自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
戦闘=一人称
その他=三人称
になるかもです
□<グリム森林> 【騎兵】ヴィーレ・ラルテ
ヴィーレは自身の<エンブリオ>、【炎怪廻鳥 フェニックス】が孵化してから三日。
彼女は毎日のようにジョブクエストや『冒険者ギルド』で引き受けたクエストをこなす日々を送っていた。
午前はいくつかの“初心者狩場”でレベル上げやクエスト。
午後はジュシーネさんやファフザーさんに【騎兵】として訓練をつけてもらう。時々アレウスと一緒に散歩や中古の武具やアイテムが売っているバザーを見て回る。
同じことの繰り返しではあるがそれなりに順風満帆の日々を送っていた。
そして【炎怪廻鳥 フェニックス】についても少し分かってきたことがある。
それはガードナーの<エンブリオ>として、独立した意志があるということ。
レベル上げや訓練の時には、面倒くさそうに左手の紋章に戻ろうとするのだ。
そのくせ、散歩やバザーを回っているときにはひょっこり出てくる。特にアレウスの体を洗ったり、ブラシ掛けといった世話をしているときは『自分にもかまって』とでも言うように転がってくる。
卵型であるフェニックスをどう世話しろという話だが……。
そしてもう一つ分かったことは、戦闘に関しては何もできないという事だ。
【炎怪廻鳥 フェニックス】の唯一の『パッシブスキル』である《火炎増畜》。私の意志とは関係なく自動でMPとSPを二倍に増幅し、無尽蔵に貯蓄する。
【
しかし私は【騎兵】である。
【騎兵】のスキルにはSPを消費するものはいくつかあるが、ほとんど《騎乗強化》や《騎乗》、《持久力強化》や《危険察知》といったパッシブスキルがほとんど。
せっかく蓄積しているMP&SPもまだ一度として使った機会が無い。
「うーん、この際次の【騎兵】の上級職をとる前に【魔術師】にでも就こうかな? そっちの方がフェニックスが活躍できそうだし……」
『BURURU!?』
「大丈夫だよ? 《騎乗》は凡用スキルらしいし、【魔術師】になってもアレウスには乗るよ?」
もう乗ってもらえないのかと思ったのか、慌てるアレウスに説明する。
こんなに慌てるとは本当に可愛い相棒だ。
洗いたての黒い鬣を微笑みながら撫でる。
しかし、こうして考えると<エンブリオ>が孵化して大きく変わったのは、私のステータスぐらいのものかもしれない。
【騎兵】は比較的満遍なくステータスが上がり、AGIとHPは少し多く上がる。
【炎怪廻鳥 フェニックス】のステータス補正もAGI補正が飛びぬけて高く、次点でHP補正が高い。その結果、私のHPとAGIがかなり高い。
それでも、依然としてアレウスの方がAGIが高いのだが。
しかし、アレウスのスピードに振り回される事なく弓を扱えるようになったのは大きな変化だろう。
「それでもそろそろ、次のジョブについて考えなきゃねー」
走りだしたアレウスに騎乗しながら弦を引く。
放たれた矢は、狙い通り【ラージマウス】の抵抗を許さず撃ち抜いた。
同時に頭の中にレベルの上昇を告げるアナウンスが流れる。
ソロだったこと、そして“初心者狩場”ばかりでレベル上げを行っていたので時間は掛かってしまったが、【騎兵】のレベルも30を超えた。
戦闘に慣れてきたことも考慮に入れれば、数日後にはカンストするだろう。そうなれば次に就くジョブに就いても考えなければならない。
もちろん騎兵系統の上級職も視野に入れている。
「確か、【大騎兵】はジョブクエストの一定数達成に50キロ以上の騎獣に乗っての走行、あとは騎兵ギルドへ10万リルの上納だったかな?」
【大騎兵】であるファフザーさんから聞いた情報なので間違いないはずだ。【大騎兵】は【騎兵】をそのまま強化したよな上位職で、転職条件も比較的簡単な方らしい。
ついでにジュシーネさんの【疾風騎兵】は一定以上のAGIが転職条件にあるので、頑張れば私でもなれそうである。
もしくは、同じ【騎兵】系統の下級職である【弓騎兵】や【装甲騎兵】、【重装騎兵】なんて選択肢もある。
『BURU』
「うん、そうだね。今は戦闘に集中しなきゃね」
私はアレウスに窘められ、戦闘に集中する。
「でも、ここのモンスターもレベルが上がりにくくなってきちゃったね。きょうは
『HIHIiiiiIIN!』
大きく嘶くアレウスの手綱を軽く引く。
私たちはより強敵を目指し、<グリム森林>の奥地を目指し駆けるのだった。
◇◇◇
<グリム森林・奥地>
木々をなぎ倒しながら突き進む【ラッシュ・ファング・ボア】。
下級モンスターの中では飛びぬけた攻撃力を持ち、直撃すればEND型のジョブでも無ければ【混乱】に陥りデスペナルティになる。
しかしその強力な突進は空を切った。
代わりとばかりにその大きな体に、何本もの矢が突き刺さる。その一本は後ろ脚の膝を貫いていた。
スピードのついた体を支えきれず、地面を転がる【ラッシュ・ファング・ボア】に止めを刺そうと矢をつがえた時だった。
「ッ!」
引いた右手に何かが絡みついている。変に生暖かく、ヌルヌルした物体。
後ろを向いた先に居たのは大柄なカメレオンだった。
半身が透明に見えるほど高度な擬態を解かれ、腕に絡みついた長い舌の力がより一層強くなる。
【ステルス・カメレオン】、《光学迷彩》のスキルを持った森の狩人だ。
敵の武器を奪い取りジワジワと攻撃してくる厄介なモンスター。
しかし相手が悪かった。
「アレウス!」
言葉と共に重量級のアレウスの後ろ脚が跳ね上がる。
アレウスの強力な足蹴りはピンポイントで【ステルス・カメレオン】の頭を打ち貫き、ドロップアイテムに変える。
同時に解放された腕から放たれた矢は【ラッシュ・ファング・ボア】の首に突き刺さった。
「やった! 私たちでも十分戦える!」
『BURURURU!!』
<グリム森林>の奥地での初めての戦闘はダメージを食らうことなく無事に終えた。
まさに完全勝利だ。
目の前の出来事は彼らが十分戦える事を示していた。
「これでレベル上げもはかどるね」
自分でいった言葉に思わず笑みが零れる。
加えてドロップアイテムも良い。
ここでのドロップアイテムである毛皮や素材、特に肉などは<マスター>にも高値で売れるのだ。
まさに美味しい狩場である。
これならどれだけ矢を放とうと赤字にはならないのだ!
「ひゃっほー! 気持ちい~!!」
思わず叫んでしまうのも仕方がない。
まさに蹂躙。
アレウスが植物を踏み抜きながら森を駆け抜け、眼についたモンスターを矢で射貫いていく。
足を止めたモンスターはただアレウスに轢き殺されるのを待つほかない。
面白いようにマップが埋まり、レベルの上昇を告げるアナウンスが鳴り響く。
どれだけ駆け抜けただろう。
黒く表示されていたマップはほとんど埋まり、残りは<グリム森林>の奥の奥だけとなった時だった。
「……アレウス?」
『BURUUU……』
一度たりとも立ち止まることの無かったアレウスが足を止めた。
そして私に何かを警告するかのように唸り声をあげる。顔をこちらに向けることなく、真紅の相貌は森の奥を睨んでいた。
「この先に何かが居るの?」
返事はない。
ただ静かにアレウスは頷いた。
この先に何か……おそらく今までにないほどに強力な敵がいる。万全を期すならここで引き返し、違う場所でレベル上げを行うべきだが……
「……たまには冒険もいいよね?」
初めての冒険。
そのワクワクと弾む心と先に居るというモンスターへの探求心が引き返すという選択肢をかき消した。
リアルの私なら絶対に進みはしない。
だからこそ。それなら行かなきゃならないだろう。
「行こう、アレウス。初めての私たちの冒険に!」
『HIHIiiiiN!』
気合を新たに私たちは暗くなった森の奥へと駆けだしたのだった。
「————————!? ———!」
聞こえてきたのは人の声。
助けを求めるような声に金属がぶつかり合う戦闘音が聞こえてくる。続いて森の中だというのに真っ赤な炎と共に熱気が押し寄せてくる。
この熱気には覚えがある。
確か、【
おそらくそれで間違いない。
この辺りでは《クリムゾン・スフィア》を受けて倒れないモンスターはいないだろう。
私は少しのガッカリした気持ちを浮かべながら、火球が放たれただろう先へアレウスを駆る。
「えっ?」
その先で見たのは《クリムゾン・スフィア》によって燃え尽きて出来た焼け跡。その威力を示すように入り組んだ森が大きく開けている。
空気には未だに熱気が残り、バチバチと一部では炎が草木についている。
そしてその中央には……
巨大な樹木型のモンスターに絞殺される一人の【紅蓮術師】の<マスター>がいた。
思わず出た驚きの声と同時に【紅蓮術師】が光の塵となる。
私より遥かに強いだろう<マスター>が。
「樹木型のモンスターが生きてる……さっきの《クリムゾン・スフィア》を食らっていなかった?」
火に対して木は弱い。
それは<Infinite Dendrogram>でも変わらない。
つまりあのモンスターは《クリムゾン・スフィア》を避ける手段、もしくは防ぐことが出来る特異なスキルを持っている事となる。
強い、私たちよりも。
「……私たちを見逃してくれたりは……しないよね!」
辺りの木々から一斉に枝が伸びる。
その動きには制限がない、まるで蛇のようにうねりながら走る私たちを追撃する。
あの攻撃にどれほどの攻撃力が込められているかは計りようもないが、おそらく何発ももらえない。それに先ほどの【紅蓮術師】、あの<マスター>のように掴まれて絞殺されるかもしれない。
だが速さはアレウスの方が速い。
騎乗しながら撃ち落とすように矢を射るが。
「やっぱり相性悪いね……」
相手は木だ。
木に矢が刺さったところで敵の動きは止まらない。敵の本体に存在する魔核を砕くしか倒す手段はありはしないだろう。
森の中で縦横無尽に伸びる枝の攻撃、加えて何かしらの防御手段を持っている。
攻撃手段が矢による手段しか持ちえない私にとって勝ち目はほぼ無いと言えるだろう。
だが……
「私とアレウスを舐めないで!!」
数々のジョブクエストの達成に熟練の【大騎兵】と【疾風騎兵】との訓練。
そして【騎兵】のパッシブスキルである《騎乗》と《騎乗強化》のスキルレベルは限界である5まで上げ切っている。
それによって、AGIとEND型の【グランド・ウォーホース】であるアレウスのステータスは《騎乗強化》によって亜竜級まで強化されている。
下から伸びてくる木撃を跳躍して躱し、何処からか放たれた木の弾丸を紙一重で避ける。
アレウスだけではない、ヴィーレとアレウスの二人の力が合わさった力だ。
「フッ!」
同時に攻撃の手を緩めない。
アレウスが攻撃を避け、私が的確に弱点を探すように矢を穿つ。
相手は木型のモンスター、避けられることもなくその体に矢を増やしていく。
(このままなら……いける!)
このまま的確に矢を射り続ければ、いずれモンスターの核が露見する。そうなればこちらの勝ちだ。
問題は残った矢で行けるかどうか。
周囲から飛び出してくる攻撃はAGIに大きな差があっても避けきれはしない。
私とアレウスは体に少しづつ傷を増やしながら、ひたすら攻撃をし続ける。早くその硬い外皮が砕け散ることを祈って。
何本と、何十と矢を穿つ。
そしてその時は唐突に来た。
『HIHIiiiiiiN!』
「……アレウス!?」
突如、体をよろめかせ動きを鈍らせるアレウス。
そしてまるで何かに突き動かされるように私の手綱を振り切り、躍るかのように暴れ出した。
突然の出来事に驚きを隠せない私が反応できるわけもない。暴れるアレウスに振り落とされ体を地面に打ち付ける。
「痛い……」
思わず顔を歪ませる。
私は弓や騎乗がうまくいくように、常に痛覚を僅かにだが残している。それがこの瞬間仇となってしまっていた。
体を起こそうと地面に手を着く。しかしその手の影を飲み込むように私の上に出来た影。
《危険察知》が頭にガンガンと警鐘を鳴らし、身がすくむ。
竦む体に抗うように必死に前方へ転がると背後で何かが踏み抜しめるような音が響く。
それはレベル上げの最中に何ども耳にした相棒の足音。
「なんで……アレウス?」
そこにいたのはギラギラとした双眸で私を睨みつけるアレウス。
初めて会った時とは全く違う、その視線には溢れんばかりの敵意が込められていた。その事実に頭を殴られたかのような衝撃を受ける。
信頼し、お互いを理解しあっていたはずのアレウス。しかし今はその巨体で私を踏み殺さんと近寄ってくる。
驚きが、裏切られた悲しみが頭を支配する。
「と、とにかく逃げないと……《送還》・アレウス!」
右手の【ジュエル】に送還されるアレウスを見ながら体を起こす。
しかしそれをモンスターが見逃すほかなかった。
いくつもの木撃が木弾が飛んでくる。
それをできる限り避けながら、僅かな抵抗とばかりに矢を放つ。
しかしその矢はモンスターへ届くことは無い。
矢は宙で
同時に先ほどまでゆっくりと動いていた攻撃が高速で放たれる。
それはまるで、
「うっ……早く、早く逃げなきゃ」
傷の増える体を無理やり動かしながら、モンスターから逃げる。
いつもより体が動かないのは視界の端に浮かぶ【麻痺】が原因だろうか?
震える足に力を入れる。
必死に、ただモンスターから離れるように足を動かす。
そうして聞こえてきたのは水の音。
おそらく川であろう、水が流れる音がする。この音からして流れは相当速いだろう。
(川に飛び込むしかない……!)
このまま森の中に居てもいつかは殺されてしまう。
今このも周囲から木が槍のように突き生え、木の弾丸が体を襲っているのがその証拠だろう。
おそらく微かに聞こえる
「ッ! 見えた!」
しかしそれは川ではない。
バッサリと切り取ったような地面。
宙を吹き抜ける冷たい風。
そして下から聞こえてくる水の音。
それは渓谷。
森の中に不自然に出来た丸い渓谷に一筋の運河が流れている。崖の距離は100メテルもあるだろう。
予期せぬ出来事に足が止まる。
この距離で落ちたら水の上とは言え流石に死ぬかもしれない。
そもそも運河の中に別のモンスターがいないとは限らないのだ。生き残れる可能性などそれこそ宝くじに当たるようなもの。
しかしそれしか生き残る道は残されてはいないだろう。
「……行こう、行くしかない!」
私は後ろから聞こえる笑い声を耳に、宙に身を躍らせたのだった。
◇◇◇<?????> 【■■】■■■・■■■■
「おや、ここに人とは珍しいですね……実に100年ぶりでしょうか」
男は運河に溺れて流れ着いただろう赤髪の女の子を見ながら呟く。
彼が口にした100年ぶりという言葉。
それ自体は珍しいものではない、何と言ったって多くの長寿種が住まうレジェンダリアだ。それこそ1000年単位で生きる生き物だっているぐらいだ。
レジェンダリアでは驚かれるようなことでは無い。
しかし人に会うのが100年ぶりというのは珍しい。
それこそ極度の人嫌い、もしくは
そして彼は訳あって辺境に住まうもの好きの一人だった。
「ここに来たということは、あの<アームンディムの円湖>を越えて来たのでしょうね。……運がいい」
その言葉には彼がここにたまたま訪れたことも含まれていただろう。
彼がここに来なければ、【毒】の継続ダメージで死んでいたかもしないのだから。
そんな言葉に軽く笑う彼。
「これも天の定めというものですかね」
そんな呟きを残し、彼は自身の背に彼女を乗せ、歩き出したのだった。