自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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独白多め


第4話 【義賊王】

 ◆ 【義賊王(キング・オブ・シィーヴズ)】■■■■■■■

 

 

 

 

 

 ――男は絶望の淵に居た。

 

 

 

 

  

 “氷冷都市”<グランドル>と外を隔てる分厚い石壁。

 それは、セーブポイントがあるこの街では風除けと街の範囲を指し示す境界線だ。

 同時に<厳冬山脈>での生存闘争に負け、砂漠へと追いやられた強大なモンスターや、砂中を潜行するモンスターから街を護る最終防壁でもある。

 今となっては男と……そして一部のティアンしか知らない事だろう。

 

 ――この石壁がかつて起こった【地竜王】事件を踏まえ、見た目より遥かに強固に。

  【彗星神鳥 ツングースカ】率いる怪鳥型モンスター対策に、遥かに高く造られている事を。

 

 ――砂漠を潜行するモンスター対策に、石壁が地中深くまで続いている事を。

 

 昔の事を懐かしみながら見下ろすかつての故郷(冷砂の街)

 今ではもう何年も使われず、錆びついて動くことの無い何台もの【弩級バリスタ】が設置された壁上に男は腰を下ろし、チラチラと舞い落ちる雪を蹴るようにブラブラと足を揺らした。

 そして溜息を零す。

 白く曇った息は一瞬で風に吹かれて消えていく。

 

 

 「変わらないな……この街も。頭の腐った奴らが私腹を肥やして、その裏で小さな子供が凍え死ぬ。これだけは今も昔も変わらない。

  ……むしろ、いっそ腐り落ちてくれれば清々しいんだがな」

 

 

 氷冷都市を皮肉っているような発言。

 男は悲しそうな声色で。

 しかしどこか嬉しそうに口端を吊り上げながら呟いた。

 

 

 「不死身の化け物共は増え始めた、きっとここが歴史が変わる時代の分かれ目だ。なのにこの街はその流れに乗ろうともしない、何もしないから一人取り残されていく事になる」

 

 

 <マスター>(不死身の化け物)が増え、既にたくさんの変化で起き始めている。 

 

 ――国家単位での討伐も難しい『古代伝説級<UBM>』を僅か数人で倒す者たちが現れた。

 ――ジョブの頂点――限られた超級職(玉座)に<マスター>が座り始めた。

 ――<マスター>の為に国家が動き始めた。

 

 <カルディナ>にも既に数千にも及ぶ<マスター>が居るだろう。

 だが……それに対して、<グランドル>で活動する<マスター>の数は僅か数十人程度である。

 理由は簡単、『旨味』が無いからである。

 もともと<グランドル>はたくさんのアイテムを保存する『貯蔵庫』として発展した街だ。

 <カルディナ>の中央より北の部分に位置し、他の都市から来たアイテムを一時的に補完、そしてまた出荷する。その他にも氷を売るなどの事もしていたが既に昔の事だ。

 他にいい点を上げるとするならば……避暑地として最適だということぐらいだろう。

 

 

 逆に言えば、それ以外に利点が殆どない。

 

 

 北の<厳冬山脈>は<マスター>でさえ手も足もでない魔境。

 砂漠のモンスターも総じてレベルが高く、純竜級や亜竜級がうようよ生息している砂漠の海だ。

 レベル上げにしてももっと効率がよい狩場もあるだろう。

 先々期文明の遺跡も少ない。

 そのほとんどが探索しつくされ、今では『冷凍庫』になっている。

 

 <カルディナ>の都市の中で、最も<マスター>に人気の無い都市――それが“氷冷都市”<グランドル>だった。

 

 

 「こんな故郷……大っ嫌いだ」

 

 

 男は吐き捨てる。

 その鋭い双眸は憎悪の感情に彩られていた。

 まるで……この街に何かを奪われた(・・・・・・・)かのように(・・・・・)

 そして数秒。

 先ほどとは一転、頬を緩めた。

 

 

 「でも……君の愛した都市だからな」

 

 

 男の持ち上げた左手が陽光を浴び、薬指に嵌められた銀色の指輪が光を反射する。

 

 

 「――よしっ」

 

 

 小さく気合の込められた声。

 同時に男は城壁を勢いよく両腕で押し、まるで男の周りだけ重力が無いような動きでバク転し、城壁の上に着地した。

 フード付きの白いジャケットを着て、フードを深く目元まで被る。

 腰につけた【アイテムボックス】から真っ白な仮面を取り出し装備する。

 そして次の瞬間――白金の鎖付き(・・・・・・)の短剣(・・・)が男の右腕に巻き付いていた。

 

 

 「……サテ、久シブリノソウジ(盗み)ノ時間ダ」

 

 

 Lv.10の《変声》によって絞り出された機械じみた声。

 《気配遮断》などのスキルが男の存在感を掻き消していく。

 男は足場を蹴り、《空中跳躍》で空気を蹴り、街へと一直線に進んでいく。

 

 

 【義賊王】の存在に気が付いた者は誰一人としておらず、その姿は街の人込みへと消え去っていったのだった。

 

 

 

 

 

 □“氷冷都市”<グランドル> 【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 地下道での盗人の追跡を諦めたその後。

 私達は改めてこれからの事を具体的に決定することも兼ね、大通りのわきに立つ小さな酒場で朝食を摂っていた。

 忙しい朝だからだろう。

 数席しかない店内だが、人気が無いからかやけに広く感じられる。

 

 

 「……お酒」

 

 

 シュリちゃんは嬉しそうな様子で大量に頼んだお酒をチビチビと飲む。

 傍目から見れば仕事終わりのおやじの様だ。

 私はそんなシュリちゃんを目を細めるようにして見る。

 

 

 「盗まれて良かったって言うのもあれだけど……盗まれたのが『貴重品用』【アイテムボックス】で良かったよ。もしもう片方を盗まれたら生活もままならないし」

 

 

 ボヤキながらサンドイッチを片手に齧る。

 盗まれてしまった私だが、特に問題も無く朝食を注文することが出来ていた。

 幸いなことにリルや食料、【HP回復ポーション】などの日常的に使うアイテムは別の【アイテムボックス】に入れていたのだ。

 久しぶりに走って乾いた喉に冷たい冷水がすり抜ける。

 緊急事態だけど『ホッ』っと、思わず一息つく。

 すると向い席からジトッとした視線が飛んできた。

 

 

 「マジで……良かったじゃねぇぜ。どうすんだ? お前、このままじゃ戦闘も出来ねぇじゃねぇか」

 

 「う~ん、そうだね。頑張れば亜竜級モンスター程度だったら戦えるけど<UBM>に出くわしたら逃げ出すしかないかな。砂漠ではアレウスも足を取られて上手く戦えないだろうし」

 

 

 ――そうだ。日常生活には支障はない。

 しかし盗まれた【アイテムボックス】には【怒涛之迅雷】を含め、戦闘用の武具などをまとめて入れていた。

 そしてその中には使用していた強弓――【純穿蛇竜の強弓・ネイティブ】も含まれる。

 

 つまり私、ヴィーレ・ラルテは現状戦闘不可能(・・・・・)な状態だった。

 

 

 「初期装備の弓はあるんだけどねー」

 

 「まぁ、その弓じゃ亜竜級すら倒せねぇだろうな」

 

 

 弓は自身のSTRが関係しない。

 弓自身の攻撃力と放つ矢の攻撃力によってダメージが決まるのが、弓としての弱点である。

 詰まるところ、この初期装備の弓を力一杯引き絞り亜竜級モンスター狙い撃ってもまともなダメージが通らない可能性がある。

 加えて、地属性のモンスターが大半を占める<カルディナ>では戦えないと言っても過言ではない。

 

 (【アドーニア】で動きを止めてフェイに焼いてもらえば良いんだろうけど)

 

 戦おうと思えば手段はいくらでもある。

 だけど私の戦闘スタイル自体に大きな弱点があるのだ。

 

 

 「私は完全な騎乗戦闘型だから、まともに戦うとすぐにガス欠するし……」

 

 

 ――私の弱点。

 それは防御面での脆さ。

 そして戦闘持続力の低さである。

 

 元々【騎兵】系統はMPとSPの伸びがイマイチな上、ステータス補正もかなり低い。

 フェイの炎や《栄華の庭園》、その他スキルに使ってしまえば全力戦闘で30分持てば御の字と言ったところだ。

 まだ戦闘すると決まった訳では無いけど、街に潜んでいる【吸血清 オールドリーチ】等のことも考えると出来るだけ節約をしておきたい。

 

 

 「チッ、取り合えずば【アイテムボックス】を取り返すことからだな」

 

 「うん、顔は覚えてるからフェイに探してもらいつつ聞き取り調査かな」

 

 

 盗まれたアイテムがどこか遠くに売り払われてしまう前に回収しなければならない。

 時間は一刻を争うだろう。

 『早速、行動に移そう』、そう席を立った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 「もしかして君達、あの悪ガキ集団に何か大切な物でも盗まれたのかい?」

 

 

 オープンに開かれた厨房。

 その奥から少し高めの楽しげな声を掛けられた。

 

 

 「もしそうなら、僕なら少しは手助け出来ると思うよ?」

 

 

 一部、カウンターのような形になった場所。

 本来なら作った料理を厨房から受け渡す場所なのだろう。

 しかし、がらんどうな店内故に何も置かれてないカウンターに1人の男性が両肘を着きながらこちらを見ていた。

 

 

 「あんた誰だ? いや、それよりも手助け出来るってーのは本当か? 何で見ず知らずのあんたがそんな事してくれる??」

 

 「まぁまぁ、そんなまくし立てないでくれよ」

 

 

 早継ぎに疑問を口にするホオズキに男性は笑う。

 

 

 「僕はこの店で……アルバイト、かな? をさせて貰っている【料理人】さ。

  この時間は暇でね、聞き耳を立てていたら君達の会話が聞こえてきたんだよ。あ、それと手助け出来るのは本当さ」

 

 男性は何かを弄るように人差し指をクルクル回す。

 そして……何かを思い付いたかのように動きを止めた。

 

 

 「手助けしてあげる理由は同郷だから、かな?」

 

 

 言うが早いか手袋を捲り、“大きな包丁”の紋章を見せた。

 どうやら同じ<マスター>であるらしい。

 だけど、流石にそれを簡単に信じることは出来ない。

 これまで同じような手段で私達に偽の情報を渡し、特定の場所で待ち伏せて一斉に襲う。などと言うPKに出会ったことがあるからだ。

 ……ついでに、その時はホオズキがギリギリで気付き、私がアレウスに《騎乗》し、轢き殺した。

 

 (嘘をついてるようには見えないけど)

 

 横目でチラリとホオズキを見上げると互いに目が合った。

 そして小さく頷く。

 

 

 「あの、手助けは嬉しいですが何で<マスター>だからなんですか? <マスター>だからと助けるって言うのを疑うわけじゃ無いですけど……」

 

 

 念の為、追及する。

 すると男性は何かを不思議がるように頬を腕につけるように横倒しにし……そして頷いた。

 

 

 「――あぁ、君たちはまだ<グランドル>に来たばかりなのか」

 

 「え?」

 

 「……それはどういう意味だ」

 

 「どういう意味だと言うか……君たちも見ただろう? この街の状態を。人道的に受け入れられない<マスター>や街の周囲のモンスターが強すぎて拠点を移し替える<マスター>、寒さ対策が出来無くて立ち去る<マスター>。 

  <グランドル>に滞在している<マスター>は本当に少ないんだ。

  僕もこの街に三か月はいるけど、今じゃそのほとんどが顔なじみさ」

 

 

 男性はそう言いながら肩を竦めた。

 

 

 「それなら何であんたはこんなところに居るんだ? あんたも大して旨味は無いはずだろ」

 

 「僕はそうだね……この街は新鮮な獲物が手(・・・・・・・)に入りやすい(・・・・・・)からさ。それにほら、この街のティアンほど料理に喜んでくれる人も居ないんだ。

  あ、言っておくけど僕は珍しい方だよ?

  この街に滞在している<マスター>は【義賊王】狙い(・・・・・・・)の賞金稼ぎ(・・・・・)が殆どだからね。ほらっ、彼らもその内の一人さ」

 

 

 そう言いながら男性は見せ奥に座った一組の<マスター>を指さした。

 窓近くの日が良く当たる席。

 そこには唯一の私達以外の店の客である<マスター>達が座っていた。

 

 

 ――嬉しそうに紅茶に口をつける同い年ほどの女性。

  プラチナベージュのロングヘアを後ろへと流し、紫水晶の瞳に眼鏡をかけている。そして……何故かメイド服を着ている<マスター>。

 

 ――女性とは正反対に全身を灰色のローブで隠した……おそらく男性。

  ローブからチラリと見えた左腕は蒼色の羽毛に覆(・・・・・・・)われ(・・)、手の部分は鳥のような四本(・・・・・・・)の鉤爪(・・・)になっている<マスター>。

 

 

 だけどおかしな組み合わせだ。

 メイド服の女性が飲んでいる紅茶は真っ黒――ドン引きするほど濃い紅茶を美味しそうに飲む。

 そして正面の男性に話しかけるのだが、男性の方は一言も話さず、まるでメイド服の女性が一方的に話しかけるような状態になっている。

 

 (なんか、どこかで見たことのあるような気もするけど……)

 

 いくら思い出そうとしても記憶にない。

 もしかして気のせいなのだろうか?

 そんな事を思い、首を傾げていた時だった。

 隣に立つホオズキが口を開く。

 

 

 「……すまねぇな。ちょっとこっちもあんたの知っての通りアイテムを盗まれてピリピリしてたんだ」

 

 「いや、別に構わないさ。それに……実は君たちに手助けするのは個人的な事もあってね。

  実は僕も此処に来た当時、君たちから盗んだ悪ガキどもにアイテムを盗まれてるんだ。まっ、一種の意趣返しだね。別に感謝も礼も必要ないさ」

 

 

 ホオズキもその言葉を信用したのだろう。

 訝し気に顰めていた眉を緩め、『ガッハッハッハ』と笑った。

 

 

 「僕はジョニー、【料理人】として働いている――アルバイトさ」

 

 「俺はホオズキだ。んで、そこでチビチビ酒を飲んでるのがシュリ。ついでにこの街には立ち寄っただけだぜ」

 

 「……ン、シュリ」

 

 「あ、私はヴィーレ――ヴィーレ・ラルテです。と言うか盗まれたのは私なんですけど……その、よろしくお願いします」

 

 

 随分と遅くなった自己紹介。

 互いに<エンブリオ>の紹介はしない、<マスター>同士の暗黙の了解である。

 

 

 「えっと……握手は~~」

 

 

 ジョニーさんは料理用の手袋をつけた自身の手を見て言葉を途切れさせ。そしてニヘラと笑った。

 料理を作ってそのままだからだろう。

 パンくずなどが付いた手袋をはめた手をプラプラと揺らした。

 

 

 「別に構わないよね」

 

 「アハハ……そうですね」

 

 

 互いに微妙な雰囲気になって笑いあう。

 乾いた笑い声がただでさえ、がらんどうな店内に良く響いた。

 そしてジョニーさんは『パンッ』と、両手を叩き聞こえの良い音を鳴らした。

 

 

 「僕が知ってるのは盗んだ悪ガキ集団の名前の大まかな位置だけなんだ。

  あとは、盗まれたアイテムはすぐに売り払われてしまう訳じゃないって言う事かな。

  

  それで彼らの居場所は――――」

 

 

 盗人についての商材を話し始めたジョニーさんの話に私は耳を傾ける。

 いつも騒がしいホオズキもだ。

 チビチビとお酒を飲むシュリちゃんを傍目に、続きの言葉を待ち……

 

 

 

 

 

 ――『ガシャーーンッ!!』

 

 

 突然、背後の入口から扉を壊しながら転がり入ってきたその男に気がつけなかった。

 

 

 「イテテテ……久シブリスギテ、ヘマシチマッタ」

 

 

 扉を壊したであろう張本人は機械音のような声でぼやきながら、服に付いた埃を払う。

 そして、

 

 

 「ット」

 

 

 大通りから放たれただろう矢を。

 少なくとも避けられるとは思えないほどのスピードで宙をはしっていた矢を、何でもないかのように無造作に掴み取った。

 そして高めの笑い声を響かせた。

 

 

 「無理ダナ、コンナ攻撃ジャ俺ハ倒セナイ。諦メテ、サッサト退散シロ。

  ソレデモ攻撃スルヨウナラ――」

 

 

 両手を大きく広げ、腕に絡みついた『短剣付きの鎖』を宙に垂らす。

 

 

 「遠慮ナク盗マセテモラウゾ、オマエタチノ『心臓』ヲ。不死身ノ化ケ物……<マスター>カ何カハ知ラナイガ、『心臓』無クシテハ動ケナイダロウ?

  ソレデモ諦メナイノナラ、腕ヲ、脚ヲ。順番ニモイデヤル」

 

 

 左手に“紋章”は無い。確実にティアンだ。

 そして言葉から察するに、相手取っているのは恐らく<マスター>なのだろう。

 ティアンと<マスター>、その違いが決して小さく無いことは目の前のカタコトの男も知っているだろう。

 

 ……しかし、その言葉には絶対に出来るという自信と、師匠にも似た、どこか毅然とした強者としての風格が感じられた。

 そして、男は名乗る。

 

 

 「ソレデモ来ルト言ウナラ、死ヲ覚悟シロッ。

 

  ――コノ【義賊王】ガ相手ヲシテヤルゾ!」

 

 

 【義賊王】と。

 そう男は名乗ったのだった。

 

 

 

 

 




……ハッ!!
【冥騎兵】とか、なんか格好良さそう!

って思ったけど、ヴィーレの騎獣にアンデットもいないしもう一つの上級職は先約があるので止めた。
だけど、それでも出してみたいから<UBM>にして出してやろうかとか妄想したりしてみる。
……そこまで続けられる気がしないけどw
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