自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
八月中に更新する詐欺を働き、だらだらと読専になって……なんか申し訳!!
リハビリしながらゆっくりと更新していく『予定』(保険)です~。
念のため、捏造設定多めです。
□『カルディナ』 【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ
東の地平線が薄っすらと白く染まる。
この<Infinite Dendrogram>の世界でも太陽は東から昇り、そして西に沈むらしい。
<レジェンダリア>の森林では滅多に見れないだろう景色。辺り一面を砂漠に囲まれた<カルディナ>だからこそ見ることが出来る、一種の幻想的な景色である。
時刻はまだ陽はその全貌の一部しか見せていない――夜明けの時間だ。
――数メテル先しか見渡すことのできない暗闇。
――ゆっくりと西に向け沈みだした月。
――砂漠の空に浮かぶ輝く星々。
そんな中、私は昼夜に関わらず歩き続けるアロンの背の上で膝を抱え込み、じっと前方を眺めていた。
(……寒い)
昼間はまるでサウナのような蒸し焼き状態だった砂漠、しかし今はその姿を一転。真逆の世界へと変えていた。
「砂漠の夜は寒いっていうけど――寒すぎだね」
ため息と感嘆を混ぜた「ハァ」と吐き出された吐息は、一瞬で外の冷気に冷やされ白い靄となって空気中に消えていく。
大規模な冷凍庫へと姿を変えた砂漠の夜、その気温は優に-40℃を下回っているだろう。
……いや、きっともっと低い。
北にそびえた<厳冬山脈>に近いこの場所は他の場所よりも気温が低いはずだ。
何の装備や準備も無く砂漠を横断しようとすれば【凍結】して死んでしまうことを想像するのはそう難しくもない。
「私もフェイが居なくちゃ危なかったよー」
そんな独り言を漏らした。
同時に腕の中で寝息を立て、赤く燃える羽毛を持つフェイをギュッと抱きしめた。
――『Gwee‼』と何かが潰れるような音がした……が無視する。
ご主人様を捨て置いて一匹、ぬくぬくと眠るなんて許されないのだ!
二度寝に入ろうと身体を小さくし、丸くなるフェイを腕の中で弄り倒す。
「いつもアレウスの上で寝てるんだから眠くないでしょ? ……起きてる時間の方が短い気すらするし――このままじゃ駄鳥になっちゃうよ?」
『KWEEEEE~~』
文句を言いたげな低い鳴き声。
薄っすらと目を開け、翼を広げうつ伏せになるフェイの姿に私は思わず小さな苦笑を漏らした。
「それに……」
苦笑しながら空を見上げる。
目に映るのは朝と夜の境界線。
朝焼けの光が昇り、星が輝き、月が沈む。そして何も遮るものの無い自由の空に、彼方まで続く果て無き地平線である。
「これは――一回ぐらいは飛んでおかないとね?」
私はワクワクとした気持ちを落ち着かせながらニヤリと笑う。
そんな私の様子に、フェイは面倒くさそうに小さく項垂れる。
それはきっと何をしても『空の散歩』からは逃げられないと分かってしまっているからだろう。
「ほらっ、早くしないと完全に陽が昇っちゃう」
『KWE、KWEEEE~』
急かす私の声に炎の身体を巨大化させたフェイ。
そして……
「うん、それじゃあ行こう!」
楽しそうに弾む声を掛け声に、朝の散歩へと不死鳥は空に飛び立ったのだった。
□
「はぁ、はぁ――酷い目にあった……」
『KWEE、KWEEEEEEee』
ヴィーレを乗せたフェイが朝焼けの空へと空中散歩に飛び立ってから数分。太陽がその姿を完全に表し、ジリジリと空気が熱くなってきた頃。
何処か疲れた様子のヴィーレとフェイはアロンの堅殻の背の上には腰を落とし、荒くなった呼吸を鎮めるように深呼吸をしていた。
(はぁ~、油断してた)
背筋の冷や汗に眉を顰めながら空を見上げる。
するとちょうど真上の青空には何羽ものモンスターが何かを探すように高速で飛び交っている。
「【チャージコンドル】って、もしかして<カルディナ>特有のモンスター?」
空を飛ぶモンスターの正体、それは小さなコンドルのようなモンスターだった。
――真っすぐな鋭い嘴。
――金属的な色みの白い翼。
しかしリアルでのコンドルとは違い、ムクドリのように群体を作って飛んでいる。
何十羽もの群体で飛ぶ姿は遠目に見ると高速で動く雲のようにも見えるだろう。
一体一体はそれほど強くはない。
おそらく【ゴブリンウォーリアー】よりは強い程度。
せいぜいがギリギリ『上級』モンスターぐらいの強さのはずだ。
しかし……その【チャージコンドル】こそがヴィーレの退散した理由でもあった。
「まさか……捨て身で特攻してくるなんて」
【チャージコンドル】の戦い方。
それは捨て身の特攻。もしくは自爆のような攻撃方法だった。
――群れで飛翔し、上空から矢のような硬い嘴を下に向け、急加速しながら迫ってくる。
それが雨のように降りかかってくるのだからたまらない。
矢を使うのも勿体ないので《隠蔽》の掛かっているアロンの背へと逃げ帰ってきたのだ。
(《紅炎の炎舞》なら防げたかもしれないけど……)
「……なんだか嫌な予感がしたからやめたんだよね」
そんなことを考え――首を振るように考えるのを止めた。
戦闘を避けて逃げて帰ってきた今、考えてもしょうがないことである。
腕に擦り寄るようにしてご褒美を強請るフェイに笑いながら【アイテムボックス】から《クリムゾン・スフィア》の込められた【ジェム】を手前に置いてあげる。
するとフェイは目の前に置かれた【ジェム】から美味しそうに『炎』を吸収し始めた。
因みにどうやって吸収しているかは謎だ。
私はそんなフェイの様子をジーと眺め、そして……背後から聞こえてくる足音に振り返った。
「おはようございます~」
どこか楽しそうな間延びした声。
少し低めの男の人の声だ。
「おはようございます、シアンさん」
そこに居たのは既に砂漠を渡るための装備に着替え、にこにこと笑うシアンさんだった。
私も少し頭を下げながら挨拶を返す。
そして同時にチラリと彼の背後の【商人】達のテントを覗き見た。
視線の先にはシアンさんと同じく、すぐにでも動けるように準備を終えた商人たちの姿。そして彼らとは反対に【寝袋】と毛布にぐるぐる巻きになっていびきを立てているホオズキとシュリちゃんの姿があった。
……きっと声を掛けないと起きないだろう。
ホオズキ達の姿に目を細め、シアンさんへと視線を戻す。
「皆さん準備が早いんですね」
「まぁ、これでも一応【商人】ですからね~。今日はヴィーレさん達にお世話に名ってますからね~、これでもいつもよりはかなり遅いんですよ~」
シアンさんは笑いを含めた声で癖のある茶髪をポリポリと掻く。
「それに……」
シアンさんは何かを言いたげに、少し頬を引きつらせながら空を見上げた。
「本来【チャージコンドル】が飛んでいる所なんかで寝たら、もうとっくにあの世行きですからね~」
『今すぐにでも逃げ出したい』、そんな畏怖が込められた声でそう呟いた。
私もその言葉に心の中で同意する。
空を飛ぶモンスターが我が身をかえりみず、上空から突撃してくるなんて恐怖以外の何でもないだろう。
群れで行動しているので避けるのも難しい。
私もフェイが居なければ絶対に戦いたくないモンスターである。
「すごい集団ですからね。<レジェンダリア>ではあんなモンスター居なかったから驚いちゃいました」
「あぁ~、【チャージコンドル】は<カルディナ>固有のモンスターですからぁ~。……【チャージコンドル】は見たとおり群体で行動するモンスターなんですが本当に怖い点は別にあるんです~」
……?
空を飛ぶだけでも強力なモンスターだ。
私はシアンさんが言う『怖い点』に想像が付かず、小さく首を傾げ、空を見た。
「実は【チャージコンドル】は結構
「硬い……ですか?」
少し疑いを込めた声。
その言葉を肯定するようにシアンさんはニヤリと笑みを浮かべる。
「えぇ、硬いんです。それこそ『亜竜級』程度の地竜なら貫かれてしまう程に……レベルの低い【盾巨人】でも無事ではすみません~」
「地竜を貫く……ですか」
「あ、多分この地竜は大丈夫だと思いますよ~。私でも見たこと無いぐらい堅そうですし《隠蔽》もありますから~」
その言葉を聞き安心する。
そして熱くなってきたからだろうか? 背中を冷たい汗が伝った。
(――もしあの時、炎の壁で防御しようとしていたら)
硬い竜鱗が特徴的な地竜にもダメージが届く自滅突撃。
きっと何体かは倒せたかもしれないが私はデスペナルティになってしまっていたに違いない。
そうなればホオズキやシュリちゃん、そしてシアンさん達は砂漠の中に放り出されていただろう。
……危なかった。
最悪の事態を思い浮かべ、チョロリと視線を泳がした。
「この前も【チャージコンドル】の変異種のような<UBM>が<厳冬山脈>から現れて大変だったんですよ~、通りすがりの<マスター>が討伐してくれたので被害は少なくて済んだんですが」
シアンさんはそんな私の様子に気づく様子もなく、のんびりと世間話をする。
まさか<UBM>ではなく、普通の【チャージコンドル】の群れで全滅しかけたなど冗談でも言い出せるわけもない。
端っこの方で【ジェム】からチビチビと炎を吸収しているフェイは我関せずを決め込んでいた。
そのせいで私一人、気まずい気持ちになりながら乾いた声を漏らす。
「あはは……あ、そう言えばシアンさん達の商店の拠点がある街はどんな所なんですか? 昨日は明朝には着くって言ってましたけど」
話を変えるように投げかけた話題。
するとシアンさんは『あぁそうだ、忘れてた』とでも言うようにポンッと手を打った。その様子を見るに元々その事について話をしに来たのかもしれない。
シアンさんは視線をアロンの進んでいる進路の方へと移し、そして何かを見つけたように目を細めた。
「いや~、すっかり忘れてました~。ですが丁度良かった、見えてきましたよ~」
彼はそう言いながら指を指す。
「あそこが僕たちの目的地であり<カルディナ>で最北端にある都市」
――白い何かに覆われた円形の街。
――太陽の光を反射して輝く薄氷の張ったオアシス。
私はその光景に目を見張り、感嘆の声を漏らす。
朝の砂漠では考えられない――吐き出した息が白く染まる。
「少し早いですが……まぁいいかな? あの都市を拠点とする商人として、故郷とする町人として貴方たちを歓迎します~」
――『ハックションッ!!』
何処からか聞こえるクシャミの音。
そんなクシャミを背後にシアンさんは私に向かい、満面の笑みを浮かべ言う。
「――ようこそ、<カルディナ>の第五の都市。“氷冷都市”<グランドル>へ~」
――砂塵の舞う砂漠。
――粉雪が舞う曇り空。
“氷冷都市”<グランドル>――その都市には
蒼白Ⅲ始まりましたね~