自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
□“氷冷都市”<グランドル> 【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ
「――さて。んで、これからどうするつもりなんだ? ヴィーレ」
「……んっ」
堅牢な石門を抜けた私達。
そこで待っていたのは、忙しなく行きかう【商人】達の竜車やアイテムを運ぶ人々の姿だった。
――『唖然』、とするのも束の間。
やはり【商人】にとっては街に着いてからが忙しいのだろう。
『――では』と小さな挨拶と共に仲間たちに指令を飛ばすシアンさん。
そして事前に言われていた通り、シアンさんが率いる<愚者の石積み商会>も瞬く間に早足で人込みの中へと消え去っていったのだった。
先ほどまでのこともあり、急な変化に思考が追い付かない。
そんな私にホオズキが声を掛け、シュリちゃんが服の裾を引き、現状へと至っていた。
「どうするって聞かれても……どうしよっか?」
「俺達に聞くなよ。俺が決めて良いなら1日中モンスター狩りになるぜ?」
「……なっても、私は行かない」
隠す気も無く嫌そうな表情を浮かべるシュリちゃん。
もちろん、私も嫌だ。
そもそもリアルでの用事もある以上、1日中――リアルでの8時間をぶっ通しでゲームはログインは出来ないのだ。
かく言う私も既に7時間以上ログインし続けている。
(今日は習い事もあるし……もう直ぐログアウトしなきゃ)
そんな事を思い浮かべ、そしてこれからの事を考える。
「私もお金に不安があるしそれには賛成だけど……モンスター討伐は明日にしよ? そのついでにシアンさんを訪ねればいいし」
「ん? あぁ、お前【ガチャ】に注ぎ込んだもんな」
「……もんな?」
「……違う。あれは必要投資なんだよ? 結果こうしてホオズキとシュリちゃんも<黄河帝国>への旅に付いてきてるんだから、共犯だよ」
何が共犯なのかは私にも分からない。
ただ、きっとホオズキはこれで誤魔化されてくれるに違いない。
(だけど……)
人差し指指を滑らせて開いた『ウィンドウ』。
様々なステータスとフェイの状態などが載せられいる半透明な画面。
そこにはすっかり寂しくなった『所持金』が映し出されていた。
数十万リルあったお金。
しかし、今はその影も形も見かけることも出来ない。
【スカーレット act.2】と【ガチャ】ですっかり散財してしまったのだ。
加えて【騎神】である私はアレウスとアロン、そしてベグの食料費もかかってくる。
このまま<黄河帝国>を目指すにしても不安が残る所持金である。
「それに、【怒涛之迅雷】を付けた《騎乗》の練習もしたいしね~」
見渡しの良い砂漠の大地。
一度、どこかで最高速度を出して起きたいと思っていたのだ。
「ま、俺はいいけどよ。――今からどうするかが問題なんじゃねぇか?」
「……それ」
そうだ、いつの間にか思考が脱線してしまっていたらしい。
ログアウト予定の時間まではまだ数時間ある。
同時にやりたい事も数え切れないほどある。
――アレウスやベグ達のご飯。
――この旅で消費したアイテムの補給。
――カルディナに来る際に受けた冒険者ギルドのクエストの達成報告。
私は拳を少し乾燥し始めた唇に当て。
上、下、右――何かを思い出させるように辺りをキョロキョロと見渡した。
そして……『ペロッ』とかさついた唇を舐め、顔を上げ口を開く。
「取りあえず……移動する?」
今更ながら辺りを見渡すと、幾つもの視線が私達を突き刺していた。
この砂漠の街では珍しい姿。
加えて此処はこの<グランドル>の入口、【商人】達が行き交う通りである。そんな通りで道端とは言え、突っ立っている私達は珍しい……もしくは邪魔でしか無いだろう。
ホオズキもそれに気がついたようで、辺りをギョロリと見渡し、
「――そうだな、取りあえず進むか」
「……だね」
「ついでに朝食が取れる場所も探そっか?」
私達は人々に視線に突き動かされるように、ゆっくりと街の奥へと歩を進め始めだのだった。
◇◇◇
広大な砂漠から見た<グランドル>。
その外見は私がこれまで見てきた中でも1、2位を争うほどに不可思議な光景だったが……なる程、街の中を歩けば<アムニール>や<ギデオン>との違いがはっきりと見て取れた。
ゆっくりと観光するように歩く私達。
ザクザクと霜の降りた砂漠の地面を踏みしめながら、通りに沿うように真っすぐ歩く。
街の形は円形だが、以外にも道は真っすぐなものが多い。
「てっきり<ギデオン>みたいな真ん中の大闘技場から伸びてる道が多いのかと思ってたけど……<グランドル>は全然違うね。
何て言うか――街が半分に別れているみたい」
「あぁ、そうだな。――俺はこの街はあんまり好きになれねぇがな」
「……血生臭いし、ね?」
「そうだね……どちらかと言えば私もあんまり好きにはなれないかも」
<グランドル>の街並み。
それは一見、私の予想を超えるほど不思議で綺麗。人々の活気に溢れていた。
出店や商店などの通りを歩く絶えない人込み。
<ドライフ皇国>や<アルター王国>、<レジェンダリア>でしか見られないはずの特有のアイテムや初めて見るようなマジックアイテムの数々。
(掲示板では<カルディナ>は特有のジョブも無くて人気も無さそうだったけど……)
……案外、<マスター>から見たら優しいスタート地点なのかもしれない。
――この
視界に映ったのは一つの光景。
――あからさまに裕福そうなティアンが歩く綺麗な街と、その影に隠れるように存在する貧民街。
――ジャラジャラと沢山の希少な【宝石】を身に着け、大声で笑う富豪。
その横でボロボロの服を着て働く、奴隷の少年。
――薄暗い路地裏で痩せこけて横たわる二人の少女。
「――胸糞悪い」
気が付けば自然と唇から本音が漏れていた。
ホオズキとシュリちゃんはこの光景にも、そして私の漏らした言葉にも何も反応しない。
しかし、その顔はどこか苦々し気に。怒りを宿した目でジッと見ていた。
そして……ずかずかと路地裏の少女たちの方向へと歩き出した。
「ホオズキ? 何を――」
「……大丈夫。心配いらないよ……ヴィーレ」
声を上げた私。
しかしそれは隣に立つシュリちゃんに妨げられた。
その僅かな時間の間にもホオズキはどんどんと進み……そして少女たちの目の前まで辿り着く。
「腹空いてんのか?」
二人の少女はホオズキの声に薄っすらと目を開けた。
そしてホオズキと視線が交差し。『ギュルゥ~~』と、返事代わりの音が渇いた空気に小さく唸りを上げた。
「……食え」
そんな二人の様子を見て、ホオズキは【アイテムボックス】からこの旅の為に買い込んだ食料を地面に置く。
飲み水と食べ物。
合わせれば二人で食べても三日分はあるだろう。
……つまり、旅における六日分の食料だ。
「――ありがとう」
聞こえるか、聞こえないかと言った程度のか細い声。
その言葉にホオズキは何も言わず、ぶっきらぼうに。子供が見たら泣いてしまうのではないかと思うほどのしかめっ面でこちらに戻って来る。
その顔を見て、「フフッ」っと私も小さな笑みを漏らした。
(相変わらずだ)
巨男で、恩義背がましくて、強くなることに夢中な男。
一部自己中で不躾なところもあるがけど……何かを守るためなら自分自身さえ投げ出してでも絶対にやり通す。
それがホオズキと言う<マスター>だ。
先ほども、きっと『ただ、見て見ぬふりは出来なかったから』ぐらいの気持ちで動いたのだろう。
そんなホオズキは笑みを浮かべる私を見て、より一層深い皺を顔に作った。
「……何だ? あれは俺の個人的な食料だぜ、文句はねぇだろ」
「うぅん、別にー。ただ優しいなぁって思って。ほら、いつもはそんな事しないからさっ」
「……似合わない」
「あぁ? どういう意味だ?」
眉を寄せるホオズキ。
「何の意味もないよ。
ただ、こういうのって『一部の人だけを助けたりするのはどうなんだろうか?』とか『少しだけ食料を渡しても、逆にその後が苦しくなっちゃうんじゃないか?』って迷うから。
だから実直に思ったことを行動に移せるのは凄いなーって。――ね~、シュリちゃん?」
「……そうそう、優しい、ね~?」
「ッチ、うるせぇーよ。それよりさっさと行こうぜ、俺ももう腹が減った」
舌打ち一つ。
私とシュリちゃんの会話に拗ねた様子でそっぼを向くホオズキ。
そんな様子を見て、私とシュリちゃんは再び顔を見合わ笑い声を漏らす。
「アハハ、起こらないでよ。適当に歩いたら食事が取れる店につく前に迷子になっちゃうよ?」
「……私、お酒が飲めるところがいい」
「……朝からお酒は体に悪いよ?」
なんだかんだでシュリちゃんがお酒以外を食べるところを片手で数えられるほどしか見たことがない。
Type:メイデンの特性らしいけど――やはり、心配にはなってしまう私は小さな小言と共に、数メテル先に行ってしまったホオズキを2人で早足で追いかけるのだった。
◇
「――ところでよ。どうすんだ? あっちの件は」
私達の少し前を歩くホオズキ。
気を抜けば流されてしまいそうな人混みの中を大きな体のホオズキを盾のようにし、シュリちゃん、そして私の順で一列になって歩く。
私とシュリちゃんで目的の場所――食事が取れそうで、かつお酒が置いてありそうな店を探す。
効率的な作戦だ。
そんな中、突然話しかけてきたホオズキに首を捻る。
「あっちの件って……何かあったっけ?」
「忘れてんじゃねぇよ。この<グランドル>で起こっている事件、シュリが少なくとも400人は死んでるっつってただろ。そっちの件はどうすんだって聞いてんだ」
「……今も、血生臭いよ」
――ビクリッ!
と、私達の傍を歩いていたティアンが何かに反応したような様子を見せる。
「……忘れてた。<エンブリオ>のシュリちゃんが勘違いするとも思えないし――やっぱり<UBM>の仕業かな?」
「まぁ、普通に考えればそうだろうな」
<グランドル>で巻き起きている
私達はその原因を半ば、<UBM>――『伝説級<UBM>』【吸血清 オールドリーチ】によるものだろうと当たりをつけていた。
何故――と聞かれるまでもない。
これまでにこの事件に似た事件に出くわしているからだ。
「似てるもんね、【殺戮熾天 アズラーイール】の時と」
あの事件では村二つ分。
今回の被害者とおおよそ同じであろう、400人が斬り殺され。そして眷属である【ゾンビ】として召喚されていた。
今回と似ているのは気のせいではないだろう。
『セーブポイント』もモンスターが寄り付かない安全な場所とは言え、例外は存在する。
「どうすんだ、探し出して俺達で討伐するか? 俺としてはどっちでもいいぜ? 先に急いでも、ここで<UBM>を探しても、どっちでも戦えそうだ」
「……」
変に含みのある言い方だ。
まるで私を試しているみたいに聞こえてしまう。
「――分かっていて聞かないでよ。急ぐ旅でもないし、それに…………シアンさん達が住んでるのに見て見ぬふりは出来ないしね?」
「フハッ、ガッハッハッハッハ! まぁそうだよな!」
「……煩い」
大通りにも関わらず大声で笑うホオズキにシュリちゃんが煩そうにしかめっ面を浮かべる。
――本当に煩い。
だけど、私も小さく笑い声をあげた。
別に偽善的な感情になったわけでもなく、殺人事件なんて許せるわけもない。
正直、ホオズキが言い出さなければ私が言い出していた。
<グランドル>の街の様子を見て、複雑だった気持ち。
それが何だか少しだけ軽くなったような気がした。
そして……
――ドンッ!!
ゆっくりと歩いていると後ろから走ってきた子供と身体がぶつかった。
お互いに少しだけよろけ、そして堪える。
ぶつからないように気を付けていたけど、気持ちが少し軽くなって気が緩んでしまったのかもしれない。
「あ、ごめんなさい」
私は【幻獣騎兵】などをカンストさせ、既に200レベルを超えている。
――AGIとHP、STRが満遍なく伸びる【騎兵】系統。
――STRだけが伸びる【女戦士】。
――DEXとAGIが伸びる【弓狩人】。
基本AGIとHP、STRばかりが伸びているがENDも一般人の十倍程度には上がっているはずだ。
私は無傷でもぶつかった相手は怪我してしまったかもしれない。
私はぶつかった相手――私よりも頭一つ半程小さい子供へと向き直り声を掛けた。
(――フェイ)
念のため、《蒼炎の再生》が使えるフェイを『紋章』から呼び出しておく。
「――ッ!!」
「――え?」
少し驚いた様子を見せる子供。
しかしそれも一瞬のことだった。すぐさま何も無かったかのように人込みを掻き分け走り去っていく。
そして……
『KWEEEEEEEEーー!!』
「……フェイ!?」
紋章から姿を見せていたフェイが大きく嘶き、少年を追うように飛び立った。
突然の出来事。
何が起こったのか分からず混乱し、呆然とその様子を――――いや。
(――なんだかこんな事、前もあった気が……)
思い出そうと思考を巡らすが、その答えは導き出される。
答えを導き出したのは私の前を歩いていた少女――シュリちゃんだった。
「……ヴィーレ、何も盗まれてないよね?」
その言葉に『ハッ』となり、腰裏に素早く手を動かす。
手に触れたのは幾つかの感触。
――触れなくても分かる大きな矢筒、【純重隠樹の矢筒】。
――『戦車競走』での優勝賞品でもある希少アイテム、【身代わり竜麟】。
――日用品などを入れているポーチ、【アイテムボックス】。
――そして【怒涛之迅雷】などを収納している希少品の――
「……ない」
「ぁ?」
「希少なアイテムを入れてるはずの【アイテムボックス】が無くなってる」
「ッチ!! だから【ガチャ】よりも【アイテムボックス】に金を使えっつうーんだよ!!」
まさに一瞬。
ホオズキの言葉と共にシュリちゃんが光の粒子となってホオズキの身体に吸い込まれ、その巨体から真紅の血煙が舞起こる。
そして――その場を大きく跳躍した。
「俺が追う!! お前はフェイに追跡させながら跡を追ってこい!!」
血の消費量に比例し、その身体能力を上げるホオズキ。
ホオズキはそう叫びながら<グランドル>に乱雑と建ち並んだ石の屋根の上を疾走する。
跳躍では飛び越えられない距離を血の糸を使い器用に移動する。
――まさに立体機動だ!
その間数秒。
すぐにその後ろ姿は見えなくなっていた。
「――ッ! 私も追わなきゃ!!」
この歩くのも一苦労な人込みの中。
3メテル強もの巨躯をほこるアレウスを《喚起》するわけにもいかない。
ましてや、街一つ潰しかねないアロンや芋虫のベグなどは論外である。
「う、運動神経はあまり良く無いんだけど!」
私はこれまた久しぶりになる長距離走を開始したのだった。
――――走ること五分。
私は久々に走り、疲れ気味の足を止めた。
同時に目の前にポッカリと黒い口を開いたソレに困惑を浮かべる。
目の前に開かれていたのは予想外のモノ。
「――本当に此処で合ってるの? フェイ」
『KWEEEEEE~~』
『間違いない!!』とでも言うように炎の翼を広げ、その入り口にしっかりと鉤爪を立て止まっているフェイ。
その様子に逆に少しだけ不安になる。
「真っ先にフェイが追ってくれし間違いはないと思うけど……」
再び視線を
フェイに導かれるように必死に走り、辿り着いた場所。
そこはまるで立体的な迷路のように入り組んだ貧民街を抜けた先のそのまた先。砂漠との外壁付近の地面にポッカリと空いた――まるでマンホールのような地下道だった。
……比喩などではない。
見た目は殆どマンホールである。
黒い穴には心ばかりの梯子が下へと伸び、フェイの足から伸びた赤い血の糸が穴の先へと伸びている。
「……ホオズキは先に行ったんだよね?」
『KWE、KWEE』
……どうやら間違いはないようだ。
生理的に嫌悪感を感じてしまう地下道だけど――行くしかないらしい。
(――弓も使えないよね?)
【万死慈聖 アズラーイール】を片手にゆっくりと梯子へと足を掛ける。
「行こう、フェイ」
《暗視》に加え、フェイの炎。
明るさは問題にはならないだろう。
【弓狩人】の《ハンティング・フィールド》と《危険察知》に感覚を集中させながら、そして早足で血の糸を辿って突き進む。
――寒い。
日常的に霜が降り、時には雪が降る<グランドル>。
その地下は冷え切り、まるで冷凍庫のようになっていた。
(――それに凄い分かれ道)
迷路だ。
一本道が二又に。
その先が更に三又に。
木の根から枝先に行くように細かく枝分かれしていく地下道。
ホオズキが残していった道標が無ければ確実に迷って出ることすら叶わなかっただろう。
「――ん」
前方から吹いた冷風に赤髪が一房揺れた。
同時に警鐘を鳴らす《危険察知》。
《ハンティング・フィールド》が複数のモンスターの反応を感知する。
【万死慈聖 アズラーイール】を構え、ゆっくりと前進する。
そして、一本の地下道の先。
少し開けた地下広場に出た瞬間だった。
『~~~~~~~~~ッ!!』
声にならない悲鳴。
高周波のような音が耳を劈き、浮かび上がった幾つもの瓦礫の破片が勢いよく目の前に迫ってきた。
(……私の剣の技量では防ぎ切れない!)
同時に私の背後からフェイが飛び出し、《紅炎の炎舞》を発動しようと翼を広げる。
そして――
「――おせぇえッ!!」
赤い鎧を身に纏った巨体が瓦礫と私の間に立ちふさがり、その瓦礫を斬り飛ばす。
「これでも全速力で来たよ!?」
「それでもおせぇよ!! いや、それよりも早くこいつらをどうにかしてくれ! 俺の攻撃じゃ通らねぇ!!」
ホオズキと私に襲い掛かってきたモンスター。
それは複数体であり、半透明の身体を持つモンスター。
《物理攻撃無効》のスキルを持ち、暗闇の中で生きるモノ。生者を憎み、貪り食うモノ。
――【カースド・ファントム】
怨念で物体を操るアンデット系モンスターだ。
何故こんな地下道にこんなにたくさんいるかは分からないけど、今の状態のホオズキが手間取るのも分かるモンスターだった。
……だけど、私には関係ない。
「――《怨念燃炎》」
宣言されたスキル。
同時に【カースド・ファントム】の身体から青白い炎が空中発火し、スピリット系特有の身体が燃えて消えていく。
そして発生した炎で【酸欠】になる心配もない。
【カースド・ファントム】が燃え尽きた端から、フェイが《火炎増畜》で吸収していっているからだ。
――数秒後。
一切戦闘らしい戦闘を行われることなく、その場にはドロップアイテムだけが転がってる光景が広がっていた。
(……念の為に此処に溜まった怨念も全部炎に変えて吸収しておこっ)
《怨念燃炎》と《火炎増畜》を高速で行い、全ての怨念を晴らしていく。
そんな私を傍目に、ホオズキは何処か納得がいかないような顔で私の元へと近づいてくる。
「……俺も魔法的な攻撃手段を確保しとくべきかもな」
「うん、私はもう少し物理的な攻撃力が欲しい――じゃなくて、どうだった?」
主語はない質問。
だけどここまでの流れ的に察してくれたのだろう。
ホオズキは目を閉じて首を横に振る。
「無理だ。速さは俺の方が上回っていたけど地の利で逃げられちまった。
この地下道まではお前んところのフェイが追ってくれたみたいだが、中ですぐに見失っちまった」
入り組んだ地下道。
おそらく此処で生まれ育ってようやく全体を把握できるかどうかの迷路だ。
私達では到底追跡することは出来なかった。
「血の方は追えない?」
「無理だな。
って言うよりもシュリが追えるのは一度血の気配を覚えた奴だけだ。【出血】してない奴は追えない。
それに……」
ホオズキは何かを言おうとして口を開き、そして少し躊躇いながら言う。
「多分ここだ」
「――?」
首を傾げる私。
ホオズキはゆっくりと繰り返した。
「400人死んだって言ってたが……あれだ。感覚的な直観だが、全員この地下内で殺されてるぜ。少なくともこの地下道がつながってる何処かだ」
その言葉に小さく息を飲む。
良くか悪くか――殺人鬼への手掛かりをつかんでしまったようだ。
「お前の方はどうなんだ? 【弓狩人】のスキルで追えないのか?」
「……ううん、無理みたい。【弓狩人】はあくまでモンスターの狩り専用スキルばかりだし」
それにまともにスキルレベルが上がっていない。
ジョブクエストも受けていない以上、今私が保有しているスキルはほんの僅かな一部に違いない。
【吸血清 オールドリーチ】は追えるかもしれない。
だけど私の【アイテムボックス】を《スティール》して持ち去った犯人を追跡は出来ないだろう。
「ッチ、お前の騎獣に索敵に特化した奴は居ないのかよ?」
「……私は【従魔師】じゃないからね? 索敵に特化した従魔が居ても便利だと思うけど……とにかく居ないかな」
完全な詰み。
追跡は不可能であり、絶望的だ。
私はその事実に小さなため息を吐く。
「殺人事件を解決するって言ったが……前途多難だな」
「……本当にホオズキは気遣いが皆無だよね」
冷たい空気が頬を撫でる。
さっきまでの少し上がった気分から反転、一気にテンションは最悪だ。
「――ハァ」
漏らしたため息は地下道へと響き、乾燥した空気に溶けて消えていったのだった。
<ステータス>
【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ
HP:5490 (6173)
MP:1267 (2283)
SP:1145 (2200)
STR:1106(+150% +α)
AGI:1735
END:200
DEX:360
LCK:138
※()は装備性能含めて。
※+αは《魔獣咆哮》の強化分。
……普通に弱いですww