自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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今回も長い


第6話 レベリング

 □『カルディナ北東部』・<レンソイス砂漠> 【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 ――<グランドル>の貧民街で【義賊王】と交戦してから一日。

 

 

 

 

 

 私達は一時的に街を出て、<グランドル>と<黄河帝国>との間に広がる砂漠へと訪れていた。

 真っ青な空にはたった一つ、ポツンと昇る真っ赤な太陽。

 すでに時刻は時計の長針が12時をさす時間帯である。

 太陽は天頂を超え、西へと傾き始める……一番暑くなる時間帯だ。

 

 

 「……暑い」

 

 

 遮蔽物の無い、地平線を見渡せるほどの砂漠を生温い北風が頬を吹き抜けた。

 巻き上げられた砂が汗ばんだ肌に張り付いた。

 

 

 「しょうがないよ、これでも此処は<カルディナ>でも1、2番目に涼しい砂漠らしいし」

 

 

 隣で気だるそうな足取りでぼやくシュリちゃん。

 帽子を深々と被り、『ヘニャリ』と眉を下げる彼女に、私は苦笑しながらそう微笑む。

 そんなシュリちゃんはコクリ、と頷く。

 そして【アイテムボックス】から飲み物(お酒)を取り出しチビチビと大切そうに飲みだした。

 私はシュリちゃんの様子を傍目に、顔を前方へと向ける。

 

 (シュリちゃんにはああ言ったけど――やっぱりそれでも暑いや)

 

 容赦ない陽光に目を細めながら向けた視線。

 その先にはづかづかと一人先に進むホオズキ。

 そして見渡す限り広がる白銀の砂漠(・・・・・)が存在していた。

 

 

 ――此処は<レンソイス砂漠>。

 <グランドル>と<黄河帝国>の間……<厳冬山脈>に沿うように広がる白い砂の砂漠(・・・・・・)である。

 <厳冬山脈>から吹く雪の影響だろうか?

 白い砂は容赦なく牙をむく陽光を反射し、下からも私達をギラギラと照り付ける。

 辺りはギラギラと光り、見ているだけで目が痛くなりそうな光景だ。

 

 熱を砂漠の砂が吸収しない分、それほど暑くはない砂漠だが……それでも長時間居れば【脱水症状】は免れることは出来ない砂漠であることは間違いない。

 足の取られる砂漠の砂。

 疲労も相まって汗が一滴首筋を伝った。

 

 

 「ホオズキ、だいたいこの辺りじゃない?」

 「あぁ、あいつの話が嘘じゃなかったら――な」

 

 

 私とホオズキ、そしてシュリちゃん。

 【義賊王】に負けた次の日にこの<レンソイス砂漠>に訪れたのは幾つかの理由があった。

 

 

 一つ、元々の予定通り……とは表向きな理由で実際は昨日の戦闘で【義賊王】に負け、ずっとイライラしっぱなしのホオズキのストレス発散である。

 何となくピリついた雰囲気だったのでその気分転換だ。

 

 二つ、【料理人】であるジョニーに私の【アイテムボックス】を盗んだ犯人達(・・・)の事を聞いたから。

 

 三つ、対【義賊王】に向けてのレベル上げによる戦闘力の強化である。

 そして、この<レンソイス砂漠>にはそれに持ってこいのモンスターがいる。

 

 

 かれこれ一時間ほど、途方もない広大な砂漠を歩いてきた私達。

 だけど移動するだけなら『怪鳥型』のフェイに《騎乗》すればたった十分。

 アロンの背に乗って移動しても、この半分の時間で此処まで来れていただろう。

 

 ――では、何故わざわざ徒歩でこの<レンソイス砂漠>の中腹辺りまで来たのか?

 

 それは一つの理由に収束される。

 そして、

 

 

 「――ッ!」

 「……ホオズキ、居た」

 

 

 【弓狩人】のスキルである《ハンティング・フィールド》とシュリちゃんの<エンブリオ>たる特性である『血』による生物の探知がソレを捉えたのは同時だった。

 地を響かせるよ(・・・・・・・)うな(・・)大きな咆哮。

 何かが白い砂漠に大きな影を作りながら、私達へと向け飛翔する。

 

 

 

 

 

 『KYUIiiii----ッ!!』

 

 

 少し可愛げのある。そして超音波のような高音の鳴き声。

 雲一つない砂漠の空を泳ぐように飛翔し、私達にその鋭く並んだ牙を剥き突撃してくるモンスター。

 体長3メテルもの大きな体で、空から強襲されたら戦うのは難しい――いや、逃げるのも困難だろう。

 

 

 「ぁ? 何だありゃ、(シャチ)か!?」

 

 

 ――『亜竜級』モンスター・【レイダーオルカ】。

 その名の通り、空飛ぶ鯱のようなモンスターだ。

 きっと遠くから私達の姿を捉え、襲い掛かってこようとしているのだろう。

 空中を水の中と変わらぬ速さで泳ぎ、そして大きな口を開き一直線に向かってくる【レイダーオルカ】。

 

 私達はそんな【レイダーオルカ】を前に、何の行動も取ら(・・・・・・・)なかった(・・・・)

 

 いや、正確に言えば少し違う。

 何の行動も取れなかった(・・・・・・)、のだ。

 私達から数十メテル先、【レイダーオルカ】が上空から急降下し始めた時だった。

 

 

 

 

 

 ――『ドンッ!!』

 

 

 何かが吹き上がるような破裂音が。

 突如、宙へと巻き上げられた白い砂が。

 白い砂に混じることなく浮かび上がり、【レイダーオル(・・・・・・・)カ】を一瞬でバ(・・・・・・・)ラバラに裂き殺(・・・・・・・)した(・・)黒く、そして電気を帯びた砂が。

 

 『此処は俺の縄張りだ』と、でも言うように強烈に。そして派手に。その姿を現した。

 ソレはそのまま砂中から飛び出し、【レイダーオルカ】からドロップした肉を一飲みにする。

 

 

 「……おい、あれで間違いねぇな?」

 

 

 息を殺すように小さな声で確認するホオズキ。

 そんな確認に同意するように頷きながら私は答える。

 

 

 「うん、間違いないよ。この<レンソイス砂漠>の主みたいな存在で、砂漠船や商団を襲う……魚竜型のモンスター。聞いてた通りだ。

  

  ――『古代伝説級<UBM>、【砂鉄滋竜 モノポール】」

 

 

 ――この白い砂漠では目立つ黒い竜鱗。

 ――すっかり衰退しただろう竜爪と竜翼。

 ――体の一部から漏れるように走る黄色い電気と『竜王気』。

 

 砂漠の中の砂鉄(・・)を支配し、それを遊泳手段や攻撃に転用する『地竜種』たる――【砂鉄滋竜 モノポール】がそこには居たのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 「ホオズキ……本当にアレに挑むの? 流石にアレは――駄目だと思うけど……」

 「……シュリも、嫌」

 

 

 ヒソヒソと声を潜めて交わす会話。

 私とシュリちゃんは少し前方に居る――ジッと【砂鉄滋竜 モノポール】を睨みつけているホオズキにそう話しかけた。

 【砂鉄滋竜 モノポール】は砂漠に住んでいる地竜だからだろう。

 噂で聞いた情報では視覚が衰退し、ほとんど目が見えていないらしい。

 しかし、逆に聴覚(・・)。そして常に電磁波(・・・)を放ち、周囲の生物を察知しているだろう――と推測の範囲の情報だが<グランドル>では聞くことが出来た。

 

 (きっと今も私達の存在は知覚してるんだろうけど――)

 

 【砂鉄滋竜 モノポール】は食事を終えた直後。

 大声で話さない限りいきなり襲い掛かってくることはきっと無いだろう。

 そんな中、突如ホオズキは『グルッ』。

 上半身を曲げるように振り返りながら、これまたヒソヒソ声で口を開いた。

 

 

 「そんな事言うがアイツ(【義賊王】)に負けっぱなしでいいのかよっ!?(ボソッ) 丁度いいじゃねぇか、強い奴と戦えて『特典武具』を手に入れる。んでその『特典武具』で【義賊王】の野郎をぶっ飛ばすんだよ!!(ボソッ)」

 「そんな事言ったって、ね~? シュリちゃん」

 「……ンッ」

 

 

 どれだけ頑張ってもホオズキが勝つイメージが湧いてこない。

 砂中を自在に泳ぎ、電気と砂鉄を操る【モノポール】。

 対して、ホオズキは物理的な攻撃と『血』による攻撃だけ。

 まともに戦えば一撃も加えられず、砂漠の中へと引きずり込まれて【窒息】死するに違いない。

 

 

 「まぁ、止めはしないけど……」

 「……え? シュリは嫌だよ?」

 

 

 裏切られたような顔で私を見上げるシュリちゃん。

 ……ごめんね、シュリちゃん。シュリちゃんはホオズキの<エンブリオ>だから私に止めることは出来ないんだ。

 『プイッ』っと、顔を背ける。

 だから止めて欲しい。

 そんな涙目で袖を小さく引っ張るのは。

 

 

 「――おう、やってみなくちゃ分かんねぇからな。お前は適当に時間潰しといてくれ。

 

  ――うし! 行くぞ、シュリ!」

 『……ヴィーレ?』

 「……」

 

 

 【山岳隻甲 タロース・コア】の全身鎧を作り出し、身に纏いながら左手で【鬼斬大刃】を肩に担ぐ大男。

 そんな背後で、ジッと恨めし気に私を見上げる少女。

 私は――無言で巻き添えを避けた。

 

 だけど、何だかんだ言ってもホオズキがデスペナルティになることはそうそう無いはずだ。

 それこそ砂の中に引きずり込まれでもしなければ。

 本来の――もう一つの姿へと光の粒子になって変化するシュリちゃんを見送りながら、そんな事を考える。

 

 

 「それじゃぁ、言って来るぜ」

 「うん、何かあったら【テレパシーカフス】で連絡してね」

 

 

 襟元に着けられた【テレパシーカフス】を指さす。

 そんな様子に、『おう』と言いながらヒラヒラと手を振るホオズキ。

 そして、

 

 

 「ガッハッハッハッハッハーーー~~ッ! 行くぜ、オラァッ!!」

 

 

 大声を発し、【モノポール】に突撃するホオズキ。

 そして同時に鳴り響く戦闘音を背後から聞きながら、フェイに《騎乗》してその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて……私達はどうしよっか?」

 『Kweeee?』

 

 

 ホオズキと別れて数秒。

 私は身体を叩きつける風に目を細めながら、のんびりとそう呟いた。

 燦燦(さんさん)と照らす太陽と澄み渡った青空を超音速機動で飛翔するフェイ。

 かなり高度が高いからだろう。

 空気は少しだけヒンヤリと冷たく、汗ばんだ身体を吹き抜ける向かい風が気持ちいい。

 本当なら高レベルモンスターが多く生息し、ただでさえ厄介と言われる『飛行モンスター』が多い<カルディナ>の空だが、

 

 前方に待ち構えるようにして立ち塞がるモンスター。

 ――《紅炎の炎舞》で焼き殺す。

 

 フェイの後を追いかけてくるモンスター。

 ――超音速機動で一瞬で振り切る。

 

 【騎神】であり、フェイに《騎乗》した私に怖い(モンスター)は一匹たりもいない。

 【チャージコンドル】のような群れでの奇襲。

 もしくはドラゴンのような<UBM>にでも出くわさない限りは優雅な空の散歩である。

 

 

 「今は武器も【アイテムボックス】ごと盗まれちゃったからね~。私達はゆっくりとレベル上げでもしてよっか?」

 

 

 そんな事を言いつつ……私は昨日の昼。

 【義賊王】との交戦後のジョニーとの会話を思い出していた。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 「貧民街で盗みをしている【盗賊】の悪ガキ共だとぉ?」

 「えぇ、正確に言うなら……そうだね。【義賊王】に憧れて盗みをするしか生きている術が無かった悪ガキグループかな?」

 

 

 私達がレストランに戻ると、泣きながら呆然と半壊した入口を眺めていたジョニー。

 彼は私達が【義賊王】を捕まえられなかったことを話すとガックリと肩を落としていた。

 だけど彼は『遊戯派』だった。 

 『ま、僕はあくまでバイトだし』っと、すぐに開き直り。

 そして私の【アイテムボックス】を盗んだ犯人について教えてくれた。

 

 

 「貴方達も見ただろ? あの【義賊王】を。

  僕は<グランドル>に来てまだ3か月程度だけど、【義賊王】はこの貧民街のティアンに慕われてるのさ。

  それこそ、きっと何人かは【義賊王】の正体を知っているはずなのに秘密にしているぐらいだよ」

 

 

 ジョニーは少しつまらなさそうにフライパンを振るう。

 そして棚から数枚の皿をカウンターへと置き、話を続ける。

 私達はそんな話を少し離れた場所。

 朝食を食べたテーブルに座りながら静かに耳を立てていた。

 

 

 「……今、【義賊王】の話は聞きたくねぇ。それよりさっさと犯人の事について話せよ」

 「君はせっかちだな。とは言っても、僕もこれから忙しくなりそうだからそうしようか」

 

 

 『パツッ』と、フライパンから油が撥ねた音がした。

 

 

 「僕が話せるのはあまり多くはないし、つまらないことだけどね。

  貴女の【アイテムボックス】を盗んだ貧民街の子供。食べ物が無くて、だけど奴隷になるのは嫌だった五人組の子供たちさ。 

  彼らは【義賊王】に憧れていてね。こうして<グランドル>の入口付近で二日に一回、裕福そうな奴からアイテムを盗み売って暮らしている――らしい」

 「らしいってのはどういうことだ?」

 「フフ、僕は【料理人】だからね……アイテムを盗まれはしたけど諦めたのさ。この情報は店のお得意様の【商人】のティアンの話だよ」

 

 

 ジョニーは小さく笑う。

 そして【冷蔵庫】から食材を取り出し、何らかのスキルで一瞬でみじん切りする。

 美味しそうな匂いを漂わせ調味料を大雑把に振りかけた。

 

 

 「実際に盗んでいるのは【盗賊】のビーオという少年さ。ビーオがリーダーでアイテムを盗んで、他の四人がそれをサポートするんだ」

 

 

 ――【盗賊】ビーオ。

 私は《鑑定眼》を習得してないから分からなかった。

 だけどここまでジョニーが【商人】経由で仕入れた情報だ、ここら辺では有名らしいし間違いはないのだろう。

 ホオズキが追いきれなかったのも仲間の子供たちの妨害があったのかもしれない。

 

 

 「彼らは二日に一回、絶対に盗みを働くんだ。

  貴方達みたいな盗まれた被害者から逃げるためだろうね。逆に二日に一回は盗みをしなきゃ生活も困難になるのさ」

 「チッ、それなら捕まえるなら明後日か。だけどよ、盗まれたアイテムは大丈夫なのかよ。とっ捕まえても既に売り払っちゃった後でしたーじゃ、俺達は困るぜ?」

 「それについても心配知らないかな?貧民街の悪ガキからアイテムを買い取る【闇商人(ブラック・マーチャント)】も少ないからね。

  それに……」

 

 

 ジョニーは出来上がった料理を皿に盛りつけながら、肘をカウンターに。

 頬に手を付けながらニヤリと嗤った。

 

 

 「貴方達、その様子だとかなり高額なアイテムを盗まれたんじゃないか?」

 「……そうですけど」

 「なら、しばらくは心配いらないと思うよ。売りに出されることも気にしなくていい」

 「あぁ? 何でそんな事が断言できるんだ。 あんたも盗まれて取り返せなかったんだろ?」

 

 

 眉を吊り上げるホオズキ。

 ジョニーは少し間を開け――そして口を開いた。

 

 

 「盗んだ相手が死んでも死なない<マスター>で、盗品はかなり希少なアイテム。

  そんなモノを進んで買い取る【闇商人】は……命が惜しくない奴はこの<グランドル>には居ないからさ」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 ジョニーのちょっとした親切心による手助け。

 あの話を聞いたからこそ、今<レンソイス砂漠>に来られているとも言っていいんだろう。

 私は再び、気を取り戻しながら砂漠を見下ろすように辺りを見渡した。

 《ホークアイ》による視力強化。

 旋風で波のような模様が出来た白い砂漠には何体ものモンスターが移動し、互いに戦闘を繰り返していた。

 

 

 「う~ん、ここら辺で降りよっか」

 

 

 レベル上げする分にはモンスターの数は心配いらないだろう。

 モンスターも見た限りでは『亜竜級モンスター』が数体いるだけで他には上級モンスターが居る程度。

 武器が無い私でも十分戦うことが出来そうである。

 

 

 『Kweeee~!!』

 

 

 フェイは返事をするように大きく嘶き――そして真っ逆さまに急降下し始めた。

 風を切り裂く音が耳元で鳴り、風が鋭く吹き抜ける。

 超音速機動で飛翔するフェイは一瞬で地面へと近づき、そして砂を巻き上げながら勢いを殺して急停止した。

 だが、それだけではない。

 

 

 『GAGYOUUUUUUUUUU!!』

 

 

 私達に気が付いたモンスターが一斉にこちらへ向けて走り出す。

 

 ――大きな棘を生やしたサボテンのようなモンスター。

 ――巨大な顎を鳴らし、走り寄ってくる二足歩行の恐竜型モンスター。

 ――群れで這い寄ってくる蠍型モンスターの集団。

 

 全てのモンスターが一斉に走り寄り、

 

 

 「――フェイ」

 『Kweeeee』

 

 

 真紅の炎の渦に包まれ、火葬された。

 炎が止んだ跡にはモンスターの姿はなく、幾つものドロップアイテムだけがポツポツと白い砂の上に残っているだけだった。

 まさに一瞬。

 《幻獣強化》と《一騎当神》によって強化された《紅炎の炎舞》は即座に敵を燃やし尽くしたのだ。

 私は《ハンティング・フィールド》を使用し、安全を確認しながら辺りを見渡す。

 そして小さく頷き、フェイの背から飛び降りた。

 

 

 「うん、大丈夫そうだね。お疲れ様、フェイ」

 『KWE、KWEEEEEE』

 

 

 近くのモンスターは一掃できたようだ。

 後は安全にアロンやベグのレベル上げを頑張るだけである。

 幸いなことにフェイは私の<エンブリオ>。

 そしてベグはキャパシティは低いし、アロンのキャパシティも範囲内に収まっている。

 同時に召喚することは十分可能だ。

 

 

 「……よし、《喚起》――アロン、ベグ!」

 

 

 言葉と同時に左手にはめ込まれた【ジュエル】が光り、溢れ出た光の粒子が二つの姿を象った。

 ――山のように見上げるほど巨大な堅殻を持った黒色の地竜。

 ――今では食べ過ぎたのか、大型犬程の大きさに成長した白色の芋虫。

 ドラゴンと芋虫。

 黒色と白色。

 同程度のレベルに対しての戦闘力。

 全てが正反対とも思えるような2体が私の前に現れた。

 (……アレウスは砂漠では上手く戦えないのと、一体だけずば抜けてレベルが高いので今日はお休みである)

 

 

 「おはよう、でいいかな? うん……今日はレベル上げをしよっかアロン、ベグ」

 『GAWUWUWU』

 『――――』

 

 

 地響きのような唸り声を上げるアロン。

 ベグも声を出せない代わりに、《アビス・レービング》で手に入れた何らかのスキルで体の色を赤や黄色にして返事をした。

 アロンもベグもやる気は十分らしい。

 どこかワクワクとした、止まってられないというような雰囲気に私は思わず笑みを浮かべた。

 

 

 「とは言ってもベグはまだ単独で戦闘は出来ないからね。アロンは自由に動いてもらって、私とフェイが弱らせたモンスターをベグがとどめを刺すって事になるのかな?」

 

 

 俗に言う、雛鳥に餌を与える形だ。

 しかし、ベグは何処か不満そうに芋虫の上半身……? を。持ち上げ抗議してくる。

 同時にその姿が一瞬で変態した。

 

 ――ENDに秀でたモンスターである【ドラグワーム】の強固な漆黒の甲殻。

 ――飛び抜けたAGIで空を飛び、鋭い薄羽で切り裂く【亜竜鬼蜻】の蒼銀の薄羽。

 ――【ポイズン・スコーピオン】の毒の刺尾と【亜竜痺蜂】の麻痺針。

 

 ゆっくりと地面から浮かび上がりながら、『自分が出来るぞ!』と訴えかけているようだ。

 傍から見れば、とても凶悪なモンスターである。

 だけど……やっぱり駄目。

 

 

 「《アビス・レービング》で手に入れてもまだ実践で使ったことは無いでしょ? それにステータスはまだ低いんだから無理しちゃ駄目だめ」

 

 

 私は宙に浮かぶベグを両手でガッチリと掴み――

 

 (……意外と重いっ)

 

 その重さに思わず落としそうになり、ギリギリで堪えた。

 そして腕の中で、元の姿に戻ったベグを抱えながらアロンを見上げる。

 

 

 「そういう訳だからアロンは今日は単独で動いて欲しいの。また別の日に一緒にレベル上げしようね」

 

 

 私の声に少しだけ不満そうな唸り声を漏らすアロン。

 しかし別の日に一緒にレベル上げするのを納得したのか、ゆっくりと白い砂漠に沈みながら移動し始めた。

 その姿を見送りながら、私もフェイに《騎乗》し準備をする。

 アロンは【リソスフェア・ドラゴン】の……おそらく幼竜にあたる。

 アレウスと比べるとまだまだ経験不足だし、レベルも低い。

 モンスターの分類分けに当てはめても――辛うじて『純竜級』モンスターに区別されるか、と言う程度だ。

 

 しかし、アロンには《地盤超重》が。

 そして最近手に入れた《地盤操作》がある。

 大抵の敵はアロンにダメージを与えることも出来ずに圧殺されてしまうだろう。

 

 

 「――よしっ! それじゃあ私達もレベル上げ頑張ろっか」

 『Kweeeee~』

 『――――』

 

 

 私も気合を入れ、《瞬間装着》で普段着から服を着替える。

 白い砂漠では目立つ、露出が多めの紅の装備。

 気合十分なベグを背後に乗せ、勢いよく空に飛び立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――ヴィーレ達が気付く筈も無かった。

 彼女とその従魔達の様子を遥か遠くからジッと観察する三つの鋭い目(・・・・・・)を。

 

 

 <レンソイス砂漠>を遊泳する主が【砂鉄滋竜 モノポール】だと言うのなら、<レンソイス砂漠>の大空を支配する主が居るということに。

 知識を求めるその獣は、興味深そうに眼を細めたのだった。

 

 

 

 

 




予定では十五話ぐらいで終わるはずだった第四章。

だけど、またノリで書いたせいで話数が伸びそうです……。
――たまにはファンタジーらしいモンスターを出してみたいww



・<レンソイス砂漠>(捏造設定)
<グランドル>と<黄河帝国>の間に広がる白い砂漠。
比較的気温が低く、<厳冬山脈>の影響を強く受けている。
数体の特有のモンスターが生息しており、その中央を【砂鉄滋竜 モノポール】が。
そして空を【???? ■■■■■■】が支配している。

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