自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

60 / 105
暑さに負けてようやく修正~。
《限界突破》→《リミテッド・オーバー》に変更しました。


第8話 【戦車競走】ー(勝者)

 □『とある修行時代の一幕』

 

 

 

 

 

 「【騎兵】の武器とは何だと思いますか? ヴィーレさん」

 

 「……いきなりですね、師匠」

 

 

 ――それは、夜の帳が落ちた夜の森での出来事。

 

 

 ここ二日、三日続いた激しい修行。

 そんな毎日のいつも通りの修行終わりのひと時だった。

 いつも通りの魔樹の森に作られた拠点――『少し開けた場所に焚火がポツンと置かれた場所』、そこでアレウスのケアをしていた私。

 焚火の面倒を見ていた師匠は背を向けていた私に唐突に問いかけてきた。

 こんな会話が一度も無かったというわけではない。

 ただ……いつもとは違う、少し悲し気(・・・・・)な師匠の声に私は【ブラシ】を握った手の動きを止めて振り返ったのだ。

 

 

 「【騎兵】の武器、ですか? ……私は弓を使ってますけどジョブによっても違うんじゃないんですか?」

 

 

 振り向いた先。

 そこには少し悲し気な声で、視線を焚火へと落とした師匠が居た。

 

 

 「……そうですね、少し質問を変えましょうか。【騎兵】にとっての大切なものとは何だと思いますか?」

 

 「それはAGIですけど」

 

 

 少し間を置いた師匠。

 私はその意図を理解しきれず即答する。

 【騎兵】はAGIとSTR、そしてHPに伸びるジョブ。正確に言えば、最も大切なのは騎獣のAGIだと私は考える。

 ――それをこの修行で実感していたから。

 速さでモンスターを翻弄し、弓で止めを刺す。それがあの時の私の戦闘スタイルだったからだ。

 しかし――師匠は私の答えに首を横に振った。

 

 

 「違います。【騎兵】にとって一番大切なのは自身の騎獣の力を引き出すこと、そしてそれを制御し指示を出すことです。……確かにAGIも大切ではありますが、それらが出来ていれば多少の差は埋められるのですよ」

 

 「――? 武器はいらないってことですか?」

 

 「いえ、武器もいらないわけではありませんよ? 騎獣の短所を補い、そして長所を補助する……それが武器です」

 

 

 私はその言葉を半分ほどしか理解できずに頷いた。

 ――私にとっての弓。

 それは遠距離攻撃の手段がないアレウスの補助でもあったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ただ……仮に、仮に騎獣の力の全てを。――限界以上を引き出せることが出来れば、武器は必要ないのです。騎獣そのものが【騎兵】にとって最強で最大の武器となるのですから」

 

 

 ――そう言い切った師匠の言葉は、悲しみに満ち溢れていた。

 まるで何かを後悔するかのような。

 何かを諦めてしまったかのような。

 そんな弱さが見え隠れしていたのだ。

 

 (……どうして)

 

 私は、そんな私自身よりも遥かに強く、そして自由な師匠の悲しみの原因を理解できなかった。

 ただ……戸惑うように、慰めるように勝手に口が動いていた。

 

 

 「――でも、それなら師匠は完璧ですね。師匠の《騎乗》判定は自身の身体なんですし……その力を最大限引き出せるんですから」

 

 

 自身のAGIと騎獣によるAGIの差すらも無い。

 騎獣に自身の指示を伝えるタイムラグも無い。

 『人馬種族』――それはまるで【騎神】に就くのに最も適した種族のように見えたからである。

 だからこそ――

 

 

 「――フフッ、ヴィーレさんにはそう見えますか?」

 

 

 師匠は初めて顔を上げ、自嘲的な笑みを浮かべ小さく笑った。

 

 

 「確かに『人馬種族』は【騎兵】としての、【騎神】としての弱点の半分以上を克服できる種族ではあります。……しかし、同時に可能性の無い種族でもあるんですよ」

 

 「――ぇ?」

 

 「自身の身体自体が騎獣。それ故にモンスターの豊富なスキルは無い。モンスター由来の様々なステータス、しかし私は人馬種族故にAGI型でしかないのですから」

 

 

 その言葉で……私はようやく師匠の言おうとしたことを理解した。

 師匠の声に紛れた悲しみの訳を。

 

 

 ――人馬種族。

 故に純粋な人族のように様々な騎獣に乗り換えることが出来ない。

 

 ――人馬と言う騎獣。

 故にモンスター由来のスキルは無く、持ちうるのは自身のジョブとしての――【騎神】で編み出したスキルのみ。

 

 

 いや、きっとそれだけではないだろう。

 様々な強力な装備品に対する装備制限。

 私には分からない幾つもの制限があるのかもしれないのだ。

 

 

 

 

 

 「――『呪われている(・・・・・・)』」

 

 「……」

 

 「それが私が自身の【騎兵】としての才能に気が付いた際に、真っ先に頭に浮かべた思いです」

 

 

 師匠は既に焚火も。

 私すら見ていなかった。

 

 ――見つめるのは空、上空を覆いつくす黒色の枝。その先に浮かんでいるだろう星を見つめているようだった。

 

 ……届かないのだ。

 空に輝く星が手に掴めないように……人馬種族である師匠には限界があった。

 私にとって強く、気高く、最強の【騎兵】である師匠。

 私は……そんな師匠の悲しそうな顔をただ見たくなくて、顔を背けることしか出来なかった。

 

 

 「時折考えるのです。こんな場所に隠居している私には馬鹿げた考えかもしれないですが……」

 

 

 聞こえてくる師匠の声。

 

 

 「もし……私が人馬種族でさえなければ。ただの人として【騎神】に就けたなら、この先にも行けたのではないかと。

 

 

  ――【騎兵】として(・・・・・・・)の頂に(・・・)

 

 

 同時に感じる師匠の視線。

 そんな視線に釣られるように私は師匠の居る方向へと顔を向ける。

 そして――顔を向けた先にあったのは、私を慈愛に満ちた視線でみる師匠の瞳だった。

 

 

 「ヴィーレさん……我が弟子、【騎兵】ヴィーレ。貴女が辿り着きなさい」

 

 「――ッ」

 

 

 自然と、無意識に息を飲む。

 

 

 「貴方にはたどり着けるだけの才能が、可能性がある」

 

 

 言葉は出なかった。

 出会って間もない、この<Infinite Dendrogram>に降り立った私にとって重たすぎる願い。

 その師匠の言葉に頷くことも。

 目を反らすことも出来ず、ただ固まることだけしかできなかったのだ。

 そんな私の様子に師匠は再び笑みを漏らす。

 

 

 「いえ、老害が出過ぎたことを言いました。先ほどの言葉は忘れてください。

 

  ――火にあたり過ぎました、少しそこら辺を散歩してきます」

 

 

 そう言いながら立ち上がり、森の闇へと消えていく師匠。

 私はただ茫然と、その後ろ姿を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇<“決闘都市”・ギデオン> 【騎神】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 

 

 「――ハァッ!!」

 

 『HIHIIIIIIIIN!!』

 

 

 両手に握り込み、強く引いた手綱。

 【騎兵】にとって基本的な――加速を意味する指示にアレウスが大きく嘶き、急激に加速する。

 そんなアレウスに合わせ、私も腰を浮かせて闘技場の先を睨み見た。

 

 ――周りの景色が線となって流れていく。

 

 この闘技場は一周が一キロメテル程度の大きなトラックだ。 

 私はそんなトラックを全力で駆け抜け……見えてきた三つの背中を視野に入れ、自然と上がった口端の感触を感じていた。

 

 

 「――捉えたよ」

 

 

 ポツリと呟いた。

 誰にも聞こえるはずの無い宙に消えていくだけの呟き。

 しかし、同時に前方を走っていた【天馬騎兵】の男性の引きつった瞳と目が合った。

 『炎の甲冑』のバイザー越しで一瞬に交錯する。

 

 

 ――『残り十八周』

 

 

 その背中に追いつくまでに、もう半周と掛からないだろう。

 追い抜けば、彼らが勝つ手段は限りなく低くなる。

 ――逃げ切りは不可能。

 故に、私は……視線の先の男性は一瞬の視線の交錯と同時に、瞬時に理解していた。

 

 

 

 

 

 「「――ここが勝負!!」」

 

 

 勝者は一人。

 戦いは避けられず、駆け抜けるべき道も一本しかない。

 ならば私にとって、<砂塵旅団>にとって『ここで決める・・・・・・』以外の選択肢は残されてはいなかった。

  

 

 「お前らァ!! いつものアレをやるぞ!!」

 

 「「――おうっ!!」」

 

 

 「――全部、真正面から打ち砕くッ!!」

 

 『BURURURURUUUUUUーー~ッ!!』

 

 

 闘技場内に響く互いの気迫。

 互いに騎兵……一撃一撃が致命傷に繋がり、戦いが長く続かないことも感じ取っている。

 故に――真っ先に彼ら・・は動いた。

 

 

 「《猿王の暴風咆哮(ハヌマーン)》!!」

 

 「《天候領域》、《ホワイト・フィールド》ォォ!!」

 

 「行くぞッ、《天馬疾走》!!」

 

 

 ほぼ同時に聞こえた三つの宣言スキル。

 その瞬間、闘技場の中――均衡を保っていると思われた状況が一転した。

 

 

 ――【殲滅騎兵】の<マスター>の《騎乗》する大猿の<エンブリオ>。

  地面を四肢で駆けるように走っていた大猿が瞬時に四体分裂・・・・し、その長い尾から闘技場を覆いつくすほどの竜巻を巻き起こした。

 

 ――大鷲型のモンスターに《騎乗》する【魔導騎兵】の<マスター>。

  その左手から小さな光が漏れ、【白氷術師】の奥義であるはずの《ホワイト・フィールド》が辺りを支配する。

 

 ――そして……【天馬騎兵】の男性が《騎乗》する白馬。

  男性の<エンブリオ>と思われる宣言と共に――白馬の姿が変化した。

 

 同時に、私はその変化した白馬――そのモンスターの姿に目を見開く。

 そして――知識だけのその存在に小さな呟きを漏らした。

 

 

 「……【ペガサス】」

 

 

 それは【スレイプニル】と同じ幻獣。

 雷鳴と雷光を運び、天を駆ける翼をもつ馬。

 男性のスキルによって本来の姿を取り戻したペガサスは飛翔しながら一鳴きする。

 その純白の身体に光のオーラを纏い、先ほどまでとは打って変わり、空中を駆けるように疾走する【ペガサス】。

 その戦闘力は優に『純竜級』モンスターに匹敵する。

 

 

 「【騎神】、お前はここで私達が叩き潰させてもらう!!」

 

 

 

 ――答え合わせをしよう。

 

 

 <砂塵旅団>のとった行動、それは彼らにとっての必殺の一手だった。

 いつもは砂漠が広がる国――<カルディナ>で活動するクラン。

 たくさんの【商人】や【大商人】が行き来する<カルディナ>、しかしそんなカルディナの周りには危険が幾つも潜んでいる。

 

 

 ――砂地獄のように砂漠の中に巣つくろう【ドラグワーム】の群れ。

 

 ――砂漠に蜃気楼を作り、敵をおびき出して一飲みにする【ミラージュ・モビーディック】

 

 ――灼熱の陽光降り注ぐ空に飛ぶ【ヴェノム・コンドル】

 

 

 空から、砂漠の向こう側から、砂中から。

 襲い掛かる全てが脅威の危険地帯。

 だからこそ<砂塵旅団>はこのコンボを――一度たりとも破られたことの無い、必殺の一手を心から信用していた。

 

 

 「これっ……アレウス、大丈夫!?」

 

 

 私はその状況に焦った声を飛ばす。

 視界を塞ぐように下ろされたバイザー、その向こう側に見えたのは――一面の銀世界だった。

 

 (足場が滑るっ!!)

 

 【ハヌマーン】の必殺スキルを受け、その威力と範囲を大幅に伸ばした《ホワイト・フェイ―ルド》。

 アレウスでなければ吹き飛ばされてしまいそうな猛威の吹雪。

 炎の甲冑を纏っていなければ身も凍り付いてしまいそうな冷気。

 地面さえもカチコチに凍り付いた様子に思わずスピードを緩める。

 

 

 これが<砂塵旅団>の一手目。

 地中からの敵の不意打ちを防ぎ、その熱を奪い去る絶対の吹雪。

 例え、砂漠であろうと。

 敵が『純竜級』モンスターであろうとものの数秒でその体を【凍結】させる氷の監獄。攻防一体の独壇場である。

 そして――もちろんこれだけでは終わらない。

 

 

 「――?」

 

 

 一瞬吹雪の向こう側で何かが揺らめく。

 地面ではない、空中に揺らいだ黒い影。

 私はその影へと視線を移す。

 そして――それは姿を現した。

 

 

 『HIHIIIIIII~~N!!』

 

 

 大ききな嘶き、しかしアレウスのものではない。

 それは猛威を奮う吹雪の中を、決闘場を逆走するように疾走する一本の矢。

 

 

 「《セイクリッド・ホーン》----ッ!!」

 

 

 白いオーラが吹雪を阻む。

 背後から加速するように後押しする【ハヌマーン】の竜巻。

 額から生え伸びた【ペガサス】の一本角。

 

 それは矢の如き超音速機動(・・・・・)で真っ直ぐに飛翔する【ペガサス】の姿だった。

 

 

 ――これが必殺、<砂塵旅団>の最大攻撃の一手。

 

  

 避けることは不可能。

 かつ、END型の『純竜級』モンスターだろうと貫く一撃!!

 

 二度目は無い。

 体感速度の追いつかない超音速機動故に目も開けられず、当たらなければデスペナルティになる決死の一撃!!

 

 

 あらゆるものを打ち破ってきた一撃は一瞬でヴィーレ達の目の前まで迫っていた。

 誰もが見ていた。

 固唾を飲んで見守っていた観客が。

 【戦車競走】を中継越しに見ていた【大賢者】が。

 警護の任に付き、闘技場を訪れていた【天騎士】が。

 仲間の決死の一撃を見送った<砂塵旅団>の二人が。

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――次の瞬間、『光の残滓となり(・・・・・・・)消えていく(・・・・・)【ペガサス】と男性』を見た。

 

 

 

 

 

 「……師匠、今やっとあの時言っていた意味が分かった気がします」

 

 

 

 

 ――『竜王気』にも似た赤いオーラを身(・・・・・・・)に纏い(・・・)、額から生え伸びた二本の刃角を振り切った形で止まるアレウスを見た。

 

 

 

 

 

 歓声も、声もない。

 聞こえるのは竜巻が巻き起こす風切り音と大猿の【ハヌマーン】の駆ける音のみ。

 誰もが一点を……ヴィーレを見ていた。

 同時に理解した。

 

 

 一瞬の交錯。

 その瞬間に【騎神】が《騎乗》するアレウスの刃角によって切り裂かれたことを。

 そして、

 

 

 「……楽しくなってきたね」

 

 

 炎の甲冑の奥。

 その中で不敵に笑う彼女の口元を。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 <砂塵旅団>の<マスター>たちは三つ、大きな間違いを犯した。

 いや……間違いとも言えない。相手が【騎神】であるヴィーレだったからのみ発生した三つの間違い。

 常人相手なら間違いにはならない事。

 本来ならばミスにもならない要因だ。

 しかし……結果的にそれで彼らの決死の一撃は破られることとなったのだから何も言えない。

 

 

 

 ――一つ目、それはヴィーレにとって凍った地面も、吹き飛ばされそうになる竜巻も一切苦にならなかった点。

 

 彼らがとった行動は間違いではない。

 ただ、彼らは知らな過ぎたのだ……知る由も無かったのだ。

 

 ヴィーレが前任【騎神】、師匠と修行した地が“魔樹の森”と呼ばれる魔境であったことを。

 足の踏み場もない。

 黒葉の枝に塞がれた天井からは陽光は殆ど差し込まない暗闇の森。

 そしてそれだけではない。

 【嵐竜王 ドラグハリケーン】――ヴィーレはこれまでに過酷な竜巻の中で『古代伝説級』<UBM>と戦っていた。

 それに比べると……その竜巻はあまりに弱弱しすぎたのだ。

 結果、凍った足場も、そして迫りくる吹雪もさして苦にもならなかった。

 

 

 

 そして二つ目、超音速での攻撃。

 

 AGI型の<マスター>でも避けるのは難しい一撃だ。

 しかし……奇しくもヴィーレはその超音速での戦闘に慣れ過ぎていた。

 

 元より、《ザ・ライダー・デディケイテッド・ブロー》……一撃でも食らえばデスペナルティを避けられない技を『千のゾンビの中で』、『全方位から迫りくる鎌鼬の中で』特攻するヴィーレである。

 普通なら取り得ない行動を……奇人や狂人がとるような行動をとり、そして生き残ってきた天才だ。

 たった一撃。

 加えて超音速によって前も見えていない<マスター>の一撃を躱すなどあまりにも容易いことだった。

 

 

 

 そして三つ目――ヴィーレは武器を持ってい(・・・・・・・)()

 

 ――『アレウス』と言う、最も頼りがいのある武器(相棒)を。

 

 

 【グランド・デミ・スレイプニル】へと進化を果たしたアレウス。

 その進化に伴い額から生え伸びた二本の刃角。

 しかし、本来ならばその角で敵を真っ二つなどには出来ない。アレウスに武器はその強靭な身体での踏み付けや体当たりなのだから。

 刃角は副次攻撃手段に過ぎない。

 だが……アレウスの新たなスキル、進化と共に手に入れたスキルがそれを可能とする。

 

 

 そのスキルの名は――《リミテッド・オーバー》。

 それは【嵐竜王】との戦いで限界を超えて戦うホオズキの姿を見てアレウスが身に着けた、限界突破型(・・・・・)スキルである。

 効果は単純かつ、強力無比!!

 

 ――『MP継続消費による『全ステータス+100%』、使用後、『使った時間×2の全ステータス̠−30%』』

 

 素のステータス(・・・・・・・)を底上げする(・・・・・・)効果だ。

 STR&AGI型であるアレウスではほんの数分。

 一分か二分が限界の制限付きスキル。

 しかし……逆に言えばそれ(・・・・・・・)で充分(・・・)

 

 

 元のSTRが8000程度のアレウス。

 その攻撃力が《リミテッド・オーバー》によって二倍に。

 その攻撃力が更に《幻獣強化》によって+100%に!

 その攻撃力に合わせ、《リミテッド・オーバー》の攻撃力が《一騎当神》によって十倍に!!

 《魔獣咆哮》も合わせれば軽く10万を超えているSTRによる超攻撃。

 

 そして――ヴィーレにはそんなアレウスを操る技術が、スキルが、ステータスが――信頼があった。

 《我は不死鳥の騎士為り》によって全MP&SPが込められたAGI。

 限界まで上げられた《騎乗》スキル。

 限界まで上げられた《乗馬》スキル。

 万が一も外しはしない。

 

 

 

 それら三つの要因が合わさった結果。

 導き出された現象はたった一つ……闘技場に現れていたのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 『『『『『う……うおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおーーーっ!!!!!』』』』』

 

 

 水を打ったような静けさは騒めきに。

 何が起こったか分からない混乱は熱気に。

 観客たちは何が起こったのかは見えもしなけれ分かりもしなかった。

 ただ、その結果に興奮の込められた歓声を上げる。

 そんな決闘場の中、観客たちの興奮とは真反対に焦り、そして背中に冷たい汗を流している者たちが居た。

 

 

 「何が……」

 

 「何がじゃないわよっ! 何か手を打たないと!!」

 

 

 声を荒げるのは残った出場者である<砂塵旅団>の<マスター>二人。

 大鷲に《騎乗》し、《ホワイト・フィールド》を継続して放ち続ける【魔導騎兵】。

 大猿に《騎乗》し、【ハヌマーン】の必殺スキルを行使した【殲滅騎兵】の二人だ。

 

 

 ――自分たちのリーダーがやられた。

 

 ――破られたことの無い、必殺の一手が容易く破られた。

 

 

 その衝撃は予想以上の混乱となって二人を襲っていたからだ。

 未知の状況。

 常に判断をリーダーたる男性の委ねてきた二人は咄嗟に動き出すことが出来ないでいた。

 ある意味しかたの無い。

 二人はいつも誰かに従い生きてきた人種の<マスター>だった。

 

 ――勝ち目はない。

 しかし棄権するのは躊躇われる。

 

 ――逃げ切る。

 ……絶対に無理。

 

 ――奇跡を願い特攻する。

 あの相手にか?

 

 判断の付かない考えが彼らを支配する。

 そんな状況で彼らがとった行動、それは……

 

 

 「と、とりあえずこのまま防壁を張り続けるわよ!!」

 

 

 ……現状維持である。

 取りあえずのその場しのぎ。

 時間稼ぎ。

 混乱しきった頭ではまともな考えも浮かぶはずも無かったのだ。

 【殲滅騎兵】の<マスター>はその言葉に頷く。

 

 

 「あ、ああ。わかっ――――――」

 

 

 その言葉は最後まで続かない。

 ――何が起こった?

 

 そう聞かれたとしたらこう答えるしかないだろう。

 

 

 『中から降ってきた黒馬に騎獣ごと頭を踏み抜かれた』、と。

 

 

 「――――ッヒ」

 

 

 悲鳴を上げる暇もない。

 【殲滅騎兵】の<マスター>がいた場所、そこには代わりとばかりに現れた【騎神】ヴィーレが居たのだから。

 猛威を奮っていた吹雪の向こう側に居た宿敵がいたのだから。

 

 鼻息荒く、赤いオーラを纏った軍馬が真紅の目で睨みつける。

 その背に《騎乗》する炎の騎士が――甲冑の奥で輝くオレンジ色の瞳が強い光を放つ。

 

 その目に見られた瞬間、【魔導騎兵】の女性はただ声を漏らすことしか出来なかった。

 うわ言のように、悪夢でも見たかのように。

 

 

 「……どうして」

 

 

 ……と。

 

 どうしてこの一瞬でここまで出来るのか?

 どうやって吹雪の壁を越えてきたのか?

 

 どんな意図が込められていたかは分からない。

 ただ、自然とそんな呟きがその場に響いた。

 そして――そのうわ言が聞こえたはずも無いヴィーレはただ一言言い放つ。

 

 

 「……喋り過ぎだよ」

 

 

 次の瞬間――大鷲に《騎乗》する【魔導騎兵】の身体は崩れ落ちる。

 何が起こったか?

 いつ攻撃されたのかも認識できない一撃。

 ただ……【魔導騎兵】の<マスター>は崩れ落ちる身体で、地面へと落下していく視界でそれを見た。

 

 

 ――大鷲ごと真っ二つに断ち切られた自身の身体を。

 

 ――遥か後方、足跡がヒビとな(・・・・・・・)って一筋に伸び(・・・・・・・)た結界の壁を(・・・・・・)

 

 ――落下していく自信を見下ろす軍馬と【騎神】の姿を。

 

 

 そして……

 

 

 「……これは不可能クエストだっ―――――」

 

 

 最後まで言い切れずに、その体を光の残滓へと変えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――闘技場を埋め尽くしていた竜巻は消えた。

 ――辺り一面を【凍結】させていた吹雪は止んだ。

 ――五人いたはずの出場者は僅か五周で一人のみになっていた。

 

 

 「……」

 

 

 その出場者は……優勝者は――【騎神】は何かをつかみ取ったように右手を上空へと突き上げた。

 そして……

 

 

 『『『『『う……うおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおーーーっ!!!!!』』』』』

 

 

 今宵の一大イベント、【戦車競走】。

 この場に一人の優勝者と後に語り継がれる伝説が誕生したのだった。

 




書くタイミングがありませんでしたが、ヴィーレはこれを機に『レース関係のイベント』には出禁になっています。
……二度とこんなことは起こらないのだ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。