自由への飛翔   作:ドドブランゴ亜種

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第8話 砂漠闘争ー(下) 

 □<レンソイス砂漠> 【弓狩人】ヴィーレ・ラルテ

 

 

 

 

 

 この<Infinite Dendrogram>には所謂、ファンタジーなモンスターが多数存在する。

 架空の生物だけではない。

 それこそ初めて聞くようなオリジナルのモンスター。

 そしてその名の通り、世界に一体しかいない<UBM>など。

 種族が『妖怪』なんていうモンスターが居ると『掲示板』で見たときは私も流石に驚いて声を上げてしまったほどだ。

 しかし……私の視線の先。 

 白い砂漠、<レンソイス砂漠>の上空。

 青空に佇む様に飛んでいたのは一体のモンスターだった。

 

 

 ――ソレは架空のモンスター。

 ――ソレは砂漠の主。

 ――ソレは……神獣(・・)

 

 

 

 

 

 「……【スフィンクス】」

 

 

 人の顔を持ち、獅子の身体を漲らせ、鷲の翼を優雅に羽ばたかせ、蛇の尾を揺らす。

 獣の大咆哮を放ったのはリアルでの神獣。

 人頭獣であり、種族キメラ。

 そして『純竜級』モンスターに分類される【スフィンクス】だった。

 

 (嘘っ!)

 

 人の頭を持つ【スフィンクス】はジロリッと私を睥睨する。

 同時に鋭い牙が並んだ口が開き、そして私達の居る地上まで届くような直線状の炎のブレスが吹き放たれた。

 唯でさえ暑い砂漠の真ん中。

 空気をも焼き焦がすような音を。

 赤よりも赤い――紅蓮の炎が私に向けて迫りくる。だけど……

 

 

 「フェイ!!」

 『Kweeeeeーー!!』

 

 

 フェイも同じく、幻獣であり炎の神獣。

 迫りくる炎を《火炎増畜》で吸いこむ様に炎の身体に吸収し、自分の力に変換する。

 

 

 「倍返しにして返してあげる!!」

 

 

 同時にフェイが《紅炎の炎舞》で紅炎を【スフィンクス】へと向けて放つ。

 《クリムゾン・スフィア》以上の火力。

 《火炎増畜》によって五倍にして蓄えた炎の光線が《幻獣強化》で更に強化され、一直線に空へと昇った。

 普通の地竜ならば骨すら残らない。

 地面をも溶かし燃やす――大火力の反撃だ。

 仮に【嵐竜王】でも当たれば、大ダメージを与えられることは間違いない!

 

 

 「フェイのMPとSPを注ぎ込んだ火炎放射なのに――なんで……」

 

 

 一直線に向かう炎。

 

 

 「なんで倒れないの!?」

 

 

 【スフィンクス】へと近づいた炎は何かに護られるように減衰し、そして【スフィンクス】自体へと届く前に完全に霧散していた。

 何事も無いかの様に宙に佇む【スフィンクス】。

 赤い炎を煩わしそうに獅子の腕を振るう。

 そして、

 

 

 ――『GALAOOOOOOOoooooO!!』

 

 

 空中を走るように、一直線にこちらへ向けて急降下し始めた。

 

 (……速い!!)

 

 その速度はそこらの怪鳥よりも遥かに速く。

 その獅子の両脚には岩石程度ならバターのように切り裂けるだろう靱爪が光沢を帯びていた。

 

 

 「確かに速い。だけど、私達のほうがもっと速いんだから!!」

 『Kwe、Kweee!!』

 

 

 炎の翼が大きく羽ばたいた。風が吹き荒れ、白い砂が舞い散る。

 数秒間、炎の身体を小さく縮こませて作る小さな溜め。

 そして次の瞬間――フェイの姿が掻き消えた。

 もちろん突然消え去ったのではない、ただ単純に勢いよくその場を飛び立っただけだ。

 

 ――上空から向かってきている【スフィンクス】に向けて。

 

 

 「―――~~ッ!」

 

 

 弓から放たれた矢の如く。

 鋭く、減衰することなく全力で【スフィンクス】へと向けて突き進む。

 いつもとは違う急上昇に激しい空気圧に叩きつけられ、思わず苦悶の声を漏らしてしまうが――止まることはしない。目を閉じることはしない。

 真っすぐに前を見据え、全神経を指先へと集中させた。

 

 接触まであと三秒。

 ……二秒。

 ……一秒。

 

 

 「今っ!!」

 『Kweeee~!』

 『GALAOOOooOO!!』

 

 

 眼前ギリギリ、絶妙なタイミングで振るわれる【スフィンクス】の右足。

 私もそれに合わせて手綱を振るい――加速した。

 間一髪、紙一重、振り抜かれた腕が唸りを上げながら後ろ髪を掠めて通り過ぎていく。

 コンマ数秒――超音速機動での時間差。

 フェイの全力の加速による体当たりと鉤爪による切り裂きが【スフィンクス】の身体へと直撃した。

 

 

 「――ッと」

 

 

 追撃してくる蛇の尾を躱し、ベグがここぞとばかりに毒針を発射する。

 しかし、その毒針は【スフィンクス】を【毒】にすることは無い。

 

 (……思ったより硬いなぁ)

 

 【スフィンクス】の強固な剛毛。

 そしてENDによって深く貫通することなく表面で止まってしまったようだ。

 先ほどとは立ち位置が逆転した状態で《ホークアイ》を使用し【スフィンクス】の様子を確認する。

 

 

 「ダメージが軽いみたい、攻撃範囲が小さいから致命傷にはならないんだ。アレウスならそのまま力技で突き倒して踏み殺せるんだけど……フェイ」

 『Kwe、Kweweeeッ!!』

 

 

 尋ねるようにフェイを見ると、『そんなの絶対に嫌だっ!!』と言うように首をブンブンと左右に振った。

 フェイはそれほどステータスに優れているわけではない。

 だから、攻撃手段も《紅炎の炎舞》頼りな部分が大きいのだ。

 仮に鉤爪で掴み、無理やり地面に叩きつけることが出来たら大ダメージなのだろうけど――フェイよりも巨大な【スフィンクス】をなぎ倒せるとは思えなかった。

 

 

 「……せめて弓があれば打ち落とせるかもしれないんだけど」

 

 『GALULUUUaaAAA……』

 

 

 睨み合う【スフィンクス】と私達。

 ここに来て、空中戦における火力不足が明白になっていた。

 

 (《紅炎の炎舞》が通じないのは――《魔法耐性》と《火炎耐性》が飛び抜けて高いんだ)

 

 ――スフィンクス。

 それは神獣でもあり人智を越えた知恵の主。

 旅人に試練と言う名の問いかけをするのは有名な話だ。

 安直な考えだけど、【スフィンクス】が対魔法に特化したモンスターだと言われても、何も不思議に思えないような……そんな気がした。

 

 

 「まぁ……それでもやるしかないんだけど、ねっ!!」

 『Kweeeeee!!』

 

 

 同時に手綱を強く引き、【スフィンクス】に向け疾走した。

 それに呼応するように【スフィンクス】も咆哮する。

 咆哮は大音響し――戦闘は苛烈を極め始めた。

 

 

 ――空気を震わせ迫る、蛇の尾の薙ぎ払い。

 

 宙で旋回し、巨大な翼を一部引きちぎる。

 

 

 ――フェイの矢の如き鋭い嘴。

 

 【スフィンクス】が魔法を紡ぎ、宙に展開した岩の槍を避けきれずに私の横腹を切り裂かれた。

 

 

 ――ベグが【毒】の針で、【麻痺】の蠍尾で隙をついてで攻撃する。

 

 その全てが通じることなく表面で止まり、別の意志があるかのように動く蛇の尾に引き抜かれる。

 

 

 互いに一進一退。

 傷つきながらダメージを与えあう。

 時間だけが一刻、一刻と過ぎていっていた。

 

 

 「フッ!!」

 

 

 地面スレスレを超低空飛行し、砂を巻き上げ目くらましに使う。

 それに対して鬱陶しいとばかりに放たれた咆哮が砂を吹き飛ばし、視界が晴れる。

 ……だけど、晴れた砂の先に私は居ない。

 上空へと急降下したフェイは無防備な【スフィンクス】の背中に勢いよく突進し、その鋭い爪を叩き込んだ。

 倒れる人頭獣の巨体。

 その様子を傍目に、手綱を引いて距離を取った。

 

 

 「……決め手がない」

 

 

 チラリと視線を移した手元。 

 手の中には既に戦闘が三十分以上過ぎていることを示す、銀色の懐中時計が握られていた。

 

 

 「炎が通じないとこんなに苦労するなんてね」

 

 

 炎自体は微かにだが当たっている。

 しかし、そのほとんどが霧散した炎は全くと言っていい程ダメージを与えられていないのだ。

 強力な物理攻撃手段があれば問題は無いんだろうけど……今の私にはそれが無い。

 しかし、何時かは勝てるだろう。

 私自身も《蒼炎の再生》で実質無傷、SPかMPが尽きない限りは負けることは殆どない。

 集中力もとぎらすような気はしない。

 だけど……

 

 

 「私も、ただフェイの炎が通じないから勝てない――なんて、そんなままでこれから先ずっと旅するわけにはいかないから。私の弱点をいつまでも放置しておくわけにはいかないから。

 

  ……賭けに出てでも、ここで勝たせてもらうよ?」

 

 

 ――私は賭けに出る(・・・・・)

 勝てる確率は……多分私が思っている以上に低い。

 それでも、それでも私の中で思い浮かんだ一つの勝ち筋。それ以外にこの膠着状態を抜け出せる選択しは考えつかなかった。

 手綱を握り、前を見据え、不敵に笑う。

 鼓動の音がやけに鮮明に大きく聞こえ、闘志に呼応するように身体が熱くなり頬が紅潮した。

 

 

 「フェイ、ベグ……少し無茶するかも。だけど――ううん、絶対に勝とう」

 『Kweeee!!』

 『――――ッ!!』

 

 

 フェイとベグは『そんなの当たり前だ』とでも言うように、一際大きく鳴き声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ――(【スフィンクス】)はこの<レンソイス砂漠>の大空においてトップ2(・・・・)だった。

 

 

 あらゆる魔法を減衰し、軽傷に抑えることが出来る高レベルの《魔法耐性》。

 加えて火属性に対する《火炎耐性》。

 そして、そこらの純竜とも張り合うことが出来るだろう、純粋に高いステータス。

 

 どんな敵にも負ける気がしない。

 事実、彼は以前にこの大空に侵入した飛竜すら完封し、倒したことがあるほどである。

 モンスターの中でも自分はとても優れている部類だという自覚があった。誰にも負けない自信があった。

 ……はずだったのに。

 

 

 『(――何故だ?)』

 

 

 彼は今、体中から血を流し、白い砂漠の砂を赤く染めるように倒れ伏していた。

 瀕死……ではない。

 むしろ傷はかすり傷程度、軽傷にすぎない。

 しかし――『空の王者である自身が地面に倒れ伏している』、その状況に困惑し。そしてそれ以上の、血も沸騰するかのような怒りを抱いていた。

 まだまだ四肢は動く。

 あの炎の鳥の、それに跨る女の攻撃は自分には効いていない。

 つまり、

 

 

 『GALURAAAaaaaaaAAAAAAAOOO!!!(必ず殺す!!!)』

 

 

 彼は怒りに身体を任せ、怒りの大咆哮を響かせながら立ち上がったのだった。

 宙を舞っていた白い砂。

 それはあまりにも大きな咆哮によって消し飛び、視界は薄っすらと晴れていく。

 そして、数百メテル先に――見下ろすように飛んでいるその不死鳥の女を鋭い眼光で睨みつけた。

 

 

 『(何だ? 何か覚悟を決めたような顔をしているが――)』

 

 

 そんな事は関係ない。

 彼はとっくの前に覚悟を決め、必ず殺すと心に強く決めている。

 むしろ次の一撃で必ず仕留めると、獅子の身体を奮い立たせていた。

 

 

 「――――」

 

 『――――』

 

 

 互いの視線が交錯する。

 殺気が込められた視線が敵の動きを幻視させ、今か今かと身体が疼くように張りつめた。

 先手を取れば勝てる――わけではない。

 しかし彼からすれば次の一手であの目障りな敵を叩きつぶす。そうでなければ怒りで気が狂ってしまいそうな程、敵意が溢れ、殺意の嵐となって心を吹き荒らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――砂塵が微かに舞った。

 

 

 予兆のような微風はより強い風を呼び、旋風を巻き起こす。

 そして、

 

 

 『「――――今ッ!」』

 

 

 巻き上げられた白い砂は薄いベールとなって視線を妨げ、再び開戦の幕となりを霧散した。

 

 

 『GALAOOOooOO!!』

 

 

 彼が不明慮な視界の中で捉えたのは紅蓮の疾矢。

 空気を焦がし。

 風を切り。

 超音速機動で自分へと向け疾走する不死鳥と女の姿だった。

 文字の如く、火炎を纏い突撃してくる(ヴィーレ)が自分へと着弾するまで3秒とない。

 【騎兵】系統の超級職――【騎神(ザ・ライダー)】にのみ許された神速の機動攻撃だ。

 【スフィンクス】はその事実を理解し、人頭の顔を大きく歪めた。

 

 

 

 

 

 ――『知っていたぞ』、と。

 

 

 嘲笑うかのように口端を大きく持ち上げ、歓喜に打ち震えるかのようにその口から大咆哮を鳴り響かせた。

 初歩的で、基本的で、そして驚くほどに単純な事である。

 【スフィンクス】にとって最も優れた感覚器官は『眼』ではない。

 

 では聴覚か? ――いや違う。

 なら痛覚か? ―それも違う。

 

 【スフィンクス】にとって最も発達した感覚器官。

 それは《魔力感知》と言う名の高レベルのスキルだった。

 故に彼はハッキリとそれを……フェイが炎を発しようとする瞬間を捉え、そして先手を打ってい(・・・・・・・)()

 

 

 『GALULUUUaaAAA----!!』

 

 

 神獣の方向に応じるように白い砂が持ち上がる。

 ――全方位。

 彼の身体を覆うように持ち上がった砂は瞬時に強固に固まり、そして鋭い砂の弾丸と化した。

 ヴィーレがどれだけ速くても避けられないよう、何もない空中すら狙い込まれた弾幕の濃い密度。

 無尽蔵な砂漠から魔法によって作られた砂の弾丸が巨大なドームのような弾幕を作り出す。

 

 

 『GALAAO(死ね)』

 

 

 振り下ろされた【スフィンクス】の右足。

 同じに全ての砂の弾丸が勢いよく全方位に向けて照射され、音もなく砂のベールをぶち破った。

 鼠一匹残さない。

 避けられる隙間もない、完全な砂の弾丸の弾幕である。

 

 

 派手な音を立て、舞い上がる砂煙。

 地面に無数な小さな穴が穿たれ、砂漠の砂がもとに戻るように穴へと流れ込む様子が微かに見えた。

 ……舞い上がる砂煙に変化はない。

 それは、彼の前方に動く生存者がいないということを示していた。

 

 

 『GALUaaaaa……』

 

 

 『フンッ』と。

 人頭の獣は鼻で笑うように高熱の息を漏らした。

 そして……

 

 

 『――?』

 

 

 ――何かが超音速で腹の下を通り抜けた。

 

 

 「全方位に発射される砂の弾丸……だけど地面スレスレは案外穴場だったりするよね? 

  それに抜けてしまえばお腹の下は攻撃されない」

 

 

 そんな声が背後から聞こえてくる。

 敗因は単純なミスであり、盲点だった。

 『純竜級』モンスターであり、その体長も5メテル以上もある【スフィンクス】は今まで空中戦を繰り広げていたが故に考えつかなかったのだ。

 何だってそうだ。

 

 ――空中戦では、上を取った者が勝つ。

 ――空中戦では、後ろを取った者が勝つ。

 

 そんな固定観念を持っていたが故に下に向け飛翔す(・・・・・・)()なんてことは彼にとって考えつかず、そして理解は出来ない事だった。

 だが、まだ戦闘は終わってはいない。

 

 

 『GA、GALAUuuuuU!??』

 

 

 痛みに対する咆哮ではない。

 怒りに対する咆哮でもない。

 それは――戸惑いに満ちた方向だった。

 彼の―背に何者かが降り立ち、『ジャラジャラ』と音を立てながら陽の光を反射し銀色に輝く鎖を彼の――【スフィンクス】の首に巻いたことに対する困惑である。

 心を渦巻く感情は『怒り』を超え、『焦り』を上回り、そして『困惑』と言う名の敵に対する理解不能な『謎』が支配した。

 

 

 『(――誰が?)』

 

 

 いや、それが出来るのはたった一人しかいない。

 あの不死鳥に乗っていた女だ。

 

 

 『(――何故?)』

 

 

 背に乗って何をするというのか?

 不死鳥に《騎乗》し、一人では何も出来なかった弱い女が何が出来るというのか?

 『首に巻き付けた鎖』で絞殺す。

 そんな事が出来るなら不死鳥になど《騎乗》せず、当の昔に直接乗り込んで攻撃してきていたはずだ。

 【スフィンクス】は人智を越えた叡智を持ち、砂漠を見下ろすモノ。

 ――だからこそ彼は溺れるように謎に困惑しする。

 そして、睨みつけるように自分の背へと首を捻った。

 

 

 

 

 

 

 ――紅の髪を風に揺らしながら両手で極太の鎖を握る――紅と蒼の炎の模(・・・・・・・)様が刺繍された(・・・・・・・)腰布(・・)を巻いた女。

 

 

 

 

 

 

 『(――あの不死鳥は何処に行った? ゴミの様に付いていた蟲も居ない)』

 

 

 視界に映ったのは先ほどまでは身に着けていなかった腰の紅帯。

 そこには不死鳥も芋虫も居ない。

 より一層、謎は深まるばかり。

 眉を顰め、鋭い眼光で睨みつける彼は――笑みを浮かべる(・・・・・・・)()を。

 突然何かを話し始めた女の顔をみた。

 

 

 「――私の【花冠咲結 アドーニア】って言う特典武具……って言ってもやっぱり分からないかな?

  うん、まぁ……そんな【アドーニア】の《栄華の庭園》って言うスキルがあるんだけど、意外とモンスターが相手だと弱点が多いんだよね」

 

 

 ――この女は何を言っている?

 わざわざ話を聞いてやる必要も彼にはない。

 その人頭の口から灼熱の炎を女へと吹き放ち……全てが腰に巻かれた紅帯に吸い込まれた。

 

 

 「焦らないで話を聞いてよ。

  それで《栄華の庭園》の弱点の話なんだけど……それは半径5メテルっていう短い射程。あとモンスターが相手だと効かないことが多いんだ。

  貴方みたいな『純竜級』モンスターならなおさら、ね。

  まだまだ状態異常の効果も弱いし付与するのに数十秒か……一分ぐらいかかっちゃうこともあるぐらい。AGI型のモンスターだったら意外と早く掛かるんだけど……そこは<マスター>と同じでEND換算なのかな?」

 

 

 跡形もなく吸収された炎に驚きながら話を聞く。

 ……いや、正確に言うなら少し違う。

 彼が――自分自身が噴き出した炎の威力に驚愕した。

 いつもよりも遥かに強力な炎、よくよく自身の身体に意識を向ければまるで力が十倍(・・・・・・・)になった(・・・・)かのように身体が良く動く。

 そして――

 

 

 

 

 

 『GALU、GARAaaaaaaaaOOOOA!??』

 

 

 いきなり発生した自身を蝕む【毒】に気が付いた。

 

 

 「……十秒で【毒】だけかぁ~。

  《獅子勇心》は使って無いのにこんなに遅いんだ……《一騎当神》と《幻獣強化》はパッシブスキルだからオフに出来ないけど」

 『(――この女は)』

 

 

 ――この女はなんだ?

 

 彼は再び笑みを浮かべる女を見た。

 先ほどまでは気にもならなかったその笑顔が、今は何故か悪魔の微笑みのように見えた。

 彼はようやく気が付いたのである。

 あの不死鳥が強いのではない。

 あの蟲が特別弱いわけではない。

 この女が《騎乗》したモンスターが強くなるのだ!

 一番警戒すべきはこの紅髪の女だったのだ――と!!

 

 

 『GALULUUUaaAAA!!』

 

 

 背に《騎乗》する女を振り放そうと激しく身体を動かした。

 身体を捻り。

 勢いよく空へと飛び。

 宙で一回転する。

 【スフィンクス】の動きは速く大きく、そして予想がつかない。

 唯の【騎兵】なら既にその身体を宙に躍らせている――はずなのに、彼女は笑みを絶やさずそこ(背の上)に居た。

 

 

 「その程度じゃ私は投げ出せないよ。慣れてるからね」

 

 

 あいにく、彼女は唯の【騎兵】では無かった。

 《騎乗》という技術においては右に出るモノはこの世に居ない。

 【騎神】の座に座る――『超級職』の<マスター>だ。

 

 

 

 

 

 ――例えしっかりとした手綱がなくとも。脚を掛け、座るべき鐙と鞍が無くとも。《騎乗》するモンスターが自身の騎獣ではなく唯のモンスターだとしても。

 

 それは【騎神】である彼女にとっては些細な問題にしかならない。

 

 

 

 

 

 『GALA……!!』

 

 

 体が痺れて鈍くなる。

 ――制限系状態異常の【麻痺】だ。

 鈍くなる身体を動かしながら、彼は聞いた。

 

 

 「貴方が動けなくなって力尽きるのが先か。

  それとも私がこの手を放しちゃうのが先か。

  何だか…………楽しくなってきたねっ!!」

 

 『GA、GALULUUUaaAAA――――――――――ッ!!』

 

 

 楽し気に笑う彼女に、彼は吼えた。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 

 

 決着は二分後。

 緩やかに、そして静かに終わりを迎えたのだった。

 数十を超える状態異常を付与され、行動不可能となった【スフィンクス】の墜落――という形で。

 

 

 

 

 

 

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