自由への飛翔 作:ドドブランゴ亜種
□<レンソイス砂漠> 【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ
――炎よりも鮮やかな紅色。
地上より遥か上空でホバリングするフェイに《騎乗》する。
砂漠の猛暑のせいか、それとも既に数時間続けている戦闘のせいだろうか?
火照った身体を冷たい旋風が冷やし、リアルの私とは違う――ヴィーレ・ラルテの真紅の髪が視界の端で靡いた。
正直に言えば、赤は別に好きじゃない。
だけどこの世界<Infinite Dendrogram>ではすっかり馴染んでしまった赤の。
――真紅の髪をそっと耳にかけた。
同時に頬を持ち上げ、笑みを浮かべた。
「――見つけた」
《ホークアイ》で強化された目で白い砂漠で動く影を捉える。
そして、
「行くよっ、フェイ。 ――ハッ!!」
『Kweeeee!!』
両手に緩く握った手綱を強く引く。
そんな私の動きに呼応するかのようにフェイが勢いよく地上の影に向けて急降下し始めた。
――吹きつける激しい風。
――自然と強く握り込む手綱。
――揺れるポニーテール。
数秒でその速度は超音速を越え……まだまだ加速する。
『怪鳥型』となり、身体の大部分を炎で構成したフェイが急降下して、その後が赤い奇跡となって宙に残った。
ぐんぐんと近づいてくる白い砂の地上。
風を切るようなこのスピードと次々と移り変わる周りの景色がとても心地いい。いつになっても飽きることのない心地いい感覚に、スッと目を細め、すっかりと身体が覚えた――いつも通りの動作をなぞった。
『ドクッ、ドクッ』と心臓が早鐘をうつ。
僅か1、2秒。
《ホークアイ》でも影のようにしか見えなかったモンスターの姿は、既にハッキリと全貌を確認することが出来ていた。
「1体、2体……3、4、5体。――と1。これなら問題ないかな」
砂漠で戦う5体の人型モンスターと1匹のモンスター。
白い砂漠で拮抗している戦闘の真っただ中だった。
『SYAAaaaaaーーッ!!』
『―――――~~ッ』
――黒みがかった茶色の鱗を持ち、一際大きな体で【岩石の大剣】を構えた【サンド・リザードマンジェネラル】。
【サンド・リザードマンジェネラル】を中心に弓や盾を構えた【サンド・リザードマン】が円形に陣取り、激しく威嚇しながら敵を睨みつけた。
――5メテルはあろう骨で出来た長い体をくねらせ、砂漠に跡を残しながら【サンド・リザードマン】達の周りをグルグルと周る【スカル・ベノムサーペント】。
声にならない――骨と骨を擦り合わせたような音を鳴らしながら、鎌首をもたげ【サンド・リザードマン】達を睥睨した。
数では【サンド・リザードマンジェネラル】の群れの方が数では有利だけど……
『――――ッ!』
見れば闘争は一方的なものだった。
――勢いよく振り抜かれた尾骨を辛うじて槍で弾く。
――鋭い牙が並んだ顎を大剣で受け止める。
いずれは【サンド・リザードマンジェネラル】逹の方が壊滅させられてしまうだろう。
「フェイ!!」
『Kwe、Kweeeeeーー!』
『――――ッ!???』
フェイにその骨の身体を鉤爪で引きちぎらなかったら……だが。
決着は一瞬だった。
超音速機動で急降下したフェイはそのスピードを緩めることなく鋭い鉤爪で【スカル・ベノムサーペント】をつかみ取り、その頭を炎で焦がしながら啄んで勝ち割ったのだ。
ある意味、リアルでの弱肉強食と変わらない。
猛禽類と蛇の宿命である。
目の前でドロップアイテムを残し、光の粒となって消えていく【スカル・ベノムサーペント】。
私はその光景に『フゥ……』と一息吐く。
自然と力が入っていた手綱を握る両手を離し、
――『ボフッ』
顔からフェイの炎の毛並みへと突っ伏した。
「何でだろ……肩に力が入っちゃってる。【騎兵】は状況判断を瞬時にすることが大切で。その為にも常に冷静で力を抜いておかなきゃならない、って師匠に散々言われたのに。
――こんな戦い見せたら、また怒られちゃうよ~」
<グランドル>に来てから体に無駄な力が籠ってしまっている。
【義賊王】や貧民街を見て焦ってしまっているのだろうか?
意識すればするほど体に力が籠ってしまう――そんな何処かスランプにも似た抜け出せない違和感に対する怒りをぶつけるように、フェイの首元をモフモフと撫でまくった。
『Kwee~、Kwe、Kwee……』
「うん、それは分かってはいるんだけど」
慰めるようなフェイの声に返事を返す。
モヤモヤした気持ちを吐き出すように大きく深呼吸し、そっと目を閉じた。
「……少し休憩」
そう、気を抜いた時だった。
『SYAAaaaaaーーッ!!』
コロコロと一転する状況について来れず、硬直していた【サンド・リザードマンジェネラル】が大きな声を上げた。
『ザッ!』っと、砂を蹴る音。
《ハンティング・フィールド》を使用し、一匹のモンスターが私に向けて突撃してきていることを感知する。
自分たちを追い詰めていた強敵。
その強敵を一瞬で倒してしまった私達を目の前に我武者羅になっているのだろう。
「……」
そんな《ハンティング・フィールド》の感知に私は顔をずらし、チラリと【サンド・リザードマンジェネラル】の様子を覗き見た。
――それ以外、私は何もしなか・・・・・・・った・・。
そしてもう一つ、主の危険を知らせるはずの《危険察知》が反応していない。
それは……ある意味すでに戦いの決着がついていることを暗に示していた。
「そこは――もう半径5メテル以内だよ」
言葉が早いか。
事象が早いか。
【サンド・リザードマンジェネラル】とその配下のリザードマンたちが苦しむ様に倒れ伏した。
同時にリザードマン達の身体から、巨大な杭のような毒針が生え伸びた。
しかし即死はしない。
何が起こったのかも理解することが出来ないリザードマン達は動くことも叶わない。
数秒後にHPが尽き、ドロップアイテムを残して消えていった。
「ベグもお疲れ様。かなり頑張ったから……レベルが一気にあがったね」
私は先ほどまでリザードマンたちがいた場所に向け、そう話しかけた。
すると同時に、何も存在しなかった空間からベグが姿を現した。
――《光学迷彩》
これもベグが《アビス・レービング》で獲得した特性の一つである。
ベグはフェイの身体に【クィーンスパイダー】の剛糸でしがみ付き、リザードマン達の隙をついて毒針を打ち込んだのだ。
ベグ自身の戦闘力は皆無。
しかし《アビス・レービング》で獲得した特性は亜竜級モンスター相当のものばかりだ。
【花冠咲結 アドーニア】の《栄華の庭園》による何十にも重ねられた状態異常は簡単にリザードマンたちを瀕死に追い込み、ベグの毒針は簡単にそのHPを全損させたのだった。
――『ピコンッ』
数秒遅れて、レベルの上昇を告げるアナウンスが頭に響いた。
身体を完全にフェイへと預けた……うつ伏せのような状態。そのまま私は指を動かし、『ウィンドウ』のステータスの欄を開いた。
『【アビス・ラビー】/ベグ Lv.18』
この数時間でレベルが12も上がっている。
私は思わず、そのウィンドウに載っている数字に目を見開いた。
(アロンは数時間粘ってもレベルが1上がるかどうかだったのに……)
種族が『ドラゴン』と『魔蟲』による差なのかな?
高レベル帯の狩場なことも踏まえても、『魔蟲』は比較的レベルの上がりやすい種族なのかもしれない。
その代わりなのかスキルは殆ど増えていない。
《アビス・レービング》で獲得した特性が何種類かあるといった程度である。
「アレウスはレベル30ぐらいで進化したっけ。もしかしたらベグもそろそろ一回進化するかもね?」
『~~~♪』
進化に憧れているのだろうか。
ベグは芋虫形態の身体から蠍の尻尾を作り出し、激しくブンブンと嬉しそうに振る。
……そしてバランスを崩し、コテンッとこけた。
そんな様子に小さく笑い声を漏らした。
それにしても、今回のレベリングは大成功と言えるだろう。
フェイが<エンブリオ>の分、経験値が私とベグで山分けになっているのだ。今のベグなら上級モンスターと一対一で戦っても十分勝てるはずだ。
「私の【弓狩人】のレベルも……もう少しでカンストかな。<グランドル>を出発するまでに次のジョブを考えておかなくちゃ」
武器としてのスキルを増やす為【
私自身のステータスを上げるために【女戦士】の上位職――【女傑】に就くか。
それとも従魔を強化するために【従魔師】系統に就くか。
(【
選択肢は星の数ほどあるけど、そこから一つに選ぶのは本当に難しい。
私の<エンブリオ>――【炎廻怪鳥 フェニックス】はまだ第三形態、進化してから何に就くか選んでもいいかもしれない。
そんな事を考え、そしてゆっくりと身体を起こした。
『~~、~』
「あ、ベグ。ありがと」
器用に糸を使ってドロップアイテムを搔き集めてきてくれたベグ。
その大半が【サンド・リザードマンジェネラル】の群れのものだが、念のため一つ一つ手に取り、確認する。
――【岩石の大剣】
――【サンド・リザードマンの岩鱗】
使っていた武器と何かに使える素材アイテムばかり。
一部はアロンが食べるおやつにはなりそうだけど……他は殆どシアンさんの商店で買い取ってもらうことになりそうだ。
《鑑定眼》が使える【鑑定士のモノクル】を装備していないため、アイテムの詳細は分からない。
しかし、それでもアイテム名を見れば一目で分かる――異彩を放つアイテムが目に映った。
「【大骨蛇の腐毒牙】は【スカル・ベノムサーペント】のドロップアイテムだね」
それは大きなダガーのような骨の大牙。
牙の先が紫色に変色したどこか不気味なアイテムだ。
(……あれ?)
手に持った【大骨蛇の腐毒牙】を見つめていると後ろ髪を引かれ・・・・・・・るような感覚・・・・・・を感じた。
暫し、呆然とし。そして、
「《ドレイン》」
スキルを宣言すると共に【大骨蛇の腐毒牙】が砕けて消えた。
砕けると同時に洩れた光の粒子はフワフワと宙に浮かび、【アドーニア】へと吸い込まれていく。
どうやら状態異常の特性を持ったドロップアイテムだったみたいだ。
私は開かれたままのウィンドウから装備欄を開く。
開いたのは【花冠咲結 アドーニア】の装備欄。
そこには居前途は違い、《ドレイン》に成功し数の増えた状態異常がずらりと並んでいた。
『《栄華の庭園》――使用可能:【毒】【猛毒】【衰弱】【麻痺】【魅了】……【死呪宣告】【腐食】』
合計で既に一桁を超え、後半に差し掛かった十数個の状態異常。
今回の《ドレイン》で手に入れたのは【腐食】の状態異常のようだ。
「【腐食】は聞いたことはないし……掲示板で探すか、実際に使ってみなきゃね。どの程度の効果かも知っておきたいし」
文字から危険そうな雰囲気が駄々洩れだけど、万が一というのもある。
私は【腐食】と言う状態異常は聞いたことも受けたことも無い。
しかし、確認せずに実戦で使う。
そして結果、【腐食】は使えなかった。もしくは私にも影響がある状態異常だった、では大変だ。
そろそろ切り上げようと思っていたレベリングだけど――
「ちょうどいいし、あと一回だけモンスターを倒して終わろっか?」
『Kweee~~』
疲れの溜まり始めた体を動かし、フェイが装備する鐙へと足を掛けた。
太股でしっかりと鞍を挟み込む。
手綱を手に握り、そしてベグがフェイにしがみ付いたことを確認した。
――その時だった。
「――ッ!?」
唐突に脳内に鳴り響く《危険察知》の大警鐘。
白い砂漠の地面に大きな、大きな影が差す。
私は無意識に意識を戦闘のモノへと切り替え、敵の正体を確かめようと上空へと顔を上げるのと、
『GALAOooooooooooOOOO!!』
ソレが咆哮するのは同時だった。