自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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長い!


第5話 アウトロー

 □■□ 『とある文献・【盗賊】系統超級職について』

 

 

 

 

 

 【義賊王(ギング・オブ・シィーヴズ)】:盗賊系統大義賊派生超級職。

 

 

 

 《転職条件》

 ・【大義賊】がレベル100である。

 ・盗賊行為に500回以上成功する。

 ・【盗賊】系統ジョブ以外に就いている200名以上の者に10万リルを分け与え、分け与えた者たちから貰った合計100以上のアイテムを手にした状態で、盗賊系統のクリスタルに触れる。

 

 

 《転職クエスト》

 ・詳細不明。

 

 

 《就職クリスタル》

 ・各国にある盗賊系統のクリスタル。

 

 

 【義賊王】は盗賊系統ジョブでも一際転職が難しく、かつ珍しいジョブである。

 歴史を顧みても【義賊王】に就くものが現れたという文献は極めて少なく、その転職の難しさと希少さが目立つ超級職だ。

 それ故だろう、転職クエストは未だ明らかになっていない。

 だが、何かを奪う――これに関する《転職クエスト》であることは間違いない。

 そして……【義賊王】にはもう一つ、面白い特徴を見ることが出来る。

 

 ――『【義賊王】現れ(・・・・・・・)るところ(・・・・)貧困あり(・・・・)

 

 文献を見ると【義賊王】が現れる街には、必ずと言っていい程に貧民街が存在しているのだ。

 その理由についてはある程度、推測が立てられるが……それは後ほど説明するとしよう。

 

 【義賊王】は盗賊系統ジョブに洩れず、AGIが伸びやすいジョブである。

 しかし、実際は【盗賊】よりも【強奪王】に近い。

 《気配操作》などの隠蔽スキルがあまり伸びることが無く、近接戦闘に長けたステータスになるのだ。

 

 

 

 

 

 そんな【義賊王】の固有スキルは三つ(・・)――アクティブスキルである《ライト・オーバースナッチ》と《レフト・フルアーンズ》。

 そして、パッシブスキルの《義賊の流儀》である。

 

 

 

 ・《ライト・オーバースナッチ》:アクティブスキル。

  【義賊王】の固有スキル。

  右手で(・・・)半径30メテル以内の視界に入った譲渡不可アイテム以外のアイテムを、一瞬で自身の手中へと奪い取る。

 

 ・《レフト・フルアーンズ》:アクティブスキル。

  【義賊王】の固有スキル。

  左手で(・・・)《ライト・オーバースナッチ》で盗ったアイテムをリルに変換し、分け与える。

 

 ・《義賊の流儀》:パッシブスキル。

  【義賊王】の固有スキル。

  全ステータスを『半径一キロメテル以内に居る《レフト・フルアーンズ》で10万リル以上分け与えた人数』×10する。

 

 

 

 ある意味『義賊』らしい。

 どれもそう言えるようなスキルばかりである。

 高いステータスに中距離でアイテムを簒奪する事が出来る《レフト・フルアーンズ》。

 

 ――【義賊王】が現れた街、その拠点では【義賊王】は無類の強さを誇るだろう。

 

 《転職条件》の厳しさに比例する、強いスキルを持つジョブだと言える。

 しかし、やはり目立つのはこの固有スキルだろう。

 ――《レフト・フルアーンズ》。

 盗賊系統ジョブであるはずなのに、リルを分け与えるスキル。

 ここで先ほどの話が持ち上がる。

 此処からは歴史的な記録ではない。あくまでもそれから導き出される推測だ。

 そう、行き着いた答えは一つである。

 

 

 ――【義賊王】、それは【盗賊】にならなければ生きられなかった者達が行き着く超級職だ。

 

 

 そして、ここで記す事が出来るのは一言。

 【義賊王】は自身の故郷――拠点においてステータス的に、そして人々の協力的に通常の超級職より秀でている。

 ・【神】シリーズ特有の『スキル特化型超級職』。

 ・【将軍】系統の『軍団指揮型超級職』。

 この文献にも書かれていないものを含めれば1000を優に超えるだろう数多の超級職。

 その上で、【義賊王】を細かく分類分けするとするならば――個人的に、こう記させてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 ――自陣条件特化型(・・・・・・・)超級職、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 【義賊王】を名乗る男――目の前で起きたその戦闘は圧倒的なものだった。

 多勢に無勢。

 <マスター>とティアン。

 両方、共にその間には大きな『差』と言う深い――深い溝があるはずなのだ。

 戦闘職のティアンと戦闘職の<マスター>が戦えば、いい勝負をしても最後にその場に立っているのは<マスター>なはずなのだ。

 

 しかし――その差を【義賊王】と言う名の『玉座』は埋めるどころか飛び越えた。

 

 あと数人<マスター>がいてもその結果は変わらない。

 そう断言出来るほどに、その戦闘は圧倒的であり一方的だった。

 

 

 「……凄い」

 

 

 放たれた矢や展開された銃弾の波。

 ――その全ては宙で消え失せ、運動力を無くした状態で右手の中に奪われていた。

 

 死角から飛び出す【疾風槍士】による《ストーム・スティンガー》。

 ――死角放たれはずの一撃は【盗賊】由来の知覚スキルで、経験で避けられ、その顔面に裏拳を叩き込まれて吹っ飛んだ。

 

 【紅蓮術士】が仲間ごと巻き添えにして唱えた《クリムゾン・スフィア》。

 

 

 「え? ぁ、うわぁぁああーー!!」

 

 

 ――『ジャラジャラッ!!』と、音を立て伸縮する白銀の鎖が近場の<マスター>を【拘束】し、盾代わりにぶつけられ火炎に吞まれて光の塵となって消えた。

 

 

 「私のような従魔頼りじゃない、師匠のような自身で戦う超級職ッ」

 「あぁ、恐ろしく強ぇえ」

 「……ホオズキじゃ、やられちゃう、ね」

 

 

 この僅かな会話の間でさえ、数人の<マスター>が吹き飛び、デスペナルティになり消えていく。

 きっと開けた場所ならギリギリ勝ちを拾える。

 だけど……街中では負けてしまうだろう。

 『ゴクリッ』と、無意識に唾を飲み込み。私はその戦闘を凝視する。

 そして戦闘開始から数分後、戦闘は終わりを迎えていた。

 勝者は1人。

 無人となった大通りに立つ。

 

 (――宣言通りだ)

 

 様々な方法で倒された<マスター>。しかし、その半分が宣言通り、心臓を盗み取られ死んでいたのだった。

 武器を奪い。

 防具を剥ぎ取り。

 <マスター>同士のコンビネーションを破壊する。

 

 

 「戦い慣れ過ぎてる」

 

 

 ただ単純に上手すぎるのだ。

 自身の拠点を知り尽くした場所での戦い方に、両の手から振るわれる簒奪スキルと鋭いナイフ。

 ジョニー曰く、賞金稼ぎとして戦い慣れているであろう<マスター>達が、赤子の手をひねるように簡単にやられてしまったのがしその証拠である。

 

 

 『……コレデ全員カ』

 

 

 派手に破壊され、開放的になったレストランの入口でジッとその様子を眺めていた私達。

 【義賊王】はそんな私達には目もくれず、大きく肩を回した。

 そして……

 

 

 『ット――マァマァダナ』

 

 

 腕を一振り。

 何かしらのスキルだろうか? 

 一瞬で地面に広がっていた<マスター>達が残したドロップアイテムが消え失せる。

 『ポンポンッ』とローブ下に装備しているだろう【アイテムボックス】を叩いていることから、それらのアイテムは既に回収されたようだ。

 

 (あんなスキルがあれば私もドロップアイテムの回収が楽なのに)

 

 そんな事を考える。

 そして――

 

 

 『「……」』

 

 

 不意に【義賊王】と視線が交錯した。

 

 ――ひたすら透き通るような鮮やかな青。

 

 見とれるような美しさに硬直する。

 綺麗……だけではない。

 その瞳に秘められた決意と自身、そして――悲しみ(・・・)の青に私は無防備に突っ立ていることしか出来なかった。

 同時に、その瞳から感じ取った既視感にスッと目を細めた。

 一瞬のうちに鮮明な記憶が頭を過り、そして思い出した。

 

 

 「……ぁ」

 

 

 そうだ。

 似ている――何か、昔を。

 いつか無くしてしまったものを懐かしみながら後悔し、そして無気力な少し陰った瞳の輝き。

 私は懐かしさと。そして何故、それを【義賊王】を見て思い出しているのかと言う疑問に困惑した。

 そして、

 

 

 

 

 

 

 「あっ! 【義賊王】が逃げるぞッ、誰か捕まえろ!!」

 

 

 私達の後ろ、ジョニーが発した叫びに我に返った。

 自分で感じた以上に思い出に耽ってしまっていたようだ。

 店先から見渡すことが出来る大通りの先では、【義賊王】が何十層にもなった貧民街の石の屋根を跳躍し、鎖を上手く扱いながら逃げていく後姿が視界に入る。

 そのはるか後ろを衛兵だろうティアンが追いかけている。……が、追いつけないだろう。

 相手はAGI型に伸びた【義賊王】。

 双方の距離は差が開くばかりだ。

 

 

 「――おい、ヴィーレ」

 

 

 横からホオズキが視線を向けてくる。

 『追うのか?』――そう言いたいのだろう。

 

 

 「……」

 

 

 これがただの【盗賊】や【強盗】だったら間違いなく、迷うことも無く追っていただろう。

 だからこそ私は迷っていた。

 相手が【義賊王】と言う超級職だから『追う』、『追わない』という二択で迷っているわけではない。

 迷った理由、それはたった一つ。

 明白だ。

 

 ――私達はこの貧民街の惨状を知り、そしてそれを盗賊という手段で助ける【義賊王】をどうしても敵対視できなかったから。

 

 その手段こそ犯罪だけど、行動原理は正義の味方そのもの――それが【義賊王】。

 敵か味方か。

 悪か善か。

 判断をつけられない迷いが喧噪が響く大通りの中、私とホオズキだけを静寂が包んだ。

 追わなくても誰にも、何も言われないだろう。

 だけど……

 

 

 「――追いかけよう」

 

 

 だからこそ追いかける。

 私自身の中でハッキリと割り切ることが出来るように。そして納得がいくように。

 一言と共に走り出す。

 

 

 「ハッ! 俺は興味はねぇが付やってやるぜ!! ――シュリ」

 「……うん」

 

 

 瞬時に《戦鬼到達》を発動し、先行するホオズキ。

 私も別の方法で追いかける。

 

 

 「来て、フェイ!」

 『Kwee、Kweeee~~!!』

 

 

 運が良いことに、先程の戦闘騒ぎで大通りは人混みが断たれていた。

 無人の場所が出来た空白。

 怪鳥形態となったフェイに《騎乗》するには十分なスペースがそこにはある。

 空いたスペースに向け、走りだす私。

 そして炎で出来た体を膨張させながら超低空飛行するフェイに、《瞬間装備》で戦闘服を装備しながら飛び乗った。

 

 

 「さっきの【義賊王】を追いかけて!」

 

 

 同時に両手に握った手綱を強く引く。

 それと同時に冷たく、そして吹き飛ばされてしまいそうな程の凄まじい風圧が身体を吹きつけた。

 一瞬――一秒にも満たない。

 フェイに《騎乗》した私は既に<グランドル>の遥か上空へと舞い、【義賊王】を探すように宙でホバリングし停止していた。

 《一騎当神》や《幻獣強化》、《魔獣咆哮》の効果が乗ったフェイ。

 その速度は優に超音速を突破し、数十メテルの距離を無くしたのだった。

 

 

 「……まだ、そう遠くには行ってないはずだけど――」

 

 

 フェイから体を乗り出すようにして見下ろす街。

 <グランドル>の半分に屋根が付いたかのようにも見える入り組んだ貧民街の方面を【弓狩人】になって習得した《ホークアイ》を使用し、視線を彷徨わせる。

 こうしてみると本当に迷路だ。

 至る所に抜け道のような穴があり、入り組んだ路地は行き止まりは無く様々な場所に繋がっては分かれている。

 そんな光景を少し感動しながら見下ろし――数秒後。

 

 

 「――見つけた」

 

 

 屋根の上を超音速機動で移動する【義賊王】を発見し、ニヤリと口端を吊り上げた。

 そして、

 

 

 「フェイ」

 『kWEEEEーー!』

 

 

 その向かう先へと向けて、勢いよく急降下するのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 『アァ?』

 

 

 薄っすらと霜の降りた何層にも積み重なっている石の屋根。

 そんな平たい屋根の上へと、体長5メテルはあろうかというフェイに《騎乗》したままの状態でゆっくりと羽ばたきながら着陸した。

 羽ばたく炎の翼が宙を明るく照らし、霜を一瞬で溶かしていく。

 そんな状態で、私は脚を止めた【義賊王】と向かい合っていた。

 

 

 『――【騎神】カ……化ケ物ガ『超級職』ニ就クトハ、コレハ本当ニ手ニ負エンナ』

 「《看破》も持ってるんですね……」

 『マァナ、盗賊稼業ヤッテル奴ニハ汎用スキルハ必須デナ。

  ――ソレデサッキマデ傍観シテイタ【騎神】ト……後ロノ【吸血鬼】ハ俺ニ何ノ用ダ? モシカシテ、周リノ奴ラガ邪魔ダカラ、コンナトコロニ来ルマデ待ッテイタノカ?』

 

 

 向かいあい、睨み合う。

 そして片言な言葉遣いで後ろに視線を移す【義賊王】。

 すると、数秒遅れて屋根の上にホオズキが姿を現した。

 

 

 「まぁな、相方がお前を倒すかうじうじと迷ってるもんでな。こうしてとりあえず追ってきたわけだ」

 『フッ、【騎神】ト言ウノハ存外甘イラシイナ』

 

 

 鼻で笑うような仕草を見せた【義賊王】。

 口端を持ち上げるホオズキ。

 互いに笑ってはいるがそれぞれの目は険吞な光を帯び、今にも動き出しそうなほどギラギラ揺らめいていた。

 そんな中、私は小さく息を吐き出しながら【義賊王】を睨みつけた。

 

 

 「……貴方に質問があります」

 『……嫌ダト答タラ?――「この場でぶっ倒して憲兵に突き出すぜ」』

 

 

 2対1。

 互いの声や口調は比較的穏やかだが、交わされる言葉と雰囲気は『一触即発』と呼べるほど空気をピリピリとしていた。

 いや、言葉だけではない。

 それぞれが次の瞬間、戦いに入ることが出来る戦闘態勢だ。

 

 

 ――【義賊王】は左手に巻き付けた『鎖』をジャラジャラと揺らし、その右手をフリーにする。

 

 ――【吸血鬼】は左手に【鬼斬大刃】を。右手には血の大太刀を構え、身体を【タロース・コア】の全身鎧で包んでいた。

 

 ――【騎神】は【義賊王】の射程距離――30メテル以上離れ、今すぐにでも駆けだせるよう、両手で手綱を握り込んでいた。

 

 

 ……沈黙。

 三者三様に睨み合い――そして【義賊王】が『フッ』っと、肩の力を抜く。

 

 

 『ソレデ俺ニ何ヲ聞キタインダ? 

  オ前達ハ他ノ化ケ物共ヨリ、面倒クサソウダカラナ――特別ダ』

 

 

 【義賊王】が――仮面の奥の蒼い瞳がこちらを見る。

 その奥ではホオズキがどこか面倒くさそうに『早くしろ』と、視線を投げかけていた。

 それに応えるように小さく頷き、

 

 

 「何で……ううん、【義賊王】。――貴方は何をしようとしているの?」

 『――アァ?』

 

 

 私自身分からない。

 未だに纏まりきっていない考えを口にした。

 

 

 「私もこの<グランドル>の街を見た。どんな状況かも分かっているし、貴方のやっていることも正直……正しいと私は思ってしまった」

 

 

 だからこそ分からない。

 

 

 「でも、このままじゃ何も変わらないことは【義賊王】――そんなことは貴方が一番分かっているはずだ!

  <マスター>よりも強くて、これまで捕まることなく逃げ切っているぐらいに頭の回る。

  そんな貴方が、何の考えなしに義賊行為しかしていないようには思えない。

 

  ――【義賊王】、貴方は何を企んでいるの」

 

 

 考えの纏まらない言葉は宙に溶けて消える。

 そして――数秒の沈黙が降りた。

 同時に聞いていた【義賊王】の身体が小さく震え、

 

 

 『……ハッ』

 

 

 狂ったように。

 何かが弾けるように。

 そして……心底嬉しそうに。

 

 

 『フッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!』

 

 

 楽しそうに仮面を被った顔に手を当て、大声を上げて笑いだした。

 その声に驚き、固まる私とホオズキ。

 乾いた空に片言の高い笑い声は良く響き、そして次第に小さく収まるように止まっていった。

 そして蒼い瞳が私を刺す。

 

 

 『……ソレデ?』

 「――」

 『オ前ノ言ウ通リ、俺ガ何カヲ企ンデイルトシテ。ソレガ大勢ノ命ヲ奪ウコトトナッタトシテ――ソレヲ聞イテ【騎神】、貴様ハドウスル』

 

 

 そんなの一つに決まっている。

 私は食い込むほどに強く握り込んだ手綱を持って、目の前の【義賊王】を睨みつけた。

 

 

 「「絶対に止める()」」

 

 

 そんな私とホオズキ。

 二人の決意のような宣言を聞いてか、【義賊王】は空を仰いだ。

 その様子はまるで何か昔を懐かしむような――哀愁にも似た雰囲気を漂わせた仕草だった。

 『ハハッ』と笑う。

 同時に鎖に繋がり、宙に揺れていた短剣を曲芸の様に掴み。

 

 

 『俺ハ……【義賊王】ニハ『義賊としての流儀』ガアル』

 

 

 膝を屈め、腰を低くし。

 

 

 『悪ヲ滅ボシ、弱者ソ救ウ。ソノタメナラ手段ハ問ワナイ』

 

 

 左手に絡まった鎖が独りでに伸び。

 

 

 『人身売買ヲ見テ見ヌフリスル『市長』モ、当タリ前ノヨウニ人ノ命ヲ売リ買イスル【奴隷商(スレイプディーラー)】モ……ドイツモコイツモ死ンデ当然、俺ガ皆殺シテヤッタ』

 

 

 右手がボキボキと鳴り、遠くへ伸ばす。

 

 

 『ナァ、コンナ腐リ切ッタ街ナンテ、一旦滅ンデシマッタ方ガ良イト思ワナイカ?』

 

 

 蒼い瞳が一際強く光を帯びた。

 

 

 『命ヲ湯水ノ様ニ使イ、生キ返ル化ケ物共。

  オ前達ニハ、絶対ニ理解ハ出来ネェダロウガナ!!』

 

 

 ――風が吹いた。

 遮蔽物が無く、砂を巻き込み吹いた風は私達の態勢を揺らした。

 そして、【義賊王】の姿を覆い隠すローブが大きく揺れ、

 

 

 「「――ッ!!」」

 

 

 【義賊王】の姿が掻き消えた。

 

 盗賊系統、AGI型の【義賊王】に《義賊の流儀》によるステータス補正が加わり加速する。

 その動きは優に超音速機動に至っていた。

 短剣が付いた鎖が一直線に私に伸び、右手が霞む。

 【ブロンズソード】や【ミスリルの槍】、何本もの黒塗りの【ナイトペイン】がホオズキに向けて投擲されていた。

 憲兵のティアンでは視認するのも難しい。

 超級職にだけ許された領域の速攻攻撃だった。

 だが、それも憲兵なら。の話だが。

 

 

 「――フェイ!」

 『Kweeee!!』

 「――舐めるんじゃねぇ!!』

 

 

 私は、【騎神】は反応した。

 先ほどまで地下道で吸収した怨念を全変換した《紅炎の炎舞》――【紅蓮術師】の《クリムゾン・スフィア》を上回る大火炎。

 同時に上空へと飛翔し、どこまでも伸び追いかけてくる鎖付き短剣から距離を取った。

 既に【義賊王】との距離は100メテルを超え、相手の攻撃は届かない距離だ。

 

 

 ホオズキは、【吸血鬼】は走り出していた。

 ホオズキは黙ってヴィーレと【義賊王】の話を聞いていたわけではない。

 戦闘に備え、血液を某ゴム人間のように無理やり循環させた。

 そして――《戦鬼到達》が発動する。

 そのステータスは既に4000近くまで上昇し、【義賊王】の動きが捉えることを可能にしていた。

 自身の向かってくる剣を、槍を、ナイフを切り弾き、拳を握り接近する。

 

 

 ――背後からは【火傷】では済まない大火炎。

 ――前方からはステータスの上昇した『戦鬼』の重たい拳。

 

 

 どちらも【義賊王】のステータスではギリギリ耐えることのできるかどうか。当たれば戦闘不能に陥る攻撃だった。

 ……だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『――《ライト・オーバースナッチ》』

 

 

 ――一瞬だった。

 

 

 「フェイッ!?」

 

 

 何か――遠くから轟音(・・)が響き、同時にフェイの身体を何かが貫いていた。

 本来ならなんともない攻撃。

 フェイには【身代わり竜鱗】を装備させてある。

 物理攻撃は十分の一へと半減されるはずだ。

 加えて、その体の大半を炎で構築しているフェイには物理攻撃はそれほど効かない――はずなのに。

 

 

 『kWE、KWEEEEE~~!!』

 

 

 まるでいきなり重力(・・・・・・)が増した(・・・・)かの様に石の屋根へと墜落した。

 

 

 

 ――一瞬だった。

 

 

 「……グホォ」

 

 

 ホオズキはその口から大量の血を吐き出していた。

 ……いや、口からだけではない。

 【タロース・コア】の全身鎧に覆われた心臓には太い両手剣が深々と刺さり、その身体を自在に動く鎖が拘束する。

 心臓は外へと刺し出され、血は止まることなく【出血】する。

 それに対し、ホオズキの攻撃は【義賊王】へと届いては居たが――まるで何も無かったかの様に【義賊王】は崩れ落ちたホオズキを見下ろしていた。

 

 

 『惜シカッタナァ』

 

 

 左手からは【身代わり竜鱗】が粉々になって砕けて落ちた。

 フェイの炎とホオズキの拳。

 本来なら二発としてカウントされる攻撃を、【義賊王】はタイミングを計ることで全く同時に受け、一撃としてカウントしたのだ。

 そしてそれは元々【義賊王】が身に着けていたものではない。

 ――《ライト・オーバースナッチ》でフェイから簒奪したものだった。

 

 (……何で!?)

 

 射程距離である30メテル以上は離れていたはずだ。

 それなのに【身代わり竜鱗】は奪われ、そして何者かに狙撃され戦闘不能に陥った。

 

 ――誰が?

 ――何で?

 ――何処から?

 

 疑問に染まる思考は纏まらない。

 アレウスを呼んで戦う? ――無理だ。

 この場所では屋根を突き破ってしまうだろう。

 仮に《喚起》したとしても【身代わり竜鱗】を奪われ、再び狙撃されてしまえばアレウスが危ない。

 ただ、このまま終わる私でもホオズキでもない!!

 フェイから飛び降りながら【アズラーイール】を構え、

 

 

 『――ヤメテオケ』

 

 

 その声に動きを止めた。

 

 

 『オ前達ガ動クヨリモ、俺達(・・)ノ方ガ速イ』

 

 

 同時に再び轟音が響き、隠れて動き出していたホオズキの左足が吹き飛んだ。

 ――狙撃だ。

 何処からかは遠すぎて判断もつかない、だけど間違いない。

 【義賊王】には仲間が居る(・・・・・)

 

 

 『コレハ忠告ダ。コレ以上首ヲ突ッ込ムな、ヴィーレ・ラルテ』

 

 

 白いローブがたなびき。

 蒼い瞳が揺らめき。

 片言の声を響かせる

 そして、【義賊王】は銀色の指輪を付けた左手で私を指した。

 

 

 『次会ッタ時ハ……ソノ心臓デ贖ッテ貰ウゾ』

 

 

 そう言い残し、【義賊王】身を翻して貧民街の迷路へと消えていったのだった。

 

 

 

 




……あとがきに書くことが無い。



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