自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第4話 二人の決闘ランカー

 □<ギデオン> 【騎神】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 

 シュウさんと別れて数分。

 私達は<ギデオン>の丸い防壁に沿うように、反時計回りの歩いて回っていた。

 私は出店で買った【ホーンラビットの串焼き】を片手に。

 シュリちゃんは酒場で買ってきた【レム酒】をチビチビと飲みながら。

 自由気ままに、人の流れに乗るようにブラブラと歩いていく。

 

 しかし……それだけでも意外と楽しいものだ。

 

 

 ――レンガ造りの家、水が流れる用水路。

 

 ――白を基調とした綺麗に立ち並んだ建物群。

 

 ――人通りの多い大通りを、少し薄暗い裏路地を通り抜けるだけでもワクワクする。

 

 

 “決闘都市”<ギデオン>、その街並みはファンタジーながらも<レジェンダリア>とは大きく異なる。

 自然を最大限利用した『自然との共存』がレジェンダリアだとすれば、ギデオンは中世のヨーロッパをほうほつとさせる『白亜の都市』と言ったところだろう。

 

 

 「何度見ても飽きないね、何だか……ドキドキする」

 

 「そうか? 別に何とも思わねぇけどな」

 

 

 ポツリと呟いた感想。

 ホオズキはその言葉に何処か呆れたように言葉を返してきた。

 私とシュリちゃんの少し前を歩くホオズキ。

 その手は頭の後ろで組まれ、リズムなくズンズンと歩く足取りからどこか詰まらなさそうな様子が窺えた。

 そんなホオズキとは逆に、シュリちゃんはお酒に夢中である。

 

 (ほんとに似ても似つかないなぁ~)

 

 そんな二人の様子を微笑ましく眺めながら足を進める。

 

 

 ――目的地は無い。

 

 

 ただ歩き、何かに出会うまで流れに身を任せる。

 思えば私が<Infinite Dendrogram>を始めたのも何かに縛られることなく、自由に旅することが目的である。

 今でこそ、師匠との出会い。

 【魔樹妖花 アドーニア】との戦闘。

 “交易都市”<ブルターニュ>での“妖精囲い”。

 などと何かに巻き込まれることばかりだったが、こうして暇を持て余すのも悪くは無いような気がした。

 この『強制クエスト』を終えたら、しばらくレジェンダリアの辺境でのんびり過ごすのも悪くは無いかもしれない。

 そんなことを上の空で考えながらひたすら歩き、そして――

 

 

 「あぁ?」

 

 「どうしたの? ホオズキ」

 

 

 裏路地を抜け、少し眩しい表通り。

 そんな私達の目に飛び込んできたのは――こじんまりとした『闘技場』だった。

 

 『決闘都市中央大闘技場』と比べるとその大きさは八分の一も無い。

 心ばかりの薄い防壁と決闘用の結界のみ。

 観客様にか少し汚れたベンチがその周りを取り囲むように点々と置かれている。

 

 

 ――『路地裏の闘技場』

 

 

 そう呼ぶのが最もふさわしい気さえする。

 その周囲にはティアンでさえ誰一人と居らず、ポツンと内部の様子が見えない『闘技場』だけが建っている。

 

 

 「……誰か中で戦ってるな」

 

 

 不意にそんな言葉を漏らすホオズキ。

 私もその言葉に『闘技場』へと意識を集中させるが……

 

 (……駄目、音も匂いもしないし《危険察知》も反応しないね)

 

 不可視の結界。

 それ以外には感じられるものは何一つありはしなかった。

 

 

 「……中に二人、だね」

 

 

 続いて、ホオズキの言葉を補足するようにシュリちゃんが顔を上げた。

 シュリちゃんは『血』の<エンブリオ>。

 結界内だろうと、血という気配を感じられるようだ。

 

 

 「……」

 

 

 突然、中が見えない結界へと歩き出すホオズキ。

 そんな後姿に私とシュリちゃんは顔を見合わせ、後を追うように歩き出した。

 結界の元まで歩きよったホオズキはペタペタとその結界に触れる。

 

 

 「中には入れないよ? <アムニール>の闘技場と同じなら決闘が終わって結界が解かれるまでは誰も。……レベルが50以下ならすり抜けるらしいけど」

 

 

 そんなホオズキの様子に横から口を出す。

 そして――

 

 

 

 

 「――え?」

 

 

 

 

 ――次の瞬間、私は目を見開いた。

 ホオズキの手が結界をすり抜けたのだ。

 ……いや、違う。

 ただタイミングよく中での決闘が終わり、結界が解けただけだ。

 一瞬の戸惑いから我を取り戻し、結界が解かれた中へと視線を向ける。

 そして……そこには三人の人影があった。

 

 

 ――地面に腰を着くように座り込んだ一人の剣士。

 

 ――その隣に立たずむ赤髪の……私と同じか少し下であろう女の子。

 

 ――そして先の二人から少し距離を取り、向かい合うようにして立つ金髪と青いマントが特徴的な闘士。

 

 

 私はその三人に視線を送り、

 

 

 「……あ」

 

 

 再び驚きの声を漏らした。

 それは三人の中に見知った顔の<マスター>がいたから。

 正確には見知った顔、と言うわけではない。

 <Infinite Dendrogram>で初めて数度パーティーを組んだうちの一人がいたから。

 フレンド登録はしていたものの特に話すことも無く、<アクシデントサークル>で飛ばされたと聞いた人物。

 

 

 「フィガロ?」

 

 

 私はそのうっすらと見覚えのある顔に……何処か懐かしさすら感じる人物の名を口に出す。

 その小さな声は彼の耳にも届いたのだろう。

 ピクリと反応するようにこちらへ振り返り――数秒、視線が交差する。

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ごめんなさい。誰でしたっけ?」

 

 「アハハ、まぁそうだよね」

 

 

 首を捻り疑問を上げる彼の声に頬を引きつらせながら苦笑を返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ――あの闘技場での再会から一時間。

 

 

 

 私達は何故だか、私とホオズキとシュリちゃん。

 そしてフィガロとフォルステラ、ネイに別れ、テーブルをまたいで向かい合っていた。

 

 “そろそろ昼近くであり、この<ギデオン>の人の多さでは飯屋が見つからない可能性がある”――という剣士の<マスター>。

 ――【剛剣士】である『フォルステラ』さんの提案。

 そしてその隣に立つ赤髪の女の子のである『ネイ』のお腹の音を聞いたからだ。

 その音を聞いて、流石にそのまま話し込むわけにも行かない。

 結局成り行きで、共に昼食を取ることになってしまった。

 

 (別に一緒に昼食をしたくないってわけじゃ無いけど……)

 

 ……なんとなく気まずい。

 まるで学校で大して仲の良くないクラスメイトとグループを組む様になったかのような……微妙な空気だ。

 

 (あれ? もしかして私ってそういう状況に慣れてる?)

 

 改めて考えると学校では常にこのような雰囲気な気がする。

 人と話さない無口な私。

 そしてそんな私に気を遣うクラスメイトの図だ。

 

 

 「改めて、俺は<アルター王国>で<バビロニア戦闘団>のオーナーを務めている【剛剣士】のフォルテスラだ。と言ってもできたばかりの小さなクランだが。そして――」

 

 「アタシが団長の<エンブリオ>。ネイだよ!」

 

 

 真面目な性格なのだろう。

 一番に名乗りを上げたのは先ほどまでフィガロと決闘をしていたフォルテスラさんだ。

 そして元気な女の子であり……おそらくシュリちゃんと同じ『メイデン』であるネイちゃん。

 

 

 「僕は【剛闘士】のフィガロ。フォルテスラとは……決闘仲間かな?」

 

 「あぁ、決闘ランキング一位の【猫神】を倒すための仲間でライバルだな」

 

 

 確かめるような言葉に頷くフォルテスラさん。

 その後に続くように私も自己紹介していく。

 

 

 「私は……ヴィーレ・ラルテです。一応フィガロとは一回、二回パーティーを組んだことがあるから知っているよ。いつもはレジェンダリアを拠点にしてるよ」

 

 「俺は【闘士】のホオズキだ。まぁ、こいつの付き添いだな。んでもって――」

 

 「……シュリ」

 

 

 相変わらず、誰であろうと話し方が変わらない二人。

 ……ある意味、その度胸に感心してしまうけど。

 

 

 「もしかして……そのシュリはType:メイデンなのか?」

 

 「……そのとーり」

 

 「あぁ……すまない。同じメイデンに会ったのはあの女以外、初めてでな」

 

 

 何処か気を使ったような言い方をするフォルテスラさん。

 メイデンの<エンブリオ>だと何か気を遣うことでもあるのだろうか。

 

 (……ホオズキ達は気にもしそうにないけど)

 

 横目でチラリと見えるご飯をがっつく二人。

 この二人が何かで落ち込む様子を全く想像できないのが不思議だ。

 むしろ落ち込んでいる様子なんか見たら……何か変なものでも食べたか、演技を疑ってしまうかもしれない。

 

 

 「ヴィーレは僕とパーティーを組んだんだ……なら迷惑を掛けてしまったんだろうね」

 

 「――?」

 

 

 突然申し訳なさそうに話し始めるフィガロ。

 そんな彼に私は目を見開きながら耳を傾ける。

 

 

 「リアルの影響か、集団行動が苦手でね……パーティーを組むと上手く動けないんだ。だからきっと迷惑を掛けてしまったんだと思って」

 

 「ん――あ、そういうことか」

 

 

 一瞬何のことかと考えてしまった。

 

 

 「別に私達が組んだのも皆パーティープレイが出来なくて組んだだけだから大丈夫だよ? 私なんて【騎兵】でまともに戦えなかったし……」

 

 

 その言葉を聞いて安心したのかホッと笑顔を浮かべるフィガロ。

 私もその笑顔を見て微笑みを漏らした。

 そして……

 

 

 「ヴィーレは【騎兵】何だよね? それなら今からは開催される大会――【戦車競走(・・・・)】に出るのかい?」

 

 「うん、一応推薦だからシードだけど」

 

 

 私のジョブを聞いて思い当たったのか、そう尋ねてくるフィガロ。

 その言葉に私はパンを齧りながら小さく頷いた。

 

 

 ――【戦車競走】

 

 

 それこそがこの“決闘都市”に多くの人が集まっている理由であり、今回の目玉である一大イベントだ。

 騎士の国――<アルター王国>。

 機械の国――<ドライフ皇国>。

 妖精の国――<レジェンダリア>。

 貿易の国――<カルディナ>。

 西洋四か国合同で開催される<マスター>にとっては目の離せない大イベント。

 

 三日間かけて行われる祭りであり、今日は二日目……【戦車競走】の本戦が行われる日である。

 それ故か<ギデオン>を行きかう人々の数も多く、いつも以上に賑わっていたのだ。

 

 

 「推薦は凄いね……僕も昨日少し覗いてきたけど、すごい迫力だったよ」

 

 「昨日は飛び入り参加アリの予選があったんだよね? やっぱり強い人が一いっぱいいるんだろうなぁ」

 

 「うん、強そうな騎獣が沢山いたよ」

 

 

 少し思い出すような様子を見せたフィガロ。

 私もまだ見ぬライバルを思い浮かべ、笑みを浮かべた。

 

 昨日は【戦車競走】の予選。

 今日の本戦への参加権を手に入れるためのレースがあったのだ。

 四か国合同ともなれば……かなりの人数になっただろう。

 

 

 「あぁ、今回のイベントの優勝賞品はかなりのモノだからな。【騎兵】や【操縦士】に限らず、【従魔師】や【闘士】なんかも出ていると聞いたぞ」

 

 

 隣から会話に参加してきたフォルステラさん。

 

 

 「うん、確かにあれは魅力的だね」

 

 

 ――優勝賞品。

 それは私でも目を疑うほどに豪華なアイテムばかりだった。

 

 ――レジェンダリアが出品した【快癒万能霊薬(エリクシル)

 ――アルター王国が出品した【墓標迷宮探索許可証】と他国所属の<マスター>でも【墓標迷宮】を探索可能にする許可証。

 ――ドライフ皇国が出品した【身代わり竜鱗】

 

 

 そして、カルディナが出品した【■■■■■■】

 

 

 優勝者の総取り……豪華すぎるアイテムに<マスター>達は血眼だ。

 

 

 「もうそろそろ始まるがヴィーレは大丈夫なのか? ただ速く走ればかてるわけでは無いんだろう?」

 

 

 そう……走るだけでは勝てない。

 【戦車競走】は『決闘都市中央大闘技場』で行われる攻撃・妨害アリ(・・・・・・・)の乱闘競争。

 最後まで生き残る。

 もしくは決められた回数を一位で走り抜けば勝ちである。

 ……おそらく走ることを捨てて、敵を倒すことだけに力を入れてくる参加者もいるだろう。

 

 私は「大丈夫か?」と言ったようすでこちらを見る二人に頷き、笑った。

 

 

 「大丈夫、問題ないよ」

 

 「おぅ、こいつの心配はするだけ無駄だぜ」

 

 「……だぜ」

 

 

 相変わらず戦い以外には興味が無いのか、ひたすら食べては飲んでを繰り返すホオズキとシュリちゃん。

 

 (……二人は信用してくれてる、ってことで良いんだよね?)

 

 信用か、それとも興味が無いのか。

 いまいち判断がつかない二人にため息を吐きながら私は席を立った。

 

 

 「そろそろ時間だからいくね。手続きもあるだろうし」

 

 「おう、頑張れよ。俺はフィガロとフォルテスラと適当に決闘でもしてるぜ」

 

 「……応援してる」

 

 

 軽く手を掲げる二人と手を振るフィガロたちに手を振り、その場を後にした。

 行く先は<ギデオン>の中央、『決闘都市中央大闘技場』。

 久々に感じるドキドキを胸を落ち着かせるように、ゆっくりと歩き出す。

 そして……

 

 

 「……絶対に勝とうね、フェイ、アレウス」

 

 

 声は聞こえぬとも心の通じる相棒たちに呟きを漏らした。

 これから始まるのは【戦車競走】の本戦、並びに決勝戦。

 騎兵ギルドより言い渡された『強制クエスト』が今、始まろうとしていたのだった。

 

 

 

 

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