自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
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前話 砂漠横断
□都市国家連合カルディナ・<ヴァレイラ大砂漠> 【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ
果てしない砂の地面が続き、草木一本も見当たらない大砂漠。
そよ風が吹けば地面に降り積もった黄色い砂が宙を舞い、視界を朧げに塞ぐ。
上空を見上げれば灼熱の太陽が爛々と容赦なく照らし、熱しられた砂漠の奥で熱気によって出来た蜃気楼が揺らめいた。
まともに地面を歩こうとすればその熱気と砂に体力を削られ、すぐに【脱水】に陥ってしまうだろう。
そして――
『GIGHWOOOOOOOOO!!』
――もちろんそれだけではない。
砂漠を高速で疾走する蠍型モンスター。
砂を飲み込み、地面に擬態するように砂中を悠々と泳ぐ大きな鯨型モンスター。
見えるモンスター全てが強力なモンスターばかりだ。
この過酷な環境に加え砂漠特有のモンスターである、まともに戦えずやられてしまうのは目に見えている。
そんな大陸の大部分を占め、そのほとんどが砂漠で構成された国。
――幾つもの都市が合わさり出来た“貿易国家”であり連合国……<カルディナ>。
「かれこれ二日くらいずっと砂漠しか見えないけど……本当にこっちで合ってるのかな……?」
<カルディナ>の西部に位置する砂漠。
<ヴァレイラ大砂漠>を私達はゆっくりと東に向かい移動していた。
「おぃ、マジで頼むぜ……流石にこんなところに何日も居るのは飽きるぞ」
「……暑い。……怠い。……死んじゃう」
後ろから聞こえてくる……耳にタコが出来る程聞いた愚痴。
今日だけでも何かい耳にしたか分からない声に深い溜息を吐く。
……これでも一番楽な方法で移動しているのだからあまり口は言わないで欲しいよ。
私はそんな口元まで出かかったぼやきを飲み込み、呆れるような視線を背後に向けた。
そして――二人の姿を見た。
――上裸になり、肌を焼くように寝転ぶホオズキ。
――いつもとは違う……薄着になりながら、冷たい場所を探すようにコロコロと転がるシュリちゃん。
砂漠を渡るべき格好とはかけ離れた姿。
私は予想を上回るその様子に目を見開き。
「……怪鳥にでも連れ去られちゃえばいいのに」
「戦闘すんのもだりぃ~、頼むから『隠蔽』は解かないでくれ~」
「くれ~」
私達三人揃ってグッタリとする。
本来なら砂漠を横断するのも過酷であり、デスペナルティになることも珍しくもない<ヴァレイラ大砂漠>。
徒歩なら地獄。
騎獣でもその種類をかなり選ばれる。
唯一、一番楽だろうセーブポイント付きの竜車だが……そんな高価なアイテムを持っている【商人】が簡単に見つかるはずも無い。
そんな<マスター>にとっては鬼門の砂漠。しかし私達はその<ヴァレイラ大砂漠>を特に何もするわけでもなく、簡単に横断することが出来ていた。
「本当にアロンが居てくれて助かったね……」
『GUGWA、GUGWAAAAAAAAA~~!!』
もしも移動するヴィーレ達の姿を第三者が見れば……驚きのあまり腰を抜かしてしまうかもしれない。
少なくとも確実に驚く。
……それか
ヴィーレ達の移動手段、それは傍から見れば
隠密能力とその大きさに秀でた【リソスフェア・ドラゴン】のアロン。
その特異性故かレベルが上がりづらいアロンのレベルはこれまでの旅でゆったりながらも上がり、『レベル12』まで上がっていた。
【嵐竜王】との戦いでも半径30メテルはあったアロンである。あれより倍以上にレベルの上がったアロン。
その体長は既に2キロメテルを優に超え、まさに誰にも気づかれることなく移動する山。
……隠密の移動要塞と化していた。
――ゴゴゴゴゴォォォォォオオオ!!
地鳴りのような音が鳴る。
すると同時に巨大な上へと突き上げる二本の牙が、砂中から潜るようにさらい上げられた。
アロンの下顎から生え伸びる二本の黒い牙。
その牙は大量の砂と共に、一体の【亜竜甲蟲】を救い上げ……
――『ピロンッ!』
私の手元に開かれたウインドウ。
……アロンのレベルやスキルなどの詳細が記されているレベルの欄が、12から13へと変化するアナウンスと共に食いちぎられた。
その後もガジガジと歩きながら顎を鳴らすアロン。
(……美味しいドロップアイテムでも出たのかな?)
何かを齧りながら硬い甲殻に覆われた目を細めるアロン眺める。
「美味しい?」
『GAGWAAAAAー』
頷き代わりに咆哮するアロン。
「俺らはえれぇがそいつはやけに楽しそうだよな……何でかは知らねぇが」
「……シュリも美味しいお酒、飲みたい」
そんな感想を耳に、楽しそうに砂漠を突き進むアロンを見つめ続け。
「うん……実際に楽しいと思うよ? 街中や<レジェンダリア>ではあまり外に出してあげられなかったし」
そう返事を返した。
アロンに全て任せきってしまい申し訳ない気持ち半分。
そしていつもとは違い、伸び伸びとさせてあげられて嬉しい気分半分である。
ひたすらゆっくりと歩きながら、《地盤超重》を一点に集中させた応用。
自身の身体に纏った地盤を変化させて様々な形にしたりと色々試しているのを見ているのは、ずっと見ていて楽しい光景だ。
(隠密能力で殆どモンスターにも見つからないし、暑いのを除いたら楽なんだけど)
仮にアレウスやフェイに《騎乗》し、【怒涛之迅雷】で一気に駆け抜けるのが一番楽な選択肢なのかもしれないが……
「……しょうがないよね?」
私はアロンから目を離し、私達の後方――アロンの甲羅の後方へと視線を移した。
まるでサッカーグラウンド。
いや、それ以上に遥かに広く、ゴツゴツとした岩盤のような甲羅。
そんな私の視線の先に映ったのは三つ並んだ大きな【簡易テント】、そしてその周辺にたむろう数人のティアンの姿があった。
全身に《隠蔽》効果の付いた白いローブを纏った集団。
そんな中の一人の青年が私の視線に気が付いたのか、手を振りながら私達に近づいてきた。
「本当に助かりましたぁ~ヴィーレさん。あなた方が通りかからなければ荷物を全部失って、今頃野垂れ死かモンスターの腹のなかでしたぁ~」
話しかけてきたのは白いローブを被った中でも一際若い青年だった。
――この世界ではあまり目立たないくせ毛のある茶髪。
――他のティアンの人々とは少し違い、ローブの各所に身に着けた軽装。
――腰に小さなナイフを装備した柔和で人懐こそうな顔の青年。
私はニコニコと笑う青年――【大商人】である『シアン』さんの言葉に首を振り、笑いかけた。
「いえ、ちょうど通りかかっただけだったので……それに私達も都市までの案内をしてもらっているのでお互い様ですよ」
「……そう言って貰えると助かります~、こんな安全な旅に同行させて貰えるだけでも恩を返しきれる気はしませんがぁ~」
私の言葉にシアンさんはににこやかに笑いながら頭を上げる。
彼らは<愚者の石積み>と言う少人数で商会をしている<カルディナ>出身の商人たちらしい。
つい一年前ほどに出来たティアンだけで構成された商会、そしてその商会長を務めているのが【大商人】兼、護衛であるシアンだ。
(こんな温和そうで同い年に見えるシアンが商会長なんて以外だけど……)
この世界の人々は私の知り合いの『騎兵ギルド』の皆も含め、逞しい人が多いようだ。
「はぁ~、それにしても<アルター王国>を出て早々に砂嵐に巻き込まれるとは……。モンスター相手なら多少は何とかなりますが運の悪いものですね~」
「アハハ……それは運が無かったとしか言いようが無いけど……。でも今更だけど、近くの街で『竜車』を調達する方があったんじゃないんですか?」
今更ながら不思議に感じ、シアンに尋ねる私。
そんな私に向け、彼は何処か残念そうに首を横に振った。
「残念ながらそれは出来なかったんですよ~。実は私達<愚者の石積み>は全員、孤児出身の商人でして……お恥ずかしい限りですが、売り上げの一部を孤児院に入れてましてねぇ~。
おかげさまでカツカツでして竜車を調達する資金さえなかったんですよ~、それに……」
より一層、笑みを深めながら私。
そして次にアロンの上でくたびれるホオズキへと顔を向けるシアンさん。
「……これでも【大商人】ですからぁ~、人を見る目はあるつもりです。そしてヴィーレさん達についていけばいつも以上に安全に<ヴァレイラ大砂漠>を渡れると踏んだのですよ、例えヴィーレさん達が<マスター>だとしても、ね~」
「……なるほど」
「はぁ~……まぁ、商品を見る目はあまりないらしくこうして貧乏商店をやっているんですがね~」
ケラケラと笑うシアンさん。
一見、何を考えているかがよく分からない人ではあるが、本当は色々と考え込んでいるようだ。
【商人】系統は非戦闘職であり、同時に覚えることのできる汎用スキルも多いジョブである。
商人として必須な《鑑定眼》はもちろん。
値切りをする《交渉術》や審議を見極める《審議判定》、《格納》など【アイテムボックス】内の容量を増やしたり管理するスキルが多彩に存在する。
そして……その中に《看破》が合っても可笑しくはない。
私とホオズキ、そしてシュリちゃんは《隠蔽》などの装備は一切つけてはいないのでほとんどのジョブなどを読み取られてしまったのだろう。
「何ていうか……同い年に見えるのに商会の長を務めたり、色々考えたりって凄いですね!」
「そうですか~? 少し照れますね~。まぁ、実を言ってしまえばこう見えてかなり年を取っているのでヴィーレさんよりは年上なんですけどね~?」
そう笑いながら、チラリと自身の白いローブを捲るシアンさん。
そのローブの奥。
耳元には普通の人とは違う……エルフ特有の長い耳が見えていた。
「ハーフエルフと言うやつです、これは秘密ですよ~?」
どこか悪戯が成功したようにニヤリと笑みを見せるシアンさん。
……うん。
(……もう、これから見た目で人を判断できないや)
私の所属国が<レジェンダリア>だからだろうか?
むしろまともな人族の方が少ないような気さえもする。案外、百年…二百年生きてる人の方が普通なのではないかと思えてくるほどに。
「……あ、そう言えばシオンさん達の拠点のある都市はもうすぐなんですよね? 後どれくらいか分かったりしますか?」
ついでにこれも聞いておかなければならない。
私達の目的地。
それは<カルディナ>――ではなく、その向こう側に在るだろう<黄河帝国>。
【ガチャ】で当たった【【逆賊王】の手記】に記された宝物だ。
そのためにも、配達などのクエストや食料の調達などを繰り返しながら<カルディナ>を渡らなければならない。
そんな私達が一つ目の目的地に決めた都市。
そこがシアン達、<愚者の石積み>の拠点ある街だった。
「そうですね……このスピードなら明日の朝には着きますよ~」
「……良かった~」
アロンのAGIはギリギリ1000に届くか届かないかという程度。その速度は竜車と比べるとやはり亀の歩みだ。
しかし、アロンの隠密性と休憩なく進み続けたおかげで意外と早く着きそうである。
(流石にこの旅をあと数日続けるのは辛かったし……本当に良かったぁ~)
これでホオズキ達の愚痴を聞かないで済む。
「……はぁ~、あの、ヴィーレさんたちはどれくらい街に滞在する予定何ですかぁ~?」
「――? 4日ぐらいだと思いますけど」
そんな私の返事に突然、眉を顰めるシアンさん。
その様子に不思議そうに首を傾げる私に向け、考え込みながら一言言い放った。
「でしたら是非私達の商店へきてください、この旅手のお礼をさせていただきますよ~。そして……」
顔を上げ、一瞬だけシュリちゃんを一瞥し、再び口を開いた。
「出来れば直ぐに旅立った方が良いかもしれません~。今、街は……殺人と冤罪に溢れ、【義賊王】が暗躍する血にまみれた街になってますから」
そう言うシアンさんの顔には先程の柔和な表情はいっさい見えず、細く開かれた目は真っ直ぐに砂漠の向こう側を見通していたのだった。
【リソスフィア・ドラゴン】/アロン
レベル:13
種族:竜系統(地竜種・変異種)
クラス:亜竜級
保有スキル:
・《地盤超重》
・《地盤操作》
・《隠密》
備考:
師匠が<カルディナ>の<極冬山脈>の麓で保護した小さな地竜。
通称、地盤竜であり様々な環境をものともせず生き抜く事が出来、その目撃例は凄まじく少ない。
高い隠密性、屈指の防御手段を持つ。
成長するほどその大きさを増していき、過去には<アムニール>に匹敵する程の大きさを誇った<UBM>も確認されている。
基本、食いしん坊で暴れん坊。
好きなものはヴィーレ、そして牙研ぎ。
『水陸両用の移動要塞』、砂漠も水中もどこでもごじゃれ。