自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第5話 【戦車競走】―(上)

 □<ギデオン・決闘都市中央大闘技場> 【騎神】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 『会場の皆様ぁ! お待たせいたしましたァ!! これより本日のメインイベント、【戦車競走】を開始致しまァす!!』

 

 

 

 時刻は昼過ぎ――晴天の空に昇る太陽が天頂を過ぎ去った頃。

 私は選手用待合室にまで響き渡るような大きなアナウンスに瞼を上げた。

 闘技場内に流れるテンポの良い音楽。

 まるで観客を湧き立たせ、これから戦うであろう闘士達を鼓舞するような音楽が大音量で聞こえてくる。

 いや、それだけではない。

 

 

 『『『~~~~~~~ッ!!』』』

 

 

 待合室の壁に設置された大きな『ディスプレイ』。

 闘技場の様子を映すディスプレイから聞こえてくる観客の怒号が、応援が、意味を持たない叫びが音楽と混じりあい待合室に流れてた。

 

 

 「……」

 

 

 言葉は出ず、ただ膝の上のフェイをぎゅっと抱きしめる。

 

 (……体が熱い)

 

 久しぶりの緊張からか。

 ディスプレイ越しに伝わってくる熱気からか。

 それとも同じ待合室にいる闘士たちの気合からか。

 私は鼓動が高鳴り、体温が上がるのをハッキリと感じていた。

 そして……それは他の闘士も同じなのだろう。

 何十人とは入れるだろう大きな待合室のそれぞれの場所で、全員がギラギラとした眼光と笑みを浮かべディスプレイを見つめている。

 

 

 ――<マーシャル>を黙々と最終調整をし続ける【疾風操縦士(ゲイル・ドライバー)

 

 ――大きな獅子の騎獣を傍らに佇む【大騎兵】の<マスター>。

 

 ――戦闘経験豊富な歴戦の戦士のような雰囲気を纏う【高位従魔師(ハイ・テイマー)】の老齢のティアン。

 

 

 その全員が推薦されるほどの力量を証明した強者であり、何百人単位で行われた予選を勝ち抜いた猛者たちだ。

 その強さは【鑑定士のモノクル】を使わずとも雰囲気で分かるほどである。

 ……きっと激しい戦いになるだろう。

 私はそんな出場者たちの様子を一瞥し――彼らと同じように笑みを浮かべた。

 

 

 

 『この【戦車競走】は初めての試み! 決闘に馴染みのある方でも初めての方が殆どでしょうゥ!! なので僭越ながら、お先に【戦車競走】のルールについて説明させて頂きます!!』

 

 

 

 湧き立つ闘技場に響くアナウンス。

 初めに始まったのはこの【戦車競走】の主なルールについてだ。

 

 

 

 『この【戦車競走】のルールは基本的な決闘と同じ!! ダメージ減算系の消費アイテムの使用禁止、それ以外は【ジェム】あり、魔法あり武器ありの『なんでもあり』でございます!!

 

 

  ただし!! ……いつもの決闘とは違う点が二点』

 

 

 

 観客の歓声を手玉に取るように流れるアナウンス。

 “決闘都市”で築かれた技術なのか、それともそれ専用のジョブなのか。どちらにせよ人々の関心と注意を引き付けてくる上手な語り方だ。

 私自身も【戦車競走】は今日が初めて。

 ドキドキと高鳴る鼓動を抑えながらアナウンスの声へと耳を傾ける。

 

 

 

 『一つは、一レースにつき五人の闘士たちによるバトルロイヤル(・・・・・・・)形式(・・)であることですゥ!!

  これから行われる本戦では五人によるレースが五回行われ、それぞれの勝者が決勝で戦うこととなります!!』

 

 

 

 ――珍しい。

 この世界における決闘では、基本は一対一の形式である。

 しかし今回の【戦車競走】ではバトルロイヤル……最後に一人勝ち残った者の勝利となる。

 

 (……全員が敵。ううん、私は決闘自体が初めてだからあまり気にならないかな?)

 

 主に決闘をしている人はキツイルールだろう。

 今までのように目の前の敵に気を配るだけではなく、周囲一帯に気を張らなければならないのだから。

 私は早々にそう考え、特に気にすることなく受け入れる。

 そして……

 

 

 

 『そして二つ目!! 今回の【戦車競走】では戦いによる決着がつかない場合、一番最初にこのトラックを二十周駆け抜けた者が勝者となります!!』

 

 

 

 そのアナウンスに続くようにアップで移された闘技場。

 そこにはまるで競馬上――陸上などでよくみられる楕円形のコースが作りだされていた。

 

 

 「意外と大きいんだね……」

 

 

 そのトラックは予想以上に広く、そして長い。

 一周で約一キロメテルはあるではないだろうか?

 真ん中にはコースを無視できないように巨大な岩石による壁が出来ている。フェイに《騎乗》しひとっとびしてしまえば楽なんだけど……

 

 (駄目だろうなぁ~)

 

 流石に認めてはくれないだろう。

 やった瞬間に反則負けになるのは目に見えている。

 ルールについてのアナウンスはそれ以上流れない、本当に数個のルールさえ守れば何でもありの戦闘レースなのだ。

 

 

 ――戦闘を避け、一番先に走り抜けるのを狙うのも良し。

 ――レースを捨てて、敵の殲滅を狙うも良し。 

 ――ひっそりと走り、漁夫の利を狙うも良し。

 

 

 まさに何でもありの【戦車競走】である。

 

 

 『KWEEEEE?』

 

 「ううん、何でもないよ?」

 

 

 今までは森の中で……モンスターを相手に戦ってきた。

 しかし今回は闘技場で人を相手に戦うのだ。

 初めての事ばかり……その緊張が手に伝わったのかフェイが心配そうに私を見る。

 私もそんなフェイを撫でながら自分の心を落ち着かせていく。

 

 

 「……絶対に勝とうね」

 

 『KWE、KWEEEE~~!!』

 

 

 小さく漏らした呟き。

 その呟きに返事をするように膝の上のフェイが大きく一鳴きした。

 

 

 ――『勝ちたい』

 

 ――そして『勝たなければならない』

 

 

 好奇心とレースに対するドキドキが。

 『強制クエスト(・・・・・・)』という責任感に対するドキドキが。

 私のなかで入り混じるように増幅し、頬を上気させ、脈を早打つ。

 

 

 

 『それでは今回のメインイベントの目玉ァ!! 各国から出品された優勝賞品(・・・・)を紹介しましょうゥ!!』

 

 

 

 観客を焦らすように優勝賞品の紹介へと移るアナウンス。

 観客の怒号に乗るようにテンポよくそれぞれを紹介していく。

 

 

 ――<アルター王国>から出品された【墓標迷宮探索許可証】と迷宮探索の権利。

 

 ――<レジェンダリア>から出品された【快癒万能霊薬(エリクシル)】。

 

 ――<ドライフ皇国>から出品された【身代わり竜鱗】数枚。

 

 

 それら全てが数十万リルはくだらない豪華賞品の数々。

 その価値の大きさに比例するように観客たちの熱と歓声は徐々に大きく、ヒートアップしていく。

 そして……

 

 

 「……あれが」

 

 

 自然と漏らした言葉。

 私はディスプレイに映しだされたソレに目を細めた。

 

 ソレは大きな機械でありアイテム。

 ソレは大きな二つの車輪を持つ魔導兵器。

 ソレは――私の『強制クエスト(・・・・・・)の目的であるモ(・・・・・・・)()

 

 

 

 『そして、“貿易国家”<カルディナ>から出品されたのはコレ!! 先々期文明に製造され、かの【騎神】が遺跡探索の際に手に入れたというアーティファクトォ!!

 

 

 

 

 

 

  ――――【怒涛之迅雷(ラーズ・ライトニング)】だァ!!』

 

 

 

 私はそのアナウンスと共に、約三日前の騎兵ギルドでの出来事を思い出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇<アムニール・騎兵ギルド>

 

 

 

 

 

 「――え? 『強制クエスト』ですか?」

 

 

 新たな装備を<妖精の指先>で整えることが出きた私達。

 そんな私達は突然の騎兵ギルドからの呼び出しに応じ、騎兵ギルドの酒場のような広間で椅子に座っていた。

 

 

 「ああ、そうだ。ヴィーレに『強制クエスト』を受注してもらう。これは俺じゃない……騎兵ギルドとしての意志だ」

 

 「ごめんね? ヴィーレちゃん」

 

 

 そんな私の体面に座るのは二人の人物。

 私にとって数少ないティアンの知り合いであり、この騎兵ギルドに誘ってくれた恩人。

 

 ――この騎兵ギルドのギルド長であり、【大騎兵】であるファフザーさん。

 ――そして主に騎兵ギルドの財務や経理を担当している【疾風騎兵】のジュシーネさんである。

 

 私達、<マスター>が現れるまでこの騎兵ギルドを運営し、守ってきた二人の【騎兵】としての先輩だ。

 いつも騎兵ギルドを留守にし、最近姿を見ることがなかったファフザーさんは堂々と。

 そして皆に優しく、騎兵ギルドでの姉のような存在であるジュシーネさんは申し訳なさそうに私に言った。

 

 

 「えっと……別に受けますけど何なんですか? その『強制クエスト』って」

 

 

 少し戸惑いが混じった声。

 私のその言葉に二人はどこか安心したような様子で話し出す。

 

 

 「安心したぜ、仮に断られても正直どうしようも無かったからな。『強制クエスト』なんて騎兵ギルドの人数じゃ強制であってないようなもんだからなぁ」

 

 「そうね……でもそれより先に、ヴィーレちゃんに内容を説明するのが先でしょ? ファフザー」

 

 「あぁ、分かってるって」

 

 

 そこには騎兵ギルドに来た時に漂っていた物々しい雰囲気は欠片も感じられない。

 ……いつも通り、のらりくらりとした雰囲気の広間に戻っていた。

 

 (……何がどうなってるんだろ?)

 

 私は余りに唐突で何の情報も無い状況に首を傾げる。

 取りあえずはファフザーさんの説明を聞くしかないのだろう。

 私は大きな机の上でダラリと怠けるフェイを撫でながら、『強制クエスト』の説明が始まるのを待つ。

 そして……数秒後、何かの確認を終えたような二人はその口を開いた。

 

 

 「端的に言うぞ。ヴィーレにはこれから数日後に<アルター王国>の“決闘都市”で開かれるイベント――【戦車競走】に出場してもらう。もちろん騎兵ギルドのレジェンダリア支部を代表としてだ」

 

 「【戦車競走】、ですか?」

 

 

 私の確認するような声に頷く二人。

 そしてその経緯について話し始めた。

 

 

 「何でも<アルター王国>が<マスター>が急増して事を祝って大規模なイベントを催したいらしい。そしてそのイベントこそが【戦車競走】だ。

  【騎兵】やそれに類似するジョブについた人を対象としたレース、隣国である三カ国を巻き込んだ大規模なイベントでな。結果、俺達騎兵ギルドに真っ先にお達しが来たのさ」

 

 

 何処から――とは聞くまでも無いだろう。

 レジェンダリアの二つの頂点、【妖精女王】と実務を担っている首相の意志だ。

 しかし同時に分からないこともある。

 

 (何で規模の小さい騎兵ギルドなんかにお達しが来たんだろ?)

 

 ファフザーさんとジュシーネさん、二人だけだった時よりも大きく進歩を遂げた騎兵ギルド。

 今では数十人の<マスター>も参加したりと徐々にだけど大きくなりつつある。

 しかし……それでもまだまだ小さい。

 他のギルドと比べたら弱小以外の何でも無いだろう。

 そんな騎兵ギルドにわざわざレジェンダリアのトップからお達しが来るとは思えなかった。

 

 その不自然さに少し眉をよせる私。

 そんな様子にジュシーネさんがクスクスと笑いながら説明してくれる。

 

 

 「ヴィーレちゃんのおかげよ? 【魔樹妖花】や“妖精囲い”、そして『討伐ランカー』ですもの。騎兵ギルドも少しは有名になってきたってことよ?」

 

 「……すいません」

 

 

 ……私のせいだった。

 元から断るつもりは無かったけど、尚更受けなくてはならなくなった。

 

 

 「気にすることじゃない。元々、騎兵ギルドを立て直したいっていう俺達からしたら嬉しいことだしな」

 

 「そうよ」

 

 「むしろ申し訳ないのは俺達の方だぞ? 本当は俺たちが出るべきなんだが……この人数でな。<アルター王国>まで遠出すると騎兵ギルドが回らなくなってしまいそうでな」

 

 

 ……それもそうだ。

 私達<マスター>は組織の中核に関わるような依頼やクエストは受けられない。

 実力や信頼以前の問題。

 <マスター>は時々向こうの世界に戻らなければならない――『ログアウト』しなくてはならないからだ。

 なのでこう言った騎兵ギルドの経理などには関われないことが多いのだ。

 

 私もそのことは理解しているし、人手が足りていないことも分かっている。

 なので……目の前の二人に対して大きく頷いた。

 

 

 「大丈夫ですよ。その『強制クエスト』を受けます。私はその【戦車競走】に参加してくれば良いんですよね?」

 

 「あぁ、そうだ。参加も推薦と言う形での出場だから祭りの二日目までの<ギデオン>に行ってくれれば問題ない」

 

 

 私の確認に頷くファフザーさん。

 何にせよこれで『強制クエスト』については承った。

 後はレベルを上げながら……ホオズキ達に確認を取って出発するだけだ。

 私は早速、長旅に向けての準備を整えようと席を立つ。そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――そしてこれから頼むのは俺たちの……二人の個人的な頼みだ」

 

 

 唐突に――再び話し始めてたファフザーさんの言葉に動きを止めた。

 肌をピリピリと刺激するような小さな緊張感。

 真剣な表情。

 真面目な声で話す二人の姿に、私は再び椅子に座る。

 

 

 「ヴィーレ、お前には【戦車競走】で優勝してきてほしい。そして……とあるアイテムを持ち帰って欲しいんだ」

 

 

 ……とあるアイテム?

 『それは何か?』そう口に出そうとし――その声は妨げられた。

 

 

 「優勝賞品として<カルディナ>があるアイテム……かつてこの騎兵ギルドから持ち出されたものを出品するらしい。ヴィーレには優勝して、そのアイテムを取って欲しい」

 

 「あの事件、【樹霧浸食 アームンディム】の進行によって騎兵ギルドが縮小されるときだと思うんだけど……。

  騎兵ギルドの英雄である【騎神】が見つけて、騎兵ギルドのシンボルだったアイテムが持ち出されたの」

 

 

 ――騎兵ギルドの英雄。

 誰でもない――【騎神】カロン・ライダー。私の師匠その人だ。

 その師匠が見つけ出し、騎兵ギルドの象徴だったアイテム。

 そんなアイテム、師匠の口からもきいたことは無い。

 

 

 「……そのアイテムって――」

 

 「【怒涛之迅雷】――そう名を冠した魔導兵器」

 

 

 ファフザーさんは一息貯め、そして、

 

 

 

 

 「【騎兵】専用武装である――チャリオッツ(・・・・・・)だ」

 

 

 

 

 一息にそう言い切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇<“決闘都市”・ギデオン>

 

 

 

 

 

 ――【怒涛之迅雷】

 

 

 私は壁に設置されたディスプレイ越しに映るソレをじっと見つめる。

 観客の怒号にも似た歓声がより一層大きくなる。

 きっと皆理解したのだ、そのアイテムの凄さを。

 私のような素人目から見ても――一級品(・・・)、そう思わせるよなチャリオッツの姿がそこにはあった。

 

 

 ――【アダマンタイト】で形作られ、何かのモンスターの皮がふんだんに使われた無骨な戦車。

 

 ――騎獣に取り付けるための騎獣鎧と手綱がセットの『特殊装備品』

 

 ――真横に取り付けられたオレンジ色の魔法車輪は、風で動くたびに小さな電気を発生させる。

 

 

 私はその様子に、ファフザーさんとジュシーネさんの話を思い出した。

 師匠が見つけ、そしてただの一度も使われたことの無い魔導兵器。

 人馬種族の師匠が装備できなかったアイテム。

 

 

 曰く、それは『高いAGI補正』を持っている。

 曰く、それは地面の凹凸に関係なく走ることが出来、怪鳥類のモンスターで引けば空中すら走る。

 曰く、それは『走行スピードに比例し、迅雷の如く【雷魔法】で辺りを焼き払う』。

 

 

 騎兵専用装備だが、それ以外のジョブでも問題なく運用できるだろう。

 まさにこの【戦車競走】に出場する闘士、全員にとって涎もののアイテム。

 ……先々期文明の遺産である。

 

 

 「……すげぇな」

 

 「あぁ、絶対俺が手に入れるぜ」

 

 

 ポツリ、ポツリと広い待合室に響く呟き。 

 全員が【怒涛之迅雷】を狙っている。

 【戦車競走】を見に来た観客も、そして優勝を狙う出場者たちの熱気もピークに達している。

 体を滾らせる熱が。

 闘志を奮い立てる歓声が私の体を叩いていく。

 

 

 『KWEEEE……?』

 

 「うん、絶対に負けられないね」

 

 

 私を見上げるフェイ。

 そんなフェイに向け、私は自信に満ちた声で小さく頷いた。

 そして……

 

 

 

 『お待たせしましたァ!! それではこれより第一ブロック、五人の闘士たちの入場ですゥ!!』

 

 

 

 観客の熱気をこれでもかと煽るほどの上手いタイミングでのアナウンス。

 同時に闘技場の東門に、西門にスポットライトが当てられ選手たちが入場していく。

 

 ――歴戦【疾風騎兵(ゲイル・ライダー)】。

 ――最先端がつぎ込まれた<マーシャル>を操縦する【高位操縦士(ハイ・ドライバー)

 ――大きな魔狼を連れた【魔獣従魔師(ビースト・テイマー)

 ――無骨な軽装を身に纏う【闘獣闘士(ビースト・グラディエーター)

 

 全員が強いことは疑うまでも無い。

 だけど……そんな事は私には関係ない。

 

 

 「――行こう、フェイ、アレウス」

 

 

 言葉と同時に左手の【ジュエル】から一頭の半神馬が飛び出した。

 膝の上に載っていた炎鳥が【不死鳥の炎帯】となって腰に巻きついた。

 背後の待合室から驚きと戸惑いの声が聞こえてくるが――振り返ることは無い。

 

 ほんの少し狭く、そして薄暗い通路。

 その先は光が差し込み明るく照らし、闘技場からの熱気が漂ってきていた。

 

 

 「準備は良い? アレウス」

 

 『HIHIIIIIIIIN!!』

 

 

 隣を歩くアレウスの頬をそっと撫でると、アレウスは『もちろんだ』とでも言いたげに大きく嘶いた。

 私はそんなアレウスの様子に口端をつり上げる。

 どうやら高ぶっていたのは私だけではないみたいだ。

 アレウスも【ジュエル】の中で、私と同じく闘志を燃やしていた。

 

 

 

 『――それでは最後に東門からの登場だァ!! <アルター王国>の南、森林広がる<レジェンダリア>からの挑戦者ァァァアーー!!

 

 

  

 

  ぇ? …………し、失礼しましたァ!! 【騎神(ザ・ライダー)】!! ヴィーーーレッ!! ラルテェェェェエエエ!!』

 

 

 

 鳴り響くアナウンス。

 その音声と同時に、私はアレウスに《騎乗》しながらスポットライトの元へと出る。

 そして同時に歓声が――

 

 

 『『『『『……』』』』』

 

 

 ――ない。

 まるで水を打ったような静けさが闘技場を支配した。

 

 

 

 しかし……それも仕方がない。

 彼らは皆、その姿に見とれていたのだから。

 

 

 ――流れる赤髪、オレンジの瞳。

 

 ――跨る半神馬、腰からなびく炎の帯。

 

 ――まごうことの無い、一人の【騎神】が居たのだから。

 

 

 【騎神】という有名な名とは余りにも合わない、華奢な身体の少女。

 しかし……観客たちは疑わない。

 

 その少女が身に纏う自身に満ちた強い雰囲気を。

 一歩一歩から感じ取れる強者の予感を感じっていたからだ。

 

 

 

 

 

 ――――あぁ、今にして思えば似合っている。

 

 

 

 

 

 【グランド・デミ・スレイプ】――それは、神が騎乗する軍神の馬に片足を踏み込んだモンスター。

 そんな半神馬に【騎神】が《騎乗》するのだ。

 これを『似合っている』と言わずに何といえばいいのだろうか?

 

 

 『――――――――――あッ』

 

 

 誰が漏らした声かは分からない。

 しかし……その声を皮切りに、熱が、怒声が、歓喜が伝染する。

 

 

 『『『『『う、うおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおーー~ッ!!』』』』』

 

 

 地鳴りのような喝采が。

 雷鳴のような歓声が。

 嵐の如き強さで熱を持って、私の体を叩いて揺らす。

 そして――

 

 

 「―――――――――ッ!!」

 

 

 私はそんな歓声に応えるように右腕を上空へと突き上げた。

 

 ――ソレは自身への鼓舞。

 

 ――ソレはこれから戦うであろう敵への宣戦布告。

 

 

 闘技場内ではアイテムの消費も、スキルのクールタイムもMP&SPの消費も無い。

 だから……出し惜しみは無しにしよう。

 私は誰にも聞こえない――アレウスとフェイにだけ聞こえる声でハッキリと呟いた。

 

 

 

 

 

 「―――――今日は、とばすよ」

 

 

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