の効果が上乗せされるのでその性能は防具としては一級品である。
(少し性格があれだけど……)
この【スカーレット act.2】を作ってくれた三人とも性格は――あれだったが、その技術は他の<マスター>に引けを取らないものだった。
<エンブリオ>だけではない……リアルな技術も相合わさっての合作武具である。
そんな防具を身に包む私にホオズキが歩きながら振り返る。
「なぁ、ヴィーレ。そういえば何でお前の
そう言いながらアレウスをじっと見つめるホオズキ。
『BURUUUUUUUU……』
そんな視線が嫌なのか、アレウスがその逞しい首を少し捻った。
(アレウスは相変わらずの人嫌いだね……)
そんなアレウスの首元を撫でながら私は少し微笑んだ。
私が《騎乗》するときは嫌がることは無いが、他の人を乗せようとすると少し嫌がった素振りを見せるのだ。
……特に男に対しての素振りはあからさまである。
こうして見られるのすら嫌がってしまうほどである。
「アレウスの姿が変わったのは進化したからだよ」
「あぁ? モンスターって進化するのか?」
「うん、モンスターによって進化の回数なんかはその潜在能力によって変わるらしいけどね」
モンスターについてはあまり興味が無かったのだろう。
眉を顰めるホオズキに私は苦笑いしながら説明する。
「アレウスは【グランド・クリムズン・ウォーホース】っていう『亜竜級』モンスターだったんだけど、レベルが上がって【グランド・デミ・スレイプニル】になったの」
『純竜級』モンスターである【グランド・デミ・スレイプニル】。
それに進化したアレウスの姿も微々ながら成長を遂げていた。
――以前よりも大きく、力強くなった逞しい身体。
――硬い漆黒の毛並みに走る赤い稲妻のような文様。
――そして……アレウスの頭から生え伸びた二本の刃物のような角。
ステータスは流石『純竜級』と言ったところでAGIとSTR共に8000近くまで伸びている。
それに加えて新たなスキルも一つ増えた。
ある意味、この頃で一番大きな変化ともいえる。
今のアレウスなら『亜竜級』モンスター程度なら蹴り、そして鋭い刃角で突き殺してしまうだろう。
私の【女戦士】も半分程度までレベルも上がったし、頼もしい限りである。
そしてそんな私の説明にホオズキが納得した時だった。
――深かった森に眩しい光が差し込んだ。
「……抜けた」
「おう、ほんとに糞長かったな。やっと退屈しないで済みそうだぜ」
開け始めた森を抜け、二人は目を細めながらそう呟いた。
私もそんな二人を追いかけるようにアレウスと共に森を抜け……
「……見えてきたね」
その高いアレウスの背から見える光景に笑みを浮かべた。
未だに遠く、小さくしか見えないものの特徴的な都市。
円形の都市をピザのように分割し、それぞれの扇形に円形の――闘技場が数多く立ち並んでいる。
<アムニール>にも闘技場はあったが、あれほど大規模なものはこの世界でもここを除いて他には無いだろう。
アルター王国でも屈指の大都市であり“決闘都市”。
「――“決闘都市”ギデオン」
私は小さくその目的地の名を呟いた。
そして約二週間前……<ギデオン>を目指すきっかけとなった時の事を思い出すのであった。
□<旧・ハムレット平原>
――陽光が差し込まない暗闇の魔樹の森。
可視化出来るほど濃い魔力を吸い上げ、巨大化した魔樹。
黒い幹が複雑に絡まり合い、まともに歩くのも困難を極めていた。
そして――『暑い』。
まるで熱帯雨林のように湿気がこもり、周囲から休むことなくモンスターの鳴き声が響いてくる。
気の休める暇もない……モンスターの楽園。
それが<旧・ハムレット平原>、かつて【騎神】カロン・ライダーとヴィーレが修行をした場所であった。
そんな中、
「――糞暑いじゃねぇか、おい」
「……干からびる」
少し開けた魔樹の森。
モンスターの鳴き声が響く空間に、少し間延びした声が小さく響く。
かつて『ヒュリア族』が暮らしていた村跡で二人の人物が焚火を囲んで項垂れていた。
苛立ったように吐き捨てる……二メテル越えの大きな体躯を持つ大男の<マスター>。
その対面で暇そうにしている……額から小さな角が生えている蒼髪の少女。
誰……とは聞かなくても分かるだろう。
【
――ツンツン。
プルプルと震える【アビス・ラビー】。
手の平サイズの緑色の幼虫である【アビス・ラビー】は動くことも叶わずシュリちゃんによって転がされていた。
そんな焚火を中心として囲む二人と一匹、その周りにはたくさんのアイテムが散らばっている。
――【亜竜猛虎】の鉤爪。
――【エルダー・トレント】の木材。
――【ロックバード】の彩羽根。
それらは全てモンスターのドロップアイテムであり、ホオズキ達を襲った末路だ。
生き残っているのは魔樹の森に住み着いていた【アビス・ラビー】のみ。
ホオズキ達の実力を測りきれず襲い掛かったモンスター達に巻き込まれるような形で掴まってしまったのだ。
そして……
「おまた……せ? どうしたの二人とも」
そんな二人の目の前。
村跡の空いた<トラーキアの試練>への入口の前に赤髪の少女――ヴィーレが現れた。
<エレベータージェム>で脱出してきたのだろう。
ジョブは【騎神】のままだが、その腰には新たに黒い木材で出来た矢筒が吊り下げられている。
私は脱出早々、どこかげんなりした二人の顔に首を傾げ、
「もしかして何か変なものでも食べた?」
「ちげぇよ! こんな暑い中でお前を待ってたから疲れちまったんだろ!!」
「……疲れた、すごい」
「えっと……ごめん?」
怒涛の反撃に苦笑いしながら謝る。
時間通りに集まったけど……どうやら暇だったらしい。
苛立ったように立ち上がり、早々に森を出ようとするホオズキに苦笑しながら二人を見つめる。
「ホオズキ」
「あぁ? 何だよ」
「実は転職したんだけど装備制限があって……私はこれから新しい防具を作って貰いに行くけど、二人はどうする?」
――【女戦士】の《女帝の刻印》。
詳しい装備制限は未だに分からないが、このままではレベル上げもままならない。
もちろん<トラーキアの試練>で一撃も食らわずに、半裸で戦うというなら別だろうが……
そんな私の質問に顔を見合わせるホオズキとシュリちゃん。
そして、
「シュリだけ行って来いよ、その服以外にもあった方がいいだろ」
「……ホオズキは?」
「俺は防具はいらねぇからな……適当にレベル上げでもしておくぜ」
どうやらシュリちゃんだけついて来るようだ。
あのレズの元にシュリちゃんを連れて行くのは不安が残るけど……まぁ、大丈夫だろう。
私は二人の言葉に頷き、フェイに再び元の怪鳥型へと戻ってもらう。
あの渓谷を超えるにはフェイで無ければ不可能だ。
私は二人にフェイに乗るように促して……
「……シュリちゃん?」
シュリちゃんの手に持った【アビス・ラビー】に視線を向ける。
「その……幼虫? はどうするの?」
「……飼う」
「あ、うん。そうなんだ――「……ヴィーレが」――って私!?」
無言で頷き、腕に抱えた【アビス・ラビー】を差し出してくるシュリちゃん。
(……少し、アレウスの時と似た『勘』みたいなのを感じるけど……)
しかし、それには問題がある。
私にとって大きな問題。
「えっと、実は私、蟲はあまり好きじゃなくて……」
「……じゃぁ、殺しちゃうの?」
「うっ」
その言葉に思わず呻き声を漏らす。
シュリちゃんの腕の上で無抵抗に震える【アビス・ラビー】。
倒すこと自体は簡単だろうけど。
(……なんでだろう、心苦しいんだけど)
モンスターとは言え、無抵抗な相手を倒すのはどこか気が引ける。
「逃がすっていう選択肢は――「……ないよ? モンスターだから」――そ、そうなんだ……」
どうやら意志は固いらしい。
私はそんなシュリちゃんに大きなため息を吐き、
「《騎乗》中はシュリちゃんが抱えててね」
「……うん」
笑顔のシュリちゃんに私も微笑んだ。
そして、フェイに乗ったシュリちゃんと――訝しげに眉を顰めるホオズキへと視線を移した。
「ホオズキ?」
「……なぁ、この森にはエレメント系のモンスターはいるのか?」
唐突な質問。
私はその質問に首を傾げながら言葉を返す。
「ううん、少なくとも私は見たこと無いけど」
「……今さっき、お前の【アズラーイール】に光の玉が吸い込まれていったように見えたんだが」
その言葉に釣られるようにウィンドウで確認する。
しかし、【万死慈悲 アズラーイール】の詳細にはどこにも変化はない。
「別に何も変化はないよ? ホオズキの見間違いじゃないの?」
「……あぁ、そうかもな。お前が遅かったせいで幻覚でも見えてきたのかもしれねぇ」
そんなことを呟きながらフェイへと乗るホオズキ。
私はそんな呟きに顔を引きつるのを感じながら、乾いた笑いを小さく漏らした。
そして……チラリと背後を振り返る。
(……師匠、私を見守っていてください)
視線の先にあるのは村跡にポツンと建った小さな墓。
【騎神】だった師匠が眠るその地を傍目に、<アムニール>へと向け飛び立ったのだった。
【グランド・デミ・スレイプニル】/アレウス
レベル:58
種族:魔獣系
クラス:純竜級
保有スキル:
・《悪路走行》
・《物理攻撃耐性》
・《豪脚》
・《駿馬》
・《■■■■》
備考:
【グランド・ウォーホース】(上級)
↓
【グランド・クリムズン・ウォーホース】(亜竜級)
↓
【グランド・デミ・スレイプニル】(純竜級)
……足は四本である。