自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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先に九話の更新です~
八話の方を大幅修正するつもりですが……時間が掛かりそうなのでさきに第三章を終わらせてから修正しますー


第9話 ガチャ、それは引き返せない博打

 □<“決闘都市”・ギデオン> 【騎神】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 西へと傾き、空を茜色に染める夕焼け。

 雲一つない空は<ギデオン>の街並みも赤く染め、人々の賑わいを照らしていた。

 

 ――熱狂の赤。

 

 街を染め上げた赤は、まるで未だに【戦車競走】で盛り上がった人々の残熱を表しているようだった。

 様々な種族のティアンが、<マスター>が行きかう通り。

 三日間続く予定の一大イベントは、依然として<ギデオン>の賑わいを冷ます様な様子は見られない。

 そんなメインイベントである【戦車競走】を終えた二日目。

 私はそんな大通りをホオズキとシュリちゃんと共に歩いていた。

 

 

 「それで、どうだったんだよ? 【戦車競走】の方は」

 

 

 人込みの中を無言で突き進むシュリちゃん。

 そんな道中で話題を振ってきたのはシュリちゃん……ではない、意外な事にその横を歩くホオズキだった。

 

 (……ビックリしたー)

 

 まさかホオズキから聞かれるとは思ってもみなかった。

 何だかんだで心配してくれていたのだろうか?

 私は訝し気に私を見下ろすホオズキに驚きながらも返事を返す。

 

 

 「どうって……もちろん優勝したよ? 『強制クエスト』もバッチリ達成できたし」

 

 「そうじゃねぇよ、他の出場者の強さの事を聞いてんだ」

 

 「……聞いてんだ」

 

 

 ……なるほど、そっちか。

 やはり心配してなかったことにいつも通りの二人だと納得しながら苦笑する。

 

 

 「アハハ……みんな強かったかな~。決勝なんかは少しヒヤッてする場面もあったし」

 

 「……」

 

 「……こいつ嘘ついてんな。……ってホオズキ、思ってる」

 

 

 苦笑した私に無言で冷ややかな視線を寄こしてくるホオズキ。

 シュリちゃんがそんなホオズキの内心を代弁する。

 ……別に嘘を吐いているつもりは無いんだけど。

 

 

 「本当に皆強かったよ? だけど師匠と比べちゃうとね……負ける気もしなかったかな」

 

 

 やはり【騎神】はピーキーながらも『超級職』と言うことなのだろう、上級職とは一線を画していたようだ。

 【騎神】のパッシブスキル――《一騎当神》で蹴散らしてしまった感が凄まじい。……もちろん《一騎当神》を使わなくても負ける気はさらさら無いんだけど。

 そんな私の言葉に「フーン」と特に反応を返すこともなく聞くホオズキ。

 

 (……コイツ……言わせてきたのホオズキだよね)

 

 私はそんなホオズキとシュリちゃんを横目で覗き見る。

 

 

 「ホオズキ達はどうだったの? フォルステラさんやフィガロと決闘してたんだよね?」

 

 

 私は仕返しとばかりにそう尋ね……

 

 

 「……聞いてる?」

 

 

 何故か無視し、ガンガンと進み続ける二人の前に先回りして二人を見つめる。

 そんな私にシュリちゃんはホオズキに視線を送り……ホオズキはどこか遠くを眺めるように視線を逸らした。

 ……これは何かある!!

 

 

 「何でもねぇよ……それより早く行こうぜ! 飯屋が埋まっちまうぜ」

 

 「――で、何があったの? シュリちゃん」

 

 

 空元気に早足で歩き出すホオズキを無視してシュリちゃんに視線を移す。

 そんな私にシュリちゃんは肩を竦めるように溜め息を吐きながら何があったか……愚痴を零した。

 

 

 「……ホオズキが馬鹿なせい、全敗した」

 

 「おいっ! シュリ!!」

 

 「……事実、ホオズキが脳筋なせい」

 

 

 そんなに知られたくなかったのだろうか?

 大声を上げてシュリちゃんを睨むホオズキ。

 だけどシュリちゃんはその横で淡々と愚痴り続ける。

 

 

 「……フォルステラ。……ホオズキが油断したせいで、頭をかち割られた。

  ……フィガロ、普通に押し負けた」

 

 

 その愚痴に私は少し目を見開いた。

 

 (……以外だね)

 

 本心からそう思う。

 ホオズキの<エンブリオ>――【到達鬼姫 シュテンドウジ】は生物と言う大きな範囲に対するジャイアントキリングだ。

 今では『特典武具』も持っているので尚更である。

 そう考えると……ステータス以外の部分、武具の性能とリアルスキルの面で負けてしまったのかもしれない。

 そんな事を考える私。

 ホオズキはその横で小さくボヤいた。

 

 

 「チッ、しょうがねぇだろ。あいつ等も特典武具を持ってたんだぜ? それに俺の専門は空手なんだよ」

 

 「そ、そうだね……」

 

 

 流石は決闘ランカー、その実力はコケ脅しではないということのなのだろう。

 私は少し苛立ったような、拗ねたようなホオズキの様子に頬を引きつらせる。

 そして――

 

 

 「……んッ」

 

 「シュリちゃん?」

 

 

 突然、何かを見つけたように一点を見つめ、脚を止めたシュリちゃんに首を傾げた。

 見つけたのは小さな商店の横にあるカフェ。

 一組の<マスター>がちょうど食事を終え、席を立っている場面だった。

 

 

 「……行こ?」

 

 

 シュリちゃんはあそこが良いようだ。

 私とホオズキも特に何かこだわりがあるわけでもない。

 私達は少し視線を交わし……小さく頷くとそのカフェへと向け、歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 「……なぁ」

 

 

 イベントの観光客で埋まってしまっただろうカフェの席。

 カフェを見つけてから食事を食べ終えていた私は、その声に顔を上げる。

 

 

 「どうかしたの?」

 

 

 目の前に座るのは豪快に肉を頬張るホオズキ。

 そして私の隣でチビチビと【アイテムボックス】から取り出した【レム酒】を舐めているシュリちゃんである。

 ……可愛い。

 私はそんなシュリちゃんに癒されながら、訝し気な目で私を――私の横でモゾモゾと動く物体を見ているホオズキに視線を移した。

 

 

 「どうかしたの?――じゃねえだろ。ソイツ、そんな姿だったか?」

 

 「……そんな事言われても、食事したら毎回姿が変わってるから」

 

 

 問い詰めるようなホオズキの疑問。

 私はその言葉に首を横に振りながらその物体を見る。

 ……ソレはつい最近従魔にしたモンスターであり、机の上でご飯を食べ続ける生き物。

 

 

 ――ソレは全身を黒く染め、ボーリング玉ほどの大きさの芋虫。

 

 ――ソレはドロップアイテムや機械に関わらず齧り、その度に目の色を赤や青、黄色にコロコロと変える。

 

 ――ソレは未だにレベル1(・・・・)であり、度々姿を変えるモノ。

 

 

 『【アビス・ラビー】のベグ(・・)

 

 私の三体目の従魔であり、一度も戦闘を行わずにいる従魔だった。

 私はひたすらモグモグと目の前に置かれたドロップアイテムなどを齧り続けるベグへと手を伸ばす。

 そして――

 

 

 ――『ツンッ』

 

 

 とその黒いふっくらとした体をつついた。

 すると、ひたすら食べることに夢中だったベグが見た目の似合わぬ俊敏な動きで動いた。

 その黒い体皮を硬い甲殻へと変化(・・・・・・・)させ(・・)、突然体の後ろ部分から生え伸びたサソ(・・・・・・・)リの尾(・・・)で私の手をペシッと払いのけたのだ。

 

 (……相変わらずよく分からないなぁ~)

 

 私はそんなベグの様子にため息を吐き、再びホオズキに視線を移す。

 

 

 「って、毎回こんな感じだよ」

 

 「……いや、こんな感じだよって――ソイツほんとに幼虫かよ!?」

 

 

 初めて見ただろうベグの様子に目を見開くホオズキ。

 私はそれに小さく頷きながらベグの様子を観察する。

 

 (さっきの甲殻と尻尾……私が前に食べさせてあげたドロップアイテムなんだよね……)

 

 先ほどチラリと見せた体を変化させた部分。

 それらは私が昔に【アビス・ラビー】であるベグが何を食べるのか確かめるために上げたドロップアイテムだった。

 

 ――【亜竜甲蟲(デミ・ドラグワーム)】の黒い甲殻。

 ――【ポイズン・スコーピオン】の毒の刺尾。

 

 色々と試した結果、分かったのは何でも食べる雑食であるということ。

 そして、何故か一部のドロップアイテムの特性を身体に付与できるということだけである。

 

 

 「……一応、幼虫だよ? ――それ以外は従魔屋の店長さんに聞いても何も分からなかったけど」

 

 

 そう……何も分からなかった。

 《テイム》と何のモンスターかを教えてもらうために訪れた『魔王商店 中央大陸支部』。

 そこでいつも通り、店長さんに《審獣眼》で見てもらったのだ。

 

 そして……何も分からない(・・・・・・・)、と言うことが分かった。

 

 

 ――モンスターの名称は【アビス・ラビー】

 

 ――持っているスキルは《穿齧》と《アビス・レービング》

 

 ――おそらく【樹霧浸食 アームンディム】によって変化した魔樹の森、そこに新たに発生したモンスターであろうこと。

 

 

 私の言うことは基本的に聞いてくれるがそれ以外は何も知らない。

 それが【アビス・ラビー】であるベグだった。

 

 

 「お前……よくそんな奴、従魔にしてんな」

 

 「……連れてきたのはホオズキとシュリちゃんだけどね。うん……でもまぁ、もう慣れたかなぁ~」

 

 

 そんなことを話す私達。

 

 

 『――――』

 

 

 すると全部食べ終え、お腹が膨れたのかベグが私の手にすり寄ってくる。

 ――《送還》しろって言っているのだろう。

 私は無言で右手の【ジュエル】へとベグを送還する。

 そんな時だった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああーー~ッ!!」

 

 

 突然辺りに響き渡った男の叫び声。 

 何か大切なモノを失ったかのような嘆きの声だった。

 

 

 「あぁ? なんだ?」

 

 

 叫び声が聞こえてきた方角――カフェの向かい側へと視線を向けるホオズキ。

 私もそんなホオズキに釣られるように、騒めきが起こり始めた方向へと顔を向けた。

 

 

 ――『アレハンドロ商店』

 

 

 視線の先。

 そこに建っていたのは少し大きな商店。

 多くの【冒険者】だろう<マスター>やティアンが商店を行き来し、人の行き来が絶えない。

 少し中を覗くとたくさんのアイテムの売買やモンスター用の装備なども売っている。

 ……かなり品ぞろえが良くて人気な商店のようだ。

 そんな商店の一角――小さなボロボロの箱のようなものの前に、叫んだであろう男は居た。

 

 

 「……よく分からないけど失神してるね」

 

 

 その男は大粒の白目をむいた目で涙を流していた。

 何かに負けたかのように床に倒れ、その手には『F』と書かれた白いカプセルを握っている。

 いや……よく見れば違う。

 男の周りには数個の『F』や『E』、『D』と書かれたカプセルが転がってる。

 

 (もしかして……あれって)

 

 私はそれらを見て、一つのモノを思い浮かべる。

 

 

 「――【ガチャ(・・・)】?」

 

 

 私達の視線の先――そこに置かれたのは現実のものと変わらない、紛れもないガチャガチャだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 そこからは怒涛のように人の流れが続くこととなった。

 

 一番初めに叫んだ男は<マスター>だったらしい。

 男は目覚めると涙を流しながら何も言わずに『ログアウト』していった。

 その男の様子を見ていたのだろう……【ガチャ】に挑むチャレンジャーが続発することとなる。

 

 

 ――思い切って大金を注ぎ込み……涙を流した女性<マスター>。

 

 ――同じくガチャに挑み、その結果をみて店員さんに突っかかって、何かを言われ肩を落として店を出ていく者。

 

 ――ガチャを回し、『C』のカプセルに声を上げたと同時に《窃盗》で盗まれた者。

 

 

 【ガチャ】に挑んだ者のほとんどが涙を吞み、その場を去っていく。

 当たったとしても見た限り『C』が限界。

 かなりシビアなガチャのようだ。

 

 (……とはいっても、ガチャなんてしたこと無いんだけど)

 

 私とホオズキはその様子を何処か、ネタのような催しのように傍観していた。

 シュリちゃんもお酒が切れたのだろう。

 頬をテーブルにつけるようにしてグッタリとしている。

 そして――次第に辺りは暗くなり、人の数も減ってきた時だった。

 

 

 「……うしっ! 俺達も行くか!!」

 

 「――やっぱり行くんだ、分かってたけど」

 

 

 私は子供に戻ったように目を輝かせるホオズキにため息を吐く。

 

 

 「当り前だろ!? 目の前に【ガチャ】があるんだ、ここで引かなかったら男が廃るってもんだぜ!」

 

 

 ……随分安い上に廃りやすいものらしい。

 席を立つホオズキに続くようにして私も荷物をまとめ席を立つ。

 

 

 「なんだ、お前こそ引きたいんじゃねぇか」

 

 「……ヴィーレ?」

 

 「まぁね? 今までガチャなんて引いたことなかったから」

 

 

 今まで現実ではガチャガチャなんてしたことも無かった。

 いつも遠くでその様子を見ていた子供――それが私なのだから。

 

 (――お金も少し余裕があるし)

 

 【嵐竜王 ドラグハリケーン】の討伐報酬。

 それに加え【スカーレット act.2】の作成の為、闇雲に受けまくった『ジョブクエスト』のお金もそれなりにあった。

 それこそ、<ギデオン>でかなり贅沢しても余るだろうという程度には。

 ホオズキはそれに加え、【炬心岳胎 タロース・コア】の討伐報酬もあるので潤沢だろう。

 

 

 「よし、行くぜ」

 

 

 幸いなことに今は誰も【ガチャ】には並んでいない。

 私達は直ぐに【ガチャ】に挑戦することが出来た。

 

 

 「えっと……入れた金額によってガチャの出る価値も上下するらしいけど、ホオズキはどれくらい入れるの?」

 

 「決まってんだろ……十万リルだ!!」

 

 「……ホオズキ?」

 

 

 ――十万リル。

 ガチャに入れることが出来る最高金額だ。

 

 大声で言い切ったホオズキ。

 その横でシュリちゃんが眉間にしわを寄せ、下から見上げるようにホオズキを睨みつけた。

 ……だけどホオズキも譲らない。

 シュリちゃんの視線から逃げるように【ガチャ】へと突き進み、そして――十万リルという大金を一気に突っ込んだ。

 

 

 「……ハズレだったら、百万リルのお酒。……買ってもらう」

 

 

 ガチャの回す部分へと手を掛けたホオズキの後ろから、シュリちゃんがプレッシャーをかける。

 

 (百万リルのお酒……)

 

 聞いただけでも恐ろしい。

 それだけのお金があればどれだけ良い装備が買えるだろうか。

 そして……気のせいだろうか?

 ホオズキの手は小さく震えていた。

 そして――数度深呼吸すると、何かを決心したように手の震えは止まり。

 

 

 「――いっけえぇぇぇぇぇぇぇええ!!」

 

 

 一気にその持ち手を捻った。

 

 

 ――『ガラガラ』

 

 

 同時に【ガチャ】の中から聞こえてくる機械音。

 私達は謎な雰囲気に息を飲みながら、転がり出てくる穴を見つめる。

 そして――

 

 

 「……あ」

 

 

 穴の奥、転がりながら出てきたカプセルの色は白色だった。

 多分当たりではない。

 良くて『Cランク』の入れた金額と同価値のアイテム。

 悪くて『Fランク』の入れた金額の1/100の価値のアイテムだ。

 私達はドキドキとしながらそのカプセルを手に取ったホオズキをみる。

 そして、カプセルを見たホオズキは眉を顰め。

 

 

 「――『Bランク』だ」

 

 「え?」

 

 

 『B』と大きく描かれた白いカプセルを掲げるように見せてきた。

 

 

 ――『Bランク』は入れた金額の10倍の価値のアイテム。

 

 

 「……」

 

 「……」

 

 「……」

 

 

 私達はその事実に、ひたすら無言でそれを見つめた。

 少しの静寂。

 するとホオズキは我慢できないと言ったように、はやる手つきで『Bランク』のカプセルを開け放った。

 

 

 

 【【鬼斬大刃】を手に入れた】

 

 

 

 私にも聞こえるアナウンス。

 そして、いつの間にかホオズキの両手に乗せられていた大太刀(・・・)

 真っ黒な鞘に納められ、少し刃を抜けば何でも一刀両断してしまいそうな妖美に光る刃が見える。

 見ただけで分かる――とてつもない値段の武具だ。

 私達はその【鬼斬大刃】を凝視し――そして。

 

 

 「……」

 

 「……プッ、ホオズキ」

 

 「……フフッ、アハハハハハッ!! フフ……ごめん、フッ」

 

 

 無言で固まるホオズキをよそに私達は大声を上げて笑った。

 ……失礼だけど、これは笑いを堪えきれなかった。

 出てきた武器、それがまさか――

 

 

 ――鬼系への特攻武(・・・・・・・)()……ホオズキにメタった武器なのだから。

 

 

 『鬼への追加ダメージ』。

 そして『鬼系統モンスター限定の再生妨害』。

 これで切られてしまってはホオズキでも再生できずにやられてしまうだろう。

 

 

 「アハハ……うん、でも大太刀でホオズキにも合ってるし当たりだと思うよ?」

 

 

 黙り込むホオズキ。

 そんなホオズキを励まそうとしたのだけど……何だか煽りみたいになってしまった。

 これ以上口を開いても、失敗してしまいそうだ。

 

 (少し大人しくしてよっ)

 

 そう考え、後ろに下がる。

 そうして、シュリちゃんと商店の中を見て回ろうとした時だった。

 

 

 

 

 「……次はお前の番だぞ、ヴィーレ」

 

 「え?」

 

 「あれだけ俺のこと笑ってんだ、お前も引いてこい」

 

 

 恨めしそうに。

 八つ当たりのようなぎらついた目で私を見るホオズキと視線が合った。

 ――絶対に引かせて笑ってやる。

 そんな何と言おうとも揺るがない、強情な意志が宿った目。

 

 

 「う、うん。別に良いけど」

 

 「……ヴィーレ、頑張って」

 

 

 私はそんな目にただ頷くことしか出来なかった。

 

 (もともと一回は引くつもりだったし良いんだけど……)

 

 私はホオズキに変わって、【ガチャ】へと手を伸ばしす。

 

 

 「……十万リルだからな」

 

 「分かってるよ」

 

 

 お金には少し余裕があるのだ。

 これで外れたとしても大した痛手でもない。

 先ほどのホオズキと同じ手順で【ガチャ】へと最高投入額――十万リルを込める。

 そして、

 

 

 「……えい」

 

 

 驚くほどにドクドクと脈打ち、震える手で一息にその持ち手を捻り切った。

 ガラガラと音を立てる【ガチャ】。

 

 (……お願いっ!)

 

 私はそのカプセルが出てくる穴両手を握り合わせ、目をぎゅっとつぶりながら願う。

 音の止んだ【ガチャ】。

 その中からは先程と別の、固くて軽いカプセルがぶつかりながら出てくる音が響く。

 そして――それは私達の目の前に姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――ハッ、ガッハッハッハッハッハッハッハッハッ!! 人のこと笑えねぇなぁ、おい!!」

 

 「……ホオズキ、さいてー」

 

 

 姿を見せたカプセル。

 ホオズキと同じ白いカプセル――その表面には大きく『F』と書かれていたのだった。

 私はそのカプセルを凝視し――

 

 

 「……おかしい」

 

 

 小さくそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……なぁ、俺が悪かったから。な? だからもう止めようぜ?」

 

 「……ヴィーレ、怖い」

 

 

 ――ガチャを回す。

 

 すると――今日三つ目(・・・)となる『F』の文字が書かれたカプセルが転がり出た。 

 ……特になんとも思わない。 

 私は既に慣れ始めた手つきでそのカプセルをこじ開けた。

 

 

 

 【【解毒薬】を手に入れた】

 

 

 

 【解毒薬】、私はフェイの《蒼炎の再生》があるので基本使う機会はなさそうだ。

 私は手に持った【解毒薬】を【アイテムボックス】へとしまい込む。

 

 

 「……いつまで回し続けるんだよ……回しても出ねぇもんはでねぇぜ?」

 

 

 次のガチャ――都合、六回目となるガ(・・・・・・・)チャ(・・)を回そうとした私。

 私はそんな途中に横から掛けられたホオズキの言葉に動きを止めた。

 ……何を言っているんだろう?

 私はホオズキが何を言っているのか理解できずに首を傾げる。

 

 

 「ほんとにそこらへんにしとけ。あまりやり過ぎると癖になって止められなくなるぞ……それにどんだけムキになったって出ねぇもんは出ねぇんだ」

 

 「……違うよ? 私はこのガチャの確立を求めてるんだよ。最初の男性から私達までで『Bランク』が一度。それに白色のカプセルからそれも確実に当たりって言うわけではないと推測できる。そう考えればそろそろ当たりがでても可笑しくはないと思うの。

  それに『Aランク』が当たれば投入金額――十万リルの100倍だよ? それさえ出ればこれまでの六十万リルはチャラになるよ。だからここで止まっちゃ駄目だと思うの。……最低でも後四回、四回以内に『Aランク』以上が出ればいいんだよ。ね? そう思えばここで止めるのは駄目だと思うでしょ?」

 

 「――? そう、なのか?」

 

 「……嘘」

 

 

 止めに掛かったホオズキの隙をついて再度、十万リルを投入する。

 残り僅かになってきた私のお金――ラスト一回の十万リルである。

 

 (……神様)

 

 私は神頼みするかのようにその持ち手を握った。

 これまでの結果は散々だった。

 

 ――『Fランク』が三回。

 ――『Eランク』が一回。

 ――『Dランク』が一回である。

 

 ついでにその中で一番の辺りは【【ジェム‐《クリムゾン・スフィア》】だ。

 それ以外は使いどころも無い日常用品や先ほどの【解毒薬】ばかり。

 正真正銘の最後の一回。

 

 

 「……【戦車競走】よりドキドキするかも」

 

 

 手が震え、喉が渇く。

 手は汗に滲み、視界がチカチカと眩しくなる。

 それでも……手に力を入れ取っ手をゆっくりと回し始めた。

 

 (――――お願いーー~~~ッ!!)

 

 ぎゅっと瞼を閉じ、心の中で叫びながら捻り切る取っ手。

 目を瞑って真っ暗な視界。

 ――そのせいだろうか?

 【ガチャ】から聞こえてくるガラガラという音がやけに鮮明に聞こえてくる。

 そして――

 

 

 ――『コロンッ!』

 

 

 その小さな音と共に私は目を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――『金色に光るカプセル』

 

 

 

 

 「―――――ッ!!」

 

 「……まじか」

 

 「……まじ」

 

 

 ――金色。

 それが指す意味はたった一つ、『Aランク』の当たり(・・・)カプセルである!!

 嬉しすぎて視界が涙で滲む。

 私は何かに導かれるように、その金色のカプセルへと手を伸ばす。

 そして――そのカプセルを開け放った。

 

 

 

 【【【逆賊王(キング・オブ・レブル)】の手記】を手に入れました】

 

 

 

 いつの間にか手の中に納まっていた小さくボロボロな手記。

 それは丈夫そうなモンスターの皮に覆われていた。

 私はその不穏な名の『超級職』――その手記を破れないようにゆっくりと捲る。

 そして――

 

 

 「……これって」

 

 

 ソレを見た。

 

 

 ――この<Infinite Dendrogram>の世界と同じ形の地図。

 

 ――更にその中でも<黄河帝国>を拡大したような地図とそこにビッシリと書き込まれたメモ。

 

 ――そして……その地図の一部に小さくつけられたばってんの表記(・・・・・・・・)

 

 

 私はそれを見て、一度にすべてを理解した。

 これは先程のホオズキのような【鬼斬大刃】のような高価なアイテムではない。

 しかし……それ以上のアイテムを示すただ一つの道標。

 

 

 

 

 

 ――『宝の地図(・・・・)』であると。

 

 

 

 

 

 

 

 




【アビス・ラビー】/ベグ

レベル:1
種族:魔蟲系
クラス:下級
保有スキル:《穿齧》《アビス・レービング》
備考:謎多きヴィーレの三体目の従魔。
   何故か戦闘を嫌がり、ひたすらご飯だけを食べる食いしん坊な幼虫。
   嫌いなものは殺虫剤。
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